開戦前夜

 

あのコニーVSイエローの激闘から1週間が過ぎた。あの森友さやかの負傷はかなり深刻であった。最後のジャーマンで完全に折れた肋骨は肺にあわや、というところまで喰い込み、とてもあと1週間後の試合への出場は不可能であった。

「ゴメン・・・・さやかちゃん・・・」

また自分を慕い、大怪我を負うことなった妹分のベッドの脇には、唇を噛みしめる河村ひかるの姿があった。そして深い眠りについていたさやかを残し病院を後にしながらもため息を漏らすひかる・・・。

(あたしがついてて・・・もうこれ以上、他の娘達を犠牲にできない・・・)

ひかるは今度のイエロージャブとのイルミネーションマッチに1人で挑む決意を固めていた。イエロージャブから選抜された5人を相手にどこまでやれるか・・・。しかし、自分を慕う後輩や仲間が倒れてゆくのを見るくらいならば、自分1人が倒れる方がいい・・・。

しかし、さやかの傷に隠された格好となっているが、先日の戦いでのダメージはひかるの身体に、深く刻まれていたのだ。尾野のSTOを破った最後の捨て身技で、ひかるの右肘は破壊寸前となっていた。

あと1週間でどこまで回復できるか・・・。不安と戦いながら地下プロレス用の秘密ジムへと向かった。そして、その扉を開いた瞬間、2人の人影がひかるの肩を叩いた。

「え・・・あなた達?」

「ずるいですよ、ひかるさん!」

「そうですよ!第一、1人でなんてムチャですよ!」

「あたし達も一緒に戦います!」

明るい声でひかるを諭したのは、羽川空美と片岡美来だった。空美が154cm、美来が153cmと2人ともひかると殆ど変わらないくらい小柄だが、空美は空手有段者、美来はテコンドーの使い手であり、来週の試合に向けてこれほど心強い援軍はない。だが、ひかるはこの2人を突き放した。

「ダメッ!・・・アンタ達、今度の試合がどんなのかわかってるの?イルミネーションマッチよ、勝ち残る者以外はKOされるまでリングを降りることは出来ないのよ!・・・・さやかちゃんみたいに大怪我しちゃうかもしれないのよ!」

「でも、このままひかるさん1人で試合に出たら5人がかりで嬲り殺しにされちゃう!」

「そうです・・・5対1よりも5対3の方がまだ勝ち目がありますよ!」

「でも・・・・」

この2人の申し出は涙が溢れるほどうれしい・・・。

「けど・・・・」

「けど、じゃないです!・・・もし、ひかるさんが強情張るんだったら、あたし達2人で今からイエロージャブに殴り込みに行きます!」

「殴り込みって・・・そんな・・・」

おとなしい顔立ちの空美から『殴り込み』といった言葉が出、驚きそして思わず笑みを漏らすひかる。

「・・・・・・・わかったわ・・・あたしに力を貸してくれる?」

「ハイ!」

 

その頃無人となった倉庫街の秘密ジムで汗を流す2つの影があった。1人は男…かなり実戦的に鍛え上げられた肉体を持った…そしてもう1人はグラマラスな肢体を持つ若い女の影であった。パンチ、キックといった打撃からタックル寝技、関節技に投げ技と次々に総合格闘技としてのスパーリングが性差をまるで感じさせずに続けられてゆく。

数時間後、ようやく男の方から休憩の声が上がる。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・オイ!ここら辺で一服しないか?」

「え?・・・はぁ、はぁ・・もうバテたの?」

「おいおい・・・敵わねえな、瑛子には・・・」

そう、今、男から投げつけられたタオルで汗を拭っているのはイエロージャブの小池瑛子、そしてスパーリングパートナーは恋人でありプロ格闘家の阪田亘であった。

「ったく、もっと色っぽい用事で会おうぜ・・・もっともウチの道場でもお前に勝てる奴はなかなかいねえけどな」

「フフフ、次はそうしましょ・・・祝杯を一緒にあげてね」

「けど急に打撃系の相手との戦い方教えろって?」

「いいじゃない・・・芸能界もこれで結構厳しいのよ」

「まあ、今のお前に勝てる女はいねえだろうな・・・マジで俺もお前とは戦いたくねえよ」

「アリガト・・・じゃあ、もう一丁頼むわ!」

「はい、はい・・」

再びスパーリングを始める瑛子と阪田。その瑛子の動きは打撃を捌いて、寝かせて極める・・・これまでの小池瑛子はラフ&パワーで強引に相手を倒していたが、それに緻密なテクニックが加わり明らかにこれまでのレベルよりも1桁上をいっていた>
今、女子の枠を超えた格闘モンスターが誕生しようとしていた。



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