「うーん…何か目新しい試合形式は無いものだろうか…?」

とある一室で地下プロを運営する幹部たちによって今後の地下プロレスの新たな試合
形式について話し合われていた。

「今までにも有刺鉄線、電流爆破等のデスマッチ、それに泥レスやオイルレスリング
等も行ってきましたが、どうせやるならそれに劣らぬ様な強烈にインパクトのあるも
のでなくてはいけません。何かこう…観客の興奮や興味を煽る様なものが良いと思う
のですが…」

「興奮というのなら、いっその事出場するタレントのセクシーな面を前面に押し出す
感じにしてはどうでしょうか?」

「エロありきの試合形式ということか?それならビキニプロレスがあるだろ?」

「ビキニプロレスの好評な点として、選手同士のビキニ剥ぎというのが挙げられま
す。新しい試合形式では最初からそれを確定させておくのです。例えば、ダウン毎
に、シューズ、ブラ、ショーツと外していき、全裸になった方の選手を負けとすると
か…」

「なるほど。野球拳みたいな形式なら、かなりのインパクトが望めるな。客はダウン
を望むのだろうからプロレスよりはボクシング形式の方が良いだろう。観客の興味を
惹くと言う点でも名前もインパクトのあるものが良いだろうから『トップレスボクシ
ング』というのはどうだろうか?」

「ええ、それで行きましょう。トップレスという事を考えると、出場選手は巨乳系の
タレントが良いかと思われます。観客からのマッチメイクのアンケートを見ると、今
回の新企画にうってつけのものがあるのですが…」

「早速事務所にオファーを出しておけ。但し、試合形式等は伏せておけ。拒絶された
りすると何かと面倒だからな。」

「はい。実現すれば観客の大歓声は約束された様なカードですので、ご期待の程…」

こうして新企画は進められていった。そして、その企画に選ばれた二人のタレントに
も、程無く参戦のオファーが届いていた。

 



「ボ、ボクシング…ですか?」



そう少し脅えた声で答えるのは、今や人気タレントとしての地位を確立しつつある乙
羽だった。巨乳グラビアアイドルとして人気を得、そこから歌、ドラマ、舞台、バラ
エティと活躍の場を広げていたが、その裏には地下プロレスでの痛めつけられながら
の頑張りがあった。実際、K-1グランプリ優勝、初代ジュニアヘビー級チャンピオン
といった実績も残していたが、最近は自らの地位が安定してきた事もあるのか、闘争
心が以前に比べて薄れてきている感じは否めず、その証拠に先日の仲谷佳織との泥レ
スマッチではあっさりと敗北を喫していた。ましてや彼女には打撃技に難有りと言う
問題点があり、以前にも格闘技戦で大池栄子には秒殺され、太谷みつほには惨敗を喫
しているだけに今回のボクシングマッチのオファーに対し、脅えを隠せないのは致し
方無い事であった。

乙羽「私…ボクシングなんてやりたくありません…殴られて痛い思いをするのは嫌な
んです。本当の事を言えばいつまで地下プロレスに出なきゃいけないのって…」

尚も脅える乙羽をマネージャーが説得する。

マネージャー「そうは言っても、この世界で生き残るためには地下プロレスに参戦し
ない訳には行かないのは分かっているでしょ?私としても折角ここまで頑張ってのに、乙羽が仕事を続けられなくなるのだけは避けたいんだよ。乙羽としても仕事が続けられなくなるなんて嫌だろう?」


言われるまでも無く、彼女自身もそれは重々承知していた。しかし元々おとなしい性
格でとても戦闘的とは言えない彼女にとってボクシングの様な殴り合いはそれこそ恐怖で
しかなかった。マネージャーは更に説得を続ける。


マネージャー「それに今回の相手、名前はまだ知らされていないけど、以前に乙羽が
勝った事のある相手だそうだから、前と同じ様に戦って勝てばいいだけの話
じゃないか。私からもお願いするから、引き受けてくれないか?」



マネージャーの必死の説得に、乙羽も完全に決意が固まった訳ではなかったが、懇願
するマネージャーや事務所に迷惑をかけられまいと参戦を受諾していった。



乙羽「分かりました。頑張れるだけ頑張ります。でも相手は私が前に勝った相手とい
うのは本当なんですか?」

マネージャー「大丈夫。それは間違いないそうだから。乙羽ちゃんならきっと勝てるから。」



ボクシングマッチという事で脅える乙羽にとって、対戦相手が以前自分の勝った事の
ある相手という事だけが救いであった。しかし乙羽に相手が以前勝勝利した相手とだ
け明かしたのは乙羽の恐怖心を緩和させ、リングに挙げさせる為でもあった。そして
その相手は確かに乙羽が以前勝利を収めた相手ではあった。しかしその相手は以前と
は比べ物にならない程に凶暴性を増し、ヒールとしての地位を固めつつあったのだ。





「へぇ…乙羽さんとボクシングマッチね。面白そうじゃない。乙羽さんには借りもあ
るし、この際その借りをきっちり返してやろうじゃないの…。」



そう答えるのは、巨乳グラビアアイドルの戸向美奈子であった。15才でデビューして
以来、瞬く間に人気グラビアアイドルとなり、一時は乙羽と共にツートップとも呼ば
れたが、その後順調にステップを重ねた乙羽とは対照的にトーク下手という欠点に加
え、ゴシップ雑誌等で喫煙写真や車中キス写真等の素行の悪さや、バラエティで共演
した大物芸人との愛人疑惑が報じられた事等も手伝い、次の展開には移行できずグラ
ビアアイドルの範囲を抜け出せずにいた。最もそのグラビアでも熊多曜子、猪上和
香、守下千里、小倉夕子、若月千夏、仲根霞、磯山紗耶香、そして事務所の後輩で先
日地下プロデビューした矢吹春菜らの活躍により隅に追いやられている感が否めな
かった。地下プロでも徐々に実力を発揮して行った乙羽に比べ、旗揚げ戦で飯嶋直子
に処女膜を破壊されて出血KO負けを喫して以来、長いこと「噛ませ犬」として扱わ
れてきた事等も伸び悩みに影響していた。最近になり、ヒール化の甲斐もあってかよ
うやく勝ち星を収められる様になり、深夜や地方局でではあったが、ドラマや映画
等、女優の仕事を貰えるようになったとはいえ、かつてのツートップの片割れである
乙羽と比べれば大きく水を空けられたことは誰の目から見ても明らかであり、そんな
乙羽の活躍をみて美奈子がジェラシーを抱かずには居られる訳が無かった。



マネージャー「じゃあ、このオファーは引き受けるんだね?」

美奈子「もちろん。リングの上で乙羽さんをボコボコにしてやるわよ…暫くはテレビ
に出られない位に叩きのめしてあげる。利子も付けて、昔の借りをきっちりとね…」



乙羽のマネージャーの言葉通り、以前にもこの2人はK-1グランプリの際に一度戦っていた。その時はまだ2人がグラビアでツートップとして活躍していた頃であり、その頃の乙羽には美奈子には絶対負けまいという意地があり、その意地もあり最終的には乙羽の失神KO勝ちに終わった。美奈子としてはその際乙羽にトップレスにされた挙句、自慢のバス
トをパンチングボールにされ傷つけられた上の敗北であり屈辱以外の何者でもなかった。そ
れ以来乙羽へのリベンジを密かに狙っていた美奈子にとって、今回の話は願っても無い事で
あったのだ。



美奈子「やっと、やっとチャンスが来たわね…。今度こそ…乙羽さんをこの手で倒し
てやる…昔の私と同じ目に遭わせてやるわ…絶対に勝つ!」



そう言い残すと、美奈子はトレーニングの為に事務所を出て行った。元々、元ヤンと
噂されているだけあり美奈子の秘めたる凶暴性の恐ろしさは、最近の三津矢葉子との
デスマッチや滝澤乃南との一戦でも証明済みで、ましてや今回の相手である乙羽は恨
みもあるだけに彼女の狂気に更なる火が付く事は明白であった。その恨みも手伝い、
かつて乙羽が美奈子に燃やした以上の闘志が今の美奈子の心の中で燃え滾っていた。



片や闘争心が薄れて不得意なボクシングマッチに不安を残す乙羽、片やかつての「噛
ませ犬」から「ヒール」への変貌を遂げ、リベンジに燃える美奈子。もはや試合の展
開は決まったかのように思われた。そして、2人がそれぞれの思いを巡らせる中、遂
に試合当日を迎えた。





試合当日、自らの出番を待つ乙羽は控え室で今日のリンコスとして用意された白いビ
キニを身に纏い、緊張した面持ちで試合時間を待っていた。水着グラビアを卒業した
とはいえ、その迫力のバストは相変わらずで、観客たちから乙羽の参戦を望む声が絶
えない理由の一つでもあった。

鏡の前でファイティングポーズを取り、軽くジャブを打つ乙羽。オファーを受けてか
ら今日までの期間は短かったが、一応は乙羽なりに練習を重ねた様ではあった。



乙羽「ここまで来たんだから、引き返せない…戦って、勝つしかない…!」



 その心から恐怖心が完全に消えた訳では無かったが、乙羽は必死に自身にそう言い
聞かせ、自らの闘志を高める事に努めていた。



 そして、もう一方の控え室では戸向美奈子が同じくその豊満なボディを白いビキニ
で包みこみ試合の時を今や遅しと待っていた。乙羽と同じく軽くジャブの練習をして
いたが、乙羽に比べそのジャブにはキレがある様にも見えた。



美奈子「今日という今日こそ、キッチリとケリをつけてやる…」



 早くもヒールとしての一面を露わにする美奈子。そんな美奈子に黒服が試合時間で
ある事を告げる。



黒服「戸向っ!時間だ!」



 その言葉を受けて控え室を後にし、リングへ向かう美奈子。既にその視線は戦闘
モードへと切り替わっていた。そして、片方の乙羽の方にも黒服が現れ、彼女に試合
時間である事を告げていた。自分の両頬を掌で軽く叩くと、乙羽は自分に最後の喝を
入れた。



乙羽「行くしかない…よね!」



 そう言うと、乙羽も控え室を後にした。かつてツートップとして君臨した2人によ
る壮絶な死闘の幕開けは、もうそこまで迫っていた。






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