「ウチの子と戦うって事ですか!?よりにもよってどうして同じ事務所同士で戦わな
いといけないんですか?」



そう聞くのは人気グラビアアイドルの熊多曜子であった。デビュー以来T166−B92
−W56−H84の見事なボディーで瞬く間にトップグラビアアイドルの地位に登りつ
め、最近ではテレビへの進出も目覚しく、タレントとして順調にステップを踏んでい
た。地下プロレスでも敗れはしたものの、乙羽とのビキニプロレスでの激闘、そして
最近のグラビアタレントトーナメントでも準々決勝で山木早織に敗れはしたものの、
一回戦では同じく人気グラビアアイドルの小倉夕子に圧勝し、二回戦ではグラビアで
のツートップと言われている猪上和香との直接対決で勝利を収める等、戦績としては
優秀なものを残していた。そんな折、彼女は自分の所属事務所『梁山泊』の社長に呼
ばれたのだが、話を聞いた曜子は突然の話に戸惑いを隠せなかった。



「実はこの前、地下プロレスの方から、今度の大会では同じ事務所同士のタレント同
士のカードを組みたいという事になってウチだけで無く、あちこちの事務所にオ
ファーを出したそうだ。何でも地下プロレスでも同じ事務所のタレント同士のカード
というのは組みにくいらしくて、それで事務所プロデュースのエキシビジョンマッチ
と言う形で試合を組んで欲しいということなんだ。それでうちの事務所からは是非お
前に参戦してもらいたいと思ってな。」



社長から理由を説明されても、曜子の戸惑いは変わらなかった。そんな曜子に、更に
社長が言葉を続ける。



「今度の大会はある意味、それぞれの事務所自体が試されているといっても過言では
無いんだ。もし今回のプロデュースが失敗すれば芸能界で他の事務所に大きく水を空
けられる事になる。そうなればお前だけではなく、うちのタレント全員が困る事にな
る。逆に成功すれば、今後ウチのタレントにとって大きなプラスになる。事務所の未
来はお前に掛かっている様なものなんだ。事務所の事も考えて、一つやってくれない
か?」



社長の必死の説得、そして他のタレントの未来が自分に掛かっているとなると断る訳
には行かず、曜子はエキシビジョンマッチ参戦を受諾する事にしたのだった。そして
曜子が一番気にしているのは肝心の対戦相手である同じ事務所のタレントは誰なのか
という事であった。



「それで、私の対戦相手というのはもう決まっているんですか?」



「ああ。さっきお前と同じ様に今回の件を話してな。如何せん本人はまだ地下プロレ
ス未経験だし、私としてもこんな事を頼むのは申し訳なかったんだが…入りなさ
い。」



「ハイ…失礼します…。」



そう言ってドアを空けて入ってきたのは、曜子と同じくグラビアアイドルとして人気
を博している保田美沙子であった。T161−B82−W60−H84というスレンダーなス
タイルでとほんわかとした京都弁の入った喋りでグラビアのみならず、金融系のCM
にも出演し人気を得ており、『梁山泊』の中では曜子と並んで最も勢いのある存在で
あった。曜子とも共にグラビアを飾ったり、写真集を出したりと既に何度も一緒の仕
事をしていた。その美沙子が今回曜子の相手としてエキシビジョンマッチに参戦する
事になったのだった。



「えっ・・・相手って…美沙!?」



曜子が驚きを隠せないのも無理はなかった。美沙子の大人しめの性格やほっそりした
体型では地下プロレスの参戦にはとても向かないのではという思いが心の中にあった
からだ。



「ちょっと待ってください!地下プロレスに参戦させるなら他にも誰かもっと向いて
いる子にするべきじゃないんですか!?のり子ちゃんとか、純子ちゃんとか…それな
のに、どうして美沙に!?」



美沙子の事を思い必死に抗議する曜子に、社長が口を開いた。



「確かにお前のいう通り地下プロに出場させるならのり子や純子達の方が向いている
かもしれない。しかし今回のカードはそれぞれの事務所がアピールの為に強力なカー
ドをプロデュースしてくるに違いない。ウチとしても他に負けない位のカードをプロ
デュースする必要がある。それに美沙子に対しては地下プロレスの関係者の中でもデ
ビューを望む声が高いらしいから美沙子が参戦するならそれこそ大きなアピールにな
る。だからこそ無理を承知で頼んだんだ。」



「私は構いません!でももう一人はどうか別の子に…」



なおも食い下がる曜子だったが、それを制止したのは他ならぬ美沙子であった。



「曜子ちゃん。私のことなら心配せんといて。私もこの世界に居る以上、いつかは地
下プロレスに出ないといけない事は覚悟しとったし、それに今回の事はウチの事務所
みんなの事が掛かってる事やし逃げるわけにはいかんわ。覚悟は出来てる。」



「そんな事言っても、地下プロレスってとても恐ろしい所なのよ!出来れば私、美沙
には地下プロレスのリングには上がって欲しくない!美沙を痛め付ける事なんか出来
ないよ…。」



「大丈夫。曜子ちゃんが相手なら私も安心やし。2人で頑張って良い試合を見せよ
う。皆の為にも私達が頑張らんと。だから、ね?」



そういう美沙子の言葉に気持ちが完全に固まった訳では無かったが、遂に曜子も折れ
て美沙子が対戦相手になる事を受諾した。ここに『梁山泊』プロデュースの曜子VS
美沙子のエキシビジョンマッチが決定したのだった。



「出るからには他の事務所のカードに負けない様な試合をして欲しい。すべてはお前
達2人の手に掛かっている。どうか頑張ってくれ。」



そう社長に声を掛けられると、社長室を出る二人。そこで曜子が美沙子に尋ねる。



「美沙、本当に大丈夫なの?一度決めたらもう後には引けないんだよ?もし直前に
なって棄権でもしたらどんな目に遭うか…それでもリングに上がるの?」



まだ不安の消えない曜子の問いかけに、美沙子は答える。



「ホンマの事を言えば、私も怖くないっていったら嘘になる。私かて怖いわ。でも今
回の事は皆の事がかかってる事でしょ?怖いなんて言っていたらそれこそ皆に合わせ
る顔がないわ。それに社長が言うてたでしょ?私がリングに上がる事を望んでいる人
たちがおるって。だから私、戦うわ。曜子ちゃんが私の事を思ってくれるのは嬉しい
事やわ。すごく感謝してる。でもホンマに私の事を思ってくれるのなら、私と戦って
欲しいんやわ。遠慮せずに、私にかかって来てほしいんや。だから…ね?曜子ちゃん
にも迷いを捨てて欲しいんよ。」



美沙子の決意に、曜子は驚きを隠せなかった。地下プロの話を聞いて脅えているので
はとばかり思っていた美沙子がここまで覚悟を決めていたとは。これで戦いを拒む様
な事をしてはそれこそ自分が美沙子に迷惑を掛けてしまう。曜子のとるべき道はもは
や一つだった。



「分かった。でも戦うからには容赦はしないよ。手を抜いたり、やる気の無い試合を
したりすればそれこそ皆に迷惑をかける事になっちゃう。私も全力で美沙と戦う。だ
から美沙も私に遠慮せずに倒すつもりでかかってきて。」



「ありがとう、曜子ちゃん。正直、私の実力なんてまだまだやけど、私も曜子ちゃん
を倒すつもりで戦う。みんなが満足する様な試合を見せるつもりよ。お互いに頑張り
ましょう。」



そう言うと、美沙子は曜子と握手を交わした。それは互いの戦闘意思を確認する意味
の握手でもあった。そしてその日以来、2人はあえて顔を合わす事を避ける様になっ
た。それは無論、試合に向けて互いの闘志を高める為であった。試合に向けて二人は
仕事の合間を縫い、トレーニングに励んだ。曜子、美沙子それぞれの思いを巡らせな
がら。



(ホントなら、美沙とは戦いたくない。でもああ言ってくれている美沙の為にも私自
身も頑張らなきゃ。下手な気遣いして美沙や皆に迷惑を掛ける位なら、全てを吹っ
切って戦わなきゃ…!!)



(戦ってなんて言ったけど、ホントは私も曜子ちゃんと戦うなんて嫌やわ。でももう
後には引けない。話には聞いてるけど、曜子ちゃん最近すごく力をつけてきてるみた
いやし、私なんか勝負にならへんのかもしれない。でも私がすぐにやられる様な事に
なったら、曜子ちゃんにも迷惑が掛かる。今は只…少しでも曜子ちゃんと戦える様強
くなる!!)



そして、遂に大会がやってきた。聞いていた通り、事務所競合のエキシビジョンマッ
チ大会と銘打たれた本大会は、大手事務所の普段なら有り得ないビッグカードや、そ
の大手に負けまいと存在をアピールしようとの意志が感じられる中小事務所のカード
等が連なり、通常の大会にも増して観客達はヒートアップしていた。カードの中には
普段から週刊誌等で確執が伝えられているカードもあり、実際の試合内容はその噂に
も増して凄かったというカードもあったが。そんな中、曜子と美沙子のカードの順番
が近づいてきた。



控え室で軽くウォーミングアップという感じで体を動かす曜子。その迫力の巨乳をよ
り一層際立たせる様に地下プロでは珍しい、自身も以前グラビアの撮影で着た経験の
ある豹柄のビキニで包み込んでいた。少しでも自分達の印象を強くしておかなけれ
ば。その思いから曜子は敢えて普段地下プロでは見られないこの派手な豹柄のビキニ
を選んだのだった。



(遂に来たか…美沙はどんな風に挑んでくるのかな…でも私は私の戦いをする!それ
が自分の為、皆の為、美沙の為…!!私が自分自身をアピール出来なければ、美沙と
戦う以前に負けたも同然だし…)



一方の美沙子。今日が地下プロレスデビュー戦という事もあり覚悟は決めてきたとは
いえ、緊張の色は隠せずにいた。巨乳の曜子に対し、その名の通り美乳の美沙子と
いった感じのそのボディをピンク色のラメのビキニに包んでいた。曜子同様に美沙子
もまた、少しでも自分達の存在をアピールしなければならないという思いを内に秘め
ていた。



(私にとって、これが初めての戦い…いきなり曜子ちゃん相手にどこまで戦えるんや
ろう…でも曜子ちゃんに戦って欲しい言うたのは私やし…戦う言うてくれた曜子ちゃ
んの為にも私がしっかりしないと!この戦いは私自身との戦いでもあるんや…!)



そして黒服に呼ばれ、二人は戦いのリングへと歩き始めた。



「只今より、アーティストハウス・梁山泊プロデュースによるエキシビジョンマッチ
を行います!選手入場!」



リングアナのコールに続き、曜子、そして美沙子がロープを潜りそれぞれリングイン
する。既にグラビアでは系統は異なるとはいえ抜群である事には変わりないそのスタ
イルで相当の売れっ子になっている2人だけあり観客の興奮はそれまでのカードより
も高まっている事は明らかだった。



「赤コーナー〜身長166cm〜B92W56H84〜熊多〜曜子〜っ!!」



そのコールに続き、観客の声援に手を挙げて答えて行く曜子。既に何度も地下プロの
リングに上がっているとは言え、普段とは事情の試合だけに若干緊張の色が見えた。



「青コーナー〜身長161cm〜B82W60H85〜今夜待望のデビュー戦、保田〜美沙
子〜っ!!」



地下プロの関係者だけでなく、観客の間でも以前から地下プロでもデビューが望まれ
ていた美沙子だけあって観客からの声援は曜子を上回るものがあった。そしてレフェ
リーに呼ばれリング中央に招き寄せられた二人はガッチリと握手を交わす。



「前にも言ったけど、戦うからには容赦はしないわよ!全力で美沙を倒しに行くか
ら、そこの所は覚悟してよね!」



「それはこっちも同じ事!曜子ちゃんこそ、私がデビュー戦だからって手を抜いたり
すると痛い目にあうかもしれへんよ!」



その互いの言葉に、少し微笑んで握手した手を離し、それぞれのコーナーへと戻る2
人。そして戦いの始まりを告げるゴングが打ち鳴らされた。



「カァーン!!」

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