「只今より、グラビア系アイドルビキニプロレススペシャルマッチを行います!」

そのコールに会場から歓声が起きていく。現在人気急上昇中の2人のグラビアアイドル同士のカードと言う事で、観客達の期待も否応無く高まっていた。

「赤コーナー、T162B86W58H87、矢吹〜春菜〜っ!!」

そのコールと共に、黒いビキニを纏った春菜はガッツポーズで堂々とアピールしていくと、観客からもそんな春菜に対して声援が送られていく。そしてコーナーでは先輩である美奈子がそれを見守っていた。

「青コーナー、T160B85W55H85、左藤〜寛子〜っ!!」

春菜とは対照的に観客の声援に対し静かに一礼して答える寛子。その見事なボディをこちらも同じく黒いビキニで包んでいた。無論、コーナーには乙羽が付いている。そして2人はレフリーによってリング中央に呼ばれていくとガッチリと握手を交わした。

「寛子ちゃん、今日は宜しくね。あなたの力がどんなものかじっくりと見せてもらうわ!そしてその上で・・・私はあなたに勝つ!」

「私だって・・・手加減はしない!先に進む為にも・・・春菜ちゃんには絶対に負けないか
ら!」

そう言うと、二人は握った手を離してお互いのコーナーへと戻っていく。その2人にセコンドの美奈子と乙羽がアドバイスをしていった。

「分かってると思うけど、寛子ちゃんの持ってる実力は相当なもんよ。絶対に気を抜いたらダメ!中途半端な気持ちで勝てる程、あの娘は簡単な相手じゃないわよ!」

「分かってる。でも私は絶対に負けない!美奈子ちゃんに良い形でバトンを渡してあげるから、ちゃんと見守っててよね!」

そう美奈子に答える春菜は、既に闘志をみなぎらせ戦闘モードに突入していた。

「春菜ちゃん、寛子ちゃんに相当闘志を燃やしてるわ。まずは気持ちで負けない様にしないと!絶対に引いたらダメよ!」

「はい!乙羽さんの前でみっともない試合はしません!この前乙羽さんが意地を見せてくれた様に・・・私も意地を見せます!」

そう言って反対コーナーの春菜を見やる寛子の言葉が、乙羽にはとても頼もしく思えた。そして決戦の時は来た。

「カァーンッ!」

ゴングと共に春菜と寛子が同時にコーナーから飛び出していく。中央で対峙する2人だが、まずは春菜が右手を伸ばすと寛子もそれに応じるように組み合っていき、互いの力を比べる様に押し合っていく。両者の力は互角の様であったが、次第に寛子が春菜をロープ側へ押し込んでいくと、春菜のボデイに膝蹴りを入れた。

「ぐふっ・・・」

流石に鍛えているだけあり、寛子の一撃には相当の威力があった。春菜もその威力に苦しむが、負けじと寛子の手を振りほどきエルボースマッシュで顔面を攻めていくと今度は寛子がフラついていく。その隙を逃さず一気に攻め込もうと春菜は寛子の足にローキックを決めて動きを止めると続けざまに脇腹にミドルキックを連続で入れて攻め込んでいく。日頃から練習を重ねていたのか、春菜の打撃は形も決まってた。ミドルキックからの膝蹴りで寛子が膝を突くと今度はその顔面を狙っていく春菜。

「おりゃぁぁぁぁっ!」

気合の声と共にハイキックを放つ春菜であったが、逆にその足を取るとドラゴンスクリューで春菜を倒していく寛子。思わぬダウンを取られた事で焦る春菜であったが、寛子は足を取ったままスピニング・トーホールドで春菜の膝にダメージを与えていく。先程の攻めで春菜の打撃は脅威だと感じたのか、その打撃の威力を半減させようという寛子の作戦であった。

(くっ・・・膝をやられたんじゃ後が辛いな・・・何とか逃げないと・・・)

そう思う春菜であったが、寛子は春菜の足を離さず、続け様に痛めつけていた春菜の足を抱え込んだままその背中に座り込むと、片逆エビ固めで更に春菜の足を痛めつけていった。

「きゃぁぁぁっ・・・痛いぃぃぃぃっ・・・いやぁぁぁぁぁっ!」

想像以上の力で締め上げる寛子の前に思わず悲鳴を上げる春菜であったが、ここで美奈子から声援が送られていく。

「春菜ちゃん!落ち着いて!ロープ使って逃げるのよ!」

その言葉を受け春菜が必死にロープに手を伸ばすと、レフリーが寛子を春菜から離していく。逃れた春菜は攻められ続けていた足を気にしながらも立ち上がった。試合が再開され、春菜が今までのお返しとばかりに寛子の頬を張っていくと寛子も負けじと春菜の頬を張り返しビンタ合戦が展開されていく。

バシッ・・・バシッ・・・バシッ・・・

しかし打撃では春菜に分があったのか、次第に寛子の方が叩かれる回数が多くなっていく。張り合いの主導権を握った春菜は寛子の腕を掴むと一気にロープへと振り、飛び上がってジャンピングニーパッドで寛子の顎を打ち抜いていった。

「ぐはあっ・・・」

溜らず倒れこむ寛子であったが、春菜は隙を与えずストンピングで寛子の自慢のバストを痛めつけていく。流石に女の急所とも言えるバストを攻められては堪らなかったのか思わず悲鳴を上げていく。

「いやあぁぁぁぁっ!痛いぃぃぃぃぃ・・・」

態勢を立て直そうとリング下にエスケープしていく寛子だが、何と春菜は逃がさないとばかりにトップロープを掴み、立ち上がった場外の寛子目掛けてボディアタックを放った。

「きゃあぁぁぁぁっ!」

予想だにしない春菜の追撃に態勢を立て直せぬまま、後方の鉄柵に腰を打ち付けてしまう寛子。態勢を立て直す為に逃げ込んだ場外で思わぬダメージを負う事となってしまいその身を横たえてしまった。

「ほらほらっ・・・まさかこれで終わりな訳ないわよね!?勝負はまだこれからなんだから・・・」

そういって髪を掴んで無理矢理寛子を起こす春菜であったが、寛子はまだダメージが残っていたのか、反撃出来る状態になかった。

「何よ!戦えないってのならあなたの中の闘志を引きずり出してあげる!こうやってね!」

そう言うと、春菜は寛子のバックを取り徐に寛子のバストに手を伸ばした。

「きゃぁぁぁっ!何するのよぉぉぉぉっ・・・」

春菜が取った行動とは何と寛子の自慢のバストを鷲掴みにするというものであった。ここまでされれば寛子も怒って反撃すであろうという春菜の考えであった。

「ほらほらっ・・・こんな事されて悔しくないの!?悔しかったら反撃してみなさいよ!」

「うっ・・・ああんっ・・・」

反撃したいのは寛子とて同じであったが、如何せんバストへの刺激により全身に力が入らず春菜のなすがままにされるだけであった。それを見守る乙羽も、本当ならば助けに入りたかったが、自分自身でもこの様な攻めが許される地下プロレスの厳しさを知っているだけに後輩の寛子にもこれを乗り越えてもらおうと寛子にただ声援を送り続けた。

(寛子ちゃん・・・頑張って!春菜ちゃんはあなたにとってライバルになるであろう娘よ・・・負けちゃダメ!)

乙羽の思いが通じたのか、春菜を振り払おうと寛子が必死にエルボーで反撃していくと、僅かながらに寛子を抑える春菜の力が弱まっていく。この隙を逃さんとする寛子が放った渾身のカンガルーキックが春菜の股間を直撃した。

「ふぎいぃぃぃっ・・・」

堪らずダウンする春菜。股間への攻撃は相当効いたのか、しゃがみこんで股間を押さえたまま苦しんでいると、今度は私の番よとばかりに寛子が髪の毛を掴んだまま立たせ、春菜の額に連続パンチを叩き込んでいく。そして両手で髪を掴むと未だフラつく春菜の顎に膝蹴りを叩き込んで再びダウンを奪っていった。 

「立ちなさいよ!さっきまでの余裕はどうしたの!?」

「うっ・・・くっ・・・」

春菜も苦しみながら立ち上がると、反撃とばかりに寛子のバスト目掛けてドロップキックを叩き込んでダウンさせると、続け様に首にギロチンドロップを叩き込んでいく。首を押さえて苦しむ寛子の髪を掴んだままリングへと戻るとそのままブルドッキングヘッドロックで寛子を顔面からマットに叩き付けた。

「痛いぃぃぃぃぃ・・・」

顔面への衝撃に悲鳴を上げながら倒れこむ寛子。その寛子の足を掴んだ春菜は今度は4の字固めで揺さぶりを掛けていく。

「ほらほらっ・・・ギブする?」

「ううっ・・・こんな事位でギブなんてしない・・・!!」

そう言うものの、春菜の攻勢に圧倒される寛子だったが、乙羽の声援が彼女を救った。

「体を反転させるの!春菜ちゃんを逆にひっくり返すのよ!」

その言葉通りに寛子が体を反転させていくと、今度は春菜が悲鳴を上げ始めた。

「きゃぁぁぁぁっ・・・痛いぃぃぃぃっ!」

寛子の反撃に溜らず技を解いてしまう春菜。その春菜の腰に足を潜り込ませていくと、寛子がボディシザースで春菜の腰を締め上げていく。鍛え上げられた足で締め上げるその威力は春菜のボディにジワジワと、しかし確実にダメージを与えていた。春菜もそれを振り解こうと締め上げる足にパンチを見舞っていくが、寛子は春菜の首に手を回し、胴締めスリーパーの様に締め上げていく。

「うぐっ・・・うぐぐぐっ・・・」

締め上げながらも必死にロープまで行こうと手を伸ばす春菜だが、寛子の腕はシッカリと春菜の首を捉えており春菜の意識は次第に朦朧とし始めた。レフリーがギブアップの確認をしていくが、しかし彼女の意地が今にも飛びそうな意識を持たせていた。寛子も一向にギブアップしようとしない春菜に業を煮やしたのか、締め上げていた腕を放し、足だけを春菜の腰に絡めたままにした。

(やっぱりこれ位でギブする訳無いか・・・だったらこれはどう!?)

そして次の瞬間寛子は両足で春菜を捉えたまま、マットの上を回転し始めた。ローリングクレイドル、かつてテレビのプロレス企画でアイドルが繰り出し、地下プロレスでも安東美姫が藤元美貴相手に繰り出した事はあったが、並のアイドルには難度の高いこの技を寛子は今日の春菜との一戦に向けて会得していた。見事に技を決める寛子に対し観客からも大きな声援が送られていった。さしもの春菜もこれには成す術なくマット上を高速で回されるしかなかった。結局、10回近く回された春菜は技を解かれると同時にまたしてもマットに横たわる事となってしまった。しかし寛子は春菜を背後から立たせると、そのまま腰の部分に手を回しジャーマンスープレックスで後方へと叩き付けそのままフォールに入っていった。

(くっ、こんな押されっぱなしで、負けられるかっ・・・!)

畳み掛ける様な寛子の攻撃に意識が朦朧としながらも春菜はカウント2でどうにか返していく。その光景に春菜にも観客から拍手が送られていく。寛子もフォールを返された事に対して悔しさと同時に春菜の底力に対する驚きを禁じえなかった。そしてそれはセコンドの美奈子もまた同じであった。

「立って!いったん距離を置くのよ!態勢を立て直さないとダメ!」

美奈子が言った通り、春菜自身も防戦一方のこの状況を変える為に態勢を立て直したかったが、今までの攻めで負ったダメージは予想外に大きく、なかなか体は言う事を聞こうとしない。しかも寛子の攻めは止む事無く、今度は倒れる春菜に座り込んでギロチンチョークを狙ってきた。

「ほらほらっ・・・少しは反撃してきなさいよ!それとももうそんな力は残ってない?」

「くっ・・・甘いのよっ・・・喰らぇっ!!」

優勢に立った為に生じた寛子の一瞬の隙を突いて放った春菜が下から放った鉄拳が見事に寛子の顔面を捕らえ今度は寛子がダウンしていくと、逆に春菜がマウントポジションを取って寛子の頬に鉄拳を連続で叩き込んでいく。

「お返しはタップリしてあげるわよ・・・覚悟しなさい!」

そうして数発鉄拳を叩き込んだ春菜は、今度は寛子の腕を取ると腕拉ぎ逆十字固めを決めていく。完全に極めようと春菜が腕を取ったまま体を反らそうとするが、寛子も極められてたまるかとばかりに必死に足をバタバタさせてもがいていくと、ロープが近かった事もありその足がロープに触れ、ブレイクに持ち込んでいった。そして再び睨み合う展開になると、春菜をダウンさせようと寛子がタックルを仕掛けていく。

「くっ・・・うぐぐっ・・・」

春菜も倒されまいと堪えていたが、寛子は狙っていたように春菜を持ち上げると水車投げで後方へ叩きつけた。そしてマットに背中から叩き付けられた春菜の顔が苦痛に歪んでいく。

「ぐはぁぁぁぁっ・・・」

苦しむ春菜に構わず、寛子はその春菜のバストにエルボードロップを落とすと春菜はそのバストを押さえて更に苦しんでいく。急所の一つであるバストへの攻撃が予想以上に効く事を寛子自身も自らの経験で知っていたのであろうか、続けざまに上から春菜のそのバストをアイアンクローで鷲掴みにした。

「きゃあぁぁぁぁっ・・・痛いっ・・・痛いっ・・・何するのよぉぉぉぉっ!」

「胸への攻撃って意外と有効なのよね・・・さっき私のをオモチャにしてくれたお礼をしてあげるわ!」

「お礼ですって!?だったらそっちのも同じ様にしてあげるわよ!ほらっ・・・!」

ダウンする春菜も負けじと寛子のバストを握り返していく。人気グラビアアイドルがお互いの自慢のバストを鷲掴みにし合う展開に観客達も興奮していたが、セコンドの美奈子と乙羽は2人がココまでするとは思ってもみなかった様で驚きを隠せずにいた。

「ほらっ・・・意地張ってるとホントに潰しちゃうわよ!グラビアの仕事が出来なくなっても良いの!?」

「そっちこそ・・・顔が歪んでるじゃない!大人しく手を離すならコッチも手を離してあげるわよ!」

言い合いが続くが、2人はお互い相手のバストを握る力を更に強めていく。次第に2人
の表情も苦痛の色が濃くなってくると、何と春菜が寛子の胸にバストを握る手の爪を立てた。

「きゃあぁぁぁぁっ・・・痛いぃぃぃぃっ・・・!!」

堪らず寛子の手が春菜のバストから離れていく。一気に引き離さんと春菜が寛子の股間を下から思いっきり蹴り上げると、寛子は股間を抑えながらダウンしていく。その苦しむ寛子の髪を掴んで起こし、春菜が今度は後頭部に延髄蹴りを叩き込んだ。

「ああんっ・・・」

後頭部への衝撃に寛子は前のめりになって倒れたままグッタリとしていく。だが春菜は非情にもそのグッタリとしたままの寛子の後頭部へニードロップを落とすと、もはや寛子は失神寸前となっていった。そして春菜は倒れた寛子を尻目に観客に向かってアピールしていった。

「行くよぉぉぉぉっ・・・!!」

そのアピールに大きくなっていく観客達の声に後押しされる様に足をフックすると、春菜は腕を掴んだままロメロスペシャルで寛子を吊り上げていった。

「ほらほらっ…苦しいんでしょ?早いトコギブしなさいよ!」

「いやっ…絶対にギブなんてしない…してたまるかっ!」

「そう…それならもっと苦しくしてあげるわ!どこまで耐えられるかしらね!」

そう意地悪く言うと、膝を曲げた寛子の足を自らの足の裏で固定した状態で足を曲げ、膝を寛子の腰の部分に密着させ、更に寛子の腕を掴んでいた自らの手を顎の部分に回してキャメルクラッチの様な形にしていく春菜。吊るされたまま体をCの字の様に曲げられた寛子はもはや声すら出せない状況にあった。それでも一向にギブしない寛子に業を煮やした春菜は今度こそ決めてやるとばかりに顎にかけていた手を離し寛子の首筋に腕を回しチョークスリーパーの様な形で締め上げていった。

「覚悟しなさい!これでも耐えられる?」

「うぐぐっ…うぐっ…」

既に失神の一歩手前にある寛子。それでも自分の実力に挑戦したいと言って勝負を申し込んできた春菜に対する意地、そして先輩である乙羽の前で敗北した姿を見せる訳には行かないという二つの思いが彼女を支えていた。締め上げる春菜の腕をどうにか動く手で必死に振り解こうとする寛子の姿に、会場からは寛子コールが起こっていった。その声に苛立ちを感じ始めた春菜は技を解くとグッタリして倒れこむ寛子を立たせてショートレンジからのラリアットを叩き込むと、ロープへと向かって走った。

「喰らえぇぇぇぇっ…!!」

そう叫びながら春菜はフラ付く寛子の膝を踏み台にし、寛子の顔面を黒の総帥・蝶野の得意技、シャイニングケンカキックで打ち抜いた。ヤンキーっぽい雰囲気を漂わせる春菜だけにこの技を放つ姿はかなりサマになっている感じがあった。

「ぐふうっ…」

小さく悲鳴を上げると、寛子は大の字になって倒れた。その姿に美奈子がそろそろ勝負を決めろと春菜に叫んでいく。その声を受けた春菜は寛子を立たせるとコーナーに連れて行き、その最上段に乗せていく。そう、春菜が狙っているのはアイドル同士の試合でこれが決まれば必ず勝負が着くと言われる雪崩式ブレーンバスターであった。

「寛子ちゃん!それを喰らったら勝負が決まっちゃう!絶対に決めさせちゃダメ!」

乙羽も自らの経験で分かっていたのか必死に寛子に呼びかけるが、春菜はセカンドロープに乗り技を仕掛ける態勢に入っていく。

「ここまで粘った事は誉めてあげる!でも今度こそ終わりよ!私の勝ちでね!」

そう寛子に意地悪く言う春菜だが、その言葉に反応する様に寛子が呟いた。

「…まだ…わって…ない…わたし…はるなちゃんに…けない…」

「えっ?」

その呟きはあまりにも弱々しすぎて春菜には何を言っているのか全く分からなかった。しかし次に寛子の口から出た言葉はその現れとも取れる一撃と共にハッキリと春菜の耳に届いた。

「私は…あなたに…春菜ちゃんに…負けない!」

バシイィィィィン…

「んあぁぁぁぁっ…!!」

その悲鳴と共に春菜の体が落下しマットへと叩き付けられた。そう、寛子が春菜の顔面に今までに無い位強烈なエルボースマッシュを叩き込んだのだった。

「春菜ちゃん…!!」

セコンドの美奈子も思わず声を荒立てたが、続けざまに寛子が放ったコーナー最上段からフライングボデイプレスが態勢を立て直し切れない春菜のボディに炸裂した。

「ぐはあぁぁぁぁっ…ごほっ…」

最上段からの重爆攻撃に咳き込んで苦しむ春菜を構う事無くそのままフォールしていく寛子であったが、春菜もどうにかカウント3ギリギリで返していく。寛子は続け様に髪を掴んで起こしていくと、その春菜の喉元にラリアットを叩き込み、春菜を再び大の字になって横たわらせた。同じショートレンジからのラリアットではあったが、先程自分が寛子に放ったものよりも更に強烈な衝撃に春菜は意識が吹き飛びそうになっていた。

(くっ…あれだけ追い詰めたのに…一体何処にこんな力が残ってたって言うの…これが…この娘の本当の力なの!?)

ほんの少し前まで自分が優勢だったのに僅かな間に戦況が逆転された事が春菜にはどうしても信じられなかった。もしかするとこれこそが、この前春菜が感じた寛子の秘めたる力なのかもしれないと、春菜は思い始めていた。しかしそれでも自分とて負けるわけには行かない、この先ライバルとして競い合っていく事になるやもしれぬ寛子には絶対に負けるわけには行かなかった。

「くっ…この野郎ぉぉぉぉっ…!!」

気勢を上げながら負けじとドロップキックを放って反撃する春菜であったが、寛子はそれを叩き落し、逆にニードロップを落としていくと、何処を狙うか全く意識していなかったのか、寛子の膝は春菜の股間を直撃した。

「うぎゃぁぁぁぁっ…」

堪らす悶絶してしまう春菜。その春菜を立たせると寛子は春菜の頭を両足で挟み込み、両手を腰の部分に回しお腹の部分でクラッチした。

「ハァ…ハァ…今度は…春菜ちゃんが覚悟する番ね…喰らえぇぇぇっ…!!」

そう叫ぶと、捕らえた春菜の体を頭上まで持ち上げると一気に脳天からマットに叩き付けた。ライガーボム、この技もアイドル同士の試合では大技の部類に入る技であったが、寛子は渾身の力を込めて春菜を叩き付けた。

「はうっ…」

脳天を突き抜ける様な衝撃に意識朦朧とする春菜であったが、その目からはまだ闘志が失われていない事が伺えた。寛子の反撃によるダメージは確実に体の自由を奪っていたが、立ち上がろうと決死に手を伸ばす。しかし一方の寛子もダメージの残る体での攻めにより相当に体力を消耗した様であり、呼吸も荒くなったまま膝をマットについていた。もはやお互い体力の限界をとうに超えている様な感じであり、次の一手を決めたものが勝利を掴むと観客も、そしてセコンドの2人も感じていた。

「春菜ちゃん!」

「寛子ちゃん!」

美奈子と乙羽がそれぞれ叫ぶ中、春菜が立ち上がるよりも一瞬早く、寛子が春菜の腕を取って三角締めを決めていった。残された全ての力で春菜を締め上げる寛子。

「うぐっ…うぐぐっ…」

絞められる春菜もどうにか逃げ出そうと必死でもがいていくが、寛子の鍛えられた足がシッカリと肩と頭を締め付けていくと、次第に春菜の抵抗は弱まっていく。

「春菜ちゃん…お願い…ギブしてっ…」

そう思いながら技を極めていく寛子であったが、突然掴んでいた春菜の手から力が抜けていくのを感じた。そう、遂に春菜が落ちたのであった。

「カンカンカンカン…」

ここで春菜の失神が確認され、ゴングが打ち鳴らされていった。レフリーによって技が解かれていくと、春菜は力無くグッタリと横たわっていった。一方の勝利した寛子も力を全て使い果たしたのかマットに大の字になって倒れていった。そして壮絶な死闘を見せた二人に会場からも大きな拍手が送られていった。

「寛子ちゃん!」
 
思わず寛子のもとへ駆け寄る乙羽。寛子を抱き起こして呼びかけていく。
 
「…乙羽さん…試合は…私、勝ったの…」

「寛子ちゃん…おめでとう…勝ったのよ、寛子ちゃん。」

そう言うと乙羽は、そっと寛子を抱き寄せた。

「…ありがとう…乙羽さん…今度は乙羽さんの番ですよ。期待してますからね。」

「うん…私も寛子ちゃんに負けない様な試合を見せるから。」

乙羽の手を借りながら立ち上がる寛子は、未だ横たわる春菜の元へと近づいていく。その春菜のそばでは美奈子が失神状態の春菜に呼びかけていた。

「戸向さん…」

「寛子ちゃん…おめでとう。流石ね。春菜ちゃんが言ってた通りだったわ。」

敵のセコンドであった美奈子も素直に寛子の勝利を称えた。そして寛子は春菜に呼びかけた。

「春菜ちゃん…大丈夫?しっかり!」

と、突然春菜の手が寛子のバストを鷲掴みにしていった。

「きゃっ…」

その悲鳴に倒れていた春菜がしてやったりとばかりに目を開けて笑みを浮かべた。それを見た寛子は安心した表情を浮かべながら言った。

「…もう。何回胸触ったら気が済むのよ。今日だけで何回触った?」

「…だって寛子ちゃんの胸の感触って私のよりいいのだもん。羨ましいな。」

春菜は少し茶目っ気を含んだ様な笑みを浮かべながら、そう言った。

「…やるじゃない。寛子ちゃんの力、本物だった。今日は私の完敗。」

「…ううん。春菜ちゃんだって十分強かった。私だって途中何度もギブしかけたんだから。」

微笑みながらそう言う寛子が春菜を抱き起こしていくと、春菜が寛子を抱き寄せた。

「寛子ちゃん…ありがと。でもまたいつか改めて挑戦させてもらうから、覚悟しててよね。」

「うん。だからその時まで、お互い頑張りましょう。こっちこそありがとう、春菜ちゃん。」

その光景に会場からも大きな拍手が起きていった。こうして春菜と寛子の激闘は寛子の勝利で幕を閉じた。そして、もう一つの約束が果たされる時がやってきた。

「美奈子ちゃん…ゴメン。良い形でバトン渡すなんて言ったのに…負けちゃった。」

申し訳無さそうに謝る春菜に対し、美奈子は言った。

「仕方ないよ。寛子ちゃん、そんな簡単な相手じゃないんだから。気にする事無いわよ。でもこれで私は何としても勝たなきゃいけなくなった訳だ。」

「えっ…?」

「いくら何でも、先輩後輩揃って負けたんじゃ物笑いの種でしょ?春菜ちゃんが力及ばなかった分は先輩の私が頑張らないとね。」
 
そう言うと、美奈子は身に着けていたTシャツを脱いでいくと、春菜とは対照的な、先日の試合の時と同様の白いビキニ姿になった。

「まあ私としても、いい加減今度こそ乙羽さんから勝ちを奪わないとお話にならないしね。絶対に勝つから、手間かけるけど少しの間見守ってて。」

「分かってるって。美奈子ちゃん…ファイト!」

その春菜の励ましは、美奈子にとっては何より心強かった。一方の乙羽もコーナーで美奈子同様に白いビキニ姿になり準備を整えていた。その乙羽を寛子が励ます。

「乙羽さん…頑張って下さい!私、応援してますから!」
 
「ありがとう。寛子ちゃんの試合見てたら、私も頑張らなきゃって思った。寛子ちゃんが勝ってコッチには弾みがついてるんだから、絶対に負けない!」

そして、次なる戦いの幕開けが告げられていった。

「引き続いて、アイドルビキニプロレススペシャルマッチ第二回戦を行います!」
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