悪夢との決着・後日談(前編)〜囚われた友〜』

 

藤原瞳改め松永優子、末長遥、そして市河由衣。3人の少女は長年の因縁の相手、滝本秀明とのリベンジ戦に臨み、滝本の仕掛けた秘密兵器である北王光司の登場によって窮地に立たされながらも、かつて敵対した鈴本亜美の救援によって見事に悲願のリベンジを果たした。そしてギクシャクしていた3人の友情も更に深いものとなり、ピンチを救ってくれた亜美との間にもまた友情が芽生えた。かつては地下プロレスという場で地獄を見させられた4人ではあったが、様々な苦難を乗り越え、4人は共に今新たな出発を果たした。しかし、全てを清算したかに見えた先日の試合の一件が4人の少女に新たなる危機をもたらそうとは、4人の誰もが気付いていなかった。

 

 

バシイィィィン…

 

「ぐはっ…」

 

吹っ飛ばされる一人の大男。しかし間髪を入れず、その男に強烈な張り手が叩き込まれる。

 

バシィィィィン…

 

「ぐふっ…」

 

倒れこんだ男は自分を張り倒した巨漢を睨み付ける。只でさえ大きいその巨漢が睨み付ける人物は、身長こそ巨漢と同じ位であったが、横幅、そしてその体格は大きくその男を上回っていた。

 

「ナサケナイネ…ショセンユウショウデキナイママハイギョウシテ、アゲクノハテハコムスメニヤラレタヤツナンテソンナモノカ…」

 

「くっ…てめぇだって人の事を言える立場かっ!大きな口をたたくんじゃねぇっ!」

 

しかしその一言が、その巨漢の怒りに火をつけてしまった。巨漢が飛び上がったかと思うと、その巨体から繰り出されたフットスタンプが男のみぞおちに突き刺さる。

 

「ぐぼぉぉぉぉっ…」

 

堪らず男の口から血混じりの胃液が噴出される。元格闘家であり、多少なりとも鍛えてはいた男でも、その圧力は耐え切れるものではなかった。胃液を噴出し、虚ろな目でヒクヒクする男に、その巨漢が言う。

 

「コムスメナンカニヤラレルヤツハ、チカプロレスニハイラナインダヨ…モウオマエハオハライバコナンダヨ!!」

 

そう言うと、巨漢は相撲の四股を踏む様に、その足を上げると、倒れこんだ男の股間目掛けて落としていった。

 

グシャッ…

 

「うぎゃぁぁぁぁっ…」

 

堪らずその男は白目を剥いて失神した。踏み潰されたその股間からは異臭を放つ液体と共に、赤い液体も滲み出ていた。そして、その巨漢を黒服が迎える。

 

「調子は上々の様だね…その調子で今後もここで暴れてくれる事を期待しているよ。残念ながらこちらの男にはもう期待できそうにないのでね…」

 

「フフッ…コイツハショセン『ニセモノ』ダヨ。コンナナサケナイヤツガオナジチョウテンヲキワメタヤツダトオモウトナサケナイネ…サテト…ツギハチョウシニノッタコムスメヲショケイスルバンネ…ソッチノホウハタノンダヨ…」

 

「心配するな…そっちの方は既に手配してある。奴らは否でも君と戦わなくてはならない筈だからな。何せやつらの大切な『友達』を見捨てる事は出来ぬだろうからな…下らない事をしてその『名声』に泥を塗った奴らに存分に地獄をみせてやってくれたまえ…ふふっ…」

 

「トモダチ?クダラナイネ…ソンナモノガココデハナンノカチモナイコトヲオシエテヤルヨ…ホンモノノオソロシサヲタップリトソノミニキザンデヤルサ…」

 

そう言って、その巨漢は処刑場のリングを降りた。そしてそのリングで処刑された人物こそ、先日由衣達に敗れた北王光司であった。

 

 

 

「もう!由衣ちゃんも亜美ちゃんも遅いなぁ…約束の時間もう30分も過ぎてるよ!」

 

「まあまあ、そう言わない。由衣ちゃんは映画の撮影で忙しいんだし、亜美ちゃんだってアルバムのレコーディングの打ち合わせで大変なんだから!」

 

待ち合わせしているのは藤原瞳…現在の芸名松永優子と末長遥の2人。2人は今日、由衣と亜美を含めた4人で焼肉を食べに行こうと約束をしていた。先の一件以来4人は皆お互いに連絡を取り合っていた。そして今度4人でどこかへ行こうという約束はしていたのだが、なかなか全員の都合が合わず、ずっと先延ばしになっていたのだが、晴れて今日その約束が実現したのだった。最も、由衣と亜美は仕事の都合で少し遅れていたのだが。

 

「でも凄いよね〜亜美ちゃんも。私この前のコンサート見に行っちゃったもん!ホントカッコ良かったんだから!由衣ちゃんも遂に映画の主役だもんね。凄いよね〜」

 

まるで自分の事の様に由衣や亜美の活躍を喜ぶ瞳を、遥は少々呆れた様な様子で見ながらも微笑んでいた。

 

「そう言えば瞳ちゃん、今日は由衣ちゃんと亜美ちゃんと私達以外にもう一人来るって言ってたけど、誰?」

 

「あっ…そうそう!もうすぐ来る筈なんだけど…あっ、来た来た!」

 

そう言って瞳が見やる先にはもう一人の『ヒトミ』、伊藤仁美の姿があった。瞳の姿を見つけると駆け寄って抱きつく仁美。

 

「瞳ちゃ〜ん、久しぶり〜!会いたかった〜!」

 

「も〜この前会ったばかりでしょ〜」

 

仁美を離すと、瞳は遥に瞳を紹介した。

 

「遥ちゃん、こちら私の親友、伊藤仁美ちゃん。」

 

「始めまして。宜しくね仁美ちゃん…と言っても瞳ちゃんからいつも聞いてるからあんまり初対面の気がしないんだけど…」

 

「そうなんだ〜瞳ちゃんはお喋りだからね〜。」

 

「こら〜誰がお喋りだって〜?」

 

「この口よこの口〜っ!!」

 

そう言って瞳の頬を引っ張る仁美。2人の間に遥が割って入る。

 

「こらこら、こんなところでケンカしないの!みんなの前で恥ずかしいでしょ!」

 

「はーい、ごめんなさ〜い。遥ちゃん、あなたの事も瞳ちゃんから色々聞いてるよ。宜しくね。」

 

「色々って…ちょっと瞳ちゃん!一体何喋ったのよ〜」

 

「何にも喋ってないよ〜遥ちゃんが泣き虫だなんて事全然喋ってないよ〜」

 

「何〜!?誰が泣き虫だって〜!!」

 

「きゃっ…遥ちゃんが怒った〜仁美ちゃん助けて〜」

 

そう言って仁美に助けを求める瞳。その光景が仕事を終え待ち合わせの場所へとやってきた市河由衣の目に飛び込んできた。

 

「いたいた。まったく、瞳ちゃんも遥ちゃんも相変わらずね…街中で何やってんだか。おっ…あの小っちゃい子はひょっとして…」

 

3人に気づいた由衣はそこへ駆け寄っていった。

 

「ちょっと!3人揃って何やってるの!恥ずかしいじゃない!」

 

「あ、由衣ちゃんやっと来た〜もう遅いよ〜私達どんだけ待ったと思ってるのよ〜」

 

「待った割にはずいぶん楽しそうだったけど?」

 

「だって〜遥ちゃんが怒るんだもん。」

 

「もう!誰のせいよ誰の!」

 

由衣も巻き込んで尚も続く言い争い。それを止めようと由衣は半ば強引に仁美に話しかけた。

 

「仁美ちゃん久しぶり〜!!私が事務所変わって以来だね〜!」

 

「由衣ちゃん会いたかった〜!事務所変わっちゃった時は凄いショックだったんだからね〜」

 

「ごめんごめん!また仲良くやろうね。何と言っても仁美ちゃんは私達の恩人なんだからさ。」

 

「恩人?何の事?」

 

「あれ、瞳ちゃんから聞いてなかった?瞳ちゃんが見せてくれたあの技、仁美ちゃんの直伝なんでしょ?あの技のお陰で北王を倒す事が出来たんだよ。」

 

「ああ、ムーンサルトの事か。聞いてる。もう驚いたわよ。何せ瞳ちゃん、練習の時何度も失敗するんだもん。教える私はどれだけハラハラした事か。でも…私が教えた技で瞳ちゃんが北王に勝ったって聞いた時、すごく嬉しかった。瞳ちゃんが私の敵を取ってくれたんだって。それに何より、3人がまた仲良くし始めたって事がね。」

 

その仁美の言葉に、瞳が恥ずかしそうに言った。

 

「あの技を決める事が出来たのは由衣ちゃんと遥ちゃんがいてくれたからだよ。それに…仁美ちゃんの事を思うと絶対に決めてやるって思った。皆がいてくれたから決めるられたんだよ。」

 

「でもあれが無かったら私達確実にヤバかったよね。それは紛れも無い事実。仁美ちゃんも私達の勝利を陰ながら支えてくれてたんだよ。」

 

「そっか…そう言ってもらえるれば嬉しいよ。さ、今日は3人の勝利を祝って楽しくやろうよ!」

 

盛り上がる仁美だが、由衣がストップを掛ける。

 

「待った!まだ一人来てない!一番忘れちゃいけない人!亜美ちゃんがまだ来てない!」

 

「もう!亜美ちゃん何してるんだろう!由衣ちゃんの方に連絡無かったの?」

 

心配そうにいう瞳は、由衣に尋ねる。

 

「うん…さっきメールがあって、もうすぐ打ち合わせが終わるからとは来たんだけど…」

 

「遅いなぁ…この前の試合の一番の功労者の亜美ちゃんが居てくれないと始まらないのに!」

 

「まあまあ…亜美ちゃんも今が一番忙しい時なんだから、もう少し待とうよ。」

 

「うん…亜美ちゃん、早く来ないかなぁ…」

 

 

 

その頃、当の鈴本亜美は都内のレコーディングスタジオにいた。漸く打ち合わせが終わり、亜美は自分を待つ4人の元へ向かおうとしていた。

 

「どうしたの亜美ちゃん?今日はやけに嬉しそうだけど。」

 

「はい、今日はこれから友達と遊びに行く約束してるんです。」

 

尋ねるスタッフに、亜美はそう返す。

 

「へぇ…そうなんだ。亜美ちゃんのそんな嬉しそうな見るの初めてだからさ。」

 

「そうですか?実は私もすごい楽しみなんです。色々あって…やっと仲良くなれた子達なんです。すごく良い娘達なんですよ。」

 

「そっか…じゃあ思いっきり楽しんで来なよ。」

 

「はい!失礼します!」

 

4人の元へ向かおうと、レコーディングスタジオを後にする亜美。しかしその背後に迫る影に亜美は気づいていなかった。

 

「…鈴本が出てきた。手筈通りにやれ。」

 

「…了解。」

 

その影は携帯で仲間に連絡する。

 

(ヤバいな…すっかり遅くなっちゃったよ…みんな怒りそうだな…早く行かないと…)

 

タクシーを捕まえようとする亜美。しかしその亜美の前に、一人の黒服が近づいてくる。

 

(えっ…何、一体!?)

 

思わず身構える亜美の手を掴み、黒服が冷酷な口調で言う。

 

「鈴本亜美、一緒に来てもらう!」

 

「なっ…ちょっと…やめて…離してよ!」

 

掴みかかる黒服の腕を振り解き、亜美は反対方向へと逃げ出すが、その前に別の黒服が立ちはだかる。

 

「逃げる事は許さん!お前がやった事の罰を受けてもらう!」

 

「えっ…罰って何…きゃっ…!!」

 

もう一人の黒服が背後から亜美の口をクロロホルムを染み込ませた布で抑えると、亜美は意識を失って倒れこんだ。そして倒れこんだ亜美を担ぎ込むと車の中に押し込み、黒服達もその車に乗り込むとその車はとある場所へと向かった。

 

「第一段階は成功だ…続いて第二段階に移る。こいつを使ってな…」

 

 

 

(ううっ…あれ…ここは…私…確か黒ずくめの男に襲われて…えっ…ちょっと…これは…)

 

亜美が気づいた時、そこはとある部屋、いや部屋というよりは倉庫に近い薄暗く不気味な感じの漂う場所であった。そして亜美は椅子に手足を縛られて動きを封じられていた。

 

「気が付いた様だな…鈴本。」

 

意識を取り戻した亜美に答えたのは、彼女を連れ去った黒服であった。

 

「えっ…ちょっと…何なのこれ?私に何をするつもり!?」

 

「…自分がやった事を忘れてはいないだろう?これからお前にはそのペナルティを受けてもらう。」

 

「やった事…ペナルティ…ここはひょっとして…!!」

 

亜美は自分が何の為に拉致され、そしてここが地下プロレスの会場である事を悟った。

 

「そう、お前の考える通りだ。これからお前には先日の乱入のペナルティとして試合をしてもらう。お前の乱入にとてつもなく激怒している者がいてな…そいつが直々にお前の相手をしてくれるそうだ。」

 

「私に恨みを持ってる奴…ひょっとして北王!?それとも滝本君!?」

 

しかしそんな亜美の考えを嘲笑う様に黒服が答える。

 

「ふん…滝本の奴も随分と好き勝手にやってくれたからな。本来ならリングに上げて公開処刑と言うところだが、事務所がそれだけは勘弁してくれと泣きついてきたんでな。仕方無しに地下プロから永久追放になった。最も奴自身が罠まで仕掛けたこの前の試合に負けたショックで、もうこれ以上恥をかきたくないとリングに上がるのを拒否しているって話だがな。」

 

「滝本君が…それじゃ北王!?」

 

「残念ながらそれも不正解だ。その北王はこの状態でな。」

 

そう言って黒服は一枚の写真を見せる。そこには血反吐にまみれ、股間が完全に潰された状態の北王の無残な姿が写っていた。

 

「こ…これって…あの北王が…ここまで…」

 

北王をここまで叩き潰す相手が居るという事実に、驚きを隠せない亜美。

 

「女にやられる様な『横綱』は許せないと言ってな。それはもう凄まじい攻めだったよ。まあ我々としても女にやられる処刑人などに用は無いからな。丁度良かったところだ。」

 

そう言って黒服は、更に亜美にとって衝撃の一言を告げた。

 

「お前が戦うのは、北王をそうした人物だ!」

 

その言葉は、亜美に言葉にならぬ恐怖を与えた。亜美の顔が、一気に恐怖の色で支配されていく。

 

「そ…そんな…北王を完膚なきまでに潰す様な奴と…」

 

「その人物は、乱入し、北王敗北のきっかけを作ったお前を処刑して横綱の名を汚した北王の恥を濯ぐのだと言っている。もっとも、その人物はお前と共に、『ニセモノ』の北王を倒した女達も処刑するとも言っている。下らない友情等無力である事を思い知らさせるとな。」

 

「何ですって…それじゃあ由衣ちゃん達も…!!」

 

「そうだ。これから奴らにもここに来てもらう。これを使ってな。」

 

黒服がそう言って取り出したのは、亜美の携帯であった。

 

「なっ…ちょっと…何をする気!?」

 

「今日は4人で集まる予定、お前はその待ち合わせ場所に向かうところだったそうじゃないか。とすると他の3人は皆揃っているという事だな。丁度良い機会だ。お前と共に4人揃って戦ってもらう。その方が良いだろう?4人で戦った方が、少しは勝算があるかもしれないぞ。ほんの少しはな…。」

 

「やめて!元々は私のペナルティなんでしょ!だったら私が一人でそいつと戦う!だから由衣ちゃん達を巻き込まないで!」

 

「ふふっ…友情ってやつか?しかし奴らも友達のお前の今の状態を知ったら、それでも黙っていられるかな?」

 

「まさか…由衣ちゃん達をおびき出す為に私を!?」

 

「その意味も有る。さて、奴らはどんな反応をするかな?」

 

「やめて…それだけは…やめてぇぇぇぇっ!!」

 

必死に哀願する亜美。このままではまたしても自分の為に由衣達を苦しめる事になる。それだけは避けたかった。そしてそれ以上に自分の事を『友達』として受け入れてくれた由衣達を危険な目に合わせ炊くないという思いが強くなっていた。しかし、黒服はそんな亜美を嘲笑し、亜美の携帯から由衣達の番号を探した。

 

 

 

「おかしいなぁ…携帯も繋がらないし…亜美ちゃんどうしちゃったんだろう…?」

 

亜美の身に起きた事態を知る事も無く、彼女の事を待ち続ける4人。しかし由衣はいくら何でも遅すぎると亜美の事が心配になり、亜美の携帯を呼び続けていたのだが…。

 

もう約束の時間から2時間だよ?こっちから連絡出来ないんじゃ、どうしようもないよ…」

 

亜美を心配する気持ちは瞳も遥も、そしてまだ亜美と会った事の無い仁美も同じだった。その時、由衣の携帯が鳴る。由衣がハッとして見てみると、それは亜美の番号からの着信であった。

 

「もしもし亜美ちゃん?今何処にいるの?携帯が繋がらないし、皆心配してたんだからね!」

 

(…市河由衣だな。鈴本亜美ならそこには行く事はない。)

 

「えっ…あなた…誰!?この番号は亜美ちゃんの携帯の筈…」

 

通話の相手が亜美ではない事に、瞳達も由衣の近くに駆け寄る。

 

(そうだ。これは紛れもなく鈴本の携帯だ。鈴本亜美は訳あって我々が預かっている。彼女にはこれからペナルティを受けてもらう事になったのでな。)

 

「ペナルティ!?」

 

相手から出た言葉に、由衣達は驚きを隠せない。

 

(…全く心当たりのない様な言い方だな。鈴本はお前達の為にこれから受ける必要の無かったペナルティを受けると言うのに…随分薄情な友情だな、フフッ…)

 

「…まさか、あんた達地下プロレスの…!!」

 

ただ事ならなくなってきた事態に、由衣達の間に動揺が走る。

 

(ようやく気が付いたか…まあ本来なら連絡する必要は無かったんだが、一応知らせておこうかと思ってな。自分達の友達が知らぬ間に処刑されるのは辛いだろうからな…)

 

「処刑!?亜美ちゃんこれから誰かと戦わされるっていうの?」

 

(その通りだ。先日の鈴本の乱入に激怒した人物がいてな。そいつが鈴本を直接処刑してやると聞かないのだよ。一つ教えてやるなら、そいつは滝本の様なヘタレでも、北王の様な処刑人の面汚しでもない。頂点を極めた、本物の処刑人だ!)

 

「本物の処刑人…」

 

(まあ我々も無慈悲ではない。お前達にもチャンスをやろう。そこに松永優子や末長遥も居るのだろう。鈴本を放っておけないと思う友情がお前達にあるのなら、3人そろって今から指定する場所に来るといい…お前達に処刑人を倒して、鈴本を助けられる勇気があるならな…ふふっ…)

 

「…行くわ…そんな挑発されなくても行くわよ!場所は何処なの!?早く教えなさいよ!」

 

(ほう…流石は友達だな。場所は…)

 

しかしその時、その声を遮る様に、通話先から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

(由衣ちゃん来ちゃダメ!!来たら由衣ちゃん達まで殺されちゃう!相手は北王を半殺しにする様な奴よ!私の事はいいから、絶対に来ちゃダメ!!)

 

「亜美ちゃん!!亜美ちゃん無事なのね!!よかった…」

 

とっさに聞こえてきた亜美の声に喜ぶ由衣達。しかしその後亜美の声が聞こえてくる事はなかった。

 

「亜美ちゃん!亜美ちゃん返事してよ!」

 

(ふん…余計な事を…自分の身がどうなるかも知れぬ時に友達の事を想うとは…いい友達をもっているなお前達は。)

 

「ちょっと!亜美ちゃんに何したの!?」

 

(何もしてはいない。余計な事を言わぬ様少し黙らせただけだ…さあどうする?聞いた通り、相手は簡単な奴ではない。それでも鈴本を助けたいか?)

 

脅しとも挑発とも取れる様な言葉。しかし由衣は臆する事無く答えた。

 

「…場所は何処なの!?さっさと教えなさいよ!」

 

由衣のそんな決意を嘲笑う様に通話先の声が答えた。

 

(ふん…いい度胸だ。その勇気に免じて、お前達が来るまで亜美の処刑を待ってやる。その代わり、もしお前達3人の内誰か1人でも心変わりして逃げたりすれば、亜美の身の安全どころか、命の保障もない!亜美を救いたければ、お前達3人揃って来るのだ!そこのところを覚悟しておけ!)

 

そう言うと通話先の声は場所を指定して、電話を切った。そして携帯を見つめながら、覚悟を決めた表情を浮かべる由衣に、瞳と遥が聞いた。

 

「何だって?あいつら何て言っているの?」

 

「亜美ちゃん、この前の事でペナルティとしてとんでもない奴と戦わされるみたい…北王すら半殺しにする様な…私達が3人揃って来なければ、亜美ちゃんの命の保障は無いって…」

 

突如として告げられた衝撃の事実に、瞳も遥も、そして仁美も大きな衝撃を受ける。しかし瞳と遥は臆する事無く言った。

 

「助けなきゃ…早く亜美ちゃんを!」

 

「…行こう!亜美ちゃんは私達のせいでピンチになってるんだ!私達が行かなくてどうする!今度は私達が亜美ちゃんを助ける番よ!」

 

血気立つ瞳と遥。しかし由衣にはどうしても腑に落ちない事があった。

 

「待って!考えてみれば、亜美ちゃんがペナルティを受ける事を、何でわざわざ私達に連絡してきたんだろう?もしかすると…これはあいつらの罠かもしれない!あいつらの目的は亜美ちゃんだけじゃなく私達にもあって、その為に亜美ちゃんを使って私達をおびき出して、亜美ちゃんと一緒に処刑人と戦わせようって企んでるに違いない!」

 

「関係無い!例え罠でも…このまま亜美ちゃんを見殺しには出来ないよ!」

 

「そうよ!亜美ちゃんは私達の事を必死で助けてくれたのよ!何が待ち受けてたって…私、亜美ちゃんを助けたい!」

 

瞳も、そして遥も既に覚悟は決めている様子だった。以前の2人なら間違いなく尻込みしていそうなこの状況でも、幾多の修羅場を潜り抜け、そして先日の勝利で大きな自信を得た2人には何の躊躇いも無かった。その姿は由衣にとって何より心強かった。

 

「…瞳ちゃん…遥ちゃん…」

 

「由衣ちゃん…行こう!亜美ちゃんを助けに!由衣ちゃんだって、このまま亜美ちゃんを放っておけない筈でしょ?」

 

「…勿論!私だって…亜美ちゃんを助けたい!今度は私達が亜美ちゃんを救う番だものね!」

 

互いの決意を確め合い、頷く3人。亜美が捕まっている場所へと向かうべく、仁美と別れようとするが、仁美から帰ってきたのは意外な言葉だった。

 

「…お願いがあるの。私も一緒に連れてって!私も一緒に亜美ちゃんを助けに行く!」

 

仁美の申し出に驚く3人。

 

「仁美ちゃん…」

 

「由衣ちゃん達が危険な目に遭うかも知れないって分かってるのに、私だけ帰るなんて出来ない!私一人帰って、もし由衣ちゃん達に万一の事があったら、私悔やんでも悔やみきれないよ…」

 

「でも帰って来れるかどうか分からないのよ!私達の為に、仁美ちゃんまで危険な目に遭わせる訳にはいかないよ!」

 

仁美に諦めてもらおうと説得する瞳。しかし仁美には3人の知らないある思いがあった。

 

「私…この前3人がタッキーにリベンジするって聞いた時、何か力になりたいって思ったの。でも結果的に私は何も出来なかった。3人がリベンジを果たしたって聞いた時は嬉しかったけど、何の力にも慣れなかった事がすごく悔しかったの。だから…今度こそ私も3人の力になりたい!お願い…一緒に連れてって!3人にとって大事な亜美ちゃんの事…私も助けたい!」

 

「仁美ちゃん…そこまで…」

 

仁美もまた、由衣たちと同様に決意を固めていた。

 

「…そう言えば仁美ちゃん、前に言ってたよね。友達の友達は自分にとっても友達って。まだ会って無くたって、私達の友達の亜美ちゃんは仁美ちゃんにとっても友達だよね。」

 

「瞳ちゃん…」

 

「仁美ちゃん…一緒に行こう!亜美ちゃんを助ける為に、私達に力を貸して!」

 

仁美は笑顔で瞳に抱きついた。それは勿論という意味を込めた仁美の思いの現われであった。

 

「由衣ちゃん、遥ちゃん…良いでしょ?仁美ちゃんにも一緒に来てもらおうよ!」

 

由衣は微笑みながら答える。

 

「…今日は4人での戦いね。ヒトミ一人よりかはWヒトミの方が心強いもんね。」

 

「由衣ちゃん…」

 

「仁美ちゃん…昔、事務所一緒だった頃の約束覚えてる?いつか一緒にタッグ組んで戦おうっていう約束。結局叶わぬままになってたけど、やっと約束果たせそうだよ。最もタッグででは無いけどね。」

 

「…覚えててくれたんだ。私も由衣ちゃんと一緒に戦いたいってずっと思ってたんだからね。」

 

由衣がその約束の話を持ち出した事が、仁美を仲間として迎え入れた事だと気づいた瞳も思わず微笑んだ。

 

「遥ちゃんも…仁美ちゃんに一緒に来てもらっても良いよね?」

 

その瞳の問いかけに、遥は笑いながら答えた。

 

「…こんなやり取りを見せ付けられちゃ、断る訳に行かないでしょ。それに…私がダメだって言ったところでどうせ仁美ちゃんはしがみついてでも来るだろうし…何より私だって仁美ちゃんが居てくれればそれだけ心強いもの。」

 

遥もまた仁美の事を仲間として迎え入れた。そして4人は互いの決意を確認する様に改めて頷く。こうして思いもよらぬ仲間を得た由衣達は亜美を助けるべく、待ち受ける予想もつかぬ巨大な罠に挑む事になった。

 

「行くよ!亜美ちゃんの事、絶対に助け出す!」

 

由衣、瞳、遥、そして仁美の4人は飛び込んで行く。友達である亜美が囚われている巨大な罠の中に。その姿には、幾多の修羅場を潜り抜けて成長した恐れる事の無い強さがあった。そして4人の思いはただ一つ。

 

(亜美ちゃん…絶対に助ける!だから無事でいて!)

 

 

 

そしてその頃、由衣たちを呼び出した黒服達は亜美を監視しながら由衣達の到着を待っていた。

 

「さて…奴らは果たして来るかな?まああの勇ましさからすれば来るんだろうな。しかしつくづくバカな奴らだ。友達と言っても、所詮は赤の他人だと言うのに…他人の為に自分を危険に晒すなんて下らない事だと分からないものなのかねぇ…」

 

自分だけでなく、由衣達をも嘲る様なその言葉に、亜美は怒りを隠せなかった。

 

「ふざけないでよ!関係ない由衣ちゃん達まで危険な目に遭わせようなんて…絶対に許せない!アンタ達みたいな卑怯な奴らには、皆がどれだけ友達思いか理解出来ないでしょうね!」

 

そう言ってキッと黒服を睨み付ける亜美。しかしその亜美を黒服の一人が殴りつけた。口に血を滲ませる亜美の顎を掴んでその黒服が言い放つ。

 

「生意気な口を叩くな。自分が置かれた立場を分かっているのか?お前はこれから処刑される身なのだ。そんな立場で友達思いだと?笑わせるな。ここではそんなものが何の価値もない事をこれから身をもって思い知らせてやる。お前の大切な友達共々な。リングの上で、せいぜい下らない事をした自分の事を呪うんだな。」

 

「私は…この前の事を下らないなんて思ってない!皆を助けて、そして分かり合えた事を誇りに思ってる!何をされようと、その思いだけは決して変わらない!それに…あんた達が思うほど由衣ちゃん達は弱くはないわ!皆酷い目に遭いながらもそれをバネに強くなってるんだから!」

 

バシッ…

 

「くっ…」

 

黒服がまたも亜美を殴りつける。その目には亜美に対する憎しみが込められていた。

 

「調子に乗るのもいい加減にしろ!友情だの罪滅ぼしだの…お前も奴らもウザい事ばかり言いやがって…お前達に求められているのはそんなものではない!痛めつけられて、泣き叫んで、無様な醜態を晒して…それで客を楽しませる事こそお前達の役目なのだ!この前の試合にしてもそうだ!奴らは大人しく北王に痛めつけられて、滝本に犯されていれば良かったものを…貴様が全て台無しにしたのだ!調子に乗りやがって…貴様も、奴等も存分に後悔させてやる!」

 

そう言って、黒服が更に亜美を殴りつけようと手を上げる。しかしその時、亜美、そして黒服の耳に駆けてくる足音、そして自分の名を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「亜美ちゃーん!何処に居るの!?」

 

(あの声…由衣ちゃん…!!)

 

「ふん…来たか。本当にバカな奴らだな。まあいい。これで全員まとめて処刑出来る。」

 

ガタッ…

 

「亜美ちゃん!」

 

ドアが勢い良く開き、部屋の中へ入ってきた由衣達4人が亜美の元に駆け寄る。

 

「亜美ちゃん…良かった!!無事だった…」

 

「由衣ちゃん…瞳ちゃん…遥ちゃん…どうして…」

 

亜美の無事を確認し、その動きを封じていた縄を解いていく4人。不意に由衣は亜美の口に血が滲んでいる事に気がついた。

 

「亜美ちゃん…ちょっと!亜美ちゃんに何したの!?」

 

「ふん…大した事はしていない。今ボロボロにしてしまったのでは面白くない。ましてお前達の処刑人に何を言われるものか分かったものではないからな。ただそいつがあまりにもふざけたな事を言うので少しお灸を据えてやっただけだ。」

 

「ふざけた事!?それはあんた達がやった事じゃない!亜美ちゃんを拉致して、そして私達を誘き出すなんて…一体何を考えてるの!?」

 

そう叫ぶ由衣に、黒服の一人が返した。

 

「全員揃ったか…なら改めて教えてやる。この前の試合で調子に乗ったお前達を潰すという奴がいてな…それでお前達を誘い出す為に鈴本を利用したまでの事だ。最もそいつは鈴本にも恨みが有る様だから、お前達が来た後で一緒にまとめて始末するつもりらしいがな。」

 

「そうか…やっぱり目的は私達か…でも調子に乗ったってどういう意味よ!」

 

由衣のその疑問に、黒服達の代わりに亜美が答えた。

 

「こいつらは…みんなが痛めつけられて、泣き叫ぶ事を望んでたのよ…そうしてお客さんを楽しませてナンボだって…この前の試合で期待してもいなかった勝利を収めた皆の事が面白くないのよ…だからこそこうして私達をまとめて痛めつけようと考えているのよ。そしてこいつら以外にもそう思っている奴がいる、そいつが処刑人よ!」

 

亜美の言葉に、由衣は全てを悟った。今回の事はやはり全て自分達を痛めつける為に仕組まれた事だったのだと。

 

「そういう事だ。全ての原因はお前達のつまらぬ勝利や乱入にある。今日はその事をタップリと後悔させてやる。処刑が始まるまで、せいぜい再会を喜んでいるがいい。その喜びはすぐに恐怖に変えてやる。我々はお前達が潰されていく様をゆっくりと楽しませてもらうさ。ほらっ、支度だけはしておけ!」

 

黒服は4人に向かって、試合のコスチュームの入ったバッグを差し出す。そして黒服の一人が仁美を連れ出すとする。

 

「いやっ…ちょっと…離してっ!!」

 

「来い!お前には関係のない話だ!部外者はとっとと出て行けっ!」

 

しかし仁美は、その強引に連れ出そうとする黒服の股間を思いっきり膝で蹴り上げた。

 

「くっ…このチビっ!!」

 

「出て行かない…私だって皆と一緒に亜美ちゃんを助けに来たのよ!あんた達に何を言われようとも、私も最後まで皆と一緒に戦う!」

 

迷いのない確固たる意思の仁美を、蹴られた黒服が睨んでいく。

 

「ふん…バカがもう一人いたか。いいだろう、お前もここでこいつらと共に地獄を見せてやる!大人しく一人だけ帰っていれば良かったと存分に後悔するがいい!」

 

殆ど脅迫の様なその言葉にも、仁美は決して怯まなかった。その姿に亜美はどうしてそこまで出来るのかという疑問が湧き上がっていた。

 

「間もなくお前たちの処刑人がやってくる!到着次第試合を始めるから、せいぜい覚悟を決めておくんだな!」

 

そう言って、黒服達は部屋から出て行き、後には由衣達5人だけが残された。

 

「皆…どうして…何で来たのよ!これじゃ奴らの思う壺じゃない!私の事なんか放っておいてくれて良かったのに…」

 

その目に涙を浮かべながら訴える亜美を、由衣が抱き寄せて言った。

 

「出来ないよ…私達の事を助けてくれた亜美ちゃんが、そのせいでピンチになってるのに…放っておける訳無いじゃない!」

 

そう語る由衣の声が少し涙声になっている事に気づく亜美。由衣の目には涙が浮かんでいた。

 

「由衣ちゃん…」

 

「亜美ちゃん…ごめんね…私達のせいでこんな目に遭わせて…大丈夫だった?」

 

「大丈夫って言うより…むしろ驚いてるよ。まさか私の為に皆揃って来てくれるなんて…ホントはね、由衣ちゃん達が入ってきた時は感動しちゃったの。こんな私にも、身の危険を顧みずに助けに来てくれる人がいるんだって。」

 

「当たり前でしょ。私達友達なんだもん。」

 

更に瞳と遥が続く。

 

「そうだよ亜美ちゃん。それに…まだ私達亜美ちゃんに助けてもらった借りを返してないしさ。」

 

「今度は私達が亜美ちゃんを助ける番だからね。この前、私達は亜美ちゃんのお陰で勝つ事が出来たんだから。今日はあの時の亜美ちゃんと同じ様に私達が助けに来たのよ。」

 

「瞳ちゃん…遥ちゃん…」

 

3人の言葉に思わず泣きそうになる亜美に、今度は仁美が話しかけた。

 

「良かった…亜美ちゃん無事で。あ、初めまして。私、伊藤仁美って言うの。亜美ちゃんの事は瞳ちゃんから聞いてるよ。宜しくね。」

 

「ちょっと…のん気に自己紹介なんかしてる状況じゃないでしょ。」

 

「だってぇ…初対面なんだから自己紹介するのは当たり前じゃない。」

 

思わず瞳が仁美に突っ込む。その光景に亜美も一瞬今の状況を忘れて思わず吹き出す。

 

「亜美ちゃん…仁美ちゃんもね、亜美ちゃんの事を心配して助けに来てくれたんだよ。」

 

「そっか…ごめんね仁美ちゃん。初めて会うのに、いきなり危ない目にあわせたりしてさ。」

 

「気にしないでよ。私、友達を危険な目に合わせる奴は許せないからさ。亜美ちゃんだって私の友達だもの。」

 

「えっ…でも私達初対面だよ…?」

 

「あ、仁美ちゃんにとっては『友達の友達は自分にとっても友達』っていうのが座右の銘なの。変わった子でしょ?」

 

「もう…変わった娘ってどういう意味よ。」

 

仁美の言葉をフォローしながらも瞳はまたも突っ込んだ。しかし亜美は仁美に言う。

 

「変わってないよ…仁美ちゃんは強くて優しい娘だよ。私にも分かる。」

 

その言葉にはにかむ仁美の姿に、自分達の状況を忘れて5人は微笑みあった。

 

「でもどうする…?私達、どうしたらここから無事に帰れるんだろう…?」

 

遥の口にした言葉が5人を一気に現実に引き戻す。たちまち重い空気が支配する中、由衣が口を開いた。

 

「それは…一つしかない!待ち受けてる処刑人に勝つ事よ…とは言っても、そう簡単な相手が出てくる筈も無いだろうけど…」

 

「北王を半殺しにする位の奴だからね…考えたくは無いけど、5人全員まとめてボロボロにされるって事も十分にあり得るわ…」

 

かつては由衣・瞳・仁美の3人を血祭りに上げた北王。その北王を上回る敵が待ち受けているという事実は5人にじわじわと恐怖を与えていった。

 

「勝てるかな…そんな奴相手に…」

 

重い空気の中で、思わず弱音を漏らす遥に、しかし瞳が言った。

 

「分からない…でもまだ負けるとも決まってない!まだ私達には救いがある。1人ではどうしようも無いかもしれないけど、今私達は5人いる!皆で協力しあえば、もしかしたら道が開けるかもしれない…相手が想像も付かないからって、怯えてちゃダメ!」

 

「瞳ちゃん…」

 

しかし実際、その瞳も自らの体が震えている事に気付いていた。だが瞳はそれを必死に隠して皆を奮い立たせようと努めた。

 

「…そうだよね。まだ負けるって決まった訳じゃない。私達、この前の試合だって勝てたんだもん。今日だってこの前と同じ様に皆が揃ってるんだし、勝ち目はあるかもしれないよね。」

 

瞳の言葉に勇気づけられた由衣は、更に続ける。

 

「それに…今日は仁美ちゃんも、亜美ちゃんもいる。5人で協力すれば、絶対に勝てる!そう信じてみようよ!」

 

瞳、そして由衣の言葉は他の3人にも力を与えた。

 

「頑張ってみますか!こうして皆揃った事だしね!痛めつけられるって思うんじゃなくて、皆で一緒に戦えるって前向きに思えば良いんだし!」

 

遥も自分の中の恐怖心を取りあえずは乗り越える事が出来た様だ。

 

「遥ちゃんの言う通りね。皆揃って戦えるって中々無い事だもん。思いもよらぬ事になっちゃったけど、そのお陰で由衣ちゃんとの約束も果たせそうだし、また瞳ちゃんともWヒトミで戦えるし、遥ちゃんや亜美ちゃんとも一緒に戦える。一石二鳥ならぬ一石三鳥、なんてね。」

 

仁美もまた今の状況を恐れるのでは無く、前向きに捉えられる様になっていた。

そして由衣が亜美を励ましていく。

 

「ほらっ…亜美ちゃんも、いつまでも不安がってちゃ駄目!こうなった以上、一緒に頑張ろうよ!それにさ…まだ約束果たしてないんだからさ。その為にも絶対ここから生きて帰らなきゃ!」

 

「えっ…約束…?」

 

すると、由衣がムッとした表情で亜美の頬を抓った。

 

「酷〜い!約束したでしょ!今度私と勝負するって!もう忘れちゃうなんて〜!!」

 

そう言うと、由衣は更に亜美の頭をヘッドロックで締め付けていく。

 

「痛たたたたっ…由衣ちゃんごめん〜!!忘れた訳じゃないよ〜!突然言われたから思い出せなかったんだよ〜!!」

 

悲鳴を上げながら謝る亜美。そんな2人の間に瞳が割って入る。

 

「由衣ちゃんストップ!試合の前に亜美ちゃんを痛めつけてどうすんのよ〜!誰か1人でも欠けたら大きな戦力ダウンになっちゃうんだから!」

 

「…大丈夫よ。分かった?私との約束果たすまでは亜美ちゃんに何かあってもらっちゃ困るの!それに…今日はもともとこの前のお祝いをする約束だったでしょ?絶対にここから出て皆で乾杯するんだから…亜美ちゃんも居てくれないと困るんだからね!」

 

由衣の手荒ながらも自分を思ってくれる言葉に、亜美には何より嬉しかった

 

「…ありがとう由衣ちゃん。絶対にここから出なきゃね。私も…どれだけ力になれるか分からないけど、一緒に戦うよ。私達の力を、あいつらに見せ付けてやりましょう!」

 

その亜美の姿に4人は微笑んだ。かくして、決意を一つにし、まだ見ぬ巨大な敵への恐れを克服した5人の無謀かつ命懸けの戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

そしてその頃、由衣達の対戦相手となる処刑人が会場に到着し、黒服達がそれを迎えていた。

 

「ようこそ。君への生贄は既に連れて来てある。それと、もう1人奴等と一緒に戦うとほざいているバカな女がいてな。そいつも奴等の『友達』だそうだ。まとめて血祭りに上げてやるといい。」

 

「フウン…バカナヤツモイルモンダネ。マアイイサ…ソイツ二モホカノヤツラトイッショニバカナコトヲシタトコウカイサセテヤルサ。『ニセモノ』ヲタオシテイイキニナッテイルヤツラニ、『ホンモノ』ノオソロシサヲタップリキザミコンデヤルヨ…」

 

そう言うと、その処刑人は控え室へと消えていった。その姿を見ながら黒服は呟いた。

 

「命知らずの生意気な女ども…地下プロレスの真の恐ろしさを思い知るがいい…我々に生意気な口を叩いた事を存分に後悔させてやる!」

 

 

 

一方の由衣達の控え室。覚悟を決めた由衣達はそれぞれに用意されたリンコスに着替えていた。由衣と亜美、そして仁美は白のビキニに、瞳と遥は白のお揃いの白のワンピースに身を包んでいた。

 

「凄〜い!仁美ちゃんって随分胸があるのね!」

 

「きゃっ!ちょっと触らないで〜!!」

 

遥が仁美のバストを触ると、仁美が思わず声を上げる。すると瞳もまた仁美のバストを掴んで言った。

 

「当たり前よ。だって仁美ちゃんFカップあるんだもん。この身長なのに、胸だけは大きいのよね〜。」

 

「もう!瞳ちゃんまで〜!!人のオッパイをおもちゃにするなぁ〜っ!!」

 

その光景を見ながら由衣と亜美が話している。

 

「由衣ちゃん…本当にゴメンね。私の為に…危険な目に遭わせちゃって。」

 

「もう。その事は良いよ。もともと奴等の狙いは私達全員にあったんだし。それにもう皆その事を気にしてないよ。あの様子を見れば分かるでしょ。」

 

2人の視線の先には、状況を把握しているのかいないのか、相変わらず瞳達3人が仁美のバストをおもちゃにして騒いでいた。

 

「でもすごいね。北王以上の奴が相手なのに…恐れるどころかあんなに呑気に構えられるなんてさ。」

 

「それは…1人だったら恐ろしくてどうしようもなかったかもしれないけど、今日は皆がお互いに勇気をくれているんだよ。それに皆、いつまでもあいつ等が考える様に怯えてるばかりじゃないのよ。色々な事があって…それを乗り越えて強くなっているの。亜美ちゃんだってそうでしょ?」

 

「…そうだね。これまでの事があって、私は今、皆と一緒に居る。あいつ等の思う様に、ただやられて泣き叫んで晒し者になってるばかりじゃないって思い知らせてやらなきゃね!」

 

亜美の言葉に、由衣も微笑みながら頷く。とその時、控え室のドアが勢いよく開く音がした。その音に騒いでいた瞳達3人にも、由衣と亜美にも緊張が走る。

 

「全員時間だっ!準備は出来ているなっ!」

 

入ってきた黒服が威嚇するかの様に大声を上げるが、由衣達5人は怯む事無く黒服を睨み付ける。

 

「みんな準備出来てるわ。そんな大声上げなくてもいつでも行けるわよ!」

 

そんな由衣達の姿に、黒服は意外なものだった様だ。

 

「ほう…怯えているかと思っていたが…処刑される覚悟が出来たのか?」

 

「何とでも言えばいいじゃない!私達は誰一人として負けるつもりは無いわ!相手が誰であれ、絶対に勝ってやる!」

 

「威勢のいい事だ…その威勢が何処まで続くか楽しみだな。」

 

そう言って黒服は由衣達を控え室から花道へと連れて行った。

 

「この先にお前達の処刑人が待っている。命懸けで戦うがいい。お前達5人束になったところで、勝てるかどうか分からないからな。」

 

そう言い残し、黒服がその場から去っていった後、由衣が思いがけず亜美に手を差し出した。

 

「どうしたの由衣ちゃん?」

 

「亜美ちゃん…手を握ってくれる?情け無いよね。この期になってまた震えが来ちゃった…あんなでかい口叩いたのにさ。」

 

しかし亜美はそんな由衣の手をギュッと握った。

 

「亜美ちゃんの手…暖かい…」

 

「大丈夫よ由衣ちゃん。ホントは私だってまだ怖いよ。でも皆が居てくれるから私、頑張れる。皆一緒に戦ってるって事、忘れないで。」

 

「亜美ちゃん…ありがとう。亜美ちゃんの暖かさが伝わってくるよ。」

 

由衣の手を握る亜美のその手に、瞳、遥、そして仁美も自らの手を重ねる。そして亜美が由衣に言った。

 

「由衣ちゃん、しっかりしてよ。由衣ちゃんは私達5人のリーダーなんだから、リーダーがしっかりしてくれなくちゃ皆調子狂っちゃうよ。」

 

「リーダーって…亜美ちゃんの方が年上じゃない。」

 

「実力は由衣ちゃんの方が上なんだからさ。一番実力のある人がリーダーになるのは当然よ。さっ、リーダーから最後の一言!」

 

亜美にハッパをかけられ、由衣が皆に最後の一言をかける。

 

「皆…絶対に勝とうね!勝ったら…今度こそ皆で乾杯よ。」

 

「うん!!」

 

由衣の言葉に力強く頷く4人。先日のリベンジをも超える、最大の挑戦が今始まろうとしていた。

 

 

 

−「悪夢との決着・後日談(後編)」に続く−

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