遂に開幕する戦隊ヒロインタッグバトル。1回戦第1試合の開始を控え、最初に登場する2つの出場チームが準備をしていた。

 

 

「絶対に勝つ!今度こそ優勝するんだから…!」

轟音ジャーチームの1人、杉元有美は試合に向けて闘志を高めていた。戦隊出演前から幾度か地下リングに参戦し、現在は若手の中で将来を嘱望される1人になっている彼女。この様なトーナメントでも常に本命の1人に数えられるようになっていたが、過去いつもあと一歩のところで苦汁をなめる結果となっていただけに、今回のタッグバトルトーナメントにかける意気込みは大きかった。

「…すぅ…はぁ…いよいよ試合かぁ…大丈夫かなぁ…」

そしてパートナーである相沢りなは、緊張する心を落ち着けるように深呼吸していた。

「大丈夫!私だって初めてリングに上がった時はすごく緊張したんだから、それが当たり前。ここまで来たら、自分を信じなきゃ。でなきゃ、力を発揮できないよ。」

そう言って、有美はりなを励ます。彼女はその経験から、今回の参戦が決まり、初の地下リング参戦に不安がるりなに色々とアドバイスや励ましを送っていた。最初はリングに上がることに戸惑いや不安を感じていたりなも、自分を励ましてくれる有美の為にと厳しいトレーニングに励み、今日本番を迎えていた。

「ほら、スマイルスマイル!これはりなちゃんのセリフでしょ!」

緊張の色が消えないりなの頬をつねって、その緊張を和らげる有美。そうやって微笑みかける有美に、漸くりなの表情にも笑みが戻る。

「有美ちゃん…頑張ろうね!」

「もちろん!戦うからには絶対勝つよ!」

そういって控室を後にし、花道へ出た2人。一瞬足を止めると、互いの手を握りながら目を閉じて、それぞれの健闘を祈った。

 

そして、もう一方の控室。

「まさか1回戦の相手がりなちゃんと有美ちゃんとはね…でも勝負だし、そうも言ってられないか…」

真剣ジャーチームの1人、高階臨はそう呟いていた。対戦相手の轟音ジャーチームとはつい先日、戦隊シリーズ恒例の前年度の戦隊と共演するVシネマで親交ができていただけに、敵だとは分かっているものの、少し複雑な心境でもあった。そして、その傍らでは、パートナーである森多涼花が鏡に向かってファイティングポーズをとって闘志を高めていた。

「そんな気負いしないの。すうちゃんの力は誰より私がよく知ってるんだから。」

今回の参加選手16名の中で最年少の涼花。その表情には初めて上がる地下リングへの不安が浮かんでいるにもかかわらず、それを必死に打ち消そうとしている涼花の姿が、臨は何かいじらしく思えてならなかった。

「臨ちゃん…でもりなちゃんも有美ちゃんもうちよりずっと大きいし、それに有美ちゃんは経験者やし…臨ちゃんに迷惑かけんようにうちが頑張らんと…」

そう不安を述べる涼花の頭を、臨はそっと抱き寄せる。

「心配しない。私はすうちゃんと一緒に戦えるだけで心強いんだから。不安に思っちゃダメ。勝てるものも勝てなくなっちゃうよ。」

そう言って頭を撫でる臨に、涼花の表情にもやっと笑みが浮かんだ。

「臨ちゃん…うん。うち、負けへん。絶対に勝とうな!」

「よし、その意気!じゃあ行くよ!」

そして臨と涼花も花道へと歩みを進めた。

 

 

『戦隊ヒロインタッグバトル、第1試合、選手入場!』

 

 

既に大興奮に包まれる会場の中に、2チームが入場する。まずは轟音ジャーチームがリングインし、続いて真剣ジャーチームがリングインする。

『戦隊ヒロインタッグバトル1回戦第1試合、赤コーナー、轟音ジャーチーム、今夜はG2プリンセス!相沢〜りな〜!!杉元〜有美〜!!』

そのコールを受けて、りなと有美は観客に向かって手を振ってアピールしていく。

『青コーナー、真剣ジャーチーム、真剣ヒロインズ参る!高階〜臨〜!!森多〜涼花〜!!』

観客に向かって一礼していく臨と涼花。そして両チームがリング中央でボディチェックをうける。りなと涼花はイエロー、臨はピンク、そして有美はシルバーと、各々が演じたカラーと同じ色のビキニを纏う4人は、お互いに握手を交わす。

「今日は手加減なしだからね!容赦しないから、覚悟してよ!」

「こっちこそ、私達2人の力を見せてあげる!きっちりとケリをつけてあげるわよ!」

言い合う有美と臨の姿に、隣のりなと涼花も表情を厳しくする。そして両チームがコーナーへ戻り、各々先発を務めるりなと涼花がコーナーに立った。りなの肩を有美が勇気づけるように軽く叩き、振り返る涼花を見て臨が頷いた。そしてりなと涼花はコーナーからお互いに視線をぶつけ合う。

『カァァァァン!!』

ゴングが打ち鳴らされると、りなと涼花はコーナーから飛び出して中央で睨みあう。その身長差を生かし、りなは蹴りを繰り出してけん制しようとする。

「いくわよっ!」

りなのローキックが涼花の足を捉えていく。表情をこわばらせる涼花だが、持ち直しガードしながら近づいていく。そして涼花が走りこんでのエルボースマッシュを見舞うと、一瞬りなの動きが止まる。

「くっ…」

怯んだりなの隙をつき、涼花がその身に組みつく。

「ええいっ!」

気合とともに、涼花がりなの足を払ってマットに倒す。涼花が得意とする柔道技の大内刈りが決まり、その攻撃に会場が盛り上がる。そして涼花は、ダウンしたりなの首元にギロチンドロップを叩き込むと、その腕を取って腕ひしぎ逆十字を極めようとする。しかしりなも伸ばされまいと必死に抵抗し、足をロープへと絡めた。

「ブレイクっ!」

レフリーによって引き離されると、立ち上がってにらみ合う展開になるりなと涼花。するとりなが涼花の脚目掛けて素早くタックルを仕掛けていくと、テイクダウンを奪う。ポジションを取ろうとするりなだが、柔道の心得のある涼花が逆にりなを捉え、得意技の一つである袈裟固めに持ち込んだ。

(ググっ…)

締め上げられて苦しむりな。ギブアップを奪おうと揺さぶりをかける涼花だが、りながジタバタして再びロープに足を引っ掛けた。何とかブレイクに持ち込んだりなは、迂闊に組み合うのは危険と感じ、距離を置こうと慎重になる。しかし近づいてくる涼花に、意を決したりなの至近距離からのドロップキックが突き刺さった。りなの両足が涼花のバストを捉えると、その威力にコーナーにもたれかかる涼花。

「きゃああっ…」

その涼花目がけて走りこんでいくと、飛び上がってそのバストをサマーソルトキックの様に蹴り、後方へ宙返りを決めて着地するりな。そのアクロバティックな攻めに会場が沸きあがる。続け様のバストへの攻撃でコーナーにもたれてダウンする涼花のボディにりながストンピングを見舞っていくと、涼花が身を回転させて距離を置き、立ち上がってコーナーへ戻って臨とタッチする。

「臨ちゃん、お願い!」

OK!任せなさい!」

涼花に笑顔で応える臨。すると、それを見た有美もタッチを求めてりなと入れ替わった。

「なかなかいい感じよ!今度は私の番ね!」

「有美ちゃん、頑張って!」

そしてリング中央で有美と臨が鋭い視線をぶつけながら睨み合う展開となると、観客も興奮して盛り上がる。

(バシィィィィン…)

静寂を破るかのように、有美が強烈な平手打ちを臨の頬に見舞っていく。上体を揺らして頬を抑える臨であったが、有美を睨みつけながらお返しとばかりに平手打ちを返していく。

(バッシィィィィン…)

すると今度は有美が往復ビンタの様に2度張っていくと、早くも臨の口には血が滲み始める。まさに女の戦いの様な展開に観客が盛り上がる中、血を拭う臨が有美のビンタをかわすと、カウンター気味の裏拳を顔面に叩きこんだ。

(バキッ…)

これには有美が後退していくと、臨がタックルのように組みついて有美をロープに押し込んだまま、有美のボディを痛めつけようとショルダータックルを連発する臨。しかし有美も臨を引き離そうと膝蹴りを連発していく。しかしそれに構わず、正面から有美のボディを捉えた臨はフロントスープレックスで有美をマットに叩きつけた。

「ぐはっ…」

悲鳴を上げながら叩きつけられる有美。そのサイドポジションを取った臨は更に攻め込もうとするが、有美がうまくロープに足を絡ませると、レフリーが二人を引き離していく。

「ブレイクっ!」

引き離されて立ち上がった2人はまたも睨みあう展開となるが、有美が挑発するように手を伸ばしていくと、臨も応戦するように組合っていき、力比べの如き押し合いになっていく。しかしここで有美が力を抜いた為、バランスを崩した臨の体を有美が抱えあげると、水車落としのように後方へ叩きつけた。

「んああっ…」

背中への衝撃に苦悶の声を挙げる臨。その臨の顔を踏みつけてアピールしていく有美は、ストンピングで更に痛めつけようとするが、臨も下から有美の足を水面蹴りで払ってダウンを奪い返す。倒れた有美の足を取ると、アキレス腱固めに持ち込む臨。

「あぁぁっ…痛いぃぃぃぃ…」

「ギブするなら離してあげる!あんまり意地張らない方がいいわよ!」

悲鳴を上げながらも冷静にヒールキックで反撃する有美だが、臨も意外な力で極めていく。しかしここでりなが臨にニードロップを仕掛けてカットに入った。堪らず技を解いてしまう臨に、立ち上がった有美がりなと共にストンピングで攻め立てる。だが今度は涼花もリングインすると、りなをタックルでふっ飛ばし、有美にもドロップキックを見舞って吹っ飛ばすと、臨とタッチしていく。

「有美ちゃん!私がいく!」

そういうと、有美と代わって再び涼花と向き合うりな。すると今度は臨の気合に触発されたのか、涼花が気勢を上げて喧嘩キックをりなの鳩尾に見舞った。

「ぐふっ…」

これにはりなが体をくの字にして苦しんでいくと、更に涼花のエルボーがりなの顔を抉る。しかしこの顔面への一撃に怒ったのか、涼花の髪を掴むとフェイスクラッシャーで涼花の顔面をマットに叩きつけた。

「きゃあぁぁぁぁっ…」

悲鳴を上げてのたうちまわる涼花の背中にヒップドロップを落とすりなは、そのまま座り込んでキャメルクラッチを仕掛けていく。

「あふっ…ううっ…」

Cの字に折り曲がる涼花の体。揺さぶりをかけてギブアップを迫るりなだが、涼花も首を振って必死に拒んでいく。更に揺さぶりをかけようとするりなは、何と涼花の鼻に指を突っ込んで豚鼻状態にして晒していくと、屈辱を与えてギブアップを煽っていく。だが今度は臨がコーナーからカットに飛び出し、りなの顔目がけて強烈なハイキックを放ってダウンさせた。

「痛いぃぃぃぃ…」

技を解かれた涼花がグッタリとする中、今度はりなが顔面を抑えてのたうち回る展開になる。臨は更にりなのボディにサッカーボールキックを入れて黙らせると、顔面を踏みつける様にストンピングを連発するが、有美も飛び出すと臨にエルボーを見舞い、りなから引き離していく。

「何するのよ!女の子の顔面を蹴るなんて!」

「言えた義理!?すうちゃんの顔ばっかり攻めてたのはそっちでしょ!」

激しく言い合う2人。掴み合いになるかと思われたが、臨が有美のお腹に前蹴りを見舞い、フラ付く隙にロープへ追い込むと、至近距離から有美のバストを殴りつけていく。シルバーのビキニに包まれた形の良いバストが変形していくと、有美が苦悶の声を上げる。

「ああん…痛いぃぃぃ…」

そして臨は有美のバストをバストクローで鷲掴みにすると、握りつぶす様に力を込めていった。

「いやっ…!」

「結構いい形してるのね…しばらくグラビアできないように潰してあげよっか?」

鷲掴みにされて悲鳴を上げる有美。しかしバストを攻められた怒りに、臨の股間目がけて前蹴りを放つと、今度は臨が後退する。

「ふぐうっ…」

「胸ばっかり攻撃して…お返しよ!」

一瞬怯んだ臨の腕を掴んでロープへと振る有美、しかしロープの反動を使い、臨が反撃のラリアットを狙う。

「甘い!」

しかし有美はその臨の腕を取ると、脇固めで切り返す。悲鳴を上げて座り込む臨の腕を極めてダメージを与える有美。顔が苦痛で歪み、マットに膝をついてしまう臨の背後から腰に手を回すと、有美は一気にバックドロップで臨を頭からマットに叩きつけていった。

「ぐふっ…」

脳天から叩きつけられてグッタリする臨。しかし有美は臨の髪を掴んで無理やり立たせ、フラ付く臨をもう一度バックドロップの体制に持ち込もうとする。だがその背後から復活した涼花が有美の股間を蹴りあげた。涼花の爪先が有美の股間にめり込む。

「ふぐっ…」

これには堪らず股間を抑えてフラ付く有美。その隙に涼花が有美の体を背後から捉えた。

「臨ちゃん、行くよ!」

その涼花の呼びかけに、フラ付きながらも立ち上がった臨が前方からから有美を捉える。涼花がバックドロップを仕掛けるのと同時に、臨が有美の足を払ってマットに叩きつけると、受け身を取れぬまま脳天から叩きつけられてしまった有美はマットに大の字になった。

「すうちゃん…大丈夫!?」

しかし有美共々払われてしまった涼花も少なからずダメージを受けてしまいマットにグッタリとしてしまう。横たわる涼花を助けようとする臨だが、そこに飛びかかってきたりなのシャイニング・ウィザードが炸裂する。

「んあぁぁぁぁっ…」

顔面への膝の一撃に、鼻血を吹きだしてダウンする臨。そしてりなは続け様にグッタリする涼花にギロチンドロップを仕掛けて攻め立てる。

「よくも有美ちゃんを!」

有美をやられた怒りとばかりに、涼花の髪を掴んで立たせると、その頬に振りかぶっての平手打ちを見舞う。

(バッシィィィィン…)

強烈な音とともに、涼花の悲鳴が小さく響く。更に今度はパンチを放つりな。しかし涼花は逆にそのりなの腕をキャッチした。

「さっきのお返しやっ!」

そう叫ぶと、りなの体を一本背負いでマットに叩きつける涼花。背中から叩きつけられたりなは一瞬呼吸の止まるような衝撃に襲われて大の字になる。涼花の見事な柔道技に会場が沸きあがっていった。そして涼花はダウンする臨のもとへ駆け寄った。

「臨ちゃん、大丈夫!?」

駆け寄った涼花の助けで臨もどうにか起きあがっていく。しかしダウンしていた有美とりなもフラ付きながらも立ち上がってきた。睨み合いになる2組。すると今度は有美が涼花に対して来いとばかりに挑発する。それを臨が制そうとするが、涼花は受けてやるとばかりに臨の前に立つ。

「すうちゃん!」

10cm以上も身長差がある有美の相手は涼花にはキツイと考えた臨は止めようとするが、涼花は自分を信じてほしいとの視線で臨を見た。

「臨ちゃん、うちかて売られたケンカは買うよ。返り討ちにしたる!」

そのおっとりした外見からは想像もつかぬ言葉を放つ涼花に観客が盛り上がる。その言葉を信じ、臨はコーナーへ下がることにした。そして有美もりなを一旦コーナーに下げる。

「りなちゃん…ここは私に任せて。あんだけ言われて、負けるわけにいかないからね!」

柔道技を巧みに駆使する涼花に対し、有美は内心では警戒心を抱いていた。そしてリング上には有美と涼花が残る形になった。体格差の大きい両者であるが、涼花は全く怯むことなく有美を鋭い視線で睨みつける。

「ファイトっ!」

レフリーが試合を再開すると、果敢にも涼花が有美に対してローキックで足を攻めていく。何とか隙を作って有美の懐に入ろうとする涼花。その涼花のミドルキックが有美の脇腹を捉えると、有美が苦悶の表情を浮かべるのを涼花は見逃さなかった。有美に組みついていく涼花。しかしそれを見た有美がニヤッとする。

「さっきのお礼よ!あなたの得意な組み技で勝負してあげるわ!」

飛び込んできた涼花の頭をフロントスリーパーで捉えた有美は、そのまま涼花の頭をDDTでマットに叩きつける。

「んあっ…」

脳天から突っ込んでしまいグッタリとする涼花。堪らず臨が助けに入ろうとするが、りながコーナーポストからのミサイルキックで臨を吹っ飛ばす。りながストンピングの連打で攻め込むと、ダメージが残る臨は防戦一方となってしまう。そして有美はグッタリする涼花の頭を踏みつけて屈辱を与えてからその髪を掴んで立たせると、抱え上げてボディスラムで叩きつけていった。苦悶の声を上げる涼花の姿に、りなの攻めを受けていた臨は転がって場外へとその身を隠した。

「トドメを刺してあげるわよ…覚悟するのね!」

そういうと有美は、涼花を逆さ吊りにするようにパイルドライバーの体制に持っていく。自分の状況に気がついた涼花は何とか逃れようとジタバタしていくが、有美は涼花の体をガッチリと捉えてマットに狙いを定めていく。しかしその時、リング下に逃れていた臨が気勢を上げてリング内に戻ってきた。

「すうちゃんを離せぇぇぇぇぇ………!!」

驚いたりなが臨を止めようとするが、その瞬間りなは鳩尾への衝撃に襲われる。何と臨は竹刀を手にしてりなの鳩尾を払ったのだ。その刹那、りなは嘔吐感に襲われ口を押さえてダウンする。そしてりなを蹴散らした臨は続け様に涼花を捉えているために無防備な有美の脳天に、竹刀での強烈な一撃を叩き込んだ。

「きゃあぁぁぁぁっ…!!」

脳天への衝撃に悲鳴を上げる有美。その腕から力が抜け、辛うじて難を逃れた涼花がマットに解放されると、臨は涼花に駆け寄る。

「すうちゃん、すうちゃん!もう…無茶するんだから…」

「う…臨ちゃん…助けてくれたんやな…」

涼花の様子にホッとする臨。その臨の手を借りて立ち上がる涼花だが、その背後から復活したりながドロップキックを見舞い、臨ごと涼花を吹っ飛ばす。そしてりなが有美のもとへ駆け寄ると、有美も竹刀を受けた頭を押さえながら立ち上がる。

「やってくれたじゃない…あなたとはきっちりケリをつけなきゃいけないようね!」

そう言って臨に怒りの視線を向ける有美。臨も有美と決着をつける覚悟を決めたのか、涼花を制して立つ。

「すうちゃん…こっちは任せて。その代わり、りなちゃんの方は任せたからね!」

「…分かった!」

そして涼花はりなと向かい合い、有美と臨、りなと涼花、各々の相手と相対する。リングに張りつめた空気が漂う中、とても戦隊ヒロインをやっていた者とは思えぬ目つきで睨みあう有美と臨。すると臨が叫び声を上げ、思いっきり振りかぶっての平手打ちを見舞う。一発で有美の頬が赤くなる程強烈な音が響くが、有美も負けずに臨の頬に強烈な平手を張り返していく。

(バシィィィィン…バシィィィィン…)

互いが意地になって張り手合戦になり、遂にはお互いの口から血飛沫まで吐き散らす2人。その2人を各々案じつつ、りなと涼花も互いに挑みかかる。

「勝負や!今度こそ決着をつけたる!」

「臨むところよ!こっちこそ…返り討ちにしてあげる!」

言い合う2人に、試合前に見せていた緊張や不安の影はもはや全くなかった。りなの前蹴りが涼花のお腹を捉えるが、涼花も負けじとミドルキックを見舞い返す。そして続け様にりなの顔めがけてハイキックを狙うが、りながその蹴り足を捉えてドラゴンスクリューでひねり倒していった。

「んあぁぁぁぁっ…」

悲鳴を上げ、足を押さえて倒れこむ涼花。その足を取って、りなが4の字固めを仕掛けていく。痛めた足を更に攻められ悲鳴を上げる涼花。その姿に臨の注意がそれに注がれてしまう。

「よそ見してる暇はないわよ!」

その隙に有美の強烈なキックが臨の鳩尾に炸裂する。

「ぐふっ…」

強烈な一撃に思わず体制を崩してしまう臨に、狙い澄ましたようにサッカーボールキックを放つ有美。その蹴り足が顔面を捉え、堪らず臨が血飛沫を上げて大の字になっていく。

「臨ちゃん…!!」

ダウンした臨の姿に闘志を燃え上がらせる涼花。何とか技を解こうと、痛みに耐えながら体を反転させると、今度はりなが悲鳴を上げていく。

「痛い痛い痛い!!」

思わず技を解いてしまうりな。足のダメージをこらえながらも立ち上がる涼花は、りなのお腹にニードロップを落とすと、口を覆って嘔吐感に苦しむりな。そのりなの髪を掴んで立たせると、ナックルパートのようにパンチを打ち込んでいく涼花。

「りなちゃん!」

劣勢のりなの姿に、有美が加勢しようとするが、ダウンしていた臨がタックルを仕掛けて有美の行く手を阻む。何とか臨を蹴散らそうとして膝蹴りを見舞う有美だが、臨も持てる力で有美をロープへ押し込んでいく。

「くっ…このっ…離せっ…」

「行かせない…絶対にすうちゃんの邪魔はさせないわよ!」

臨の意外な抵抗に有美の焦りが募る。

(りなちゃん…!くそっ…こんなところで負けてたまるか!絶対に優勝するんだ!)

今回のヒロインバトルに強い決意を秘めて臨んだ有美は、一回戦から意外な苦戦を強いられる自分に苛立ちを感じていたのと同時に、臨と涼花の意外な強さに動揺を隠せなかった。これまで幾度となく栄冠に近づきつつも常にあと一歩のところでそれに届かぬという結果が続いた事による、実力を感じさせる反面、詰めが甘い為にタイトルとは無縁、という屈辱的な評価を今度こそ覆してやるという強い決意が有美の心の中にはあった。その決意と、作品の代表および経験者としての意地、そしてデビュー戦であるりなを支えなければならないという経験者としての責任感が彼女の闘志を燃え上がらせる。密着しながらも、勢いをつけての膝蹴りを臨の顔に、ボディに見舞っていく有美。

「ぐぼっ…ぐはっ…」

その有美の体格から放たれる強烈な膝蹴りの連打が全身に突き刺さり、臨は血反吐を吐きながら苦しむ。

(すうちゃん…頑張って!ここは絶対に抑える!すうちゃんの力を信じるよ!)

臨にとって、4つ下の涼花は可愛らしい妹の様な存在であり、現場においては、そんな涼花に対してずっと姉の様に接し続けていた。何事に対しても常にひたむきな涼花の姿を、臨はいつも微笑ましく思っていた。しかしヒロインバトルへの参戦が決まり、2人で練習を始めた時、臨は涼花の頑張りに驚きを隠せなかった。厳しい練習にも決して涙を見せたり弱音を吐いたりすることはなかった涼花。足を引っ張るようなことはしたくない、そう思えばどんなに辛くても耐えられる、2人なら何があったって頑張れるから。そう言っていつも笑顔だった涼花の思いに臨は応えたかった。ここで自分が沈むわけにはいかない、自分が盾となって涼花の力を発揮させる!その思いが臨を奮い立たせていた。

(臨ちゃん…そうやな!うちら絶対勝つんやもんな!)

その臨の想いは涼花にも確かに伝わっていた。お互い現場においては殆どが初めてのことばかりで戸惑うことも多かったが、そんな時にいつも涼花を支えてくれた臨は、涼花にとってもいつしか姉の様な存在になっていた。今回のヒロインバトルの話が来た時、お互いに初めての地下リング参戦ということで不安を隠せなかった。そんな状況でも、涼花が厳しい練習に耐え、前向きになることができたのは、いつも臨が傍らにいて励ましてくれているからだった。本当は不安で一杯の筈なのに、自身は決してそれを見せようとせず常に自分のことを想ってくれていた臨の気持ちが、涼花にとっては何よりの励みとなっていたのだ。その臨の捨て身の頑張りが、涼花の闘志を燃え上がらせていた。

「負けへん!最後に勝つんはうちらや!」

パンチを連続で打ち込まれ、フラ付くりなの体を捉えて引き寄せると、自分自身に喝を入れる様に叫ぶ涼花。そしてりなの首に回した手を固定したまま、STOでりなをマットに叩きつけた。

「ぐはっ…」

受け身を取れないまま、りなは後頭部を勢いよくマットに叩きつけられてしまった。

「りなちゃん!!」

有美の叫びにもピクリともしないりな。助けようにも臨が口から血を垂らしながらもしっかりと抑えつけているためにままならない。蹲るりなの体を涼花が抑える。

『ワン…ツー…ス…』

しかしギリギリのところでりなは返していった。驚く有美と臨、そして涼花。朦朧としながらも、りなの意識はまだ無くなってはいなかった。

(負けない…有美ちゃんの為にも、ここで私がやられる訳にいかないんだ!)

りなにもまた、自らの意地とパートナーの有美に対する思いがあった。最初にヒロインバトルへの参戦を聞かされた時、彼女は噂に聞いていた過酷な地下リングへの不安に心を支配されてしまっていた。しかし、その不安を打ち払わせたのは、パートナーである有美の決意だった。このトーナメントに賭ける有美の決意は、参戦が決まった時に再会した彼女から聞かされていた。絶対に優勝したいとの有美の強い決意に心を打たれたりなは、その為にパートナーとして少しでも自分が有美の力にならなければいけないと思い、細い体に鞭打つ様に必死に練習を重ねた。ずっと苦労を共にしてきた有美の為に!その思いが今にも飛びそうなりなの意識を繋ぎ止めていた。

「くそっ…今度こそ!」

返されて悔しがる涼花と、わずかな意識で立ち上がろうとするりな。そして互いにそのパートナーの為に激突する臨と有美。4人それぞれの思いがリング上で交錯する中、試合はクライマックスを迎えようとしていた。

「くらえっ!」

立ち上がろうとするりなの頭を掴んで、フェイスクラッシャーで叩きつける涼花。小さく悲鳴を上げてりながマットにうつぶせに倒れる。そして涼花はそのりなの体を逆さ吊りに捉え、パイルドライバーの体制に持ち込んだ。

「りなちゃん!」

決められれば今度こそ終わりと感じた有美は、持てる力で臨を弾き飛ばし、りなを救出しようとする。しかし投げ捨てられた臨も今度はその背後から有美の体を捉えて行かせまいとする。パートナーの有美が動けず、もはやりなの負けは決定的と観客の誰もが感じていた。

「これで決めたる!」

その涼花の叫びとともに、頭がマットに突き刺さるかと思われた瞬間、虚ろだったりなの目が見開かれ、その足が涼花の頭を挟みこんだ。

(えっ…!?)

そのことに動揺した涼花の一瞬の隙に、りなは自分の頭を振り子の錘のようにして後方に倒れこみ、その勢いで涼花の体を前方へと転がし、涼花の股の間に潜り込むと、涼花の両足を取ったままりなはそのまま涼花の上に座り込んだ。

(嘘っ…!?)

これには有美と臨はおろか、観客にも驚きが走る。りなが繰り出したこの技は、ウラカン・ラナ・インベルティダと呼ばれるルチャリブレの技で、別名高角度後方回転エビ固めであった。窮地に立たされたりなは、火事場の底力の如く、殆ど無意識のうちにこの技を繰り出していたが、涼花の上を取ったことに気がつくと、残されたすべての力で押さえにかかった。

(しまった…!)

一気にフォールに持ち込まれ焦る涼花だが、その時には既に手遅れだった。

『ワン…ツー…スリィィィィィ…カンカンカンカン…』

会場にゴングが打ち鳴らされていく。一瞬の大逆転ともいえるこの幕切れに、一瞬静まり返った会場も大歓声に包まれていく。予想だにしない結果に呆気にとられ、臨と有美はマットに座り込む。そして涼花は茫然自失でマットに大の字になり、りなは全ての力を使い果たしたようにマットに横たわった。少しの間、4人ともその結末を理解することが出来ずにいた。

『勝者、轟音ジャーチーム!これにより轟音ジャーチームは第5試合において第2試合の勝利チームと戦うことになります!』

そのアナウンスに、真っ先に状況を把握した有美が力を使い果たして動けないりなの下に駆け寄って呼びかける。

「やった…やったねりなちゃん!勝ったのよ!」

「う…有美ちゃん…私達…勝ったの…?」

「そうよ!やったよ!大逆転よ!凄いよりなちゃん!」

「そっか…よかった…勝てたんだ…」

そういってまたグッタリとするりなを、有美は抱きしめていった。一方、敗北を悟った涼花の目には知らぬ間に涙が浮かび始め、顔を手で覆ったまま嗚咽を上げて泣いていた。そんな涼花の下に臨が歩み寄るが、涼花には臨に会わせる顔がなかった。

「臨ちゃん…ゴメン…ゴメンな…うち…返されへんかった…絶対に勝つ言うたのに…」

そう謝りながら泣きじゃくる涼花のことを、臨は後ろから優しく抱きしめた。

「すうちゃん…何も言わなくていいよ…すうちゃんは十分頑張ったじゃない。私こそ…助けてあげられなくてゴメンね…」

自分の目にもうっすらと浮かんでいた涙を拭いつつ、臨は涼花に言った。

「ほら、りなちゃんと有美ちゃんのとこへ行こう。」

そして2組が向き合うと、どちらからともなく笑みがこぼれる。まるで先ほどまでの激しい戦いが嘘の様に思えた。

「りなちゃん、有美ちゃん…おめでとう。次の試合も頑張ってね。2人が優勝してくれたら、戦った私達も自慢になるんだから。」

その臨の言葉に、りなと有美も笑顔で頷く。そして涼花も涙を拭きながら言った。

「…ありがとう。負けてしもうたけど、すんごくいい試合やった。2人と戦えたこと、誇りに思うな。」

そういって涙をぬぐう涼花の頬を、りながつねった。

「スマイルスマイル。すうちゃんに泣き顔は似合わないよ。」

その言葉に、やっと笑みを浮かべる涼花をりなが抱き寄せると、涼花もりなに抱きついた。

「すうちゃん…私、頑張るよ。すうちゃんや臨ちゃんの分まで精一杯戦うから。」

「うん…頑張ってなりなちゃん。私達2人で応援してるわ。」

抱き合う2人を見ながら、有美が臨に言った。

「臨ちゃんのビンタ、すっごく効いたな。あ、でもバストクローはもっと効いた。臨ちゃんって、意外とテクニシャン?」

茶目っ気を含んだような言い方をする有美に、臨は少し顔を赤らめながら謝った。

「ゴメンね…胸攻撃したりして。しかしさすが経験者ね。有美ちゃんの打撃、メチャクチャ強烈だった。耐えるのしんどかったんだから。でも…有美ちゃんと戦えて良かった。」

そういって臨が有美に手を差し出すと、有美もその手を握り返す。

「臨ちゃん…2人の頑張り、無駄にしない。私達絶対優勝するから。」

その有美の言葉に笑顔で頷きながら、頑張れとエールを送る臨。第1試合から両チームの意地がぶつかり合う激闘、そして意外な結末となったが、それは更に続く戦いの幕開けに過ぎなかった。各々のチームの意地をかけた戦隊ヒロインタッグバトルは、今まさにその幕を開けたのであった。

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