【特別試合 マリリン荻原:プロレス】

 <地下闘技場>。
 日本でも指折りの権力を持つ「御前」と呼ばれる男が主催する、強く美しい女性をリングで嬲るための舞台。
 その<地下闘技場>に、また新たな犠牲者が招かれた。

 犠牲者の名は「マリリン荻原」。本名マリア・オギワラ・スチュアート。21歳。身長169cm、B90(Eカップ)・W63・H90。米国人プロレスラーの父と日本人モデルの母を持つハーフ。父の血か、17歳のときにアメリカンプロレス団体AWEで、デビュー二ヶ月にして女子チャンピオンとなった経歴を持つ天才プロレスラー。艶やかな黒髪を長く伸ばし、母譲りの輝くような美貌と華のあるファイトでファンを惹きつける。しかし父と母が相次いで亡くなり、マリリンは主戦場を日本へと移した。
 現在はジパングプロレスに(騙されて)所属し、男性選手と闘わされる日々。実力では男性選手を遥かに凌駕するものの、物量作戦に押し潰されることも多く、試合の度にセクハラを受け続けている。
 その噂を聞きつけた「御前」がジパングプロレスの会長と社長である火野親子に話をつけ、マリリンを<地下闘技場>に参戦させた。強さと美しさを兼ね備えたマリリンをリングの上で嬲り尽くすために。

(会社の命令だから遠征に来たのに・・・こんな衣装を着ることになるなんて)
 試合前の控え室、マリリンは早くも後悔していた。

 控え室に通されたマリリンだったが、控え室にはなぜか振袖が用意されていた。美しい柄に見とれているマリリンに女性の黒服が生地の説明からしてくれたが、その方面には疎いマリリンには半分も意味がわからなかった。
「折角だから、ちょっと着てみませんか?」
と言われ、興味をそそられていたマリリンは喜んで承諾し、女性黒服の着付けで振袖を身に着け、髪もアップにしてもらった。
「では、着て来られた私服はクリーニングしておきます。帰りには渡せると思いますので」
「え? ちょっと、あの」
 気づいたときには、女性黒服がマリリンの私服を持って控え室を出ていた。
「まさか今日のコスチュームって・・・これ!?」
 鏡に写った自分の姿に呆然となるマリリン。ピンクを基調とした振袖には花や鳥が描かれており、洗練された意匠と着心地の良さが高価なものであることを想像させる。視線を上に上げると普段は下ろしている髪がアップにされ、うなじが露わになっているのがなんとなく気恥ずかしい。足元にはリングシューズではなく、足袋と歯の無い女性用の下駄。軽くウォーミングアップを行ってみるが、動きづらいことこの上ない。
「これなら、まだいつもの水着の方がよかったかも・・・」
 マリリンはため息を一つついた後、椅子に腰掛け入場の呼び出しを待った。

 花道に姿を現したマリリンに、スポットライトが当てられる。浮かび上がった振袖の艶姿に、観客から感嘆の声が洩れる。マリリンは慣れない振袖のために小股でしか歩くことができず、それが逆に楚々とした風情を醸し出す。
 リングに入るときも苦労してロープを跨ぎ、対戦相手に向かい合う。
(やっぱり男の人が相手、か)
 半ば予想はしていたが、マリリンの対戦相手はやはり男性選手だった。そんな予想が当たっても嬉しい筈も無く、視線にも険が混じる。

「あれがマリリン荻原か・・・さすがに雰囲気を持ってるな」
 リングに立ったマリリンに、レフェリーも気圧されるものを感じる。
<地下闘技場>に、過去本物の女子プロレスラーがあがったことはない。過去にプロレスを格闘スタイルとするピュアフォックスが上がったことはあるが、あくまでも高校生で、しかもプロレス同好会の一員に過ぎない。本職のレスラーであり、アメリカでチャンピオンにまで登りつめたマリリンが放つオーラに会場の観客達も惹き込まれる。

「赤コーナー、マンハッタンブラザーズ1号!」
 マンハッタンブラザーズ1号は中肉中背の体格にマスク、タイツ、リングシューズを身に着け、両手を軽く上げてコールに応える。その隣には、まったく同じ格好をした選手が立っている。彼はマンハッタンブラザーズ2号で、<地下闘技場>ではお馴染みのマンハッタンブラザーズの二人だった。
「ジパングプロレスの美しき闘いの女神が、<地下闘技場>に降臨! 青コーナー、マリリン荻原!」
 マリリンがリングコールに応えて右手を高々と掲げる。ただそれだけの行為にも華があり、観客から声援が飛ぶ。
(・・・ちょっと、なによ今の!)
 否、声援ではなかった。卑猥な野次、嘲りの含まれた掛け声、マンハッタンブラザーズ1号への責め方の要求などだった。ジパングプロレスでも野次は飛ばされたが、ここまで露骨なものではなかった。怒りに、マリリンの柳眉が逆立つ。
(見てなさい、貴方達の思い通りには行かないんだから!)

 マンハッタンブラザーズ1号のボディチェックを終えたレフェリーが、下駄を脱いで足袋となったマリリンの前に立つ。
「マリリン選手、ボディチェックだ」
 にやけた笑みを浮かべたレフェリーは、年齢こそ違うものの、ジパングプロレスのエロレフェリー達と同じ臭いがする。しかしレスラーである以上ボディチェックを拒むことはできず、マリリンはきつい視線で睨みながらもボディチェックを受け入れる。
「なんだ、意外と素直なんだな。じゃあ終わるまでじっとしてろよ」
 レフェリーはいきなりバストの辺りを押さえてくるが、振袖の上からでは余り感触が感じられない。それはレフェリーも同じようで、眉間に皺を寄せてバストを触っている。
「もうそこはいいでしょう? 早く終わってください」
 マリリンの口調に抗い辛いものを感じ、レフェリーは渋々バストから手を放す。次にしゃがみ込んだかと思うと、いきなり振袖の裾を捲る。
「なにしてるのっ!」
 反射的に膝が出ていた。その一撃はレフェリーの顎を捕らえ、リングへと打ち倒す。
「っつぅ・・・貴様、レフェリーに手を上げてただで済むと思うなよ!」
 顎を押さえながら立ち上がったレフェリーは、試合開始のゴングを要請する。

<カーン!>

(いきなりなんてことするのかしら、あのレフェリー! でも、さすがに試合中は手を出してこないでしょ)
 試合が始まったことでスイッチを切り替え、マンハッタンブラザーズ1号と向かい合うマリリン。しかし体を締めつけられているようで、やはり振袖では動き辛い。
(でも、まさか脱ぐ訳にもいかないし・・・)
 動き辛いなら動ける範囲で闘うまでだ。細かいフットワークでマンハッタンブラザーズ1号の出方を窺う。
ジパングプロレスでは毎回男性選手と闘わされている。マリリンは技のタイミング、切れ味、テクニック、センスなどは一級品だが、パワーだけは普通の女性より少し強いくらいだった。そのため、男性選手と真正面からぶつかってはパワー負けしてしまうことを文字通り肌で学んできた。隙を突き、カウンターで仕留める!
(来たっ!)
 マンハッタンブラザーズ1号のタックルを寸前でかわしてサイドを取り、突進の勢いを利用してサイドスープレックスで投げ捨てる。綺麗な弧を描いた美しいサイドスープレックスに、観客から驚きの声が上がる。マンハッタンブラザーズ1号は背中を押さえながらリングを転がり、リング下へと姿を消す。対戦相手がリング下へ逃れたことでマリリンの気持ちが緩んだその瞬間、後ろから襲い掛かる者があった。
「!?」
 虚を衝かれたマリリンは腹這いで倒されるが、ふくらはぎを露わにしながらも相手を蹴飛ばし、前転して距離を取る。立ち上がり向かい合った相手は、リング下に逃れた筈のマンハッタンブラザーズ1号だった。
(いいえ、そんな筈ないわ。時間的にも不可能よ・・・まさか!)
 考えられるのは、1号の横にいた男。マンハッタンブラザーズ2号だろう。
「レフェリー、この人はマンハッタンブラザーズ1号じゃないでしょう? 反則よ!」
 マリリンの真っ当な抗議も、レフェリーには通じなかった。
「何を言ってるんだ? どう見てもマンハッタンブラザーズ1号じゃないか。くだらないことを言ってないで、ファイト!」
 レフェリーの含み笑いが、わかった上でとぼけていることの証だった。
(そういうこと・・・なら、簡単には回復できないダメージを与えて決めるわ!)
 マリリンの表情が怒りに燃え、凛とした雰囲気を纏う。手四つに誘ってくる2号に応じる振りをして胴タックルを決め、そのままノーザンライトスープレックスへと繋ぐ。綺麗な曲線を描いたブリッジでそのままフォールするマリリン。しかし、中々カウントが始まらない。
「レフェリー、カウント!」
 マリリンが声を掛けると、やっとレフェリーが腹這いになり、カウントを始める。
「ワーン・・・ツーゥ・・・」
 しかし、呆れる程の遅さだった。
「なんでそんなにゆっくりなの・・・あっ!」
 そのとき1号がリングへと上がり、振袖の裾を広げる。太ももの付け根近くまでが露わになってしまい、慌ててフォールを解き、裾を押さえて立ち上がる。立ち上がったときにはリングに1号の姿はなく、2号が背中を擦りながら立ち上がる。
「レフェリー、今1号がリングに!」
「ああ、目の前にいるな。対戦相手なんだから当たり前だろう?」
 レフェリーの言い草に、マリリンが切れた。
「そこまでとぼけるなら、こっちを倒せばいいんでしょっ!」
 突進からマンハッタンブラザーズ2号の顔面にトラースキックを叩き込み、動きが止まったところをデスバレーボムで投げ捨てる。しかし観客からは華麗な技ではなく、トラースキックのときに一瞬見えた白いふくらはぎと太ももに対する拍手が起きる。そのままフォールに行こうとしたマリリンだったが、マンハッタンブラザーズ2号はリングを転がり、リング下へと姿を消す。
(まったく、姑息なことをするんだから!)
 怒りを新たにするマリリンだったが、観客やレフェリーの粘っこい視線が自分に注がれているのに気づく。ふと自分の姿を見下ろすと、振袖が乱れていた。最小の動きで試合をしてきたが、それでも動く度に少しずつずれていたらしい。襟元は寛いで豊かな胸の谷間が覗き、裾は割れて膝どころか太ももまでがちらちらと見え隠れする。
「お、下着が見えてるぞ」
「!」
 レフェリーのわざとらしい一言に、見える筈もないのに慌てて裾を掻き合わせるマリリン。その隙にマンハッタンブラザーズ1号にタックルを受け、ロメロスペシャルへと繋げられる。
(しまった、油断したわ!)
 レフェリーの言葉に動揺し、つい隙を作ってしまった。ロメロスペシャルから逃れようともがくが、無理やり脱出できる程のパワーを持っていないマリリンには厳しかった。それでももがき続けるマリリンにレフェリーが近寄り、襟の合わせ目から手を差し込んでくる。
「なっ、どこを触ってるんですか!」
 マリリンの抗議に、レフェリーはにやりと笑って顔を覗き込む。
「さっきのボディチェックは途中になってただろ? 今からその続きだよ」
 そう言いながら、ブラの上から豊かなバストを揉んでくる。
「着物の上からだとわかりにくかったが、やっぱり大きいな。感触も溜まらん!」
 レフェリーは鼻息を荒げ、乱暴に揉み込む。
(なんで男の人って、皆私の胸を触ってくるの・・・!)
 ジパングプロレスでも、形のいい巨乳がセクハラの標的となることがしばしばだった。潔癖なマリリンにとって、自分の体が男性の欲望の対象にされることが我慢ならなかった。
「ううっ・・・!」
 気持ちは折れないが、事実は四肢を拘束され、レフェリーにバストを揉まれている。首を振ってバストから与えられる刺激を少しでも逃そうとしていたそのとき、レフェリーだけがバストを揉むことに耐えられなくなったのか、マンハッタンブラザーズ1号が腕のフックを外し、両手をマリリンのバストに伸ばす。
(チャンスだわ!)
 1号の腕を捕らえ、肘を極めてやる。その痛みに、脚のフックも外してしまう1号。マリリンは素早く転がり、ロメロスペシャルから脱出する。
「もう許さないわ!」
 左手を押さえて立ち上がった1号に素早く近寄り、背後を取る。
「ええぃっ!」
 そのまま1号をバックドロップでリングに突き刺す。ふらふらと立ち上がった1号の右脚を取ってドラゴンスクリューを決め、そのまま足四の字固めへと繋げ、一気に絞り上げる。完璧に極まった足四の字に、マンハッタンブラザーズ1号が堪らずタップする。

<カンカンカン!>

(勝った・・・!)
 卑怯な手を使われたものの、最後は得意技でギブアップを奪った。これですっきりと帰れる。
「それでは、マスク・ド・タランチュラ選手の入場です!」
 リング下でマイクを持った黒服が叫ぶのを、他人事のように聞いていたマリリン。しかし、新たなマスクマンがリングに上がり、マリリンを見下ろすと漸く状況を飲み込む。
「どういうこと? もう試合は終わったじゃない!」
「マリリン選手、俺の顎を蹴ったのをもう忘れたのか? レフェリーに手を、いや、膝を上げたんだ、ペナルティとしてもう一試合してもらう! それとも、これで逃げるか?」
 レフェリーの宣言に、マリリンの闘志に改めて火が点く。
「・・・わかったわ。もう一度勝てばいいんでしょ!」
 正直、先程の試合でかなりスタミナを消耗していた。それでも、マリリンの闘志が衰えることは無かった。

「赤コーナー、マスク・ド・タランチュラ!」
 新たな対戦相手、マスク・ド・タランチュラはレスラーとしては普通の背丈ながら、両腕が異様に長く、自分の膝に届く程の長さがある。マスクには蜘蛛をモチーフとしたデザインがされている。
「青コーナー、マリリン荻原!」
 今日二回目となる闘いに、気合を入れ直すマリリン。もう振袖の乱れなど気にしていられない。今度はボディチェックが行われることも無く、開始のゴングが鳴らされる。

<カーン!>

「よろしくな、マリリンちゃん」
 マスク・ド・タランチュラはにやにやしながら、右手を伸ばしてくる。
「・・・よろしく」
 握手に応じようとしたマリリンだったが、マスク・ド・タランチュラの右手がするっと伸び、マリリンの裾を捲る。
「!」
 慌てて距離を取り、マスク・ド・タランチュラを睨みつける。マスク・ド・タランチュラは悪びれた様子も無く、もう一度右手を伸ばしてくる。
「舐めないで!」
 マスク・ド・タランチュラの長い腕に右腕を絡め、アームホイップで投げを打つ。マスク・ド・タランチュラは受身を取って素早く立ち上がる。
「やるな・・・さすがは元チャンピオン。遊んでると危なそうだ」
 マスク・ド・タランチュラの顔から笑顔が消え、マリリンに鋭い視線を送ってくる。軽くステップをしながらタイミングを計っていたが、長い腕が横から顔面へと飛んでくる。しゃがんでかわすが、マスク・ド・タランチュラの狙いはマリリンの帯だった。反対の手で後ろの要の部分が外され、帯がずれていく。
「!」
慌てて帯をつけ直そうとするが、初めて着る振袖の着付けなどできる筈も無く、ただ太目の布を巻きつけただけになってしまう。
「そら、隙だらけだぜ」
 もう一度マスク・ド・タランチュラの手が振られ、ぎりぎりでかわしたマリリンの頭頂部を掠めていく。ダメージこそなかったものの、髪をアップにしていた紐が外れ、長い黒髪が広がる。
「へぇ・・・アップの髪型も良かったが、下ろすとまた雰囲気が変わって良いな」
(勝手なことを言ってるわね。でも、動きにも慣れてきたわ)
 次の攻撃がチャンス。またもマスク・ド・タランチュラの長い腕が襲い掛かると、マリリンは最小限のフットワークで避け、エルボーを顔面に叩き込む。
「ぐぉっ!」
 その一撃に仰け反るマスク・ド・タランチュラだったが、その手はマリリンの緩んだ帯の端を掴んでいた。
「いてて・・・でも、一度やってみたかったんだよな、これ」
「え、ちょっとまさか・・・」
 マスク・ド・タランチュラの意図に気づき、必死に帯を押さえるマリリン。
「そぉーれっ!」
 しかし男性プロレスラーの力には敵わず、マスク・ド・タランチュラが帯を思い切り引っ張ると両手からもぎ取られ、あまりの勢いに回転しながら倒れ込む。
「おいおい、そこは『アーレー』って言ってくれよ。お約束だろ?」
 マスク・ド・タランチュラはリング下の黒服に帯を渡し、にやつきながらマリリンを眺める。マリリンは合わせ目を押さえたまま立ち上がるが、胸元と股間を隠すのがやっとの状態だった。
「そんな格好じゃ闘えないだろ? 俺が闘いやすくしてやるよ」
 そう言うと同時に袖を掴み、マリリンの動きを封じる。
「くっ!」
 なんとか振り払おうとしても、マリリンの腕力では振り払うことはできなかった。
「そろそろ抵抗も終わりか? なら・・・マリリンちゃんの下着姿、大公開だ!」
 マスク・ド・タランチュラは袖を掴んだまま長い腕を真上に上げ、振袖をマリリンの体から抜き取る。
「いやっ! 見ないでっ!」
 慌てて胸元と股間を隠すマリリン。帯を外され、振袖を剥ぎ取られ、ついに下着に足袋のみという姿にされてしまった。
「・・・黒かよ。セクシーなやつ着けてるなぁ」
 マリリンの下着は、黒の上下だった。しかもただの黒ではなく、レースの刺繍が入ったセクシーなもの。清純な容貌とは裏腹な黒いブラとパンティという扇情的な姿に、観客から指笛が鳴らされる。
「白を着てると思ったんだけどな。だけど黒ってのも色っぽくていいねぇ」
 レフェリーやマスク・ド・タランチュラ、観客すらマリリンの下着姿に見入り、中には生唾を飲む者もいる。羞恥に顔を赤らめるマリリンだったが、勝利への執念は失っていなかった。
(恥ずかしいけど、動きやすくなったわ。私の本当のスピードを見せてあげる!)
 振袖の締め付けがなくなり、やっと本来の動きができる。恥ずかしさを堪え、ファイティングポーズを取る。
「下着姿になっても諦めないわ、ってか? いいねぇ、そういう気の強い女は好きだぜぇ」
 マスク・ド・タランチュラは欲望を剥き出しにしたまま、長い両腕を一杯に広げてマリリンへと迫る。
「はっ!」
 速く打点の高いドロップキックが、マスク・ド・タランチュラの顔面に鋭く突き刺さった。
「ぐはっ!」
 一瞬動きの止まったマスク・ド・タランチュラの頭を抱え、ブレーンバスターで投げ捨てる。可憐な美女レスラーが男性レスラーを投げた光景に、観客席から驚きの声が上がる。
「よくもこんな恥ずかしい格好にしてくれたわね!」
 倒れ込んだマスク・ド・タランチュラの顔面に、怒りのサッカーボールキックを叩き込む。
「倒れている選手に対する顔面への打撃は禁止だ!」
 レフェリーが後ろから抱きつき、羽交い絞めにしてくる。
「え、そんなこと聞いてない・・・いやっ、どこ触ってるんですか!」
 レフェリーは後ろから抱きつき、両手でバストを鷲掴みにしてきた。そのまま円を描くように揉んでくる。
「おいおい、ジパングプロレスとの契約書にはちゃんと書いてたぞ。読んで来なかったのか? しっかしいいバストしてるな」
(またバストを触ってきて・・・でも、逃げられない、悔しい!)
 男性の力には敵わず、いいようにバストを揉まれ続けるマリリン。嫌悪感から逃れようと身を捩るが、レフェリーの腕の中から逃れることができない。
「いつつ・・・顔面にキックって、えげつないことしてくれるなぁ」
 鼻の辺りを擦りながら立ち上がったマスク・ド・タランチュラはマリリンがレフェリーに捕まっているのを見ると、にやりと笑って歩み寄る。
「マリリンちゃん、顔面キックは酷いぜ。罰を与えなきゃなぁ」
「なによ罰って・・・あっ、いやっ!」
 マスク・ド・タランチュラはマリリンの股間に手を伸ばし、下着の上から秘部を撫でてくる。
「まぁ、こんな気持ちいい罰はないけどな」
「き、気持ちよくなんかなるわけないでしょう! んんっ、やめてっ!」
 バストと秘部を同時に責められるのはきつかった。嫌悪感だけが膨らんでいく。
(こ、こうなったら・・・)
 マスク・ド・タランチュラの金的に膝を入れ、倒れ込んだマスク・ド・タランチュラに驚いたレフェリーの力が緩んだ瞬間、レフェリーの手を振り解いて男達から距離を取る。
「はっ、はっ、はっ・・・」
「いっ・・・てぇ・・・ここだけは攻撃しちゃ駄目だろ・・・」
 マスク・ド・タランチュラは内股の情けない格好でマリリンを睨む。何度か飛び跳ね、呼吸を整えてからファイティングポーズを取る。
「男の急所を蹴るとはな・・・もっときっついお仕置きしなきゃいけないなぁ」
「そうだな、続けての反則行為は許されん」
 マスク・ド・タランチュラとレフェリーがじりじりと迫ってくる。コーナーポストに追い詰められたマリリンに、マスク・ド・タランチュラがタックルで迫る。しかし、先程のダメージかそんなにスピードは無い。
(これなら楽にかわせるわ。そうだ、ぎりぎりでかわしてカウンターを合わせれば倒せるかもしれない!)
 一瞬の判断だったが、裏目に出た。予想外の速さでマスク・ド・タランチュラの長い腕が伸び、マリリンの足元を掬う。
「あっ、しまった!」
 そのまま圧し掛かられ、マウントポジションを取られてしまう。
「さーて、どうしてくれようか」
 わざとらしくパキパキと指を鳴らすマスク・ド・タランチュラに、マリリンは下からパンチを放つ。
「そんなへなちょこパンチ、当たらないよ」
 手首を掴まれ、リングへと押し付けられるともう抵抗する手段がなかった。
「どいて、放してっ!」
 ブリッジを試みたり、身を捩ったりと抵抗を続けるが、無駄に体力を消耗するだけだった。次第に息が荒くなっていく。
「押さえ込まれると弱いんだな。寝技は苦手かい?」
 マスク・ド・タランチュラは左手だけでマリリンの両手首を押さえ、右手でブラの上からバストを撫でる。
「んんっ・・・」
「マリリン選手、ギブアップか?」
 マリリンが動けないと見たレフェリーが、しゃがみ込んで空いたバストを掴み、揉んでくる。
「いやっ、やめて、放してぇっ!」
 男二人に同時にバストを揉まれるのは、屈辱以外何ものでもなかった。嫌悪の声を上げるマリリンには構わず、マスク・ド・タランチュラとレフェリーは嬉々としてマリリンの巨乳を揉み続ける。マリリンにできるのは、必死にもがくことだけだった。

 にやけながらマリリンのバストの感触を楽しんでいた二人だったが、マスク・ド・タランチュラがレフェリーをじろりと見る。
「おいレフェリー、ちょっとマリリンちゃんの両手押さえてろよ。俺はこの巨乳を両手で揉みたいんだよ」
「なに言ってるんだ、俺が先だ。ほら、そのバストを掴んでる手をどけろ」
「お前さっき後ろから両方鷲掴みにしてたじゃねぇか!」
 マスク・ド・タランチュラとレフェリーは言い合いを始め、次第に罵り合いへと変わっていく。そのため、マスク・ド・タランチュラの腰が少し高くなり、もがいたマリリンの膝が偶然尾てい骨に入る。
「うごぉっ」
 予期しない痛みにマスク・ド・タランチュラは腰を浮かしてしまい、マリリンはその隙間から這うようにして抜け出した。
「セクハラのお返しよっ!」
 瞳に怒りの炎を燃やし、シャイニングウィザードでマスク・ド・タランチュラの顎を捉える。マスク・ド・タランチュラは膝と片手をついた状態でダウンまではしなかったが、その体勢で痛みを堪えている。それを見たマリリンは素早くコーナーへと走り、ポストの上へと飛び乗る。
「これで、決めるっ!」
 コーナーポストからマリリンが飛ぶ。前方回転から大きく開脚し、股間部分で相手の顔面を捉え、リングに叩きつけるというマリリンの必殺技、<マリリンスプラッシュ>が炸裂!
「ぐはぁっ!」
 後頭部からリングに叩きつけられたマスク・ド・タランチュラはぴくりとも動かない。どこか幸せそうな表情を浮かべたマスク・ド・タランチュラを、そのままフォールするマリリン。
「レフェリー、カウント!」
 完全に決まったマリリンスプラッシュに、自信を持ってカウントを要請するマリリン。レフェリーも渋々腹這いになり、カウントに入る。
「ワン・・・ツー・・・」
 カウントはゆっくりと進むが、マスク・ド・タランチュラが動く気配はなかった。
(これで決まりね・・・)
 肩で大きく息をするマリリン。
「ス・・・」
 しかし、レフェリーがスリーカウント寸前でカウントを止める。
「ちょっと、そこまでえこひいきしなくてもいいじゃない!」
 食って掛かるマリリンに、レフェリーは冷静に指を刺す。その先には、不自然にロープに伸ばされたマスク・ド・タランチュラの右手があった。
「ロープブレイクだ、マリリン選手」
(そんな・・・完全に決まってたのに・・・)
 呆然となるマリリンだったが、実はマンハッタンブラザーズ1号がリング下からマスク・ド・タランチュラの右手を引っ張り、サードロープに引っ掛けたというのが真相だった。
マリリンスプラッシュのフィニッシュ体勢のまま座り込んでいたマリリンの秘部を、おぞましい感覚が襲う。
「っ! な、なに!?」
 慌てて立ち上がったマリリンだったが、その隙を突かれ、マスク・ド・タランチュラにネックハンギングツリーに捕らえられる。
「へへっ、いい味だったぜ」
 舌なめずりをしてみせるマスク・ド・タランチュラ。おぞましい感覚の正体は、マスク・ド・タランチュラの舌だったのだ。
「しっかし効いたぜ。極楽と地獄をいっぺんに味わった気分だ」
 マスク・ド・タランチュラは軽く頭を振りながら呟くが、マリリンにはそれどころではなかった。マスク・ド・タランチュラの腕を両手で持ち、少しでも苦しさから逃れようとする。
「苦しいかい? じゃあここはどうだ?」
 マスク・ド・タランチュラは右手をマリリンの首から放し、股間へと下ろす。そのまま、ぐりぐりと指を押し付けてくる。
「あっ・・・くぅぅっ・・・!」
 重力に逆らうように指を押し付けられると、強い刺激が秘部から脳へと届く。太ももで挟むことでやめさせようとするが、苦しい体勢では完全には防げない。
「引き締まったいいヒップしてるなぁ・・・おっと、マリリン選手、ギブアップか?」
 マリリンのヒップを撫で回しながら、取ってつけたようにギブアップの確認をするレフェリー。
「ま、このくらいじゃギブアップなんてしないよな。ほら、次はこれだ」
 そう言うとマスク・ド・タランチュラはマリリンの首の下と股間へと両手を差し入れ、リフトアップする。
「いやっ、やめて!」
 マスク・ド・タランチュラの長い腕で抱え上げられると、リングが遥か下に見える。その間も秘部が弄られるが、身が竦んでたいした抵抗はできない。
「そらよっ!」
 そのままボディスラムで背中から落とされる。
「くぅぅっ!」
 ただの投げなのに、威力が半端ではなかった。マスク・ド・タランチュラは背中を押さえて苦悶するマリリンの髪を掴み、無理やり立たせる。
「折角だからな、さっきのお礼をしてやるよ」
(お、お礼って・・・っ!)
 マスク・ド・タランチュラはマリリンをコブラツイストに極める。
「あぅっ!」
(き、きついけど、なんとか投げて脱出してみせるわ!)
 タイミングさえ合えば、男性選手と言えど投げ飛ばすことができる。投げのタイミングを計るマリリンだったが、マスク・ド・タランチュラはそれを見越したかのようにグランドコブラツイストに移行する。
「あっ・・・」
「まだまだ、これからが本番だ!」
 マスク・ド・タランチュラの左手はマリリンの右脇の下を通って肩をロックし、腕の長さを活かしてマリリンの両手を挟むように捕らえ、更に両足をマリリンの両脚に絡め、大きく開脚させる。
「や、やめてぇぇぇっ!」
 マスク・ド・タランチュラの必殺技、<タランチュラホールド>だった。マスク・ド・タランチュラは自由に動かせる右手でマリリンのバストを掴み、ゆっくりと揉む。
「いい格好だなマリリン選手。そろそろギブアップか?」
 レフェリーもマリリンの下半身へとしゃがみ込み、下着の上から秘部を弄る。下着姿の美女が大きく脚を開かされ、男達に嬲られる姿に観客から大きな声援が沸く。
「ここも弄って欲しいって言ってるぜ?」
 セクハラを繰り返されたことで、ブラ越しでもわかる程乳首が立ち上がっていた。そこをマスク・ド・タランチュラに弄られ、声が洩れる。
「マリリン選手、ギブアップか?」
「ギ、ギブアップなんてしないわ!」
 四肢に痛みが走り、乳首と秘部を弄られても、マリリンは諦めなかった。
「まだ耐えるか。なら、遠慮なくいくぜ!」
 マスク・ド・タランチュラはマリリンの耳を舐めながらブラの中に指を突っ込み、硬くなった乳首を摘む。
「んんっ!」
(くっ・・・恥ずかしいけど、こんな卑怯な人達に絶対ギブアップなんかしないわ!)
 マリリンは唇を噛み、自分の身体に与えられる刺激を必死に耐える。
「頑張るなぁマリリン選手・・・これでもギブアップしないか?」
 レフェリーはにやりと笑うと、下着の中に手を突っ込み、直接秘部を弄る。
「いやぁぁぁっ!」
 余りの責めに絶叫し、首を激しく振るマリリン。
「どうだ? ギブアップか?」
「・・・No!」
 それでも、マリリンのプライドがギブアップを許さなかった。
「乳首硬くなってるぜ? 直接触るとよーくわかる」
「ここはどうだ? 気持ちよくて声も出ないか?」
 耳をしゃぶられ、乳首を摘まれ、バストを揉まれ、秘部を弄られる。それでもマリリンは諦めなかった。必死に四肢をバタつかせ、タランチュラホールドから脱出しようともがく。
「なんだ? 気持ち良過ぎてよがってんのか?」
 しかし男性選手にがっちりと掛けられた技を解くことはできず、体を揺すったことで余計な刺激を受けてしまう。
(なら、これでどうっ!)
 耳の刺激から逃れると見せて頭を大きく上げ、思い切り後ろに振る。
「ぐわぁっ!」
 鼻に頭突きを食らったマスク・ド・タランチュラは痛みにタランチュラホールドを外してしまい、マリリンは転がって脱出した。なんとかロープを掴んで立ち上がり、最後の反撃を試みる。
「はぁっ、はぁっ・・・」
(体力がもうないわ・・・でも、ここで行かなきゃ!)
 前に出ようとした瞬間、足を掬われた。
「えっ!?」
 リング下にいたマンハッタンブラザーズ2号の仕業だった。受身は取ったものの、立ち上がろうとした途端にマスク・ド・タランチュラに捕まる。
「まったく、どこまでも諦めない姉ちゃんだな。なら、これで決めてやるよ!」
 マスク・ド・タランチュラはマリリンの両足首を掴んで逆さまの状態で引きずり上げ、そのままゆっくりと掴んだ足首を広げていく。
「あっ、ちょっと、やめて!」
 マスク・ド・タランチュラの長い両腕によって、徐々に足が開かれていく。太ももに力を込めてもまったく止めることができず、両手で股間を隠すくらいの抵抗しかできない。
「へへっ、ご開帳ぉ!」
 柔軟性を持ったマリリンの脚は、ほぼ一直線に開かれていた。美女の大股開きに、場内が沸く。
(なんとか、なんとか逃れないと・・・えっ!?)
 マスク・ド・タランチュラはマリリンの開脚だけでは物足りなくなったのか、股間に顔を埋め、舐め始める。
「んんっ、いやぁっ!」
 許し難いセクハラに、マリリンの目に力が戻る。
(それなら、腹筋の力で!)
 勢いをつけて上半身を振り上げようとした瞬間、レフェリーがマリリンのバストを掴み、揉み込んでくる。
「あっ、いやっ!」
「マリリン選手、ギブアップか?」
 バストを揉まれる嫌悪感にレフェリーの手首を持って引き離そうとするが、乳首をブラ越しに弄られると力が抜ける。その刺激を堪えて引き剥がそうとしても、今度は秘部からの刺激で力が入らない。
(んんっ・・・はぁぁっ!)
 それでも、ギブアップだけはしない。最早意地だった。レフェリーがギブアップの確認をする度、首を振って拒否する。音がする程に秘部を嘗め回され、バストを揉まれながら乳首を弄られても、ギブアップを拒み続ける。
「これだけセクハラしてもギブアップしないのか。筋金入りの負けず嫌いだな」
 マスク・ド・タランチュラが感心したように呟く。普通の女性なら、ここまで責められるとギブアップしてしまうに違いない。そんなマリリンの姿に、マスク・ド・タランチュラの顔が引き締まる。
「武士の情けだ、最後はスリーカウントで決めてやるよ!」
 マリリンの両足首を掴んだまま、胸を合わせるようにして倒れ込む。
「そぉーら、大開脚パワーボムだ!」
 そのまま体重を浴びせるようにして、自分の体でマリリンの華奢な身体を押し潰す。
「あぁぁぁぁ・・・!」
 その威力に、ぐったりとなるマリリン。レフェリーは素早く腹這いになり、カウントを取る。
「ワン、ツー、スリー!」

<カンカンカン!>

 連戦、男のパワー、セクハラなどで責め立てられたマリリンに、最早返す力は残っていなかった。下着姿の無残な姿をリングに横たえ、その様を観客に視姦される。
 そんな力無くリングに横たわったマリリンの上に、二つの影が落ちた。
(え? なに・・・?)
 その人影が、マリリンへと圧し掛かってくる。その顔には、目と口だけが覗いた覆面がされていた。
「あっ、な、なによ貴方達・・・ああんっ!」
「なによだと? 折角<地下闘技場>に招待されておきながら、無様な姿を晒したお前に罰を与えてやろうと思ってな」
 黒い覆面をした男が、マリリンのバストを掴み、捏ね回す。
「そうだぞ、俺達が恥を掻かされたジパングプロレスのファンを代表して、お仕置きしてやる!」
 白い覆面をした男はマリリンの太ももに取りつき、舌で嘗め回す。
「なにを勝手なことを言って・・・あ、いやっ!」
 疲れた体では、素人の男達すら押し退けることはできなかった。もがくマリリンに、益々密着する二人の覆面男。
「おやおや、胸の中心が固くなっとるぞ? これはなにかな?」
「それはただの生理現象で・・・んんっ!」
「ここは少し濡れてるみたいだ。なんでだろうなぁ、マリリン」
「さっき散々舐められたからに決まってるでしょ!? いやっ、触らないで!」
 黒覆面はブラの上から乳首を弄り、白覆面はパンティの上から秘部を撫で回す。
「ああっ、やめて、いやぁっ!」
 マリリンが声を上げる度、黒覆面はマリリンのバストを、白覆面は秘部を更に責める。まるでマリリンの悲鳴をもっと聞きたいとでも言うように。

 マリリンに群がる覆面二人を呆れるように見た後、レフェリーとマスク・ド・タランチュラはリングを降りる。
「やれやれ、あいつらの望み通りになったな」
「ああ。事務員が俺にまで愚痴ってたぜ、『あんなに我が侭な人間は初めてだ』ってな」
 <地下闘技場>でのファイトマネーは、選手本人に全額渡すのを基本としている。これに「ジパングプロレス」の会長と社長の火野親子が噛み付いた。マリリンはうちの選手だ、ファイトマネーは自分達が貰う権利がある、<地下闘技場>に参加させるために試合ができないじゃないか云々・・・喧々諤々の交渉で、火野親子に対し試合後にマリリンにセクハラできる権利を与える所に落ち着いた。
 そう、実は黒覆面の男は、マリリンの所属する「ジパングプロレス」の会長・火野浅夫。白覆面の男は浅夫の息子である「ジパングプロレス」の社長・火野史郎だった。マリリンに正体がばれるのを避けるため、覆面をつけてリングに上がったのだ。
 自分達のことは棚に上げ、レフェリーとマスク・ド・タランチュラは火野親子をこき下ろしながら退場していった。

「いやぁぁぁ・・・」
 リングに、マリリンの悲鳴が響き続けた。おそらく、火野親子が満足するまで嬲られるのだろう。それがいつになるのかは、当事者の火野親子ですらわからなかった。

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