谷邑奈南の受難

 現在は新世代セクシーディーバと呼ばれる谷邑奈南にも、デビューまでの辛い時期はあった。その中に、今思い出しても怒りが噴き上がるエピソードがある。
 これは、奈南の振り返りたくもない回想録である。


1.オーディション開始

――今日奈南がオーディションを受けるのは、中堅どころの音楽会社だった。中堅とはいえ、デビューさえできれば後は実力で上っていく自信がある。濃紺のスーツに身を固めた奈南は張り詰めた気持ちを抱え、音楽会社の玄関をくぐった。

「今日受けて頂くのは簡単な試験です。ここから社内の面接会場までいくこと、ただそれだけですから」
 担当官の説明は簡素なものだった。廊下には隠しカメラが設置されており、奈南の歩く姿を見ることで奈南の資質を見るのだと言う。
 しかし、それだけでいいのだろうか? もしダンスの実力は測れたとしても、歌の実力はわからないと思うのだが。
 頭を過ぎった疑問をぶつけるわけにもいかず、奈南は頷いた。どうせ拒むことなどできないのだ、やるしかない。それに、面接会場で歌を披露する手筈なのかもしれない。
「準備はできましたね? それではどうぞ、移動してください」
 担当官の目の奥の光が気になったが、奈南は促されるまま、入ってきたのとは反対側のドアに手をかけた。


2.第一関門・鉄格子の獣達

「なに、これ・・・」
 最初の角を曲がると、驚きの光景が待っていた。廊下の両脇は鉄格子になっており、その中に仮面をつけた男達がすし詰めになっている。男達から感じるのは囚われている悲壮感ではなく、奈南への獣欲だった。仮面から覗く目をぎらつかせ、奈南の美貌、バスト、ヒップ、脚線美を舐めるように見つめ、猥雑な叫びを上げながら手を伸ばしてくる。これもテストだとすれば、無意味で悪趣味この上なかった。
(帰りたい・・・)
 それが正直な感想だった。しかし、男達に捕まらずにここを突破すればいいだけだ。覚悟を決め、奈南は大きく息を吸った。

 体を横向きにし、すり足で進む。男達の手が伸ばされるが、ぎりぎり届かない。それでも時折Gカップのバストと張り出したヒップを男達の手が撫でていく。不快感でバランスを崩さないように気をつけ、奈南は少しずつではあるが確実に進んでいった。

(あと少し・・・)
 ゴールを目前に気が緩んだ瞬間、足元が滑った。
「えっ?」
 明らかに油か何かの滑りやすいものが床に塗ってあった。バランスを崩した奈南を男達の手が捕らえ、鉄格子へと引き寄せる。
「離して! やめて!」
 奈南の抵抗など、数の力の前には儚いものだった。両手を掴まれ、胴を抱えられ、両脚を捕らわれる。勿論それだけでは終わらなかった。厚めの唇に指が突き込まれ、ヒップを擦られ、太ももを撫で回され、バストを揉みくちゃにされ、秘部を弄られる。反対側の鉄格子からは無念の怨嗟と目前で展開されるショーへの歓喜の声が上がる。
「んんんっ!」
 指を突き込まれているため大声を出せず、くぐもった呻きが奈南の口から漏れる。男達は荒い息をつきながら、奈南の体に夢中になっている。特にバストと秘部には手が集中し、お互いの手を押し退け、自分が一番いい場所を取ろうと争奪戦が起こる。
 その争いが熾烈になり、一瞬ではあるが台風の目のように奈南の体の拘束が弱まった。
(チャンス!)
 奈南は鉄格子に足裏を当て、思い切り上体を捻った。無理やり体を捻ることでスーツが破れて脱げ、上半身が自由を取り戻す。男達の手諸共鉄格子を蹴飛ばし、転がることで鉄格子地帯を脱出する。
 蹲って息を整える奈南。未練気に伸ばされた男達の手を一瞥し、奈南は小走りで獣達の間を後にした。


3.第二関門・壁から伸びる手

「な、なんて会社なの・・・」
 漸く鉄格子地帯を突破できたものの、奈南は疲労を隠せなかった。大勢の男達に体を弄くり回され、逃げようと暴れたことで大きく体力を奪われていた。しかもスーツを失い、髪もシャツの胸元も乱れている。
 帰りたいとの願望は強くなったが、今の場所を戻る気にはなれなかった。奈南はため息をつき、前へと進んだ。

 緊張の面持ちで廊下を進む奈南。再び廊下を曲がり、前方にドアを視認したとき、いきなりその足元の床が抜ける。
「なっ!」
 落ち込んだところは、約1m四方しかないような狭い空間だった。底には柔らかいマットが敷いてあったため、痛めたところはない。しかも穴の高さはそれ程でもなく、手を伸ばせば縁に届きそうだ。奈南が飛び上がろうと膝をたわめた瞬間、四方の壁から二つずつ、合計八つの手が出現した。
「えぇっ、ちょっと、なに・・・!」
 体のあちこちを掴まれ、うろたえる奈南。男性のものと思しき手達は奈南の肢体に取り付き、弄る。
「や、なによ、触らないで!」
 精神的ショックのため動きの鈍い奈南。手の一つが器用に奈南のベルトを外し、奪い去る。別の手がスラックスのフックを外し、ファスナーを下ろす。
 その間にもバストは荒々しく揉まれている。そのためシャツの上から二番目までのボタンが飛び、ダークブルーのブラが露わになった。手はシャツの隙間から潜り込み、下着越しにバストを責める。
「痛いっ! そんな強く揉まないでよ!」
 バストに伸びた手を引き剥がすと、防御の甘くなった股間へと他の手が伸びる。
「いや、そこは・・・んぁぁっ!」
 手は正確に奈南の急所を突き、奈南に甘い声を上げさせた。セクシーヴォイスに興奮したのか、手達の動きが激しくなる。
「ここは駄目っ!」
 奈南が秘部を守ると、今度はバストが責められる。八つの手に対して奈南の手は二つしかなく、どうしても防御の甘いところが出てきてしまう。そこを突かれ、常にバストか秘部を責められていた。上手く両方を守れたときは、ヒップを撫で回される。
(守ってばかりじゃ駄目だ、反撃しないとずっと責められる!)
 奈南は秘部を撫でていた手を掴み、思い切り肘を落とす。壁の向こうから苦悶の声が聞こえ、手が引っ込む。同様にバストを責めていた手に肘を落とし、退却させることに成功する。
(今だったら、逃げられるかも!)
 残った伸びてくる手を弾き飛ばし、蹴り飛ばし、一瞬の隙を突いて縁へと指をかける。そのまま上半身を持ち上げることはできたが、逃さないとばかりにスラックスを掴まれ、引っ張られる。
「このっ!」
 上体の力だけで無理やり体を引っ張り上げたものの、スラックスは脱げ、手達に奪われてしまった。おまけとばかりに革靴も取られてしまう。
 スラックスと革靴を犠牲にし、漸く落とし穴から這い出すことができた奈南。この後はどんな罠が待っているとも限らない。となれば、さっきの鉄格子のある廊下のほうがまだマシかもしれない。オーディションは諦めて戻ろうかと考え、振り向いた奈南の視界に防火用のシャッターが入った。
「・・・そこまでする?」
 これで、戻ることはもうできない。シャツの裾を払った奈南は前へと進み、ドアを開けた。


4.第三関門・格闘家

「いらっしゃい、美人の姉ちゃん。よく来てくれたなぁ」
 ドアの向こうには、黒のタンクトップにジャージ姿の男が待っていた。頭には頭髪の一本もなく、丸い頭頂部を晒している。男が相好を崩したのは、シャツ一枚で胸元からブラが覗き、裾からは剥き出しの太ももが伸びるという奈南の格好のためだろう。
「隣の部屋が面接会場だ。行きたきゃ俺を倒してから行きな」
 後ろのドアを指差す男は筋骨隆々で、弱いのは頭髪の根性だけのように見えた。
(ガタイが物凄い・・・殴ったらこっちの手を傷めそう)
 奈南の心の声が聞こえたのか、男はドアの横を指差す。
「使うんなら、そこのグローブ使っていいぜ」
「・・・ご親切にどうも」
 奈南は机の上に置かれたオープンフィンガーグローブを嵌め、感触を確かめる。ダンスくらいしかできないが、必死になればどうにかなるかもしれない。
(ここまで来たら、こいつを倒して堂々と面接会場に入ってやる!)
 両拳を打ちつけ、奈南は男と向かい合った。

「くっ・・・」
 改めて向かい合ってみると、男の肉体が醸し出す迫力に気圧されてしまう。奈南より頭一つ高く、幅は倍以上ありそうだ。
「どうした? 来ないのならこっちから行くぜ」
 男が間合いを詰める分後ろに下がってしまい、壁際まで追い詰められる。
「もう後ろには下がれないぜ?」
 その言葉に背後を気にした瞬間、股間を触られる。
「!」
「おいおい、簡単に隙作っちゃだめだぜ?」
 にやつく男の表情に、怒りが沸く。
「たぁぁっ!」
 気合と共に右ストレートを繰り出すが、ヘッドスリップで避けられると同時にボディを打たれる。
「ぶぐぅっ」
 素手の一撃はかなり効いた。
「なんだ、これだけでギブアップか?」
 男はお腹を押さえて苦しむ奈南に近づき、ベアハッグに捕らえる。
「あぐぅっ!」
 腰が軋み、内臓が潰される。
「まずは動けなくして、ゆっくりと嬲ってやるよ」
 男はじりじりと絞め上げ、奈南を苦悶させる。
(気が遠くなりそう・・・でも、気を失ったら・・・)
 最悪の想像が、奈南に力を与えた。
「離してっ!」
 エルボーで男のこめかみを打ち、ベアハッグから逃れる。
「なんだ、少しは抵抗できるじゃないか。それくらいしてくれなきゃ、こっちも楽しめないからな」
 男はたいしてダメージを受けていないようで、薄い笑みすら浮かべている。
(駄目、敵わない! もういや、こんな奴と闘えない!)
 軽いパニックを起こし、すぐ近くにあった入ってきたドアのノブを掴む。
「あ、開かない!」
 ドアノブをがちゃがちゃと回してみるが、外側から鍵が掛かっているのか、全く開きそうにない。
「そっちには戻れないぜ、姉ちゃん」
 男が背後から圧し掛かるようにしてバストを鷲掴みにし、揉んでくる。
「やめてっ!」
 暴れる奈南だったが、男は何ら気にした様子もなくGカップバストを揉んでいる。
「このっ!」
 男の足の甲を踏んでやるとこれは効いたのか、男が痛みにくぐもった声を上げる。
「痛ぇな姉ちゃん!」
 男は右手でバストを掴んだまま、変形の大腰払いのような投げで床に投げつける。
「あぐぅっ!」
 この強烈な投げに、奈南は背中を押さえ、呻くことしかできない。
「おとなしくなったか? それじゃあ、またおっぱいで楽しませて貰おうか」
 男は奈南に馬乗りになり、バストを揉みくちゃにする。バストの感触と変形する様、それにシャツから覗くブラが色っぽい。これに気づいた男が舌舐めずりする。
「どうせなら、こんな中途半端はよそうぜ!」
 男の手がシャツの前を掴み、無理やり開く。
「きゃぁぁっ!」
 ダークブルーのブラが完全に姿を現し、同色のパンティも露わになる。
「うっほぉ・・・凄ぇおっぱいだな」
 男は奈南のGカップバストに目を奪われる。形もさることながら、仰向けになっているのに崩れず、谷間ができたままなのが堪らない。
「シャツなしの感触はどうかな、っと」
 男はブラの上からバストを鷲掴みにすると、思うままに捏ね回す。
「やめなさいよっ!」
 バスト責めをやめさせようと奈南が腕を引っ掻くと、男の表情が険しくなる。
「ふんっ!」
 男の拳が鳩尾を叩き、奈南の抵抗をあっさりと止める。
「ぐぅぅ・・・」
「痛ぇな姉ちゃん。罰として、おっぱい丸出しの刑だ!」
 男は痛みに呻く奈南のブラを上にずらし、乳房を露出させる。
「へぇ、綺麗な乳首してるじゃないか」
 そのまま両方の乳首を弄り、それだけでは物足りないのか子どものようにしゃぶりつく。
(き、気持ち悪い・・・)
 しかし、男の責めはそれで終わらなかった。
「いやぁぁぁっ!」
 男の手がパンティの中に潜り込み、直接秘部を弄ってくる。これには奈南もパニック寸前となり、男の顔と言わず胸と言わず引っ掻いて抵抗する。
「この・・・猫かお前は!」
 男の右フックが顎を捉え、奈南はがっくりと目を閉じた。
「やっと静かになったか・・・さて、続き続き」
 男は再びパンティの中に手を突っ込み、直接秘部の感触を味わう。幾ら触っても飽きることはなく、男は秘部と乳房を弄り続けた。

「それじゃ、直接拝ませて貰おうか」
 散々秘部を弄った後、男は奈南のパンティをゆっくりと下ろし、足から抜き取る。パンティを放った後で両脚を広げさせ、奈南の股間を覗き込むと、アンダーヘアと魅惑的な秘裂が男の獣欲を直撃する。
「・・・堪んねぇ!」
 男は鼻息荒く奈南の秘部にむしゃぶりつく。秘部を舐め回し、淫核を舐めしゃぶる。
「ん、んんっ・・・」
 強い刺激に、奈南が無意識の声を洩らす。それにも気づかず、男は奈南の秘部を舐め続けた。

「それじゃ、そろそろ・・・」
 男はとうとう我慢できなくなったのか、ジャージを下着ごと脱ぎ捨てる。と同時に、立ち上がったイチモツが下着から飛び出した。
「どんな締め付けしてくれるのか・・・くーっ、想像しただけで出しちまいそうだ!」
 男は自分のイチモツを掴み、少しずつ奈南の秘裂へと近づけていく。と、男の目の端に魅惑的な双球が移った。
「・・・いや、最初にパイズリで楽しんだ方がいいか? 顔にぶっかけて、その顔見ながら犯してやるのもオツだな」
 男は奈南の胴を跨ぎ、固くなったイチモツを胸の谷間へと向かって下ろしていく。
「へへへ・・・」
 にやけていた男の股間に、膝が叩き込まれた。
「あ・・・ぐぉ・・・」
 余りの痛みに、声すら上げられない男。仰向けになって股間を押さえ、悶絶する。それとは対照的に、奈南がゆらりと立ち上がる。
「よくも・・・よくもぉっ!」
 恥辱と怒りに頬を紅潮させた奈南が、腰を落とす勢いを使って男の顔面にパンチを叩き込む。そのまま馬乗りになり、男の顔を容赦なく殴りつけていく。
「わ、悪かった、俺が悪かった、もうしない、もうしないから、止めてくれ・・・」
 股間の痛みにたいした抵抗もできず、男は顔面を腫らしていく。とうとううつ伏せになって顔を庇うが、奈南の腕が喉に巻きつき、チョークスリーパーで絞め上げる。
「うげぇ・・・で、でも、柔らけぇ・・・」
 気管を締められる苦しさと、背中に押しつけられた剥き出しの乳房の柔らかい感触に、男の目が大きく開かれる。
 バタついていた男の体が徐々に緩慢になり、遂にはその動きを止める。それでも尚絞め続けていた奈南だったが、反応がなくなったことに気づき、漸く男から離れる。
 ブラを直し、パンティを履き、ボタンが飛んだシャツの前を隠す。男の唾液に塗れた乳房と秘部に気持ち悪さが募り、倒れている男の姿に再び怒りが沸き上がってくる。
「・・・こんの、エロ男!」
 奈南はオープンフィンガーグローブを外し、失神した男にぶつける。それでも足りなかったのか禿げ頭を蹴っ飛ばし、上下の下着に靴下、それに前の空いたシャツを羽織っただけの扇情的な姿で部屋を後にした。


5.オーディション合格

 ドアを開けると机と椅子が用意された部屋で、正面の壁には大モニターが設置されている。おそらく、奈南の責められる姿をこれで堪能していたのだろう。
「いやー、凄いね君! 谷邑奈南くん、だったね。いやー、いいもの見せてもらったよ、うんうん」
 机の真ん中には社員に挟まれ、偉そうな態度の中年男が座っていた。ご丁寧にも「社長」と書かれた紙がテーブルの前面に貼られている。奈南の姿に、にやけた笑みを隠そうともしない。
「合格合格! 君みたいに綺麗で強い娘は合格だよ!」
 合格の連呼と共に握手を求める社長に、奈南はゆっくりと近づき、
「ありがとうございます。私・・・」
 にっこりと微笑む。
「こんなエロ会社でやってられへんわ!」
 フルスイングしたビンタが社長の頬を張り、差し歯と共に床へと吹き飛ばす。
「な、な、な、何をフるんだ! わたヒに手をあげるとどうなフか・・・」
 慌てて社員達に抱き起こされた社長がずれたカツラを直し、鼻血を出しながら奈南を指差し声を荒げる。差し歯が飛んだからか、発音が聞き取りづらい。
「うるさい! こんな会社こっちからお断りやわ! 今に見とれ、デビューして実力つけて、こんな会社潰したる!」
 怒りの余り地の関西弁で啖呵を切る奈南に、社長も社員達も口を開閉させるだけだった。魅力的な美貌の奈南だけに、怒りの形相には格別の迫力があった。
「ほな、バイバイ」
 後ろ向きに手を振り、奈南は面接会場を後にした。奈南を引き止める者は誰もいなかった。

 啖呵を切って音楽会社を後にした奈南だったが、怒りに我を忘れてそのままの姿で街中を歩き、多くの男性の目を楽しませた。奈南がそれに気づいたのは、なんと自宅に帰り着いてからだという。
 奈南は暫く、近所の冷たい視線(一部は熱い視線だったが)に耐えなければならなかった。
「東京って、恐いわぁ・・・」
 それが、奈南の正直な感想だった。

 尚、あのセクハラオーディション以降、奈南は総合格闘技を習い始めた。その後の「地下プロレス」での勇姿は、このエピソードがあってこそなのかも知れない。

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