谷邑奈南の受難 其の三

 現在は新世代セクシーディーバと呼ばれる谷邑奈南にも、デビューまでの辛い時期はあった。その中には、今思い出しても怒りが噴き上がるエピソードが幾つかある。
 これは、奈南の振り返りたくもない回想録の一つである。

 健康診断書作成事件(「谷邑奈南の受難 其の二」)から数日が過ぎ、改めて別のちゃんとした病院で健康診断書を作ってもらった奈南は、ある会社のオーディション会場にいた。水着審査もあるということで、白のビキニに着替えている。
 今日のオーディションには、奈南の他にもう一人の女性がいた。緩いウェーブのかかった長髪をうなじで纏め、彫りの深いくっきりとした目鼻立ち。スカイブルーのビキニに包まれた肉感的なプロポーションは、奈南を凌ぐ色っぽさがあった。その女性は奈南を認めるとにこっと笑い、軽やかに歩み寄ってくる。
「貴女も今日のオーディション受けるの? 私、夏海。夏海・マウルシア・エスカーナ。よろしく!」
 お互いがライバルの関係だというのに、夏海は人懐っこい笑みを浮かべて握手を求めてくる。その雰囲気につられ、奈南はつい握手を返していた。
「私は谷邑奈南。よろしくね」
「今日はお互い頑張ろうね。でも、負けないから!」
 ウィンクをしてくる夏海に苦笑していると、試験官が現れた。
「お二人とも揃っていますね。では、これからオーディションを行いたいと思います」
 試験官は奈南と夏海を促し、別室へと案内した。

 別室は殺風景な部屋で、会議用の机と椅子、それに座る三人の男がいた。入り口から見て左右の壁には厚手のカーテンが引かれている。
「まず、バランス感覚を見ます」
 試験官が右のカーテンを開ける。
 そこに用意されていたのは、大掛かりな装置だった。3m四方程度の床板が機械の上に乗せられている。奈南と夏海は試験官に促され、その上に乗った。
「それでは、倒れないようにバランスを取ってください」
 二人が立ったステージが少しずつ揺れ始め、かなりの振動を起こす。
「これが震度3です」
 その装置は地震の体験装置だった。試験官は装置のスイッチを触り、徐々に揺れを大きくしていく。
「震度5です」
 震度5ともなると余りの揺れに二人のGカップバストも揺れ、弾み、男性審査員の目が好色なものになる。
(か、かなり揺れるわね、でも)
 相手には負けたくない、その思いが奈南と夏海に必死にバランスを取らせ、結果として審査員の目を楽しませる。
「震度6です」
 二人がまだ耐えると見た試験官が更に揺れの幅を上げる。
(こ、こんなに揺れたらバランスが・・・)
 つい下を見てしまうと、ブラがずれそうなほどバストが弾んでいる。
「あっ!」
 ブラが気になった瞬間、僅かにバランスが乱れた。膝から崩れ、両手をついてしまう。奈南が倒れたのを確認した試験官は装置を操作し、徐々に揺れを弱くしていく。
(負けた、か・・・でも、まだこれで決まりじゃない筈。次は勝つから!)
 奈南が夏海を見ると、夏海も奈南を見ていた。二人の視線が宙でぶつかり、絡まった。

「次は、柔軟性を見ます」
 次に用意されたのは、走り高跳びに使うようなバーとそれを支える一対の台。しかしマットはなかったし、棒も少し短めだった。
「少しずつ下がっていくバーの下を、仰向けの状態で交互にクリアしてもらいます。当然床についていいのは両足の裏だけですので、ご注意を」
 用意された道具は走り高跳びのものではなく、俗に言うリンボーダンス用のものだった。奈南は身長163cm、夏海は169cm。身長だけ見れば奈南のほうが有利だ。
「では、夏海さんから始めましょう。こちらからお願いします」
 試験官は夏海を審査員と向き合うように位置どらせ、開始を告げる。最初は150cm、夏海は楽々とクリアした。
(今度は絶対に負けないから!)
 気合を入れ、奈南もバーをくぐる。
(これ、冷静に考えたらとんでもない格好してる!)
 審査員に大股開きを披露しているも同然。それでも、相手に負けたくないという思いがその恥ずかしさを我慢させ、バーをくぐることに集中させる。
 奈南も夏海も次々とクリアし、体の柔らかさをアピールした。審査員の舐めるような視線は不快だったが、無理に抑え込んでバーをくぐり続ける。バーが下がるのに合わせて脚を大きく広げざるを得ず、審査員の視線が股間に集中する。それでも負けん気が羞恥を上回り、奈南も夏海もバーをクリアし、大開脚を披露し続けた。

 しかし、最後には身長と胸囲の差が出た。夏海が70cmの高さでバストをバーに引っ掛けてしまい、バー諸共地面に倒れ込む。
「よっしゃ!」
 思わず声が出てしまい、夏海に睨まれる。
「ちょっと胸が引っ掛かっちゃった。大きすぎるのも考えものね」
「なんですって?」
 立ち上がり、わざとらしく胸の下で腕組みしてみせる夏海の態度にかちんときて、奈南も夏海を睨みつける。試験官が慌てて睨み合う奈南と夏海の間に入り、二人を分ける。その手がバストに当たっていることに気づかないほど、女の意地をぶつけ合っていた。

「次で最終審査となります。最終審査は・・・これです」
 左側のカーテンを開き、そこに用意されたものが奈南と夏海にも確認できた。そこは5m四方ほどの部屋で、なぜか周囲10cmほどを残し、床が低くなっている。
「この部屋でのダンスファイト。その出来によって合格者を決めたいと思います」
(ダンスなら負ける筈がないわ! 吠え面かかせてやるんだから!)
 お互いに敵意のこもった視線を交わし、奈南と夏海は思い思いのポーズを取った。
 いきなり大音量で音楽が始まる。有名なダンスナンバーに、奈南の身体は自然と動いていた。
(絶対、こんな奴に負けへんから!)
 その思いが身体のキレを増し、淫らにくねらせる。
 突然得体の知れないものが床に流れ込み、夢中で踊る二人の足元を濡らす。
「足場の悪い中どれだけ踊れるか、それを見たいと思います」
 試験官が冷静に告げるが、奈南と夏海にとっては足場が悪いどころではなかった。放出された液体はやたらと滑り、立っているだけで精一杯で、踊ることなどできはしない。
(こんなんで踊れるわけないやん! なに考えて・・・!?)
 突然、後ろから襲い掛かられる。
「な、なんや!?」
 押し倒され、バストを揉みくちゃにされる。
「久しぶりだな姉ちゃん。今日こそはヤラせて貰うぜ」
「その声・・・あのときのハゲエロ男!」
 以前別のオーディションを受けたとき(「谷邑奈南の受難」)、奈南を裸に剥き、犯そうとした男だった。
(まさか・・・今回もセクハラオーディション、ってわけやないやろな!)
 ハゲ男に反撃してやろうと思うが、こう滑っては反撃どころではなかった。簡単に押さえ込まれ、バストを揉み続けられてしまう。
「競争相手も楽しそうにしてるじゃないか。こっちも楽しもうぜ」
 その声に夏海の方を窺うと、夏海も別の男に圧し掛かられていた。水着のブラをずらされ、乳首を舐め回されている。
「俺もあんな風に責めてやろうか?」
「お断りや!」
 ハゲの顔面に肘を入れ、怯んだところで男の下から抜け出す。
 逃げようとしてぬめる床に立ち上がることができず、またも床に倒れ込む。
「おいおい、どこに逃げようっていうんだ?」
「きゃぁぁぁっ!」
 男の手がブラを剥ぎ取り、奈南はトップレスとなってしまう。バストを隠した状態で倒され、背中を膝で押さえつけられる。
「今日は抵抗できないように、縛らせて貰うぜ」
 男は奈南のブラで手首を拘束してくる。奈南も逃れようとしたが血が止まりそうなほどきつく縛られ、蹴り飛ばそうとした足も押さえ込まれてしまう。男は奈南の手首を縛ると、乳房が上を向くように仰向けにする。
「相変わらず綺麗な乳首だな」
 ハゲ男の武骨な手が奈南の乳首を弄り、弾く。
「触んな! 変態!」
 奈南に変態呼ばわりされた男は別に気にした様子もなく、奈南のGカップバストを揉み、乳首を転がす。ぬめる乳房が男の手の中で逃げるように跳ね、奈南に微妙な刺激を与えてくる。
「さ、触んな言うたやろ!」
「そうか、じゃあここはどうだ?」
 男の手がボトムの中にまで入り込み、直接秘裂を弄ってくる。
「いやぁっ!」
 無遠慮に大事なところを触られ、奈南は悲鳴を上げる。
「今日こそは、ここに俺のモノを突っ込んでやるからな」
「そんなのお断りや!」
 必死にもがいていると、腕を縛っていたブラが緩んできたことに気づく。
(しめた!)
 ぬめるおかげで縛らていれた腕が抜け、自由を取り戻す。
「一度ならず二度までも・・・いいかげんにせいや!」
 男の膝を蹴り、上手く体勢を入れ替える。ハゲ男に馬乗りになると、相手の喉を自分の腕で潰し、ギロチンチョークを極める。
「あぐぇっ!」
 男が暴れるため腕が滑りそうなるが、ここが決め所だと体重をかける。咳き込みながらバタついていた男の四肢が力を失い、白目を剥いて痙攣しだす。
「ったく・・・二度もこんな男に・・・」
 ぬめる床から這い出し、足の裏のぬめりをブラでこそぎ落とすと、少し躊躇してブラを着け直す。ほぼ同時に夏海も相手の男を倒し、ぬめる床から出ていた。
 審査員の三人はいつの間にか姿を消しており、試験官だけがおろおろとしていた。
「なぁ夏海・・・私、えらい頭にきてん」
「奇遇ね、私も怒りで頭が爆発しそう」
「ま、待ってくれ二人とも。私はただ仕事を忠実に行っただけで、なんの責任も・・・」
 後ずさる試験官の前に奈南が、後ろに夏海が位置どる。
「責任がない? んなわけ、あるかぁーっ!」
 奈南と夏海のハイキックが同時に試験官の顔面を挟み込み、試験官の身体は人形のように崩れ落ちた。

 シャワールームに移動した奈南と夏海は、互いに見張りを交代しながらシャワーを浴びる。あの滑るものは石鹸で洗い流すことができた。

 荷物を置いた控え室へと慎重に移動した奈南と夏海。そっと控え室のドアを開けると、信じられない光景が広がっていた。
「なにしてるのよ!」
 夏海が叫ぶ。控え室の中には先程の審査員達がおり、奈南と夏海のバッグを開け、上下の下着を取り出して匂いを嗅いでいたのだ。いや、嗅ぐだけではなく舐め回している男もいた。
「あ、いや、これはだね、その・・・」
「こんの・・・変態共ぉ!」
 怒りに手加減もできなかった。

 変態審査員達を本人達の服で縛り上げ、目隠しまでしてロッカーの中に放り込む。
 男達の唾液に塗れた下着を身に着ける気にもなれず、奈南と夏海は下着を着けずに私服に着替えた。

「今度はちゃんとしたオーディション会場で、ね」
「ええ、それじゃまたね、夏海」
 笑顔を見せた夏海が踵を返し、小股の速足で去って行く。ミニスカートの下はノーパンだと思うと、可哀想だがおかしかった。
「・・・笑ってる場合じゃないか」
 パンツスタイルだとはいえ、自分も夏海と同じノーブラノーパンだ。赤面し、乳首がワイシャツに擦れるのを耐えながら奈南も帰宅の途についた。

inserted by FC2 system