「エスケイプ」 〜谷邑奈南の受難 其の四〜


 あるテレビプロデューサーにより、「エスケイプ」という番組が企画された。最初から、ある明確な目的を持って。


「エスケイプ」ルール

1.基本事項
 参加者は「逃亡者」となり、「追跡者」から逃げなければならない。
 1分経過するたびに「逃亡者」には3ポイントが加算される。
 30分間逃げ切ることができれば10ポイントのボーナスが加算される。
 ゲーム終了後、1ポイントにつき1万円と交換できる。
 「追跡者」は最初は二人だが、10分が経過すると一人追加、20分が経過すると二人が追加され、25分が経過したときに更に二名が追加される。最終的に「追跡者」は七人となる。
 設定された範囲を越えて逃げることは絶対に許されない。

2.ペナルティ
 「逃亡者」が「追跡者」に捕まるとマイナス10ポイントのペナルティに加え、1分間の拘束時間が生じる(拘束時間中はポイントの加算はなし)。
 もし手持ちのポイントが0になれば、その時点で失格となる。
 ただし、支給された衣服(自前の下着・靴下・靴等は認めない)を差し出せば上記のペナルティは免除される。
 拘束時間が終了した後は、30秒間「追跡者」に捕まらない時間を設ける。

3.投降
 ゲーム途中で投降すれば、その時点でのポイントを交換できる。
 ただし、ゲーム終了まで「折檻」を受けなければならない。

                                      以上


 「エスケイプ」の初舞台は、先月閉店となった小さなデパートが選ばれた。
 初の「エスケイプ」で「逃亡者」に選ばれた三名は、守下悠里、仲島愛里、そして谷邑奈南の三名。いずれも容姿、プロポーションが抜群の美女揃いだった。

 守下悠里。身長160cm、スリーサイズB89(Gカップ)・W58・H84。
 仲島愛里。身長157cm、スリーサイズB86(Fカップ)・W58・H88。
 谷邑奈南。身長163cm、スリーサイズB88(Gカップ)・W58・H86。

 「逃亡者」にはTシャツ、ジャージズボン、スニーカーという動きやすい衣装が用意された。更衣室で準備された衣装に着替え、三名の美女は男の淫欲が立ち込めるデパートへと足を踏み入れた。
 無人のデパートの中は商品の入っていない商品棚や剥き出しになったマネキンなどが並び、暗い照明と合わせて不気味な雰囲気を漂わせている。
「誰もいないデパートって、こんなに恐いものなのね・・・」
 悠里の言葉に、愛里も奈南も何も返そうとはしなかった。

 最初の「追跡者」は村松と出山という二人のタレントだった。
 村松は物真似のできるデブタレントとして、出山は芸がない替わりに体を張り続けることで、競争厳しいテレビ業界に生き残り続ける中年タレントだった。
「頑張りましょうね出山さ〜ん」
「やるよムッちゃん、俺達の実力、見せてやろうじゃないの」
 意気込む二人だったが、体力不足が致命的だった。
「いましたよ出山さん!」
「よし、早速捕まえようじゃないの!」
 「逃亡者」の美女三人を見つけて追いかけるが、「逃亡者」の影さえ踏むことができず、すぐに息が上がってしまう。「逃亡者」の三人は階段や今は動かないエスカレーターなどを使い、動きの鈍い二人の中年「追跡者」を置き去りにする。
「き、きついですね、出山さん・・・」
「これくらいで、弱音吐いてちゃ、だめだよ、ムッちゃん・・・」
 村松と出山は走ることもままならず、とうとう座り込んでしまった。

 村松と出山から逃れる中で、悠里は一人となっていた。
(これくらいの相手なら、楽勝かな?)
 悠里の心に生じた油断は、手痛いしっぺ返しを招いた。


 「エスケイプ」序盤は特に波乱もなく、10分が過ぎた。

『10分経過。『追跡者』を追加する』

 ここで新たな「追跡者」が投入された。
 新しい「追跡者」は、元Jリーガーの竹田だった。三階の非常口から現れ、辺りを見渡す。
「さあて、子猫ちゃんはどこかな?」
 そう呟いた途端、足音が聞こえてくる。竹田は咄嗟に身を隠した。

「一人増えたのか、気をつけなくっちゃ・・・きゃっ!」
 悠里は角を曲がった途端、竹田と鉢合わせしてしまった。いきなり竹田に出くわしたことで、逃げる間もなく捕まってしまう。
「あーあ、捕まっちゃった。30ポイントも稼いでたのに」
 ため息を吐いて残念がる悠里。この時点ではまだ余裕があった。
「それじゃ、1分間の拘束時間があるからね」
 そう言った竹田が、悠里を後ろから抱きしめる。
「え!? いきなりなにするんですか!」
 もがく悠里だったが、竹田の力には敵わない。
「なにって、拘束時間の間は『追跡者』の好きにされちゃうんだよ。知らなかった?」
 竹田は悠里を抱きしめただけでなく、Gカップバストを揉みだした。
「そ、そんな話聞いてないです! 放してください! 放して!」
「1分だけなんだから我慢してよ。それに、グラビア見たときから触ってみたかったんだ、この胸!」
 竹田はTシャツの上から悠里のバストを鷲掴みにし、思うさま捏ね回す。
「や、ちょっと、そんなに強くしたら痛い!」
 悠里の抗議も耳に入らず、竹田はバストを揉み続ける。

『1分の拘束時間終了。守下悠里を解放せよ』

 館内のスピーカーから指示が飛び、竹田は渋々悠里から離れた。
「じゃあね悠里ちゃん、ちゃんと逃げないとまた捕まえちゃうよ」
 竹田の厭らしい笑みから顔を背け、悠里は逃げ出した。
(何これ、こんなセクハラってあり? テレビ番組だからって、こんなこと許されるの?)
 悠里が走って逃げることで、Tシャツの下のGカップバストが上下左右に弾む。竹田はにやつきながらその背を見送った。


 この「エスケイプ」という番組は、最初からグラビアアイドルを標的とした裏のセクハライベントだった。企画したのは裏の世界とも繋がるプロデューサーK。
 グラビアアイドルが所属するプロダクションには多額の金を渡し、後腐れがないようにしてある。欲望に釣られた「追跡者」はノーギャラで参加しており、裏の世界に映像を流すことで利益も見込める。プロダクション側がレイプだけは頑として認めなかったのが誤算だったが、セクハラだけのイベントでも既に映像への予約が殺到しており、発案者のKは満足していた。


(逃げなきゃ、捕まったらまた厭らしいことされちゃう・・・!)
 悠里はその思いに急き立てられるようにデパートの中を逃げ惑う。
「おっとっと、こっちは通れないよ」
 必死に走っていた悠里の前を村松が塞ぐ。
「くっ!」
 急遽方向を変え、かつては服を着ていたであろうマネキンの列の間をすり抜ける。
「捕まえたー!」
「!?」
 突然、胴をがっちりと掴まれる。マネキンの間に潜んでいた出山に気づかず、横合いから捕まってしまったのだ。
「嘘・・・」
「嘘じゃないよ。それじゃ、失礼して」
 出山は鼻息を荒げ、悠里のバストを揉みくちゃにする。
「やばいよやばいよ、この大きさと柔らかさはやばいよ!」
 出山は夢中になって悠里のバストを揉む。
「それじゃ自分も失礼して」
 これに村松も加わり、悠里のGカップバストを揉みしだく。
「え? 村松さんは関係ない・・・いやっ!」
 悠里の拒否など気にも留めず、二人の中年タレントは悠里のバストを責め続ける。
(こんな、こんなことって・・・)
 悠里は竹田に続いて出山にも捕まり、これで残りポイントは13ポイント。

『1分の拘束時間終了。守下悠里を解放せよ』

 スピーカーが鳴り、村松と出山は渋々悠里の身体から離れる。
「ちょっとちょっと、まだ1分経ってないんじゃないの?」
「そうそう、まだ触り足りないのにさ」
 ぶつくさ言っている二人から、悠里は涙を浮かべながら走り去る。
(もう嫌、こんな奴らに好き勝手に触られるなんて!)
 しかし、悠里の受難はこれで終わりではなかった。

「見つけたー!」
「!」
 今度は竹田に狙われ、身体能力の差であっさりと捕まってしまう。
「これ! これを渡すから触らないで!」
 悠里は手早くTシャツを脱いで竹田に差し出し、セクハラから逃れる。
「そっか・・・残念だけどルールだからね。いいよ、逃げて」
 竹田はブラに包まれた悠里のGカップバストを見ながらTシャツを受け取る。
(は、恥ずかしいけど、触られるよりはいいわ!)
 その思いだけで再び駆け出す。
「あっ、悠里ちゃんだ!」
「うわぉ、しかもブラ丸出し! 色っぽ過ぎるっしょ!」
 しかしまたも村松と出山のコンビに遭遇し、慌てて方向転換する。
(なんで、なんで私だけこんな目に・・・)
 後ろを振り返りながら走っていた悠里は、竹田の胸の中に飛び込んでしまった。
「いらっしゃい、悠里ちゃん。自分から来てくれるなんて、嬉しいなぁ」
 早速竹田の手がバストに伸びてくる。
「待って! これを・・・これを渡すから!」
 必死に竹田の胸板を押しのけながら、悠里は自分のズボンに手を掛けた。
「待てって言われても・・・ああ、そういうことね」
 セクハラを拒むため、悠里はとうとうジャージズボンまで差し出す羽目になった。
(恥ずかしいけど、触られることに比べたらまだマシよ!)
 Tシャツとズボンを脱いだ悠里は下着姿になってしまった。竹田の好色そうな視線から目を逸らし、胸元を隠しながら走り去る。
「またね、悠里ちゃん」
 竹田の言葉に耳を塞ぎ、悠里は必死で走った。

(こ、ここまでくれば・・・)
 荒くなった呼吸を静め、汗ばむ身体をマネキンたちの群れの中に置く。出山・村松組と竹田から交互に狙われ、逃げ回ったお蔭でかなりスタミナを消費していた。
「もう、あとちょっとしかポイントがない・・・どうしよう・・・」
 小声で呟いたつもりだったが、アパートの空間にはかなりの範囲で響いてしまっていた。
「悠里ちゃんみーっけ」
 突然肩に手を置かれる。
「ひっ!」
 振り向いた視線の先には、竹田のにやけ面があった。
「もう差し出せる服もないね。それじゃ、遠慮なく」
「そんな・・・いやぁっ!」
 竹田の手がブラに包まれたバストだけでなく、秘部にまでも伸びる。
「そ、そんなとこまで!」
「1分間好きにできるってルールなんだから、どこ触ってもいいんだよ」
 またも竹田に捕まり、下着姿でセクハラされる悠里の姿は男の興奮を誘うものだった。
「うわー、見てるだけでエロいねムッちゃん」
「そうっすね出山さん。僕もう堪んないっすよ」
 竹田から責められる悠里の姿に、出山、村松の二人は生唾を飲みながら見入っていた。

『1分の拘束時間終了。守下悠里を解放せよ』

 スピーカーから放送が流れ、竹田が未練たらたらの様子で悠里から離れる。しばらく蹲っていた悠里だったが、やがてのろのろと起き上がり、男達から離れていった。


『20分が経過した。『追跡者』を追加する』

 また新たな「追跡者」が追加された。今度は二名。
 一人は井田へちま。かつて芸能界一の俊足を謳われた男だ。
 もう一人はバッキー。運動神経抜群のお笑いタレントだ。
 二人は厭らしい笑みを浮かべ、犠牲者を求めてフロアの探索を始めた。


「待ってよ悠里ちゃん、いいことしようよ!」
「そうだよ、優しくするから!」
 悠里は再び出山と村松から追いかけられていた。最後の力を振り絞って両足を必死に動かす。左右のバストが揺れる様が実にエロティックだった。
(もうポイントが少ないわ、なんとか逃げなきゃ!)
 何度か捕まったためポイントが一桁しか残っておらず、今捕まれば失格になってしまう。必死に逃げる悠里に、二人の中年タレントの顎が上がり始めた。
「はっ、はっ・・・はぁぁ、も、もう駄目」
「あ、あともうちょっとだったのに・・・」
 とうとう二人ともその場に蹲ってしまう。
(よかった、逃げ切れた!)
 出山と村松の動きが止まったことを確認した悠里は、スピードを緩めた。あと少しだけ距離を取り、隠れて休もう。そう思って前方を向いたとき、ツルツルに剃り上げられた頭部を持つ小柄な男の姿があった。
「うわ、色っぺぇ。悠里ちゃん、そんな姿で逃げてたの?」
 先程投入されたばかりの井田だった。
「そんな!」
 慌てて方向転換しようとした悠里の視界に、おかっぱ頭で濃すぎる顔の男がいた。
「もう逃げられないよーん」
 お笑いタレントのバッキーだった。
 前に井田。後ろにはバッキー。最早逃げ場はなかった。逃げられないと悟ったとき、今まで走り続けた疲労が悠里を襲い、床にぺたりと座り込んでしまう。
 井田とバッキーは同時に悠里を押さえ込んだ。

『守下悠里のポイントが0となった。よって、守下悠里を失格とする』

 スピーカーからの声が無情に告げる。その途端、井田とバッキーが悠里の下着を剥ぎ取った。
「な、なにして・・・」
「悠里ちゃん、失格になったんだよ。てことで、これからは俺らの好きにさせてもらうよ」
 言うが早いか、井田は悠里の秘裂にむしゃぶりつく。
「でっかいねー。これって何カップ? うわ、柔らかさも堪んないね!」
 バッキーは悠里のGカップバストを掴み、捏ね回す。
「いや、こんなの、こんなの・・・!」
 悠里は必死に手足をばたつかせるが、男二人に押さえ込まれてはそれも無駄な抵抗だった。バッキーに乳房を揉まれ、井田に秘部を舐め回される。嫌悪感だけが悠里を襲った。
「いやぁぁぁっ!」
 悠里の悲鳴は、デパートに虚しく響いた。

 この光景を目撃していた「逃亡者」がいた。
「私・・・私、投降します!」
 愛里だった。あんな目に遭うくらいなら、60ポイント以上稼いだ今の時点で投降したほうがいい。愛里の不安は「折檻」の内容だったが、そこまで酷いことはないだろうと自分を誤魔化し、投降を宣言した。

『仲島愛里の投降を認めた』

 スピーカー越しに声が響き、投降した愛里のもとに汗だくの村松が現れる。
「それじゃあ愛里ちゃん、行こうかぁ」
 村松の愛想笑いは、愛里の心を逆に不安にさせた。

 愛里の連れて来られたのは、元は会議室とおぼしき部屋だった。今は机も椅子もなく、殺風景な空間となっている。
「それじゃ、一応生き残ったってことで、記念撮影するからね」
 村松から記念写真を撮ると言われ、素直にそれを信じてしまう。
「それじゃあ、ここに立って。あと、万歳して」
「わかりました」
 疑う様子もなく命じられた場所に立ち、両手を高く上げた愛里だったが、なんと背後の柱の裏から鉄線が伸びて愛里の胴・両腕・両脚を巻き、身動きできなくしてしまう。
「な、なんですかこれ!」
「なにって、『折檻』が始まるんだよ。抵抗されたら困るから、こうするんだってさ」
「や、いやっ!」
 振り解こうとした愛里だったが、鉄製の輪はびくともしなかった。両腕を頭上高く上げさせられ、身を捩るしかできない。
「えへへ・・・磔にされた愛里ちゃんの姿、そそられちゃうな。それじゃ、ゲーム終了まで仲良くしてね」
 村松は愛里の頬をぴたぴたと叩くと、Tシャツを盛り上げ、存在感を示しているFカップバストを撫でる。
「うわ〜、やっぱグラビアアイドルのおっぱいっておっきいね! でも、僕には負けるかな」
 かなり失礼なことを言いつつ、愛里のバストを揉み始める。
「やっ、触らないで、こんなのおかしいわよ!」
「でも、ちゃんとルールに書いてたでしょ? 投降したらゲーム終了まで折檻されちゃう、って。あと10分もないんだから、お互いに楽しもうよ」
「楽しめるわけなんて・・・あぁっ、いやぁっ!」
 そこに突然、新たな人影が現れた。
「おいおいムッちゃん、俺も呼んでよ〜。こんな楽しいこと、独り占めはやばいっしょー!」
 出山だった。
「しょうがないなぁ、出山さんは。それじゃ、二人でバウバウしますか!」
 村松は少し脇に退き、出山のスペースを作る。
「悪いねムッちゃん。うわぁ、可愛い子って、汗の匂いまでいい匂いだ」
 出山は愛里の匂いを嗅ぎ、うっとりとなる。
「出山さん、匂いなんてあとあと。先にこっちを・・・」
 村松はTシャツを捲くり上げ、ブラを露出させる。
「きゃっ!」
「愛里ちゃん、かわいいブラしてるね」
「でもムッちゃん、もうあんまり時間ないよ。ここは、こうっしょ!」
 出山はすぐにブラもずらしてしまう。
「きゃぁぁぁっ!」
 乳房までも剥き出しにされ、愛里が悲鳴を上げる。必死にもがくが拘束は外れず、乳房を揺らすだけになってしまう。
「揺れてますね出山さん」
「揺れてるねムッちゃん」
 男二人は目の前で揺れるFカップバストに眼を奪われてしまう。

『残り5分、残り時間は5分となった』

 デパート中に残り時間を告げる放送が響く。
「もう堪らん!」
「いただきまーす!」
 村松と出山は同時に乳首に吸いつき、甘噛みし、舌で転がす。
「やめて、触らないでよ変態! いやぁぁぁっ!」
 かつての会議室に、愛里の悲鳴が響き続けた。


 残り時間が5分となり、最後の「追跡者」が追加された。
 一人は沼谷兄。元体操選手で、オリンピックでメダルを獲得したこともある。
 一人は沼谷弟。兄と同じく元体操選手で、身体能力だけ見れば兄をも超える。
 ただ一人残った奈南の姿を求め、沼谷兄弟はフロアを駆けた。


(後は私だけか・・・絶対逃げ切って、賞金全額持って帰ってやるんだから!)
 放送により、悠里が失格、愛里が投降でゲームから脱落したことはわかっている。
(ということは、残った私に七人掛かりか。結構きついわ)
 奈南は知らなかったが、村松と出山は愛里に折檻中で、井田とバッキーは悠里にセクハラ中のため実質「追跡者」は三人だった。それを知らない奈南にはプレッシャーだけがかかった。

 しかし、何故この「エスケイプ」というゲームにグラビアアイドルでもない谷邑奈南が含まれているのか。それは、かつて奈南が受けたセクハラオーディションに原因があった。奈南が大暴れしたときのオーディションの社長が、プロデューサーKと知り合いだったのだ。その裏の繋がりが、奈南を淫らな罠へと導いた。

(どうしようか・・・時間まで隠れてやり過ごすか、ひたすら逃げ回るか)
「奈南ちゃんみーつけた!」
 迷っていた奈南を最初に発見したのは竹田だった。
「しまった!」
 奈南は機敏に反応し、もう動くこともないエスカレータを駆け上がる。しかし、その足が突然止まった。
「この子か、最後の生き残りは」
「ヘマすんなよ、兄貴」
 目の前には最後に追加された「追跡者」・沼谷兄弟がいた。
「挟み撃ちだよ奈南ちゃん。もう諦めたら? 今降参するなら、優しく責めてあげるから」
 追いついてきた竹田の言葉に、奈南が切れた。
「・・・捕まらなきゃええんやろ!」
 奈南はいきなり後方を向き竹田を飛び蹴りで蹴倒す。現役時代は俊敏な動きを見せたJリーガーと言えども、四十代の今では現役時代とは比べるべくもなかった。鼻血を噴き出しながらエスカレータを転がり落ち、そのまま完全に伸びてしまう。
「こいつ!」
「抵抗するか!」
 予想外の反撃に、沼谷兄弟の表情が引き締まる。奈南を追ってエスカレータを飛ぶように降り、その背中目掛けて走る。
(まずい、こいつら足が速い! なら!)
 奈南は手近にあったマネキンを抱え込み、タイミングを計る。
「せぇぇぇいっ!」
 間合いに入ったと見るやマネキン人形を振り回し、沼谷兄を吹き飛ばす。
「お前もや、覚悟せぇ!」
 そのまま沼谷弟にも殴りかかるが、沼谷弟は素早いフットワークでかわしていく。
「ちっ、逃げんなや!」
「勝手なこと言ってんなよ」
 沼谷弟も反撃しようとするが、奈南の無茶苦茶な攻撃になかなか隙を見つけられない。膠着状態を破ったのは、マネキンのダメージから回復した沼谷兄だった。
「このアマ・・・ふざけんじゃねぇっ!」
 沼谷兄の手加減抜きのキックが、横合いから奈南の脇腹を抉った。
「あ・・・げはっ」
 膝をついた奈南の後頭部に、沼谷兄の追い討ちの一撃が入った。それを意識する間もなく、奈南は失神した。

「ってぇ・・・」
「大丈夫かよ兄貴」
 たいして心配していないような口調の弟など見向きもせず、沼谷兄は失神している奈南を睨みつけた。
「よくも人をマネキンみたいな固いので殴ってくれたな。もうルールなんて関係ねぇ、このまま犯してやる!」
 沼谷兄は奈南のTシャツを破り、ブラを露出させる。
「犯すって・・・おい兄貴、まずいって」
「いいんだよ、裏じゃ皆やってることだ!」
 兄は弟の言葉も聞き入れず、奈南のジャージズボンも破くようにして脱がしてしまう。
「ますは素っ裸に剥いてやる。それからじっくりと犯してやるぜ」
 徐々に露わになっていく奈南の肢体に舌舐めずりしながら、沼谷兄は乱暴に下着を剥いでいく。ブラのホックを外し、ブラを腕から抜き、パンティを一気に下ろして脱がす。服の残骸と靴のみを身に着けた奈南の姿は、男の欲望をそそった。
「なあ兄貴、すげぇおっぱいしてるなこの子」
「これで歌手なんだから勿体ないよな。だが見てるだけってのも勿体ないな」
 どちらからともなく手を伸ばし、奈南のGカップバストに触れる。そこから本格的に楽しもうとしたとき、スピーカーから指示が出た。

『1分の拘束時間終了。谷邑奈南を解放せよ』

「兄貴、時間切れだ。この子を放して・・・」
「関係ねぇ! 言っただろ、犯さなきゃ気が済まねぇんだよ!」
 沼谷兄は奈南の乳房を揉みくちゃにしながら喚く。

『1分の拘束時間は終了した。谷邑奈南を解放せよ』

 再度スピーカーからの指示が飛ぶ。
「兄貴・・・!」
「うるせぇ! こいつを犯したら解放してやるよ!」
 弟の声にも耳を貸さず、沼谷兄は奈南の身体から離れようとしなかった。

『指示に従わない『追跡者』は粛清される。『処刑人』、出番だ』

(『処刑人』?)
 自分達「追跡者」にも伝えられていない単語の不吉な響きに、沼谷弟は寒気を覚えた。
「へへ、綺麗なアソコしてるじゃねぇか。突っ込んだときの感触はどうなんだろうな」
 沼谷兄は奈南の脚を開き、秘部に見入っていた。舌舐めずりすると、いきなりむしゃぶりつく。
 そこに、足音もなく男が現れた。黒いTシャツにジャージ姿。なんの変哲もない格好なのに、薄暗い照明の下ではまるで地獄の使者を思わせた。
「な、なんだお前・・・」
 目の前の男が発する暴の匂いに、沼谷兄は言葉を失った。
 服が内側からはちきれそうな肉体だけでも怯むのに、男の頬には数条の傷が走り、それが引き攣れて異相となっている。顔以外にもあちこちに傷が走り、Tシャツから伸びた腕は筋繊維を束ねたようだった。身長も並の男性より遥かに高い。男の肉体にはタレント風情のものではない、本物の迫力があった。
 男は言葉を発することもなく、沼谷兄の首根っこを掴み、軽々と持ち上げた。
「うげぇぇっ!」
 突然沼谷兄が絶叫する。男のボディブローだった。沼谷兄の体が宙に浮き、床に落ちる。腹部を襲う激痛に、沼谷兄が悶絶する。
 男は沼谷兄の喉を掴み、一気に持ち上げた。そのまま床へと叩きつける。後頭部から固い床に落とされた沼谷兄は白目を剥き、ただ痙攣するだけだった。
 人一人を容赦なく叩きのめしたというのに、男の表情は感情というものを感じさせなかった。
「テメェ、よくも兄貴を!」
 目の前で兄を半殺しにされた沼谷弟が男に殴りかかる。背中に強烈なパンチを入れたものの、男は小揺るぎもしなかった。
(痛ぇ・・・なんだこいつの体)
 それどころか、殴った沼谷弟の手のほうに痛みが走る。
 男が沼谷弟を向いた。その無表情な目に、沼谷弟は気圧されていた。
 いきなり男の手が伸びる。
「ちっ!」
 気づくと同時に素早くかわす。否、よけた筈の男の手が、沼谷弟の手首を掴んでいた。
「なっ・・・!」
 驚く間もなく、男に引き込まれる。自分の視界で大きくなる拳が、沼谷弟の最後に見たものだった。

 僅かの間に沼谷兄弟を「処刑」した男が、未だ気絶したままの奈南を見下ろす。その胸は呼吸に合わせて小さく上下し、微かに揺れている。
 その胸の動きに誘われたように、男は奈南の上にしゃがみ込んでいた。ごつい手で奈南の乳房を掴み、捏ね回す。

『『処刑人』、『逃亡者』には手を出すな』

 スピーカーからの指示に、男は名残惜しげに奈南から離れた。沼谷兄弟の脚を一本ずつ持つと、引きずりながら姿を消した。

「あいたたた・・・うえ、鼻血が出てるよ」
 竹田が意識を取り戻したのは、「処刑人」が姿を消してすぐだった。辺りを見回し、失神している奈南に気づく。
「奈南ちゃん裸だ! 気も失ってるし・・・これはいただくしかないでしょう!」
 竹田は奈南に圧し掛かり、乳房を揉み始めた。

『30分経過。『エスケイプ』を終了する』

 無情な放送に、竹田が肩を落とす。
「そんなぁ、折角これからだったのに」
「・・・なにがこれからなんや?」
 失神から覚めた奈南と竹田の目が合った。
「こんの、ドスケベがっ!」
 奈南は竹田の頭を掴み、頭突きを入れた。
「あぶふっ」
 強烈な一撃に、竹田は再び鼻血を吹き出した。
「人をスッポンポンにしてくれよって・・・」
「え、ちょっと待って、それは俺じゃ」
「こんなもんじゃ済まんでっ!」
 自分を裸に剥いたのが竹田だと信じた奈南は、全く容赦しなかった。竹田の頬を張り飛ばし、倒れた竹田の髪を掴んで引き起こすと往復ビンタをかます。
「ま、待って、本当に、僕じゃ、ない、んだ!」
 頬を張られながらも言い募る竹田だったが、奈南の肘打ちに悲鳴を上げて蹲る。しかしそれでも奈南の攻撃は止まず、竹田の背後からスリーパーを極める。
「あ・・・ぐ・・・」
 最後には竹田が失神し、奈南は漸く攻撃を止めた。
「そういや、あの兄弟がおらんな。逃げよったな!?」
 奈南はまだ血走った目で周囲を睨み、沼谷兄弟の姿を探した。
 裸の美女が鋭い目つきで辺りを睥睨する様は、まるで「鬼女」のようだった。


第一回「エスケイプ」 結果

 守下悠里、失格。ポイントなし。
 仲島愛里、投降。66ポイント獲得。
 谷邑奈南、逃亡成功。74ポイント獲得。

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