【グラビアファイター Ｃｈｉｔｏｓｅ！ 其の五】
「蔓谷千歳」。１８歳。身長１６０ｃｍ。スリーサイズはＢ８７（Ｅカップ）・Ｗ５９・Ｈ８６。
肩より少し長い髪にブリーチを入れ、目は切れ長で睫毛が長い。絶世の美女というわけではないが、笑顔が可愛い美少女だ。活発な少女で、小学校と中学校ではサッカークラブに所属し、男子に混じって活躍した。高校生になるとキックボクシングを習い、しかもグラビアデビューを飾っている。グラビアでのスリーサイズは公称でＢ８８（Ｅカップ）・Ｗ５７・Ｈ８６ということにされている。
千歳は小さい頃から芸能界に憧れ、１７歳のときに「Ｃｈｉｔｏｓｅ」という芸名でグラビアデビューを飾った。現役女子高生というステータスも受け、忙しい日々を送った。
しかし、卒業してからは鳴かず飛ばずだった。
グラビアアイドルと名のつく芸能人は星の数ほどおり、しかも時が経つごとにその数は増えていく。思っていたほどに仕事は来ず、アルバイトの合間にちょこちょこと小さな仕事が入るだけだった。
それでも諦めずに頑張る千歳にとって、＜地下プロレス＞は絶好のアピールの場だった。
＊＊＊
千歳にとって、今回は＜地下プロレス＞四戦目となる。ガウンを纏って廊下を進み、会場に足を踏み入れる。
その途端、見たくもない相手を見つけてしまった。
「あっ・・・清音！」
「清音さまとお呼び！」
そう居丈高に返したのは「鞍元清音」。１９歳。身長１７１ｃｍ。スリーサイズはＢ９６（Ｈカップ）・Ｗ６４・Ｈ９５（公称ではＢ９６（Ｈカップ）・Ｗ５９・Ｈ９５）。ソバージュを入れた髪を金髪に染め、いつも挑戦的な表情であることからファンには「清音さま」と尊称されている。ダイナマイトボディと毒舌を武器に、現在も深夜番組などで活動している。
元ヤンキーであることは公然の秘密で、性格の悪さも広く知られている。そのためか、従姉妹に本物のＳＭの女王様が居る、という噂まであるほど。千歳もその親友のシーナも清音とは仲が悪く、会えば舌戦を繰り広げる。
「相変わらず礼儀を知らない小娘ね。育ちが悪いったらないわ」
「あんたに言われたくないわよ！ ヤンキー上がりのあんたなんかにはね！」
「相変わらず捏造が好きね。スキャンダルを作って私を陥れようなんて、心の根っこから腐ってるわ」
「お生憎さま、たとえ腐っててもあんたよりはマシだから」
二人の言い合いは放っておけばどこまででも続きそうだったが、レフェリーが割って入って中断させる。千歳と清音はお互いに睨み合った後、「ふん！」とそっぽを向いた。
「・・・あれ？ そういえば、リングは？」
千歳の疑問どおり、今回はリングではなく、レスリングマットが敷かれているだけだ。
「今試合は、ランバージャックデスマッチで行います！」
千歳の疑問に答えたのは、場内に流れたマイク放送だった。
＜ランバージャックデスマッチ＞。
殴り合いでの決闘の際、周囲に人垣を作り、逃亡しようとした決闘者を押し戻す形式を言う。完全決着がついたときにだけ、勝負は終わりを告げるのだ。
気づけば、レスリングマットの周囲には２０人以上の男が集まっていた。全員が覆面で顔を覆い、にやけた表情を隠している。
「なるほど、そういうこと」
壁役の男達。覆面から覗くその表情。何を目的に配置されているのかは明らかだ。千歳は眉を顰め、清音は何かを企むように唇の端を上げた。
「赤コーナー、『クラッシュクイーン』、鞍元清音！」
自分の名前がコールされると、清音がガウンを脱ぎ捨てた。清音が身に着けていたのは真紅のビキニで、Ｈカップのバストが形作る谷間に男性陣の視線が釘付けになる。注目が集まったことで満足げに頷いた清音は、男達と観客に向かって拍手を煽った。清音の動作に従い、拍手と「き・よ・ね！」コールが巻き起こる。
「青コーナー、『スターダスト』、Ｃｈｉｔｏｓｅ！」
千歳がガウンを脱ぎ捨ててスカイブルーの水着を披露すると、「き・よ・ね！」コールに負けないほどの「ち・と・せ！」コールが起こる。＜地下プロレス＞では四戦目となる千歳に、固定ファンも付いたようだ。
「千歳のくせに生意気ね」
これが気に入らなかったらしく、清音は親指の爪を軽く噛んだ。
男性レフェリーが千歳と清音を呼び寄せ、諸注意を行ってから一度二人を分ける。
「ファイト！」
＜カーン！＞
レフェリーの合図でゴングが鳴った。
「さてと。どう料理してあげようかしら？」
キックボクシングの構えを取った千歳に対し、清音は余裕の表情だった。染めた金髪をかき上げ、胸の下で腕組みする。Ｈカップのバストが作る谷間がより深さを増し、壁役の男達と観客の視線を独り占めする。
（まったく、相変わらず男の視線を集めないと気が済まないんだから）
清音の余裕と腕組み行為に、千歳は不快感と微かな不安を感じていた。
「ええいっ！」
それでも気合いと同時に前に出る。鋭いミドルキックを繰り出す千歳だったが、清音もしっかりガードしている。
「危ないわね、いきなり蹴ってくる？」
「もう試合は始まってるのに、とぼけたこと言わないでよ！」
そう返した千歳だったが、清音の崩れない余裕に苛立っていた。
「えいやっ！」
そのためか、フェイントもなしに大振りのハイキックを放ってしまう。
「見え見えなのよ！」
身を沈めた清音が、千歳の軸足を両手で刈る。
「あっ！」
気づけば清音に押さえ込まれていた。体格に勝っている清音に押さえ込まれると、ただでさえ寝技が苦手な千歳に返す術はなかった。
「ふぅん。私ほどじゃないけど、そこそこ大きいわね」
清音は千歳のバストを弾ませ、揉む。
「んな、なに触ってるのよ！」
「あら、まだ口の利き方がわかっていないようね。そんな生意気な小娘には、罰を与えなきゃ！」
意地の悪い笑みを浮かべた清音は、千歳の水着のブラに手を掛けた。
「やめなさいよっ！」
それを止めようとした千歳の手が偶然清音の手を引っ掻く。
「痛っ・・・このっ！」
その痛みに清音の顔が強張り、千歳の頬を張り飛ばす。
「あぐっ！」
甲高い音が鳴ったが、清音は手を緩めなかった。まるで猫が鼠をいたぶるように、千歳の頬をはつっていく。
「ほら、泣いてみなさいよ。泣いて私に謝りなさい、『清音さま、申し訳ありませんでした』ってね！」
「誰がそんなこと・・・っ！」
反論しようとした口元が張られる。
「ほら、泣きなさい、泣きなって！」
次第に清音の声が高くなっていく。
（絶対、泣いてなんかやらないんだから！）
意地を視線に込め、清音を睨む。
「ふぅ、強情な小娘ね」
千歳があくまでも泣くのを拒むと判断した清音は、一度ため息を吐いた。
「なら、こうよっ！」
清音の拳が千歳の鳩尾を抉った。
「がっ、ごほっ！」
強烈な一撃に、千歳が咳き込む。
「さて、と。それじゃ皆さん、サービスのお時間よ！」
千歳を無理やり立たせた清音は、周囲を囲む男達に流し目を送る。その意味に気づいた覆面男達は、両手を上げて歓声を上げる。
「それじゃあ、どこにこの小娘を投げようかしら？ こっち？ それともこっち？」
男達は自らの方に呼び込もうと必死にアピールする。清音は自分の右側に向きを変え、艶然と微笑む。
「決めたわ。こっちに・・・！？」
千歳を男達の壁に投げようとした清音だったが、突然背中を押されたことで自分が男達の中に突っ込んでしまう。
「人を甘く見すぎよ！」
痛みを耐えていた千歳だった。清音の隙に付け込み、後ろから体当たりをかましたのだ。千歳ではなく清音が飛び込んできたことで驚いた男達だったが、すぐに獲物を押さえつけ、自らの欲望のままに手を伸ばす。
「ちょっと！ 私を誰だと思ってるのよ！」
そう叫ぶ清音だったが、何人もの男に押さえ込まれては跳ね返すこともできなかった。Ｈカップのバストを揉みくちゃにされ、迫力あるヒップも鷲掴みにされ、揉みしだかれる。
「あっ、こら！ そんなとこまで！」
それどころか女性の秘部にまで男の手は伸び、水着の上から乱暴に弄ってくる。
（うっわぁ・・・清音とは言え、さすがに可哀想）
憎らしい相手だとは言え、同じ女性が嬲られる姿を見ているのは気持ちいいものではなかった。
（で、でも、あいつに同情なんてするだけ無駄だもん！）
無理やり感情を納得させた千歳の目の前で、いきなり男の一人が吹っ飛んだ。
「・・・やめろっつってんだろうが！」
清音の強烈な蹴りだった。押さえつけられた状態から大の男を蹴り飛ばした迫力に、他の男達の動きも止まる。
「いつまで乗ってやがんだコラァッ！」
その隙に男達を殴り、張り倒した清音が立ち上がった。未練がましく手を伸ばそうとした男の顔面に容赦なく蹴りを入れ、唾を吐く。
男達を薙ぎ倒した清音が、乱れた髪を手櫛で直しながら千歳の前に立った。
「千歳ぇ・・・テメェの所為で恥かいちまったじゃねぇか。どう落とし前とってくれんだ？ アァ？」
「地が出たわね、清音。こっちこそこれまでの恨み、しっかり晴らさせてもらうわ！」
頬の痛みが怒りを掻き立てる。
「ええいっ！」
ワンツーからミドルキック。千歳の得意なコンビネーションだったが、清音には通じなかった。
「オラァッ！」
千歳がミドルキックを放った瞬間、清音の喧嘩キックが千歳の腹部を抉っていた。
「ごほごほっ、えぐぅ・・・」
カウンターでの一撃は強烈だった。ダウンまではしなかったものの、お腹を押さえた千歳は立つことしかできなかった。
「もうおしまいかよ、弱ぇなぁ」
嘲笑った清音が、千歳の頬を音高く張る。よろけた千歳の胸元を守るブラを掴むと、一気に毟り取った。
「ほぉら、おっぱい丸出しだ！」
「あっ！」
伸ばした手も間に合わず、千歳のブラは清音の手に移っていた。
「いい気味だぜ」
清音は剥ぎ取った千歳のブラを男達の中に放り込む。たちまち争奪戦が始まり、ブラは幾片ものぼろ布へと化してしまった。
「これくらいで終わったと思うなよ！」
喧嘩キックで千歳を蹴倒した清音が、嗜虐の笑みを浮かべて千歳を見下ろす。
「こっちも脱がしてやるよ！」
清音の手が千歳のボトムに掛かり、一気にずり下ろす。
「こんのぉっ！」
羞恥を怒りが上回った。千歳は清音の顔面を蹴り飛ばし、清音の手が離れたところで、素早くボトムを元に戻す。
「テメェ・・・よくも人の面に蹴りくれやがったな！ もう許さねぇ！ 全裸にするくらいじゃ済まさねぇぞ！」
清音は蹴られた鼻を拭い、咆える。
「うるさい！ 許さないのはこっちよ！」
右手で胸元を隠しながら立ち上がった千歳が、瞳に宿した諦めない光で清音を刺す。
「はん、こっちに一撃も入れられねぇクセに、口だけはいっちょ前だなぁおい」
清音の表情に余裕が戻る。自分でも言ったとおり、千歳の攻撃は清音に当たっていない。しかもブラを奪ったことで、千歳は片手を胸を隠すことに使っている。
（今度は腹パン入れて、すっぽんぽんにしてやるか）
千歳を辱める方法を思い描き、清音の口元に笑みが浮かぶ。そこに、鋭いワンツーが襲いかかった。
「こいつ！」
千歳が胸元を隠すのをやめ、両拳を時間差で繰り出したのだ。
（ワンパターンめ！）
ここからミドルキックに来る筈。千歳の左足の初動を見てガードを固めた清音だったが、いきなり膝に痛みが奔った。
「ぐあっ！？」
千歳はミドルキックではなく、急激に軌道を変えたローキックで清音の左膝を内側から抉っていた。
清音の動きが止まったのは一瞬だったが、次の瞬間には千歳の踵が清音の顔面に食い込んでいた。シーナ譲りの胴回し回転蹴りを、千歳が至近距離で放っていたのだ。
「レフェリー！」
崩れるようにダウンした清音を押さえ込んだ千歳が、レフェリーを呼び込む。
「ワン！ ツー！ スリーッ！」
＜カンカンカン！＞
カウントが３つ取られ、千歳の勝利が確定した。
「やった・・・ととと」
前の試合のようにまた万歳しそうになり、千歳は慌てて胸元を隠した。周囲の男達から飛ばされる視線を、鋭い視線で撃墜する。
「んもう、あちこち痛いのもこんな恥ずかしい思いしたのも、全部あんたのせいよ！」
千歳は失神した清音の体を起こそうとしたが、あまりの重さに諦める。代わりに清音を転がし、男達の壁へと放り込む。
「これで少しは反省しろっ！」
千歳の突きつけた指の先で、男達が清音に圧し掛かって行った。
「んっ・・・んぁっ？」
男達に身体を弄られる刺激に、閉じていた清音の目が開く。
「なっ、なにやってんだ！」
清音の叫び声など気にも留めず、清音の肢体に群がった男達は、バストと言わずヒップと言わず好き勝手に手を伸ばす。特に先程清音からきつい攻撃を貰った男は、お返しとばかりに力を入れて弄る。
いつの間にか水着も剥ぎ取られ、清音は全裸にされていた。
「ちょっと、なんてことを・・・！」
強気が売りの清音と言えど、全裸で男達に触られることで羞恥が込み上げた。何本もの手や腕が自らの胸や太もも、尻を這い回る。
「やめて、そこは駄目！」
遂には直接秘部にまで責めが始まった。
「いやだ、やめてよっ！ 駄目ぇっ！」
清音の悲鳴が聞こえた瞬間、千歳はダッシュしていた。
「・・・そこまでっ！」
幾ら憎たらしい清音と言えども、同じ女性として辱められる姿は正視できなかった。（その原因は千歳本人にあるのだが）
清音に圧し掛かった男達を一人一人蹴り飛ばし、その手を掴んで立ち上がらせる。
「逃げるわよ、清音！」
「・・・ふん、お礼は言わないわよ」
そう言いながらも清音は千歳の手を振り払おうとはせず、胸を隠しながら内股で退場していった。