第二話 強いだけじゃダメ
 
ドスン
マイクが転がり落ちる。
司会の広未亮子が割って入ろうと焦るあまり、マイクを落としてしまったのだった。
亮子が慌てて拾い上げる間に、仲村と伊子原がそれぞれ香藤と深多を後ろから抱き抱え止めようとする。
「二人ともやめて。決着はリングの上でつけなさい」
芸能界の先輩である亮子に言われては…
香藤は顔をひきつかせながら着席した。
対して、響子は何事もなかったように、ニコッと笑いながら正面をむく。
 
「次は響子のしゃべる番ね。
私も愛ちゃんと同じでえ、ドラマの中で、俳優さんがボクシングやっているのを見たことかあります。
それを機に、ちょくちょく健康のためにボクササイズをやってるんですよー。」
「ダイエットのためじゃないの?」
愛のボソッとした一声に、横にいた仲村はまた肝を冷やした。
が、響子は聞こえなかったのか、そのまましゃべり続ける。
だから自分で言うのもなんですけど、私、強いんじゃないかなって。
たぶん前世はボクシングチャンピオンだったのかも
「あのー響子ちゃん、そろそろ、時間が
しびれを切らした亮子が延々と続く長い話を止めに入った。
 
「えっーもう終わり?
じゃ、最後に一つだけ。
コホン、私、絶対に、優勝しまーす。」
空気を読まない不思議ちゃんの発言に、会場がどんびきし、会場中が静まり返ったが
 
圧倒的なマイナス温度の中、深多と同じ事務所の伊子原が静かに口を開いた。
「時間も押しているそうですし、私も一言だけ。」
一瞬息を飲み込むと、自分が出演しているCMと同じセリフを言い放つ。
「強いだけじゃダメ
すいません、言えって言われてたんで。」
頭をかき決まり悪そうな顔をする伊子原に会場はわき、和んだ雰囲気になった。
亮子もほっとした表情をし、そのまま組み合わせの抽選に入る。 
ではトーナメントの組み合わせを決めたいと
この箱の中には赤と青のボールがそれぞれ2つずつあり、番号が書いてあります。
話をした順に前に出て、箱の中のボールを一つ取ってください。
ええと、まずは華緒璃ちゃんから」
 
 おずおずと進み出た仲村が箱の中に手を入れる。
「これは青の一番ですね」
亮子がトーナメント表の最初の欄に仲村の名を書き入れる。
「次は愛ちゃん。どうぞ」
あいかわらず、厳しい顔をした香籐がゆっくりとボールを掴み出す
と、それはまた青色のボールだった。
「番号は三番ですね。
ということは…これで仲村選手と香籐選手が一回戦でぶつかることはなくなったということですね。
では次に
亮子が話を終える前に、すっと登場する深多。
 
これで少なくとも一つの組み合わせが決まる
 
緊張した顔で、思わず息を飲み込む仲村。
厳しい目で睨む香籐。
一方、深多と同じ事務所で、後輩である伊子原は複雑な顔をして見守っている。
 
当の深多は笑顔のまま、真っ赤なボールを選び出すと、高々と頭上に掲げた
 
 
 

トーナメント組み合わせ

1番 青 仲村華緒璃 VS 2番 赤 

3番 青 香籐愛    VS 4番 赤 

 

深多響子

伊子原聡美

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