某月某日都内某所。この日、芸能関係者の主催による前代未聞ともいえる一大イベントが開催されようとしていた。地下プロレスと銘打たれたそのイベントはTV等で活躍している人気女性タレントがレスラーとしてリングに上がり、レスリングを行うというものである。確かにTVのバラエティ番組の企画にも同じようなものがあるのだが、この地下プロレスはそれと一線を画するものであった。

 記念すべき第一回目となる地下プロレス興行。会場には沢山のファンが詰め掛けていた。というのも今回、こけら落しとなるこの大会に、なんとあのフェロモン女優の藤原紀華が参加するからだ。しかし、今回の興行で組まれているカードはたったの一試合。しかも発表されたカードは、
『藤原紀華 対 X 』
となっていて、対戦相手さえ詰め掛けている観衆には知らされていなかった。それでも今日ここに来ている観客にしてみれば、あくまでも紀華が目的であって、対戦相手が誰かと言う事はどうでもいい、というのが正直なところであろう。しかし問題は、観衆だけでなく、今回リングにあがる紀華自身も対戦相手を知らされていないということであった。


 初の地下プロレス興行からさかのぼる事一ヶ月程前、事務所に呼び出された紀華は
社長室に招かれ、社長から直々に地下プロレスへの参戦を命じられた。
「地下プロレス…ですか?」
「ああ。あらかじめ言っとくが、これは表沙汰になるとマズイので絶対に他言しないで欲しい。…実は今回、各界のVIPによって組織された地下プロレス組織委員会というものが発足してな。まあ、何を隠そう、私もそのメンバーなのだが…。゛キャットファイト"って知ってるか?」
「ええ、まあ訊いた事ぐらいはありますけど…」
「そのキャットファイトを、TVにでている女優やタレントにやらせて、それを見て楽しもうという、まあ金持ちの道楽といってしまえばそれまでなのだが、なにしろ会員がそれなりの地位を持った人間達ばかりだからな。金のかかり方もハンパじゃないんだ。」
「でもどうして私にその話が…」
「他の会員達からぜひ君にと頼まれたんだ。まあ本来なら君クラスのタレントがやるような仕事ではないんだろうが、君が格闘技通だって事は有名な話だからねえ。その辺の事もあってだと思うんだが、なにしろさっきも言ったように金に糸目をつけない連中だからギャラもそれ相応のモノが支払われる事になる。それに会員の中には映画界の大物もいるから、ハリウッドを目指す君にとっても悪い話じゃないと思う。まあ君もマスコミに追われっぱなしで大分ストレスもたまっているようだから、気分転換のつもりで、好きな
格闘技をやってギャラをもらうっていうのもいいんじゃないか?」
さすがに二つ返事という訳ではなかったが、社長直々の頼みという事で、紀華は地下プロレスへの参戦をOKしたのだった。


 ここは地下プロレスの控え室。紀華は社長からの預かり物という事でスタッフから渡された箱の中身を見て、愕然としていた。
「まさかこれ…。」
箱の中に入っていたのは、サンバカーニバルで身につけるような、ゴールドの極小ビキニと、同じ色のリングシューズ、そして白いバスローブだった。
『これがリングコスチュームだなんて…』
紀華の地下プロ参戦が決まるとすぐに、社長はリングコスチュームを発注し、当日会場に届くように手配した、と紀華に告げたのだ。
あまりに過激なコスチュームに戸惑う紀華。その時控え室のドアがノックされる。
「はい。」
紀華がドアを開けると、スタッフの男がいて、紀華に出番が近づいている事を告げる。
「あの…」
紀華はその場を去ろうとするスタッフの男を呼び止め、コスチュームについて尋ねた。
「はい。社長さんからお預かりしたものですが…」
紀華はそれ以上は何も言わず、男が立ち去った後、用意されたコスチュームを身に着けてみた。
『こんな格好でリングに上がるなんて…』
実際着用してみて、紀華は想像以上の過激さに言葉を失っていた。ビキニは乳首とその周辺をわずかに覆っているだけで、紀華の洋梨のような88センチのバストをほとんどさらけ出している。そしてボトムも女の秘部を最低限隠すだけにとどまり、サイドは紐のみ、うしろもTバックで、ヒップが丸出しになっている。プライベートはおろか、撮影でさえも着た事のない大胆なものである。あまりの露出度に思わず顔を赤らめる紀華。
『社長もどう言うつもりかしら…でも今更後には引けないわ!』
紀華が考えているように、ここで試合をキャンセルすると言ったら大変なことになるであろう。意を決した紀華は用意されたリングシューズを履き、バスローブを羽織る。しばらくして再びドアがノックされ、スタッフの男が紀華の出番を告げる。控え室を出た紀華は深呼吸をして、花道に向かった。

 会場は今か今かと待ち構えるファンの熱気に包まれていた。そしてリング上にリングアナが姿を現すと、観衆から歓声が沸き起こった。
「ただ今より、地下プロレス興行を開催いたします。(歓声)この記念すべき日のために芸能界を代表するフェロモンファイターが地下プロマットにやってきました。赤コーナーより、藤原紀華選手の入場!」
リングアナのコールを受け、紀華が花道に姿を現すと、観衆が大きくどよめいた。いくら参戦が発表されてたとは言え、紀華のような人気タレントがこのリングにあがるという事は、実際その目でみるまで想像できなかったに違いない。リングにむかって花道を進む紀華はまだバスローブを羽織ったままなのだが、そのバスローブの下からスラリと伸びた肉付きの良い美脚に、最前列の観衆は早くも目を血走らせている。そんな会場の異様な雰囲気を察知してか、リングに上がった紀華の表情には硬さが感じられた。

『一体どんな相手なんだろう…?』
結局、紀華には試合当日になっても対戦相手が誰という事は知らされなかった。とはいえ、紀華にしてみれば、この時点では誰が相手かということはさほど重要な問題では無かった。それよりも今自分がバスローブの下に身に着けている超過激なビキニ姿を、この会場に集まった観衆に晒さなければいけない事の方が、紀華の心の負担になっているといえる。リング上で沢山の男達の嫌らしい視線感じ、身を硬くする紀華。すぐそばにいるレフェリーとリングアナまでもが、セクシータレントのバスローブ姿に釘付けになっている。そしてついに紀華の今日の対戦相手がコールされた。

「青コーナーより、白覆面の入場です。」
『えっ?』
花道に現れた相手レスラーの姿を見て、紀華は愕然とした。
『まさか…』
紀華の対戦相手として登場したレスラーは、白い覆面を被っていた。しかし紀華が驚いたのは、その覆面レスラーがどう見ても男であると言う事だった。花道をリングに向って歩いてくる白覆面は身長が180センチぐらい、体重も100キロ位はありそうである。
『だいたい男の人と試合するなんて…』
今紀華はバスローブを身にまとっているが、その下は半裸状態の超ビキニ姿である。そんなスタイルで男性レスラーと対戦させられるとなると、例え相手が白覆面程の大男でなくとも身の危険を感じずにはいられないだろう。リングに上がった白覆面は紀華の表情がこわばるのを見て、マスクの中でニヤリと笑った。


 リングに上がった白覆面の男の正体は、格闘技評論家の谷山貞治であった。谷山は紀華と何度も格闘技の番組で仕事していて、司会の紀華が大胆な衣装を着てくる度にその豊満な胸元に熱い視線を送っていた。
 格闘技関係の仕事をしている谷山は、仕事柄いつもむさくるしい男達に囲まれている事が多く、そんな谷山にとって紀華のような美女と仕事ができることは、何よりの楽しみだったと言える。谷山は紀華と仕事をする度に、ビアホールなどでやっているローションレスリングに出て欲しい、そしてできれば自分が相手をしたい、と勝手な妄想を自分の中で膨らませていた。
 そして実は何を隠そう、谷山も地下プロレス組織委員会のメンバーの一人で、紀華の出場を真っ先に進言したのも谷山で、当然他のメンバーが異を唱える筈もなく、唯一人反対すると思われた紀華の事務所の社長でさえ、紀華のあられも無い姿を見てみたいという欲求に負け、出場を了承したのだった。
 さらに谷山は、このチャンスを待っていたとばかりに紀華の対戦相手として名乗りをあげたものの、他の会員からも紀華と戦ってみたいという希望者が殺到。混乱寸前の事態となったが、紀華の事務所の社長がその収集を買って出た。まずは紀華の出場を考えた谷山に最初の対戦者としての権利を与えた後、今後他の会員の要望にできるだけ答えられるよう、紀華を地下プロレスラーとして定期的に出場させる約束をしたのだった。そして委員会も社長を始めとした紀華サイドに高額報酬を保証することで合意し、地下プロ興行の幕があがる事となった。


 リング中央で向かい合う紀華と白覆面。女性としては大柄なほうの紀華だが、白覆面はその紀華より明らかに一回り大きい。そしてリング下には白覆面と同じような黒い覆面を被ったセコンドらしき人物がリング上を伺っている。
『セコンドまでついているなんて…』
セコンドもつかず、単身でリングに上がっている紀華はセコンドの存在に一層の不安を募らせる。実はこのセコンドも委員会のメンバーで、以前プロレス雑誌の編集長を務めていたターザン山木である。山木は谷山と紀華の対戦が決まるとすぐ、谷山のセコンドとして名乗りをあげた。谷山は同業者で親交のある山木の申し出を快諾。紀華に正体を隠す為に二人とも覆面を被る事にしたのだった。
『いいよなー!谷山かわってくれよー!』
覆面姿でリング下にいる山木はリング上の紀華を見つめながら、紀華と対戦する谷山を羨ましがっている。
そしていよいよ、リングアナが試合開始のコールを行う。

 「本日のメインエベント、シングルマッチ、60分一本勝負を行います。青コーナー220パウンド、白覆面!赤コーナー115パウンド、藤原紀華!」
リングアナにコールされた紀華は躊躇いながらも、バスローブの帯を解き、バスローブを放り投げる。リングコスチュームであるゴールドのブラジルビキニ姿を披露した紀華。その想像以上の露出度に観衆からも一際大きな歓声があがる。
『やっぱり恥ずかしいわ!』
覚悟をきめていた筈の紀華だったが、実際にこれだけ沢山の男達の目の前で素肌のほとんどを晒してしまうことがこれほどまでに恥ずかしいとは思ってもいなかった。紀華のそんな恥らう姿を見て、より一層興奮する白覆面こと谷山。レフェリーの山本大鉄が両者をリング中央に呼び寄せ、まず谷山のボディーチェックを始める。大鉄は谷山のボディーチェックを終えた後、下心丸出しの表情で紀華に近づくが、大鉄の目論見を察知した紀華は一歩下がり、大鉄にアピールする。

 「待って!見ての通りよ!凶器なんか持ってないわ!」
紀華の言う通り、どう見ても紀華のコスチュームには凶器を隠す場所は無かった。紀華にして見れば、見るからにいやらしい目付きで紀華を見つめる大鉄に体を触られたくないと言うのが本音だろう。しかし大鉄は不機嫌な表情を見せると、
「リングシューズがあるだろう!結構ここに隠す奴がいるんだ!」
と、もっともらしい事を言って紀華を睨みつける。
「でも…。」
納得のいかない表情を見せる紀華に対し、大鉄は
「なんだレフェリーに逆らうのか!」
と大声で紀華を怒鳴りつける。元レスラーだけあって175センチ、100キロの肉体を持つ大鉄の存在感に紀華は圧倒され、しぶしぶボディーチェックを受けることにした。
「最初から素直に従えばいいんだ!」
そう言うと大鉄は紀華の両肩をがっしり掴み、紀華の体を品定めするかのように、顔から順に視線を下ろしていく。そして紀華の88センチのバストを見ると、もう我慢できんとばかりに、いきなり鷲づかみにする。

「いやっ!!」
バストを掴まれた紀華は声をあげ、思わず大鉄の顔に平手打ちをきめる。
「何するんだ!」
紀華に平手打ちをされた大鉄は顔を真っ赤にして怒鳴り、紀華の両腕を掴むと、背後にいる白覆面に、
「ちょっと、君!手伝ってくれ!」
と、に声をかける。その言葉を訊いて、紀華は逃げ出そうとするものの、大鉄に捕まえられている為に身動きができない。紀華と大鉄がもみあっているところ、白覆面が待ってましたとばかりに紀華に近づいてくる。
「おい!ちょっと押さえててくれ!」
大鉄に指示された白覆面が紀華の背後に回り、紀華の両腕を抱え込むと、大鉄は無防備になった紀華のバストを両手で鷲づかみにした。
「いやああっ!」
バストを掴まれてたまらず悲鳴をあげる紀華。しかし大鉄はそんな紀華に構うことなく、両手で紀華の88センチのバストをもみ続ける。
「うーん、ここには何も隠してないなあ!」
大鉄はそう言いながら紀華のバストの感触を楽しんでいる。紀華は身を捩ってその手から逃れようとするものの、白覆面に捕まえられている為にどうする事も出来ない。白覆面はそんな紀華の様子に興奮し、ジャージの下で硬くなっているイチモツを、紀華のヒップの割れ目に押し付ける。
「ちょっと、いやああ!」
ヒップに感じたおぞましい感触に激しく身悶える紀華。しかし大の男二人につかまってしまっては、どうする事も出来ない。大鉄は紀華のバストから手を離すと、今度は紀華の太ももを、肉付きを確かめるように触り始める。ボディチェックを口実に紀華の体を触りまくる大鉄を、紀華の背後から羨ましそうに見つめる白覆面。一通りボディチェックを終えた大鉄は、白覆面が紀華を捕まえたままの状態で試合開始のゴングを要請する。

「カーン!」
ゴングがなるとすぐ、白覆面は背後から紀華のバストを鷲づかみ、こねまわすようにして紀華のバストを揉み始める。
「いやあっ、もう!」
紀華は何とか逃れようとするが、白覆面は絶対に離すものかとばかりに、紀華のバストにしがみついている。さっきまで大鉄に好きなようにされていたバストを、今度は白覆面に弄ばれている。さらに調子にのった白覆面は、左手をバストから離すと、今度は紀華のヒップを撫で回し始める。
「離しなさいよ!」
紀華はエスカレートする白覆面に声をあげて抗議するが、白覆面が当然訊き入れる筈が無い。相変わらず右手でバストを、左手でヒップを好きなように揉み続ける白覆面。
『あー、もう我慢できん!』
紀華のダイナマイトボディを楽しんでいた白覆面は紀華を強引に振り向かせ、むりやり
キスしようとするが、ここで紀華が白覆面の股間にヒザを入れる。

「ううっ!」
白覆面は予期せぬ急所攻撃にうめき声をあげ、たまらずその場にひざまずく。
「よくもやったわねー!この変態!」
紀華は反撃のチャンスとばかりに、ひざまずいている白覆面の胸板にキックを連発、白覆面をダウンさせる。ここでレフェリーの大鉄が急所蹴りを注意するが、紀華は逆に大鉄を無言で睨み返す。その迫力に圧倒され、思わず後ずさる大鉄。白覆面と大鉄に好き放題に自慢のボディを触られ、怒り心頭の紀華は、倒れている白覆面の脇腹にトーキックを叩きこむ。
「グウッ!」
脇腹への強烈な一撃に、体をくの字に曲げて悶絶する白覆面。いくら仕事柄格闘技に対する知識が豊富だと言っても、実際に格闘技をやったり、体を鍛えたりしてる訳ではない。逆に紀華は元々運動神経が抜群でジムにも欠かさず通っている上に、護身術もマスターしているので、まともにやったらただの中年である谷山には決して負ける筈が無かった。脇腹を押さえてうずくまっている白覆面を冷ややかに見つめる紀華。
『女だからって、馬鹿にしないでね!』
しかし紀華はこの時、レフェリーの大鉄がリング下にいるセコンドの黒覆面に目で合図を送っている事に全く気づいていなかった。

 白覆面をダウンさせた紀華は、早くこの試合を終わらせようと考えていた。今の白覆面の様子を見る限り、そのままフォールにいってもカウントスリーが入りそうなのだが、白覆面と体を密着させる事に抵抗を感じた紀華は、ギブアップを狙ってアキレス腱固めをきめる。しかしこの選択が完全に裏目に出る。
「ギブアーップ?」
白覆面にギブアップの確認をする大鉄。しかしまだまだ紀華と試合をしていたい白覆面は激痛をこらえ、首を振ってギブアップを固辞している。それに対し、技をきめている紀華は勝利を確信し、余裕の表情を見せている。
『完璧にきまってるわ!時間の問題ね!』 
あとは白覆面がギブアップするのを待つだけ、と考えていた紀華だが、リング内にセコンドの黒覆面が入ってきた事に気付き、その考えを打ち消す。
『ちょっと、何よ?まさか…』
どんどん自分の方に近づいてくる黒覆面にうろたえる紀華。
「ヒヒヒヒ!」
黒覆面は不気味な笑い声をあげながら、技をきめている為に無防備になっている紀華のバストを両手で鷲づかみにした。

「イヤアアア!」
いきなりバストを掴まれて悲鳴をあげる紀華。黒覆面はここぞとばかりに紀華のバストを揉みまくる。それでも技を外さないように我慢する紀華だが、それをいい事に黒覆面は紀華のバストの感触を存分に楽しんでいる。
「ちょっと反則でしょ!いやあっ!」
紀華は自分に背を向けているレフェリーの大鉄にアピールするが、大鉄は振り返ろうともしない。その間も黒覆面は紀華のバストを揉み続けている。
「もういやっ!」
執拗な黒覆面のバスト攻撃に耐え切れなくなった紀華はついに技を解いてしまう。白覆面はピンチを脱したものの、足を押さえたまま動くことが出来ない。紀華有利の状況は変わらない筈なのだが、その紀華には相変わらず黒覆面がまとわりついている。
「ちょっと、離してよ!」
紀華は何とか黒覆面を押しのけようとするが、黒覆面は紀華のバストを掴んだまま全く離そうとしない。大鉄も一応注意はするものの、強引にやめさせようとはしない。
「もう、いい加減にしてっ!」
怒った紀華は、黒覆面の顔があがったところを見計らって強烈な平手打ちをきめる。

「パアーン!」
マット上に乾いた音が響き、平手打ちをくらった黒覆面がたまらず紀華から離れ、顔を押さえてうずくまっている。ようやくバスト攻撃から脱出した紀華は立ちあがって黒覆面
に向かっていこうとするが、レフェリーの大鉄が割って入り、黒覆面をリング下に追い出す。しかしこれは乱入者を追い払うというより、黒覆面を紀華から守ったという感じ。
「おいっ!セコンドにまで手を出すんじゃない!」
「何よ!あっちが乱入してきたんでしょう!」
リング上で激しく言い合う紀華と大鉄。しかしこれは大鉄が白覆面を休ませる為の時間稼ぎであった。そんな大鉄の思惑通り、白覆面は何とか立ち上がれるようにはなったものの、紀華の予想外の強さに圧倒されている様子。
『紀華ちゃん強いよ!まともにやったらやられちゃうよ!』
普通にやっていてはやられてしまうと考えた白覆面こと谷山は、紀華が大鉄と口論しているスキをついて紀華に襲いかかった。

紀華が大鉄と口論していると、大鉄の背後から白覆面が紀華に飛び掛っていく。
『!!』
完全に不意を突かれてしまった紀華。しかし間一髪のところで白覆面をかわすと、その振り返りざまにドロップキックを浴びせる。
「グワッ!」
ドロップキックを受けてぐらつく白覆面。しかしあたりが浅かった為、なんとか倒れずに踏みとどまっていると、それを見た紀華は次の攻撃を狙ってロープに走るが、リング下にいる黒覆面が走ってきた紀華の足を掴む。
「きゃあっ!」
いきなり足を掴まれ倒されてしまった紀華。さらに黒覆面は紀華の足を引っ張ってリング下に引き摺り下ろすと、紀華の下半身に抱きつき、Tバックからむき出しになっているヒップを鷲づかみにする。
「いやあっ!」
紀華は下半身にしがみついている黒覆面の頭を押さえ、何とか離れさせようとするものの、黒覆面の指が紀華のヒップに食い込んだまま、なかなか離れようとはしない。二人がもみ合っていると、リング下に降りてきた白覆面が紀華の背後にまわり、紀華のバストを鷲づかみにする。
「こんなの卑怯よ!離して!」
自分に群がる覆面コンビに声をあげて抗議する紀華。レフェリーの大鉄もリング上から注意はするものの、場外カウントも数えず、反則を取ることはおろか、二人を止める気配すら見せない。
「あなた達恥ずかしくないの!」
リング下では紀華の抗議の声だけが虚しく響いていた。

「もう、いい加減にしてよ!」
リング下では相変わらず覆面コンビのスケベ攻撃が続いていた。白覆面に羽交い締めにされている紀華のバストを黒覆面が延々揉み続けている。ここで大鉄がそろそろリング内に戻らせようとリング下に降りて来て三人に声をかける。その時、覆面コンビの注意が一瞬紀華から逸れてしまう。それを察知した紀華は、バストを掴んでいる黒覆面に急所蹴りをきめる。
「ぎゃあっ!」
股間を蹴り上げられ、叫び声をあげる黒覆面。白覆面もその声に驚き、羽交い締めを緩めてしまう。このスキに紀華は素早くリングに戻り、白覆面が戻ってくるのを待つ。その後を追って白覆面がエプロンに上がり、セカンドロープをくぐろうとしたところ、紀華が白覆面の顔面に膝蹴りを入れる。さらに紀華は白覆面の頭を脇に抱え、リング内に引きずり込むようにDDTをきめる。白覆面はこれで完全にグロッキー状態。紀華がその腕を取り、腕ひしぎ逆十字をきめたところで、大鉄がゴングを要請する。

「4分50秒、レフェリーストップで藤原選手の勝利!」
紀華の勝利がアナウンスされると、会場からさまざまな声がとびかう。
「強えーっ!」
「もっとやってよー!」
歓声が半分、早過ぎるといった不満の声が半分といった中、リング上では大鉄が紀華の右手を高々とあげている。しかし当の紀華は喜んでいる訳では無く、憮然とした表情で大鉄の手を振り払い、サッサとリングを後にする。一方白覆面はうずくまったまま動く気配を見せない。もっと試合を見たいというファンの声もやまやまだが、白覆面の状態を見る限り試合を止めた大鉄の判断は賢明だったといえるだろう。そして黒覆面もリング下でうずくまったまま動く事が出来ない。地下プロレス旗揚げ戦は紀華の圧倒的な強さだけが目立った一戦であった。



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