プロダクションバトルその8

 
 栄子の提案で急遽始まった6人タッグ戦。
 晴美戦のダメージを抱えたまま試合に臨んだえりは、栄子達の奇襲攻撃によっていきなりダウンしてしまう。
 そんなえりを助けるべく、ブルーキャブ軍に対し互角の戦いを見せるパートナーの綾と冴香。
 そしてようやくえりが大須賀コーナーに姿を見せたところ、ここから予想もしない展開が・・・

 
 

「キョークヤマー!!!」

 「!!」

 えりの名を叫びながらリング下を走ってきたのは、前の試合でえりに敗れた根元はるみであった。はるみは素早くエプロンに上がると、コーナーで綾と話しているえりに殴り掛かっていく。


「きゃああっ!」

突然現われた乱入者に驚く綾。
はるみがえりをリング下にたたき落とすと、ブルーキャブのセコンド達が次々に集まってくる。
その中にははるみがリーダーを努めるXCTのメンバーの姿もあった。


 「おい、こいつがpeachのリーダーの局山だ!!」

 はるみがそういうと、セコンド達が次々にえりに罵声を浴びせる。


 「このパクリ野郎!!」

 「何とかクラブ31っていうのも、猛娘の偽モンだろ!!」

「大須賀は他のマネしかできねえのか!!」

そういいながらブルーキャブのセコンド達は倒れているえりに代わる代わる蹴りを入れていく。
 さっきまではえりを恐れていたセコンド達も、ダメージを抱えているえりを見て強気になっている。

コーナーの綾はあまりに突然の出来事でパニック状態になっていて、その場から動く事ができない。
すると、リング内で江利子にドロップキックをきめた冴香がこの状況に気付き、急いでコーナーに戻ってくる。


 「綾ちゃん!私がえりさんを助けに行くから!!」

冴香はコーナーでオロオロしている綾に声をかけると、綾にタッチしてリング下に下りていく。ここでようやく我に返った綾がリングインすると、今度はキャブコーナーの友美が江利子にタッチを求める。さっき綾にやられた借りをどうしても返したい様子。江利子がコーナーに戻ってタッチをかわし、リング内は再び綾と友美という顔合わせになる。


 「・・・おい、江利子!」

 相手コーナーの方に視線を向けたまま、コーナーに戻って来た江利子に声をかける栄子。栄子の視線の先には冴香とえりがはるみらXCTのメンバーとやり合う姿が。
栄子と江利子は互いに顔を見合わせニヤリと笑った後、エプロンから下りてえり達が乱闘している所に向かっていく。



えりはXCTの五十嵐結華らセコンド達に捕まり、半分リンチのような状態でやられていた。
 そしてえりを助けようとリングから降りて来た冴香も、はるみとXCTの河合かおりに行く手を阻まれている。

 「オマエらいい加減にしろよ、この野郎!!」

はるみとかおりに捕まったまま、えりを取り囲んだセコンド達に向かって声を荒げる冴香。
 するとその冴香の視線の先に栄子と江利子の姿が。


「オイ、こっちだ!!!」

栄子が声をかけると、セコンド達がふらふらになっているえりを、栄子のいる方に向かってホイップする。それと同時に栄子がダッシュし、えりにこの日2発目の豪腕ラリアットをカウンターで見舞う。


「えりさん!!」

冴香がはるみ達を押し退けて倒れているえりにかけよろうとすると、江利子が冴香の方にダッシュしてきて顔面にカウンターのビッグブーツを見舞う。


「うっ・・・」

江利子のキックはもろに冴香の顔面に直撃し、冴香はたまらずその場に崩れ落ちてしまう。


「オラ何寝てんだよ、ノッポのねえちゃん!」

はるみが倒れている冴香に罵声を浴びせ、セコンド達が冴香を両脇から抱えるようにして立ち上がらせると、はるみが冴香のボディにニーリフトを連発で見舞っていく。


「うぐっ、ううっ・・・」

はるみの重量感あふれるヒザ攻撃に苦悶の表情を浮かべる冴香。そして栄子の豪腕ラリアットを食らったえりもダウンしていて、冴香は完全に孤立無縁の状態になっている。

「はるみ!どいて!!」

背後からの栄子の声に反応してはるみが冴香から離れると、栄子がダッシュしてきて身動きできない冴香にも豪腕ラリアットを見舞う。

この一撃で冴香までもがえりに続いてダウンしてしまい、大須賀チームで元気なのは彩一人だけに。
しかしこの時リング上でファイトしている彩は、この事態に全く気付いてなかった。


リング上では綾が友美の一瞬のスキをついて飛び付き式の腕ひしぎ逆十字を極めていた。

「ぎゃあああっ!!」

友美は激痛のあまり、大声で悲鳴をあげて脚をジタバタさせている。綾の十字固めは完璧にきまっていて、脱出は困難な状態。 綾はこれでギブアップを奪おうとばかりに必死の表情で友美の腕を絞り上げている。
しかしそんな綾の頑張りに水をさすかのように、さっき場外でえりと冴香をKOした栄子と江利子、そして試合に無関係のはるみまでもがリング内に入ってくる。


「このガキー!!」

『えっ、何?!』

突然聞こえてきた栄子の声に綾が驚く間もなく、栄子が技をきめている綾の喉元にエルボードロップを落としていく。

「ぐふっ!!」

あまりの衝撃に綾がたまらず技を解くと、栄子と入れ替わるようにして江利子がハイアングルのギロチンドロップをきめる。

「ううっ・・・」

ヘビー級の技を立て続けにくらい悶絶する綾。しかしこれだけでは納まらず、はるみがダメ押しとばかりにセントーンを見舞っていく。

『あうっ・・・』

エルボードロップ、ギロチンドロップ、セントーンと、無防備の状態でヘビー級の技三連発をまともに受けた綾は、胸の辺りを押さえながら苦しんでいる。
 そしてピンチを逃れた友美はコーナーに戻り、先に戻っていた栄子とタッチをかわす。
 これで試合の権利者は栄子と綾という事になったのだが、江利子や友美、そして試合に関係の無いはるみまでもがリング内に残り、ダウンしている綾を取り囲む。


「何だよ友美、こんなお嬢ちゃん相手にだらしねえなあ!」

 「だけどこいつが小生意気に結構やるんだよ!」

 「ダメだよ、芸能界の厳しさ教えてやんなきゃ!」

 「それじゃあ、これからこのお嬢ちゃんの教育実習といきますか!」


四人は倒れている綾を取り囲んで口々に好き勝手な事を言っている。


『どうしよう、このままじゃ・・・』

綾は朦朧としながらも身の危険を感じて起き上がろうとするが、ダメージが大きくなかなか動く事ができない。すると栄子が他の三人に指示を出してグロッキー状態の綾を無理矢理立ち上がらせる。
栄子は三人に抱えられてうなだれている綾のアゴをつかんで前を向かせ、綾のうつろな眼をじっと見つめる。


「安心しな、すぐに終わらせたりしないから。今オネンネしてる他の二人が起きるまで、アンタにお姉さん達の遊び相手になってもらうから。」

栄子がそう言ってニヤリと笑うと、綾は背筋に冷たいモノを感じていた。
綾は勿論の事、栄子達は今リング下でダウンしているえりや冴香までも血祭りにあげようとしている。


『怖い・・・』

大げさではなく、綾はこれまで体験した事の無い恐怖感を味わっていた。
さっきまで予想以上の活躍を見せていた綾も、今の状況ではどうする事も出来ない。


「よおし、じゃあまず最初にお嬢ちゃんに、“男の喜ばせ方”を教えてあげようか!といってもお嬢ちゃんには無理かなあ・・・」

栄子は含みのある言い方でそう言いながら、水着に包まれた綾の胸元辺りをじっと見つめている。

『えっ、一体何するつもり?』

意味不明の栄子の言葉に不安を募らせる綾。

「はるみ!!」

栄子ははるみに声をかけると、いきなり綾の髪をつかんではるみの方を向かせ、はるみの103センチのバストに綾の顔を押しつける。


 「むぐぐぐっ!!」

はるみのIカップバストに顔を圧迫され、綾は息苦しさのあまりうめき声をあげている。江利子と友美に両脇から押さえ付けられているので綾は動く事ができない。
はるみは両手を使って自慢のバストで綾の顔を挟み込むようにしている。さらに栄子が綾の後頭部を力任せに押さえ付けていくと、綾の小さな顔は完全に隠れてしまう。
傍から見るとふざけた攻撃にしか見えないのだが、綾は本気で苦しんでいる。


『苦しい・・・』

息ができない状態が続き、綾は頭の中が朦朧とし始めていた。

しばらくして綾が抵抗しなくなったところで、ようやく栄子達が手を離して綾を解放するが、綾はその場に立ち尽くしたまま動く事ができない。
バスト攻撃がよほど苦しかったのか、綾はうつろな表情を見せている。


「テメエ何ボーッとしてんだよ!!」

そんな綾の表情がカンに触ったのか、江利子はそう叫ぶと綾の顔面にビッグブーツを見舞っていく。
 その衝撃はすさまじく、棒立ちの綾は簡単に吹っ飛ばされてしまう。


『えっ、何、今の?』

マットに倒された綾はパニック状態になっていた。
すぐ目の前に立っていた江利子が助走無しに、いきなり自分の顔面を蹴り飛ばしたのである。
体操の経験者で、身体が柔らかい江利子にしてみれば朝飯前の事なのだが、その驚異の身体能力とアイドルである綾の顔面を何のためらいもなく蹴ってきたという事実が、綾の冷静さを失わせていた。


『痛っ!』

頬の辺りに違和感を感じた綾は、口元にそっと手をやり、血がついていることを確認する。
ドラマや映画では何度もそういうシーンを撮っているが、当然それらはメイクによるもので、実際に血を流しているわけではない。しかし今綾は実際に口の中を切って血を流している。
綾は改めて江利子が自分の顔面を本気で蹴ってきた事を認識していた。


『怖いよ、誰か助けてよ・・・』

綾の表情には怯えの色が浮かんでいて、明らかに戦闘意欲を失っている。しかし当然の事ながらブルーキャブの四人には全く容赦する様子は無い。


「ほら早く立てよ!!」

友美が倒れている綾を抱き起こし、コーナーに振って後を追うように走る。
そしてコーナーに背中から激突した綾に、友美の串刺しラリアットが炸裂する。
さらに友美がエプロンに出て綾をコーナーに磔状態にすると、対角線コーナーにスタンバイした栄子、江利子、はるみが次々に綾に向かってダッシュ。栄子のエルボー、江利子のビッグブーツ、はるみのボディスプラッシュが立て続けにコーナーの綾に炸裂する。


『ううっ・・・』

ブルーキャブの強烈な連続攻撃を受け、息も絶え絶えの綾。
 エプロンから綾を押さえ付けていた友美が手を離し、前のめりに倒れそうになった綾を栄子が抱きとめると、そのままブレーンバスターの体勢に入る。


「うおらあああっ!」

栄子は大きな掛け声とともに、綾を軽々と持ち上げると、後方に投げずに頭上で綾を支えたまま静止する。
さらに栄子はロープのある方に向きを変えると、そのまま綾をお腹の方からトップロープに落としていく。


『ぐええっ!!』

ワイヤーロープで腹部を強打し、苦悶の表情を見せる綾。
栄子はその状態から再度綾を持ち上げてブレーンバスターをきめていく。綾は背中からキャンバスに思い切り叩きつけられ、ワンバウンドしてマットに落ちていく。


 『うっ・・・』



まるでダミー人形のように栄子達の攻撃を受け続けた綾は、倒れたまま動く気配を見せない。タッグパートナーであるえりと冴香も場外でキャブのセコンド陣に袋叩きにされている。


「さあ、この売れっ子アイドルのお嬢ちゃんをどうしようか・・・」

キャブの四人は大の字になっている綾の取り囲んで、冷ややかな笑みを浮かべている。


「そういえばはるみ、いつかやってみたいって練習してた技があったでしょ。あれやってみたら?」

思い出したように栄子がそう言うと、はるみが嬉しそうに笑みを浮かべる。


「えっ、いいの?!」

栄子が言っているはるみの技というのは、トップロープからのフットスタンプの事であった。

“一度でいいから気に入らないタレントにこの技をきめてみたい”

と、はるみは常々いっていたのだが、はるみの全体重が腹部を直撃するという危険な技だけに、事務所の仲間に練習台になってもらうわけにもいかず、マット上に目印となるクッションを置いてその上に着地するという練習を、はるみはずっと繰り返していたのだった。


「いいんじゃないの。」

「甘っちょろい気持ちでリングに上がるとどんな事になるか、教えてあげましょ!」

江利子と友美もその提案に賛成し、はるみが残忍な笑みを浮かべコーナーに向かう。
もはや抵抗する気配の無い綾に、キャブの四人がなおも攻撃を加えようとしているのを見て、観客達の歓声もいつのまにかざわめきに変わっている。

栄子が指示を出し、江利子と友美がボロ雑巾のようになった綾をコーナー付近に引きずっていく。エプロンに立ったはるみは、綾が二人に手足を押さえ付けられて身動き出来なくなっているのを確認してコーナーポストを上りはじめる。

絶体絶命のピンチに立たされた綾。この光景に会場のどよめきは一段と大きくなる。
するとさっきまで場外でやられていたえりがセコンド達のスキをついてエプロンに上がり、コーナーポスト上に差し掛かっているはるみに掴み掛かっていく。


「局山このヤロー!!!」

えりはどうにかはるみをコーナーから引きずり下ろすが、これに怒ったはるみがえりに殴りかかっていく。二人がエプロン上で殴り合いを始めると、綾を押さえ付けていた友美がリング内からはるみに加勢していく。

ここでえりと同じように場外でやられていた冴香も綾を助けようとリングに入ってくるが、待ち構えていた栄子と江利子が強烈なダブルタックルで冴香を場外に吹っ飛ばすと、場外に落ちた冴香を追うようにして栄子がリング下に降りていく。
一方のえりも、友美とはるみにリング下に落とされてしまい、はるみがその後を追っていく。

これでリング内は江利子、友美、綾の三人となるがフットスタンプから逃れたというだけで、依然大須賀軍のピンチが続いている。


「江利子、ツープラトンいくよ!」

友美がそう声をかけると、江利子がうなづいて、倒れている綾を引きずり起こしていく。足元のおぼつかない綾を、江利子が覆いかぶさるように捕まえ、友美が綾の背後にまわる。二人の狙いが合体パワーボムだとわかると、観衆から再び綾を心配するどよめきが起こる。

『綾ちゃん!・・・』

場外いるえりと冴香はそれぞれはるみと栄子にやられていて、綾を助けにいく事ができない。

江利子は友美と目が合うとコクリと頷き、グロッキー状態の綾の身体を抱え上げた。

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