ここはとあるビルの会議室。中では地下プロレス組織委員会による定例会議が行われていた。内容は、第二回大会の出場選手についてであった。前回の大会であの藤原紀華が参戦し、かなりの反響があった為、委員達は今回も是非紀華に参戦して欲しいと、委員の一人である紀華の事務所の社長に出場の要請をしているところであった。
「まあ皆さんにはお世話になってますから、断るわけにもいかないでしょう。」
 結局、社長が紀華の出場を承諾し、紀華の二大会連続出場が決定した。

 しかし問題は対戦相手であった。芸能界屈指の美貌とダイナマイトボディを誇る紀華と対戦してみたいと思っている男性はいくらでもいるだろう。しかし抜群の運動神経を持つ紀華は、旗揚げ戦で素人とはいえ、自分より一回り大きい男性レスラーに圧勝、単なる格闘技ファンではないことをアピールしていた。紀華のあのダイナマイトボディに触れてみたい、なんて考えでリングにあがると痛い目にあうだろう。

「彼女に関しては素人女性という考えは捨てた方がいいですよ!」
前回の大会でレフェリーを務め、今回もレフェリーとしてリングに上がることになっている山本大鉄は、紀華のファイトを間近でみてそう思ったという。
「見ての通り、いいカラダしてますし、そんじょそこらの男では勝てませんよ!まあ皆さんもわかっているとは思いますが。なあ、谷山君!」
 大鉄に話をふられた谷山貞治は苦笑して頷いた。旗揚げ戦で覆面レスラーとしてマットに登場し、紀華に叩きのめされた張本人である。あの試合以来谷山は、紀華との再戦を目指してジムに通い始めたという。さらに大鉄は続ける。

「谷山君、前回は君が真っ先に対戦相手として名乗りをあげていたけど、どうだ、試合してみて?今回またやれっていわれたらやれるか?」
「いやあ、今すぐはちょっと辛いですねえ。いや、ホント紀華ちゃん強いですよ!ねえ山木さん!素人じゃ勝てないですよねえ!」
「ウン、確かに僕達格闘技に詳しいけど、肉体はただの中年親父だからねえ。紀華ちゃんとまともに試合やったらキツイよねえ!」
谷山に同意を求められたターザン山木も、前回の大会で谷山のセコンドについて谷山共々紀華に叩きのめされていた。他の委員達も前回の時には紀華と試合できるなら喜んでリングに上がると言っていたのが、今回は誰も名乗りをあげようとしない。地下プロマットに再び紀華があがる事には大賛成でも、その相手となると話が違ってくる。

「いやあ、最初は谷山さんが羨ましいと思ったんですが…」
「また他の女子レスラーが出る時に…」
「紀華さんと対戦したいのはやまやまなんですが…」
委員達の口からでるのは消極的な言葉ばかりである。そして一人の委員から、外部からレスラーを連れて来てはどうか、という意見が出た。
「谷山さん、知り合いで心あたりありませんか?さすがにプロはマズイと思うんで、例えば格闘技経験者とか…」
「うーん…山木さんはどうですか?僕より人脈も広いでしょうし…」
谷山が山木に話をふると、山木は思いついたように口を開いた。

「ああ!いますよ一人!すごい人が!」
山木がその名を明かすと、委員達から驚きの声があがった。
「でもそうなると逆に紀華さんの方が心配じゃないですか?」
「まあ地下プロの主旨を説明すれば、無茶な事はしないと思いますよ!あとは社長さんの了承さえ頂ければ…」
紀華の事務所社長に気を使う山木だが、意外にも社長は
「ウン、いいんじゃないか?私も見てみたいし。」
と紀華とその男との対戦を了承する。早速山木が携帯でその男に連絡をとり、参戦を打診。話を終えた山木は笑みを浮かべて委員達にこう言った。
「OKです!」


第二回地下プロレスの会場。旗揚げ戦の反響が大きかった為、今回も会場には沢山のファンが詰め掛けていた。前大会と同じくカードは一試合のみで、発表されたカードも前回と同じで、
『 藤原紀華 対 X 』
と、紀華の名前だけが記されていた。ただ前回と違うのは、今回の試合が『地下プロレス初代王座決定戦』と銘打たれている事である。つまりこの試合の勝者が、地下プロレスの初代王者に認定されるということだ。
 しかし当の紀華は前回と同じく、対戦相手はおろか、タイトルマッチだと言う事も知らなかった。控え室の紀華は前回反響を呼んだ金のブラジルビキニに着替え、ウォームアップを行っている。前回の経験で、相手が男性である事は察知している様子。
『どんな相手か知らないけど、Hな事してきたらタダじゃおかないんだから!』
気合十分で出番を待つ紀華。しかしこの後、紀華は自分の考えの甘さを思い知らされることになる。

 花道に姿を現した紀華に観衆から大きな歓声が沸き起こる。凛とした表情でまっすぐ前を見て花道を進む紀華は前回同様、ガウン代わりにバスローブを羽織っている。紀華がリングインすると、先にリングに上がっていたレフェリーの山本大鉄が紀華の姿をみてニヤリと好色そうな笑みを浮かべる。
『またこのハゲ親父だわ!』
前回ボディチェックと称して紀華のカラダを触りまくった大鉄に、紀華は当然いい印象を持ってなかった。恐らく今回も紀華のカラダに必要以上にタッチしようとしてくるに違いない。しかし嫌がれば嫌がる程、大鉄を喜ばせる事になる。
『変なことしたらタダじゃおかないわよ!』
紀華は大鉄を牽制するかのように、鋭い視線を大鉄に送るものの、当の大鉄はそんな紀華の気持ちを逆撫でするかのように、涼しい表情を見せている。そしてついに、今日の紀華の対戦相手の名前がコールされた。

 「青コーナーより、吉良カーン選手の入場です!」
リングアナのコールに沸き上がる観衆。花道に現れたのは紛れも無く、元レスラーの吉良カーンであった。
 『そんな、確かアノ人ってプロレスラーじゃ…』
吉良カーンの姿を見て、言葉を失う紀華。そんな紀華とは裏腹に、会場は往年の名レスラーの登場に大きな盛り上がりを見せている。地下プロファンの声援を受けながら、のっしのっしと花道を進むその姿は、現役時代を彷彿させるものであった。そしてカーンの後ろには、セコンドの黒覆面の姿があった。
 『いくら何でも無茶だわ!』
カーンがリングに上がると、さっきまでは強気の表情を見せていた紀華も、動揺の色を隠す事ができない。それもそのはず、前回対戦した白覆面も178センチ、95キロと大きかったが、カーンは188センチ、125キロとさらに一回り大きい。しかも白覆面は素人だったが、カーンは元レスラーである。171センチ、52キロと、いくら女性としては大柄で運動神経のいい紀華でも、相手が悪すぎる。
 リング中央で向かい合っている両者の体格差は歴然としていて、見ているだけでも紀華が痛めつけられる様子が思い浮かんでくる。

 『ヘッヘッヘッヘッ!こんないいオンナと試合できるなんて夢見たいだぜ!』
カーンは目の前で怯えたような表情を見せる紀華に対し、下心丸出しの笑みを浮かべて、バスローブ姿の紀華を舐め回すように見つめている。そんなカーンの視線を感じた紀華は逆にカーンを睨み返し、精一杯虚勢を張っている。
 『何よ、変な事するつもりならしてみなさいよ!』
不安を隠そうと懸命の様子の紀華。しかし逆にそれがカーンの欲情をかきたてる。
 『怒った顔も可愛いなあ!これは楽しめそうだ!ヘッヘッヘッヘッ!』
カーンは自分を睨みつけている紀華の表情をニヤニヤしながら楽しんでいた。そしていよいよ両者の名前がコールされる。

 「本日のメインエベント、地下プロレスリング初代王座決定戦、60分一本勝負を行います。青コーナー、280パウンド、吉良カーン。赤コーナー、115パウンド、藤原紀華。レフェリー、山本大鉄。」
コールが終わり、紀華がバスローブを脱ぐと、観衆から大きな歓声が沸き起こる。前回反響を呼んだ紀華の悩殺ビキニ姿をカーンも食い入るようにして見つめている。
 『ウオーッ!プリンプリンじゃねえか!』
カーンはすでに興奮状態で目が血走っている。そんなカーンを見て、紀華は身の危険を感じ、体を硬直させている。そんな事はお構いなしに大鉄が両者をリング中央に呼び寄せようとするが、紀華は前に出る事が出来ない。
 「おい藤原!」
大鉄に呼ばれた紀華が重い足取りで一歩前に出た瞬間、カーンが紀華に近づき、
「キエーッ!」
と奇声をあげて、紀華の首筋にモンゴリアンチョップを叩きこむ。

 「ウッ!」
モンゴリアンチョップの衝撃で紀華は全身が痺れ、動けなくなってしまう。そんな紀華をカーンは軽々とネックハンギングツリーで抱えあげる。ここで大鉄はやむを得ず、試合開始のゴングを要請する。
「カアーン!」
『苦しい…』
ネックハンギングツリーに捕らえられ、声をあげることも出来ずに苦しんでいる紀華。一方カーンは、丁度目の前に在る紀華のバストをしげしげと見つめている。
『ヘッヘッヘッヘッ!いいオッパイしてるじゃねえか!』
カーンは紀華を無造作にマットに落とすと、その88センチのバストを鷲づかみにした。

「いやあっ!」
バストを鷲づかみにされ、悲鳴をあげる紀華。しかし125キロのカーンにのしかかられては、抵抗のしようが無い。カーンはその馬鹿でかい両手で紀華のバストの感触を楽しんでいる。
「ヘッヘッヘッヘッ!柔らかいオッパイだぜ!」
カーンは紀華のバストを揉み続けながら、無理矢理紀華の唇を奪うと、紀華の顔をベロベロと舐め回す。
「ん、んんっ!いやっ!」
全く成す術無くカーンに好き放題にされている紀華。さらにカーンは紀華の両腕を両脇に押さえつけると、今度はバストに舌を這わせる。
「いやあああっ!」
バストを襲うおぞましい感触に、狂ったような叫び声をあげる紀華。観衆だけでなく、レフェリーの大鉄も、そしてセコンドの黒覆面こと山木も、この光景を食い入るように見つめている。

「お願い、離して!」
身動きが取れない紀華はカーンに懇願するものの、当然訊き入れてもらえるわけが無い。紀華のバストを唾液まみれにしたカーンは、今度は紀華のヘソの辺りを舐め回す。
両腕を押さえられている紀華は体を左右に揺すって脱出を試みるが、全く無駄な抵抗である。カーンはいったん状態を起こすと、紀華のカラダを強引に裏返し、Tバックからむき出しているヒップを撫で回す。
「いやああっ!」
紀華は四つんばいの姿勢で逃げ出そうとするが、カーンが腰の辺りをガッシリと捕まえて紀華を逃がさないようにすると、そのままうつ伏せに押さえつけ、紀華のゆで卵のようなヒップを両手で押し広げるようにして鷲づかんだ。
「いやっ!離して!」
カーンに精一杯の抵抗を見せる紀華だが、125キロのカーンはビクともしない。カーンは紀華のヒップの感触を楽しむと、そのヒップから太ももの辺りに舌を這わせる。
「もういやあっ!」
紀華が脚をジタバタさせると、偶然そのかかとがカーンの顔面をとらえた。

 「ぐああっ!」
不意に顔面を蹴られ、カーンは思わず紀華から離れてしまう。やっとカーンの手から逃れた紀華は、距離をとってカーンの様子を伺っている。
『よくもやったわねえ!』
少し前までは、巨漢のカーンに怯えていた紀華も、自慢のボディを好きなようにされてしまった事に怒り心頭の様子。紀華はカーンが顔を押さえて立ち上がろうとするのを見計らってロープに走り、カーンの顔面に全体重をのせたランニングエルボーを浴びせる。
「アウッ!」
紀華のエルボーを食らって声をあげるカーン。さすがに倒れる事は無いが、さっき紀華に蹴られた箇所にヒットした為、痛さは隠せない様子。さらに紀華は、顔を押さえているカーンの手を掴んで引き剥がすと、カーンの顔面に思い切り平手打ちを浴びせる。
「パァーン!」
と乾いた音がリング上に響き渡り、場内からもどよめきの声が上がる。カーンは紀華の平手打ちが予想以上に効いたらしく、頬を押さえて表情を歪めている。さらに紀華は動きの止まったカーンのヒザを目掛けて低空ドロップキックを放つ。
「ぐああっ!」
ヒザにドロップキックを受け、たまらずうめき声をあげるカーン。完全に紀華の事をなめきっていただけに、紀華の連続攻撃をまともに受け続けている。
『結構ヤルじゃねえか、このネエチャン。』
脚を押さえて苦しむカーンは、頭の中で紀華に対する警戒心を強めていた。そしてそれは紀華に苦しい戦いを強いる事を意味していた。
『効いてるみたいだけど、油断出来ないわ!』
紀華は有利な状況になりながらも、カーンに対して慎重になっている。なんと言っても元レスラーだけに、さっきみたいに捕まってしまうとどうする事も出来ない。
 『距離をとって戦わないと…』
紀華はカーンの背後に回り、カーンが押さえているひざの裏あたりにローキックを連発する。この紀華のローキックで、カーンはたまらずマットにひざまづく。
 マットに崩れ落ちるカーンの姿にどよめく観衆。レフェリーの大鉄もセコンドの黒覆面も、紀華の想像以上の強さに驚いている。
 しかし紀華自身は何とかカーンに捕まらないようにと、細心の注意を払ってのファイトをしている為、精神的にいっぱいいっぱいの状態である。ひざまづいたままのカーンに対し、なかなか近づく事の出来ない紀華。
 『どうしよう、でも休ませちゃいけないわ!』
カーンがなかなか立ちあがらないのを見て、ロープに走る紀華。しかしここでセコンドの黒覆面が紀華の足を掴む。

 「きゃああっ!」
ロープ際で足を掴まれた紀華は、その場で転倒してしまう。足を掴んだ黒覆面は転倒した紀華をリング下に引きずりおろし、背後からバストを鷲づかみにする。
「いやああっ!」
前回と同じくセコンドの黒覆面に捕まった紀華。黒覆面は前回紀華に手を出して、KOさせられた事を根に持っていた様子。
「またあなたなの!いい加減にしてよ!」
背後からバストを揉みしだいてくる黒覆面に文句をいう紀華。そして紀華と黒覆面がもみ合っている間に、カーンがリング下に降りてきてしまう。紀華は背後の黒覆面にエルボーをきめて何とかバスト責めから脱出するが、目の前にはカーンの姿が。

『!!』
カーンの姿に驚く紀華。カーンは奇声をあげて紀華にモンゴリアンチョップを叩きこむ。
「あうっ!」
紀華はモンゴリアンチョップの衝撃で全身が痺れて動けなくなってしまう。カーンは紀華をリング内に押し戻すと、自分も後を追うようにしてリングインする。
「ヘッヘッヘッヘッ!」
リングに戻ったカーンは、舌なめずりしながら、ロープ際で倒れている紀華の肢体を見つめている。カーンは紀華の髪を掴んで引きずり起こすと、軽々とボディスラムの体勢で抱え上げ、そのままの状態でリングを歩き回る。
『それにしてもいい尻してるぜ!』
カーンは紀華を抱え上げたまますぐに投げようとはせず、紀華のヒップを撫で回してその感触を楽しんでいる。紀華はヒップに感じるカーンの厭らしい手つきに眉をひそめる
が、どうする事も出来ない。カーンはリング中央で立ち止まると、紀華を思い切りマットに叩きつける。

 「ううっ!」
ボディスラムでマットに背中を叩きつけられ、苦悶の表情を浮かべる紀華。カーンはそんな紀華の様子を嬉しそうに眺めている。
『さあ、まだまだ楽しませてもらうぜ!』
カーンは立ちあがる事の出来ない紀華を引きずり起こして再び抱え上げ、シュミット式バックブリーカーに捕らえる。
 「アアッ!」
カーンのヒザの上でえび反りになっている紀華。首と太ももを押さえつけられてしまっているので身動きが取れない。その時、カーンの視線が紀華のバストを捉える。

「ウェヘヘへへ!」
カーンは首を押さえていた手を離し、紀華のバストを鷲づかみにする。
「イヤッ!」
バストを掴まれて声をあげる紀華。カーンは紀華のバストを揉みながら、レフェリーの大鉄に目で合図を送る。すると大鉄は紀華に近づき、
「ギブアーップ、藤原?」
と言いながら、空いている方のバストを鷲づかみにする。
「イヤアッ!」
バックブリーカーにきめられたまま、二人の男にバストを揉まれる紀華。
「卑怯よこんなの!」
紀華は声を上げて二人に抗議するが、当然訊き入れてもらえない。大鉄とカーンはここぞとばかりに紀華のバストを揉み続ける。
「ギブアーップ、藤原?」
「ウェへヘヘヘ!」
嫌がる紀華を逃げられないようにして楽しむ大鉄とカーン。二人に散々バストを揉まれた後、ようやくバックブリーカーを解かれ、マットに崩れ落ちる紀華。しかしすぐにカーンに起こされ、今度はベアハッグに捉えられる。

 「ウッ、ウウッ!」
 カーンのベアハッグに苦悶の表情を浮かべる紀華。カーンは必要以上に締め上げたりせずに、密着する紀華のボディの感触を楽しんでいる。ここで再び大鉄が近づき、紀華の背後に回ってしゃがみこみ、捉えられた紀華のヒップをしげしげと見つめている。
 『オッパイもよかったけど、この尻もたまんねえなあ!』
 大鉄は紀華が動けない事をいい事に、紀華のヒップを撫で回し始める。
 「いやっ、やめ…」
 ヒップを触られた紀華が声を出そうとすると、カーンが腕に力をこめ、これを遮る。
 「ウッ!」
 カーンに締め上げられ、うめき声を上げる紀華。大鉄は先程と同じように、
「ギブアーップ、藤原?」
と言いながら紀華のヒップを撫で回している。ここで大鉄はさらにエスカレートし、紀華の太ももを両手で掴むと、紀華のヒップに舌を這わせた。
 『いやああっ!』
 ヒップを襲うおぞましい感触に声を上げる事も出来ず苦悶する紀華。二人の男に挟まれて身悶えるその姿に観客も興奮していた。
 
 紀華の頭の中には、ギブアップしようと言う考えは無かった。
 タレントとしてトップクラスの地位にいる自分がこのアンダーグラウンドの世界で、ほとんど半裸の状態で元プロレスラーと試合させられ、好色な男達の見世物にされている。
 冷静に考えればいくらギャラが高額だとしても、格闘技が好きだとしても、紀華程のタレントがそこまでやる必要は無いだろう。確かに仕事として引き受けた以上、いい加減な事はしたくない、という意識はあるものの、紀華自身自分がここまで我慢している事が不思議でしょうがなかった。
 ただ、ここで引き下がると、自分にイヤらしい事をしてきたカーンや大鉄、黒覆面に屈したことになる、そんな気がした紀華は、いくら相手が元レスラーとはいえ簡単に負けを
認める事はしたくなかった。しかしそんな紀華のプライドが、逆にここにいる男達を喜ばせている事に、紀華は気付いていなかった。

 カーンは自らベアハッグを解くと、倒れそうになる紀華を捕まえ、この日三発目のモンゴリアンチョップを叩きこんだ後、紀華を軽々と抱え上げてボディスラムで叩きつける。
 「ウウッ!」
 マットに叩きつけられ、うめき声を上げる紀華。カーンはここでこの試合始めてのカバーに入る。大鉄がゆっくりカウントをとり、紀華はカウントツーで肩を上げる。
 「ウェへヘヘへ!まだ俺と楽しみたいのか?」
カーンは勝手な事をいいながら上体を起こし、紀華のバストをムンズと鷲づかむ。
 「イヤッ!」
 「レフェリー、カウント!」
カーンに促されてカウントを取る大鉄。紀華がツーで肩を上げ、カーンが再び押さえるという展開が続く。その間、カーンの両手は紀華のバストをガッシリつかんだままで離そうという気配が全く無い。紀華はニヤニヤしながら自分のバストを揉み続けるカーンに腹を立て、グーパンチをカーンの鼻っ柱目掛けてフルスイングする。

 「ガアッ!」
 鼻を思いっきり殴られたカーンは紀華から離れ、顔を押さえてひざまづいている。紀華は素早く立ち上がると、ひざまづいているカーンの後頭部にハイキックを浴びせる。
全く無警戒だったカーンはまともに食らってしまい、そのまま前のめりに倒れてしまう。
『もう許さないわ!』
怒り心頭の紀華は、うつ伏せに倒れたカーンの肩口にまたがり、腕を掴んで思い切り引っ張り上げる。これはかつてアントニオイノキがATジャイアントからギブアップを奪った腕固めである。しかし紀華はそんな事は知る由もなく、咄嗟に出たものであった。
 予期していなかった技にきめられ、カーンはまさかのタップ。大鉄は一瞬疑ったものの、カーンの形相を見てゴングを要請する。

 試合終了のゴングが鳴り、紀華の勝利が場内にアナウンスされると会場から大きなどよめきが沸き起こる。そして会場のあちこちから
 「おいおい勝っちゃったよ!」
 「スッゲェー!」
 「紀華マジ強えー!」
と、さまざまな声が聞こえてくる。本来、観衆の関心は別のところに在ったはずなのだが、今回は紀華の強さにただただ脱帽といったところか。
 リング内ではまだ腕を押さえているカーンを、大鉄と黒覆面が心配して見ている。そんな男達を尻目に、紀華がさっさとリングを降りようとすると、大鉄が紀華を呼止める。

 「藤原、これからチャンピオンベルトを渡すからまだ帰るんじゃない!」
 紀華は全く気にしていなかったのだが、この試合は地下プロレスの初代王座決定戦であった。つまり試合に勝った紀華はこの地下プロレスの初代チャンピオンという事になる。しかし紀華は特にベルトが欲しい訳では無かったし、むしろこの場を早く立ち去りたいというのが正直な気持ちであった。
 大鉄の言葉に振り返った紀華は、
 「うるさいわねえ、このエロダコ!!」
と大鉄をなじり、大鉄に平手打ちと股間蹴りを見舞う。二大会連続で散々紀華のボディを触りまくった大鉄をどうしても許せなかったのだろう。
 『自業自得よ!』
 股間を押さえて苦悶する大鉄を見てリングを後にする紀華。しかしリング下に降りて花道を引き返そうとする紀華を、背後から何者かが襲った。


 試合前、カーンの控え室にある人物が訪れた。地下プロレス組織委員会のメンバーで、前の大会で紀華と対戦した、白覆面こと谷山貞治である。
 カーンとセコンドの黒覆面ことターザン山木の激励に訪れたという谷山。カーンと山木は谷山を控え室に招き入れ、試合が始まるまでの間三人で談笑していた。
 「谷山クン、折角今日来たんだから俺と一緒にカーンのセコンドにつかない?」
 「俺は全然構わないから、よかったらどう?」
 山木とカーンが谷山にセコンドにつくよう勧めるが、谷山は前回紀華にこっぴどくやられていた為、あまり乗り気ではなかった。遠慮している谷山に対し、それなら、と山木が試合後の乱入を提案する。
「じゃあセコンドじゃなく、試合後に乱入したら?そっちの方が盛り上がるでしょう。」 「それいいよ!プロレスに乱入は付き物だし。」
山木の提案にカーンも賛成し、セコンドを遠慮していた谷山もその気になり始め、
「カーンさんが構わないんだったら…」
と乱入をOKする。
 そして谷山はちゃっかり持ってきていたマスクを被り、乱入に備えて花道でスタンバイしていたのだった。


 『!!』
 紀華がリング下に降りた瞬間、背後から白覆面が現れて紀華の背中にタックルを浴びせる。不意をつかれた紀華はその場に崩れ落ちてしまい、白覆面に捕まってしまう。
 『何、何なの?』
全く状況の飲み込めない紀華。白覆面が紀華をリング内に押し戻すと、リング上の大鉄、黒覆面、カーンが倒れている紀華を取り囲む。
「よくもやってくれたな!レフェリーに手を出したらどういう目にあうか教えてやる!」
大鉄は倒れている紀華にそう言うと、黒覆面とカーンに何やら指示を出す。この間に白覆面もリングに入り、大鉄は白覆面にも指示を与える。
『早く逃げないと…』
四人の男達の様子を見て身の危険を感じた紀華はリングから脱出する事を考えるが、試合後でスタミナ切れのところに不意打ちのタックルを受けた為に、思ったように体が動かない。そんな身動きの出来ない紀華に白覆面と黒覆面が近づいてくる。
「ちょっと、何するの!」
白覆面と黒覆面に両足を掴まれ声を上げる紀華。覆面コンビは紀華をコーナー付近に引きずっていくと、二人で紀華の両手、両足を押さえつける。そしてコーナーポストにはカーンが座っていた。
「お願い、やめて!」
何をされるか察知した紀華は、声を上げて抵抗するものの、覆面コンビに押さえつけられてしまっている為にどうする事もできない。
「よし!カーン、行け!」
大鉄がカーンに声をかけると、カーンはセカンドロープから紀華目掛けてダイブ。125キロのボディプレスが紀華を襲った。

『ウウッ!』
125キロに圧殺された紀華は倒れたまま動くことが出来ない。そんな紀華のダイナマイトボディを四人の男達が舐め回すような視線で見つめている。
「さすがチャンピオンになるだけあって素晴らしい肉体だ。」
「真っ白でプリンプリンで、たまんねえよなあ!」
大鉄とカーンは好きな事を言っているが、覆面コンビは紀華に正体を隠している為、言葉を発しようとはしない。しかし考えている事は同じであった。
「チャンピオンはかなりダメージを負っているようだから、俺達でマッサージしてやろうじゃないか。」
大鉄の言葉を聞いて青ざめる紀華。四人の男達は身動きできない紀華に群がり、そのダイナマイトボディの感触を楽しむ。

「ウン、チャンピオンにふさわしい、いい乳だ。」
大鉄は右のバストを揉みながら、ボトムに手をつっこんでいる。
「ウェへヘヘへ!」
カーンはスケベ笑いしながら左のバストを掴んで顔を舐め回している。
『紀華ちゃーん!』
白覆面こと谷山は右脚を掴んで太ももからふくらはぎまで舐め回している。
『うわあ、これが紀華ちゃんの…。』
黒覆面こと山木は左脚を持ち上げてヒップの割れ目を覗きこんでいる。
『お願い、やめて!』
四人の男達に好き放題にされている紀華は、ボディプレスのダメージが大きく、抵抗する事も、声をあげる事も出来ない。
 リング上の異常事態をみて、さすがにマズイと思ったスタッフ数名がリングに上がり、四人と紀華を離れさせる。地下プロレスの初代チャンピオンとなった紀華が負ったダメージは肉体的にも精神的にも大きいものであった。

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