大倉優子が待つリングに上がった井上和歌は、リングアナからマイクを受け取り、目の前の優子に向かってアピールを始める。


「よく来たわね、ゆーこりん!」

普段なら口が裂けても優子の事を“ゆうこりん”などと呼んだりしない和歌が明らかに小馬鹿にした口調で優子にそう呼び掛けると、優子はその丸い目をキッと見開いて和歌の事を睨み付ける。


「へー、アンタもそんな顔するんだ・・・ねえ、ワタシ天然って大嫌いなのよ・・・例えば音葉とかさ!だからこの前このリングで泣かしてやったわ・・・・」

和歌は薄笑いを浮かべながら音葉と対戦した事を口にするが、もはや優子は音葉の名前を聞いても驚いたりはしなかった。
代わりに優子の脳裏に、さっきの観客の言葉と、先日会った元気の無い音葉の姿が浮かんでくる。


「だけどワタシにはそれより嫌いなものがあるの、わかる?・・・そう、アンタみたいな“エセ天然”が大っ嫌いなの!!」

和歌のこのアピールを聞いて観客から声援とブーイングが一斉に沸き起こり、会場は騒然となる。
優子は目を潤ませながらも精一杯歯を食い縛って怒りの表情を見せていくが、その幼い顔立ちのせいで全く迫力は感じられない。


「何よその顔・・・言いたい事があるんだったらここでハッキリ言ったらどう?!!」

和歌がそう声を荒げ、持っていたマイクを優子に向かって投げ付けると、マイクは優子の胸元辺りにあたってマットに落ちていく。


「いた〜い。」

マイクをぶつけられた優子は半泣き状態で和歌の事をにらみ返すものの、何も言う事ができない。
そんな優子に対し観客達は、

「ゆうこりんがんばれ!!」

「ゆうこりん泣かないで!」

と冷やかし半分の声援を送り、和歌はベソをかいている優子をうんざりした表情で見つめている。
すると優子はベソをかきながらも、足元に転がっているマイクを拾いあげ、昔のアイドル歌手のようにマイクを両手でしっかり握り締めると、たどたどしい口調でアピールを始めた。


「みなさんこんばんは・・・ワタシは、りんこ星からやってきたプリンセス、ゆうこりんです。・・・今日は・・・音葉さんを泣かせた・・・ワカパイデビルをやっつけにきました!」


和歌の挑発を受けたにもかかわらず、自分のキャラを崩す事なくマイクアピールした優子に対し、観衆から大きな声援が沸き起こる。
一方優子に“ワカパイデビル”と呼ばれた和歌は、見る見る内に鬼の形相と化し、目の前の優子に掴み掛かっていく。




遡る事一ヵ月程前。
社長室に呼ばれた優子のマネージャーは、社長が開口一番放った言葉に耳を疑った。


“優子に地下プロレスに出てもらう事になった”


芸能界のような華々しい表舞台の裏には必ずといっていい程“裏舞台”の存在がある。

芸能事務所の社長やテレビ局のプロデューサー等各界の様々なVIPが集うその組織では、自慢の商品(早い話がタレント達)を利用したエンターテイメントビジネスを秘密裏に行なっていた。

その一つが“地下プロレス”で、現在その“チャンピオン”の座に就いているのが人気タレントの井上和歌である。

組織の基本ルールは“ギブアンドテイク”なので、余程の人気女優であれば、依頼を断る事もあるが、出場の要請を受けたタレントは地下プロレスに限らず、ほぼ強制的に事務所から派遣される事になる。

今回和歌の所属する事務所サイドから「大倉優子」に指名がかかり、優子の地下プロレス出場が決定したのだ。
無論、その前に指名を受けたのが「音葉」だった事は言うまでもない。



マネージャーは社長直々の出場命令に戸惑いを隠せなかった。

そういった組織の存在について、話には聞いた事があったが、所詮事務所の一社員でしかない自分には無縁の世界で、まさか自分の担当するタレントにそんな話が来るとは思っていなかった。

社長命令だけに、背く事が出来ない事は分かっていても、実際優子にどう話をすればいいのか?

優子がそんな仕事を素直に引き受けるとは到底思えないし、無理矢理連れていくにしても、当日になって行方をくらますなんて事も十分に有り得る。
そして何より、色々面倒を起こす事もあるものの、自分を頼りにしてくれている優子に、そんな仕事をさせたくないという気持ちが強かった。


「まあ君の方から言いづらいというのもあるだろうから、バラエティ番組の依頼という事にしておけばいいだろう。優子にはワタシの方からも“新しい仕事だから頑張りなさい”と言っておくから。」

自分の心中も完全に見抜いてしまっている社長の言葉に、マネージャーはただただ頷くしかなかった。





“カアーン!!”

和歌が優子に掴み掛かったと同時に試合開始のゴングが鳴らされる。
和歌は優子の髪を掴んで強引に倒していこうとするが、優子も和歌の腕を掴み必死に抵抗している。


『ふん、思ったより力があるじゃないの。』

和歌は優子の抵抗する力がその華奢な腕の割に強い事に感心していた。
しかし和歌のパワーは圧倒的で、力づくで強引に優子をマットに押し倒していく。

和歌は優子の髪を掴んだまま、その頭を何度もマットに叩きつけた後、馬乗りになって優子の顔目がけて平手打ちを連発していく。
しかし優子も両腕でしっかり顔面をガードし、なかなかクリーンヒットを許さない。

この展開に苛ついた和歌は一旦立ち上がり、続いて起き上がろうとする優子にストンピングを浴びせていく。
そして優子がストンピングから逃げ惑うようにして立ち上がっていくと、和歌は今度はローキックを優子の脚目がけて連発していく。


「いた〜い・・・」

和歌のローキックを受けた優子が泣きそうな声でそう叫ぶと、会場のあちこちから失笑の声が聞こえてくる。
その失笑の声は、こんな状況にもかかわらず自分のキャラを守った声を出している優子に苛ついていた和歌の怒りを倍増させてしまう。


「アンタふざけんのもいい加減にしなさいよ!!」

和歌はローキックの痛みに目を潤ませている優子にそう言うと、腕を掴んでリング中央に連れていこうとするが、優子がもう一方の腕をロープに絡めて必死にこれを固辞する。


「や〜だっ!」

リング上で駄々をこねる優子に会場から再び失笑の声があがり、和歌の怒りが爆発する。


「いい加減、手を、放しなさい!!!」

和歌がロープにしがみついている優子の腕を力任せに引っ張ると、優子の絡めていた方の腕がロープから放れ、その反動で優子は和歌に激突していく。


“ゴキッ!!”


リング上に鈍い音が響き渡り、和歌と優子は揃ってマットに崩れ落ちていく。


「いた〜い。」


マットに尻餅をついた優子はベソをかきながら、口をへの字にして頭を押さえている。一方和歌もマットにひざまづき、顔を手で覆いながら目に涙を浮かべている。


「・・・ちっくしょう・・・」

手についた血を見てそうつぶやく和歌。どうやら優子と接触した際、優子の頭が和歌の鼻にあたったらしく、しかも優子が急にロープから手を放した為に、勢いがついてヘッドバットのように入ってしまった様子。


「あっ、和歌さん鼻血出てる・・・」

和歌の顔を見た優子がいつもの調子でそう声をあげると、和歌の表情がたちまち鬼の形相に変わっていく。


「・・・もう許さない!!」

和歌は怒りに声を震わせながらそうつぶやくと、鼻血が出ている事も構わずに優子に向かっていく。


「あっ!」

優子は和歌が鼻血を出している事で油断したのか、動きがワンテンポ遅れてしまい、立ち上がろうとしたところに和歌のケンカキックを顔面にモロにくらってしまう。
和歌は仰向けに倒れた優子の上にまたがると、マウントパンチを浴びせていく。
試合序盤の時は平手打ちだったが、優子に対する怒りがそれだけ大きなモノになったという事だろう。


「このバカ女!!いい加減本性曝して泣き喚きなさいよ!」

血を見て興奮状態になった和歌は、大声でわめきながら物凄い勢いで優子を殴り付けていく。
優子もさっきと同じように両腕で必死に顔面をガードしているものの、和歌がお構いなしにパンチを振り回してくるので腕が赤く腫れ上がっている。

やがて和歌の圧力に耐えきれなくなった優子が半身を捩って和歌の方に肩を見せるような状態になると、和歌は一旦体を浮かせ、優子の体を俯せに引っ繰り返してその背中にヒップドロップを落としていく。


「んぐっ!!」

和歌の全体重を背中に受け、たまらず奇妙なうめき声をあげる優子。和歌はさらに優子の顎を両手で掴むと、一気にキャメルクラッチに持っていく。


「んんっ・・・」

優子の体が弓なりに反り返り、和歌がさらに力を加えていこうとするが、優子は丁度口元にあった和歌の指に噛み付いていく。


「痛い痛い痛い!!」

予期せぬ反撃を受け、思わず叫び声をあげる和歌。これで和歌の腕のフックが緩み、優子が身を捩ったところ、優子の肘が和歌のこめかみを直撃する。


「あうっ!!!」

和歌はエルボーを受けたこめかみ辺りを押さえ、ひざまづいたまま動く事が出来ない。この隙に立ち上がった優子は、和歌から距離をとってじっとその動きを見守っている。
そして和歌が顔を上げようとした瞬間を見計らって優子が和歌に向かってダッシュした。


「えいっ!!」

「!!!」

優子がシャイニングウィザードを狙って和歌の膝に飛び乗ろうとしたところ、気配を感じた和歌が反射的に右腕を振りぬいていく。


“バキッ!!!”


優子のシャイニングウィザードと和歌のラリアットが相討ちとなり、二人とも仰け反るようにしてマットに倒れていく。
一瞬ダブルノックダウンのような状態になるが、和歌がすぐさま転がるようにして場外に降りた為、リング上はダウンしたままの優子一人が取り残される。


優子のシャイニングウィザードは確かに和歌の顔面を捉えていたものの、インパクトの瞬間和歌が立ち上がろうとしていた為に、足場が不安定になり、入り方が浅かった。
さらに和歌がとっさに放ったラリアットを全く無防備な状態の喉元にもろに受け、優子は受け身を取れずに後頭部からマットに叩きつけられてしまっていた。


誰もが予想しなかった壮絶な展開に会場が騒然となる中、場外にエスケープした和歌は四つんばいになってインターバルをとっていた。


『危うく騙されるトコだったけど・・・あのコ・・・とんだ喰わせ者だわ・・・』

和歌はシャイニングウィザードを受けた事でようやく優子の“真の姿”を知る事となった。

幸い当たりが浅かったので救われたが、優子の膝は的確に和歌の顔面を捉えていた。

考えてみればこの試合で優子が出した攻撃は全て和歌の顔面を狙っている。
しかも使っているのは「頭」「肘」「膝」と、鍛えていなくても堅い部分、つまり「素人が実践で使うのに最も適した部位」なのである。

最初に組み合った時も華奢な割に力がある、と思った程度でとても腕っぷしが強い感じでは無いし、ガードするだけで反撃しなかったり、ロープにしがみついていたりと、逃げ腰の姿勢ばかり目立っていた為に完全に優子をなめてしまっていた。

しかし今和歌の優子を見る目は完全に変わっていた。
“偶然”と思っていた頭突きも肘打ちも、優子は狙ってやっていたに違いない。
今の姿からは想像できないが、おそらくデビュー以前の学生の頃、優子はストリートファイトで場数を踏むような環境に身を置いていたのだろう。


“なめていたら自分がやられる”

そう確信した和歌はリング下に準備していた竹刀を拾い上げると、再びリングに上がっていった。



「・・・うっ、ううっ・・・」

和歌のラリアットでダウンしていた優子は、ようやくロープに掴まりながら立ち上がろうとしていた。
チャンピオン和歌を相手にここまで互角の戦いぶりを見せている優子だったが、それだけにスタミナの消耗も相当なものだった。
そしてスタミナだけでなく、和歌のパワフルな攻撃を防ぐのに相当神経を費やしていた。

和歌のラリアットが余程効いているのか、優子はなんとか立ち上がったものの、ロープにもたれかかったままなかなか動く事ができない。
少しでも休んでいたいところなのだが、ここで竹刀を持った和歌がリングインし、グロッキー状態の優子に襲い掛かっていく。


「うおおおらあああー!!!」


和歌は大きな叫び声をあげると手にした竹刀を振りかざして猛然と優子に殴りかかる。


“バシイィィーッ!!!”

「あうっ!」


竹刀で背中を打たれ、たまらずうめき声を上げる優子。これで動きを止められた優子は両腕で顔を覆い、腰を曲げて必死にガード姿勢を作るが、和歌は構う事なく力任せに優子目がけて何度も竹刀を振り下ろしていく。


“バシッ、バシッ、バシッ、バシッ”


音葉との試合同様、狂ったような勢いで竹刀を振り回す和歌。そのパワーはすさまじく、竹刀攻撃のあまりの衝撃に優子は逃げるどころか声を上げる事も出来ない。
やがて竹刀攻撃を受け続けている優子の露出している肩や太もも辺りが真っ赤に腫れ上がって来る。


「おい、もうやめろー!!」

「バカパイいい加減にしろー!!」

あまりに強烈な和歌の竹刀攻撃に、観客から野次やブーイングが飛びかい、会場が騒然となるものの、和歌は全くやめる気配を見せない。
しばらくして打ち疲れた和歌がようやく手を休めるが、竹刀でメッタ打ちにされた優子はマットに崩れ落ち、四つんばいになったまま動く事ができない。
和歌はそんな優子の脇腹を蹴り上げて仰向けに転がすと、その上にまたがって持っていた竹刀を優子の喉元に押しつけていく。


「んぐっ!!!」

竹刀でのギロチンチョークをきめられた優子はうめき声をあげながらも、竹刀を必死に押し返そうとする。
しかし和歌は力を加減していて、丁度優子の喉元に触れる位のところで竹刀を止め、優子が必死に抵抗する様子を楽しんでいる。


「ほらあ、もっと本気で押し返さないと喉がつぶれるわよ!!」

和歌は残虐な笑みを浮かべながら、竹刀を持つ両手に力を加えていく。


「あうう・・・ぐ、る、じ、い・・・」

優子は必死に“竹刀ギロチンチョーク”からの脱出を試みるが、和歌のパワーに叶うはずもなく、竹刀の下でどうする事も出来ずにもがき苦しんでいる。
会場は優子への声援と和歌へのブーイングに包まれるが、リング上の状況に全く変わる気配は無い。


「ワタシに楯突くとどういう事になるか分かった?!さあ、止めてほしかったら『許してください和歌様』って言ってみな!!!」

和歌は優子に向かってそう言い放つと、再び竹刀を持つ手に力を加えていく。
しかし、息も絶え絶えの状態の優子が口にしたのは屈伏の言葉では無かった。



「・・・ゆうこには、・・・ひみつ・・・へいきが・・・あるの・・・」

「はあ?!秘密兵器?!」

「りんこ星から・・・持ってきた・・・りんこサーベルが・・・」

「りんこサーベルぅ?!」

和歌はこんな状況でも“ゆうこりんキャラ”を守り通している優子にあきれ返っていた。
しかし和歌はこの時、優子の右手が竹刀から離れている事に気付いてなかった。





“ぎゃああああああっ!!!!”


会場をつんざくような悲鳴が突如響き渡り、それまで騒然としていた観客達がどよめき始める。
リング上の二人はグラウンドでの攻防を繰り広げているので、遠巻きに見ている観客達は何が起こっているのか今一理解できていない。
するとそれまでマウントをとっていた和歌が優子から離れてマットに倒れこんでしまい、それを見た前列の観客から驚きの声があがる。


「おい血だよ血!!!何か刺さってるよ!!!」


キャンバスに倒れこんだ和歌の、V字にカットされた水着から覗く胸元にフォークが突き立てられていて、グラビアで多くの男性を魅了してきた“和歌パイ”と呼ばれるその豊満なバストが血に染まっている。


「痛い!痛い!誰か!誰か!!・・・」


和歌は涙を流しながら、助けを求める言葉をうわごとのように繰り返している。
一方ようやく竹刀ギロチンチョークを逃れた優子も、泣き叫ぶ和歌の傍らでぐったりと倒れたまま起き上がる気配を見せない。

ダウンしている優子のコスチュームの、ウエストにあしらわれたフリルに隠れた部分には、マジックテープで開閉できる細長いポケットがついていた。
優子はそこにフォークを忍ばせていたのだ。



このコスチュームが届いた時、優子はその出来栄えをひどく気に入ったと同時に、マネージャーや音葉の件もあってか、“何か得体の知れない不安”を感じていた。

しかしそれは全く根拠が無い漠然としたもので、優子風にいうと「りんこ星からテレパシーが送られてきた」という事なのだが、世間一般でいう“第六感”というヤツである。

コスチュームを持ち帰った優子は、「バラエティ番組の企画」だと聞かされていたにもかかわらず、もしもの為の護身用でコスチュームに細工を施していたのだ。
まるでこの場面を予測していたかのように。




ようやく事態を把握した観客達は、よもやの惨劇に驚きの声をあげずにいられなかった。
しかもよりによってその主役があの“ゆうこりん”なのだから、その衝撃も大きい。


「おい、救急車!!救急車!!」

「早く早く!!」

リング上には多くのスタッフが集まり、ショックで錯乱状態の和歌を介抱したり、事態収拾の為に観客達へアナウンスしたりと慌ただしく奔走していた。
そんな状況を知ってか知らずか、優子はダウンしたまま最後まで起き上がる事無く、和歌と一緒に病院に運ばれていった。




あくる日、スポーツ紙の芸能面には「井上和歌緊急入院」という記事が大きく記載されていた。
公表された病名は「ストレスによる急性胃腸炎」で、これまでの仕事の心労もあるので、退院後もしばらくは芸能活動は休止させる。と所属事務所はコメントしていた。



ここは都内の某総合病院。
その一室に大倉優子と死闘を繰り広げた井上和歌の姿があった。

もちろん「急性胃腸炎」などではなく、胸部に負った刺傷によって入院しているのだが、その傷以上に“精神面でのダメージ”が大きかった。

あの虫も殺せないような顔をした大倉優子が和歌のバストにフォークを突き立てたシーンが頭の中でフラッシュバックしている。
逆に怖い顔の相手だったらここまでの恐怖は感じなかっただろう。

これまで圧倒的な強さで地下プロレスの女王の座に君臨してきた和歌にとって、逆はあっても自分が“病院送り”にされるというのはこの上ない屈辱のはずである。

以前の和歌なら間違いなく報復行動に出ているところだが、今の和歌は優子に感じた恐怖があまりにも大きすぎて、そういう気力が湧かないというよりも、それが思いつかない状態だった。

暴挙といえる優子の行動は和歌の気高いプライドを根こそぎへし折ってしまった。


一方“和歌パイ”を刺した優子も、体の数ヶ所に打撲と挫傷を診断されたものの、当人は至って元気で、グラビアはしばらく控える事になったものの、入院はせずにすぐに仕事を再開した。

そして地下プロレスでの行動も、“あくまでリング上での出来事”と扱われ、和歌サイドから訴えられる事も、組織から特別なペナルティも課せられる事も無かった。




数日後、和歌は病室のベッドでぼんやりとテレビを見ていた。

怪我の方は順調に回復していたものの、“心のダメージ”はなかなか回復せず、その表情はどこか虚ろである。


“さあ始まりました「笑ってフレンド」○曜日、今日は井上和歌ちゃんがお休みという事で、ピンチヒッターを呼んでいます。×曜レギュラーでお馴染み、大倉優子ちゃんで〜す!”


“ハ〜イ!和歌さんがお休みだって聞いて、ゆうこりんあわててりんこ星から飛んできました!今日は和歌さんの分まで頑張りま〜す!”


和歌が見つめる画面に映し出されていたのは、大倉優子の普段と全く変わる事のない、「ゆうこりんスマイル」だった。








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