二人の秘密 ~最終話~





  黒人のボビーにボロボロにされた隆之介は、リングサイドで若いカップルと一緒に、心配そうにリングを見つめていた。

  そしてリング上には、その隆之介の代わりに闘う事になった鳴海璃子の姿があった。


  パーカーにジーンズという全くリングにそぐわない格好をしている璃子だが、その凛とした表情は紛れもなくこれから闘いに望む者の表情である。


  そして璃子にこの表情をさせているのは紛れもなく、リング下にいる隆之介の存在だろう。




  『璃子さん…』



  隆之介はそんな璃子の姿を見つめながら、自分の不甲斐なさを痛感していた。

  今の隆之介は、リングに上がる事はおろか、声をあげる事もままならない状態である。


  リング上、璃子の反対コーナーには「美少年好き」のボビーではなく、若い女を血祭りにあげたアンソニーと呼ばれるスキンヘッドの巨漢の白人が不敵な笑みを浮かべながら試合開始の合図を待っている。


  まだ14歳の少女と、180センチ以上、150キロの巨漢の男。

  どう考えても無謀な闘いに挑む璃子に対し、隆之介が出来る事は「璃子の無事」を祈る事だけであった。





  カーン!!!



  試合開始のゴングと同時に、璃子はアンソニーに向かって全力でダッシュし、何と正面から体当たりを見舞っていく。

  しかし当然150キロのアンソニーに通用するはずもなく、璃子は逆に弾き飛ばされてしまう。

  あまりに無謀なチャレンジに観客達からも失笑の声が起こるが、璃子はめげずに立ち上がると再びアンソニーに向かっていき、今度はアンソニーの胸板辺りにパンチを連打していく。

  ただそれはパンチといっても、まるで駄々をこねる子供のように、高く挙げた拳を振り回しているだけで、アンソニーも平然とした表情で璃子のパンチを受けている。

  しかし璃子の表情は真剣そのもので、観客やアンソニーの反応にも動じる事なく、必死にパンチを繰り出していく。



  分かりきった事ではあるが、この序盤の動きを見るだけで、璃子に「勝ち目」がない事は明らかである。

  それでも逃げずに150キロのアンソニーに向かっていくのは、『隆之介の代わりに闘わなければいけない』という使命感からであろう。




  『璃子さん…』


  観客達の嘲笑を浴びながらも、必死にアンソニーに向かっていく璃子の姿に隆之介は心を痛めていた。


  しかしそんな甘い話が通じる相手であるはずもなく、アンソニーは璃子の髪を掴んで動きを止めてしまう。



  「痛い!離してよ!」


  髪を掴まれた璃子がたまらず声をあげると、アンソニーは璃子の顔が隠れてしまいそうな大きな手で璃子の横っ面を張っていく。



  バッチイィーン!!!


  アンソニーのビンタは凄まじく、小柄な璃子は一発で軽々と吹っ飛ばされてしまう。


  さらにアンソニーは、転がるようにしてマットに倒れ込んだ璃子の方にのっしのっしと歩み寄っていくと、璃子を無理やり立たせてもう一度ビンタを見舞っていく。



  バッチイィーン!!!


  まるでリプレイシーンのように、璃子の体が吹っ飛ばされ、璃子はコーナーに激突してそのままマットに崩れ落ちていく。


  ビンタで口の中を切った璃子は、口から血を流しながらどうにか意識は保っているものの、虚ろな目をしていてかなりのダメージを負っている様子。

  しかしこの会場の観客から璃子を心配する声など出るはずもなく、聞こえるのはアンソニーをけしかける声だけである。



  もはや余裕綽々いった表情を見せているアンソニーは、そんな会場の空気に応えるかのように、コーナーにへたり込んでいる璃子に近づいていく。




  『璃子さん!逃げて!!』


  隆之介はリングに向かって必死に念じるが、璃子には動く気配がない。


  もはや万事休すか、と思った瞬間、へたりこんでいた璃子がアンソニーが近づいたのを見計らって、その股間目掛けてヘッドバットを見舞った。



  「オーッ!?…」


  急所に頭突きを受けたアンソニーは、奇声をあげ股間を押さえながら悶絶している。


  璃子はこの隙に這うようにしてコーナーから脱出すると、前屈みになっているアンソニーの背中におぶさるように飛び乗り、何とアンソニーの耳に噛み付いていく。




  「ギャーッ!!!」


  耳を噛まれたアンソニーは、その激痛で悲鳴をあげるものの、急所攻撃のダメージでなかなか動く事が出来ない。


  そのアンソニーの背中にしがみついている璃子は、通常の攻撃ではダメージを負わせる事が出来ないと悟って、必死にアンソニーの耳に噛みついている。


  観客達もこの時ばかりは予想外の反撃を見せる璃子に冷やかし混じりながらも声援を送っているが、それは璃子の攻撃ではアンソニーを倒すまでには至らない事が分かっているからである。


  そして観客達の読み通り、急所攻撃のダメージから徐々に回復してきたアンソニーが、自分の耳に噛みついている璃子を離れさせようと、よろけるようにしてコーナーに向かっていくと、反転して背中からコーナーにぶつかっていく。




  ドオォォーーン!!!



  アンソニーの巨体とコーナーに挟まれた璃子は、その衝撃で耳から口を離してしまう。


  アンソニーはまだ耳を押さえて痛がっているが、150キロの衝撃を受けた璃子は、コーナーにもたれ掛かったまま、全く動く事が出来ない。


  やがてアンソニーが背後を振り返り、コーナーにもたれ掛かっている璃子に気づくと、不敵な笑みを浮かべらゆっくりと璃子に近付いていく。


  璃子はさっきの激突で一時的に気を失ったらしく、アンソニーが目の前に来ているのに全く動こうとしない。


  アンソニーはニヤニヤしながら動かなくなった璃子の顔を撫で回した後、いきなり璃子の唇を奪っていく。




  『!!!』


  隆之介はリング上で繰り広げられる光景に言葉を失っていた。


  自分の憧れの少女が、訳のわからない海坊主のような大男に唇を奪われているのである。


  隆之介はアンソニーに対して怒りを憶えながらも、それ以上に助けにいく事もできず、手をこまねいて見ているしかない自分の事を責めていた。




  リング上、アンソニーは動かない璃子に執拗に何度もキスを繰り返していた。

  どうやらアンソニーはボビーと違い、「若い女性」が大好物のようである。


  するとそれまで動かなかった璃子がさすがに違和感を感じたのか、次第に意識を取り戻していく。





  『?!!』



  璃子は自分が置かれた状況を把握するのに数秒かかった。

  おぞましい坊主頭の男の顔が息がかかる距離まで迫って来ている。

  まだ14歳の少女にとってはそれはあまりにハードな状況であった。




  「いやああっ!!!」



  璃子がショックのあまり大声で叫ぶと、アンソニーがそれを封じるかのように再び璃子の唇を塞いでいく。

  さらにアンソニーは必死に抵抗しようとする璃子を嘲笑うかのように、舌を出して璃子の顔を舐め回していく。




  『嫌だ、気持ち悪い…』


  璃子は何とかアンソニーの魔の手から逃れようと身を捩るが、少女の力で150キロの巨体はビクともしない。


  しかしこのまま身を委ねている訳にはいかないとばかりに、璃子は思い切ってある行動にでる。



  
  「アウッ!!!」



  突如アンソニーが叫び声をあげ、コーナーの璃子から離れていく。

  抵抗出来ない璃子が無我夢中でアンソニーの唇をかじったのだ。


  アンソニーは顔をしかめながら口元に手をやり、唇から出血している事に気付くと、さっきまでとは違う怒りの表情で璃子に向かっていく。


  アンソニーはコーナーから動けない璃子の髪を掴み、強引にリング中央に引っ張っていくと、思いっきり璃子の横っ面を殴り付けた。




  バキイィィーーッ!!!



  鈍い打撃音とともに、璃子の小さな体が軽々と吹っ飛ばされる。


  この光景を見ていた隆之介は、アンソニーのまさかの行為に目を疑った。




  『あいつ…今、拳で璃子さんを…』


  この試合、アンソニーは何度も璃子の顔を殴っていたが、それは全て「平手打ち」であった。


  あんな大男が少女の、しかも顔に手をあげるなんて、それだけでも許しがたい事なのに、唇をかじられたアンソニーはその怒りのあまり、拳で璃子を殴り付けたのだ。



  マットに放り出されるようにして崩れ落ちた璃子は、意識はあるものの、頬が腫れ上がり、口からの出血が増えている。

  そして異変はそれだけでなく、ここまで勇猛果敢にアンソニーに向かっていっていた璃子が、初めて怯えた表情を見せている。


  傷だらけの隆之介の代わりに闘う事を決意した璃子は、それをモチベーションに圧倒的な力の差を自覚しながらも必死にアンソニーに挑んでいった。

  しかし璃子にこれまで拳で顔を殴られた経験などあるはずもなく、アンソニーのパンチは肉体的なダメージも当然大きいが、それ以上の「恐怖心」という精神的ダメージを璃子に負わせたのだ。


  そんな璃子の心理状況はアンソニーにも伝わり、怒りの表情が自然と勝ち誇った表情に変わっていく。


  アンソニーはへたりこんでいる璃子に歩み寄ると、いきなり璃子が来ていたパーカーを脱がし始めた。




  「いやあああっ!!!」



  アンソニーの思わぬ行動に璃子は悲鳴をあげて抗議するが、あっという間に上着を脱がされてしまう。


  ジーンズは履いているものの、上半身はスポーツブラだけという格好にされた璃子は、恥ずかしさの余りにその場にうずくまってしまう。


  しかしそんな些細な抵抗が通用するはずもなく、アンソニーは璃子の髪を掴んで無理やり立たせると、無造作に放り投げるようにして璃子をコーナーに叩きつけていく。


  璃子はコーナーマットで背中を強打し、その場に崩れ落ちそうになるがアンソニーが璃子のアゴを掴んで璃子の体をコーナーマットに押し付けていく。


  アンソニーはコーナーに押さえ付けた璃子の怯えた表情を見ながら、舌舐めずりしてニヤリと笑うと、璃子のスポーツブラに被われた右胸を掴んでいく。




  「いやああっ!!」


  まだ成長途中の胸の膨らみに触れられ、璃子は必死に両手でアンソニーの手を押し退けようとするが、力で叶うはずもなく、アンソニーはニヤニヤとだらしない笑みを浮かべながら璃子の胸を揉み続けている。


  さっきまでの璃子なら、そんなアンソニーに対して間違いなく怒りの表情を見せたはずだが、力の差を思い知らされた今の璃子は、涙目で怯えきった表情になっている。


  さらに調子に乗ったアンソニーは胸に手を這わせたまま、再び璃子の唇を奪っていく。




  「んんっ、いやっ…」


  璃子も顔を背けて抵抗するが、その抵抗は余りにも弱々しく、いとも簡単に唇を塞がれてしまう。


  さらにアンソニーは、先ほどのように唇をかじられる事はないと確信し、璃子の顔を舐め回しながら執拗なキスを続けている。



  心の折れかかった璃子は、胸と顔を襲うおぞましい感触に眉をひそめながらも、半ば観念したかのように、その身を委ねていく。


  そして、この光景を見ていた隆之介は、璃子の目から流れる一筋の涙に気付く。




  『璃子さん…』



  璃子の涙に誘われるかのように、隆之介の目からも涙が流れていた。


  璃子がこんな目に合っているのは自分のせいである。


  そんな自責の念に駆られながらも、自分の体が動かないばかりに、黙って試合を見ているしかなかった。


  しかしこれ以上、璃子の体にも心にも傷を増やすわけには行かない。


  そう決意した隆之介は、ダメージ一杯の体に鞭売って、出来る限りの大声で叫んだ。





  「お願いです!もう止めてください!!」


  リングサイドで隆之介がそう叫んだものの、リング上の状況は変わるはずもなく、それを聞いた進行役の男が隆之介の前にやって来る。



  「ダメだよボーヤ~!お嬢ちゃんは動けない君の代わりにリングに上がってるんだから~!」


  男は隆之介の感情を逆撫でするかのように、相変わらずの軽薄な口調で隆之介に語りかけてくる。


  そしてリング上に目をやると、アンソニーが璃子の唇と胸を弄びながら、何とジーンズにまで手をかけようとしている。


  このままでは「キス」どころの話ではおさまらないだろう。


  隆之介は、もはや迷ってる場合ではないと思い、進行役の男に向かってこう叫んだ。




  「ぼ、僕がまたリングに上がりますから!!」



  進行役の男は隆之介のこの言葉に目を丸くして驚き、それを茶化すかのように口笛を吹いた。



  そしてこの時、進行役の男以外にもう一人、この隆之介の言葉に反応した人物がいた。





  「よ~し!ボーヤの気持ちはよ~く分かった!」


  進行役の男が隆之介にそう言った瞬間、リング上で予想だにしないハプニングが起こった。




  アアアァァァーッ!!!


  突如断末魔のような悲鳴が会場に響き渡り、それまで歓声をあげていた観客達が急にざわめき始めている。


  悲鳴に驚いた進行役の男が振り返ると、リング上ではアンソニーが両手で顔を覆いながらリング内を所狭しと徘徊している。



  アアァァァッ、アアァァァッ…



  アンソニーは徘徊しながら、弱々しいうめき声をあげ続けている。


  一方の璃子はそんなアンソニーに構わず、朦朧としながらコーナー付近で何かを探している。



  さっきまで二人はコーナー付近で揉み合っていたので、観客からはほとんどアンソニーの巨体しか見えていなかった。


  一体コーナーで何が起こったのか?


  多くの観客が気付いていない中、隆之介は偶然にもその一部始終を目撃していた。




  『璃子さん…今、指を…』


  隆之介はあまりの衝撃に言葉を失っていた。


  コーナーで逃げ場を失った璃子は、何とアンソニーの目に二本の指を突き立てたのだ。




  「目潰し攻撃」でピンチを逃れた璃子は、あるモノを手にしていた。


  それは、プロレスのタッグマッチで使う「タッチロープ」で、コーナーでの攻防でその存在に気付いた璃子は、アンソニーが徘徊している間にコーナーから外していたのだ。



  タッチロープを手にした璃子は、フラフラしながらもコーナーに登り、徘徊を続けているアンソニーの様子をじっと眺めている。

  そしてアンソニーがコーナー付近にやって来た所を見計らってその背中に飛び付き、アンソニーの首にタッチロープを巻き付けていく。

  さらに璃子は、近くのセカンドロープに足をかけると、そのまま器用にトップロープに登り、ロープの両端を握ったまま、場外に飛び降りていった。




  アアアアァァァーーーッ!!!




  奇声をあげているリング上のアンソニーはロープにもたれ掛かった状態で、璃子はアンソニーの首に巻いたロープの両端を掴んで、トップロープ越しに場外にぶら下がっている。


  璃子が苦肉の策で編み出したオリジナル絞首刑が完璧にきまり、会場は全く予想外の展開に大きくざわめき始めている。


  目潰しで目が開けられない上に絞首刑に極められたアンソニーはもはやパニック状態で、璃子はそんなアンソニーにさらにダメージを与えようと、ぶら下がったまま自分の体を揺さぶり始めた。




  アアァァァッ、アアァァァッ、アアァァァーーッ!…


  璃子が体を揺する度に、アンソニーがそのダメージを訴えるかのように不気味な奇声を発している。


  リング上で繰り広げられるわずか14歳の少女の凶行に観客のざわめきは大きくなる一方で、璃子を応援する立場である隆之介さえも、璃子の闘いぶりに恐怖を感じていた。




  『璃子さん怖いよ…これは本当に璃子さんなの…』



  ついさっきまで隆之介は、璃子が巨漢のアンソニー相手に無事で済むだろうかという「恐怖」を感じていた。


  しかし今は「目潰し」「絞首刑」という狂乱ファイトを躊躇なく繰り出す、自分の知ってる璃子とは別人の璃子に恐怖を感じている。


  まともに闘える相手ではないとはいえ、璃子を狂乱ファイトに走らせたものは何なのか?


  アンソニーの行為に対する怒りか、それとも操を守ろうという女の性か?




   『…あっ!!』


  
  “ぼ、僕がまたリングに上がりますから!!”



  思えば璃子が「目潰し」をしかけたのは、隆之介がそう叫んだ直後の事だった。


  自分がやられ続けていたらまた隆之介がリングに上がらなければいけなくなる。


  璃子は勝負に勝ちたいわけ訳でも、アンソニーに怒ってる訳でも、自分の身を守りたい訳でもない。
 

  隆之介を守る為に必死なのだ。




  『璃子さん…』




  リングでは璃子が必死に体を揺さぶり続けていて、アンソニーの顔色が変わり始めている。


  「絞首刑」の苦しみに耐えられなくなったアンソニーは、背中に重心をかけ、トップロープをしならせるとそのまま場外に落ちていった。




  ドオオォォーーン!!!



  璃子とアンソニーが場外に転落し、場内にもの凄い衝撃音が響き渡る。




  「璃子さああぁぁーーん!!?」



  璃子の身を案じ、隆之介は思わず大声で叫んでいた。


  ロープ越しにぶら下がっていた璃子が先に転落し、それに続くようにアンソニーが転落したので、璃子は150キロの下敷きになっている可能性がある。


  隆之介がいる場所ではその状況がわからず、騒然となった会場の雰囲気が、隆之介の不安をより一層募らせる。


  隆之介が心配そうな表情でリングを見つめていると、サードロープの下から一本の手が現れた。




  『!!!』



  それは璃子の手だった。


  璃子とアンソニーは落下した場所が僅かにずれていて、璃子は幸運にもアンソニーの下敷きになる事を免れていた。

  璃子はサードロープの下から這いずるようにリングインすると、そのままマットに崩れ落ちる。

  そしてアンソニーがリングに現れないまま、試合終了のゴングが鳴らされた。



  カンカンカンカン!!!



  終了のゴングが鳴っても、多くの観客達はこの状況を把握出来ずにいた。

  そんな観客達がざわめく中、進行役の男がリングに上がった。




  「これはまさかのどんでん返し!何と飛び入りお嬢ちゃんのリングアウト勝ちだ~!!」



  進行役の男がそう叫ぶと、会場のざわめきが一段と大きくなる。

  アンソニーはリング下で失神していて、その周りには彼の容態を心配する仲間らしき男達が集まっている。

  そんな彼らをはじめ、今までのアジトのリングではあり得なかった結末を、まだ受け入れられないといった空気が観客達にも流れている。



  そんな空気の中、隆之介はリングに横たわったままの璃子の事が気掛かりだった。

  リングに生還した直後にマットに崩れ落ちた璃子は、ゴングが鳴っても全く動く気配がない。

  考えてみれば、あの巨漢のアンソニーに何度も殴られたり、コーナーで体当たりを受けたりして無事であるはずがなく、むしろ試合を続けてたのが不思議な位である。


  璃子をそこまで頑張らせたのは紛れもなく、リングサイドにいる全身ボロボロにされた隆之介の姿に違いない。


  しかしこのアジトは、そんな感傷に浸っていられるような甘い場所ではなかった。




  「それにしてもお嬢ちゃんの頑張りは凄かった!…でも、ちょっと“おイタ”が過ぎちゃったかなあ…」



  進行役の男がそう言うと、数人の男達がリング上に姿を現した。

  先程リング下にいたアンソニーの仲間達で、倒れたままの璃子を取り囲んでいる。


  スポーツブラとジーンズ姿の璃子を冷やかな目で睨む男達。

  アンソニーのやられ方があまりに酷かったので、収まりがつかないのだろう。


  このままでは璃子が危ない。


  そう思った隆之介は、ダメージを負った体をおしてリングに向かった。





  「りっ、璃子さんに手を出すな!」


  璃子を囲んだ男達に向かって隆之介が叫ぶと、男達は一斉に隆之介の方を睨んでくる。


  隆之介はリング下で拾った、割れたビール瓶を右手に持っていて、それを男達の方に向けて威嚇している。

  恐らく映画やドラマで見る乱闘シーンを真似ているのだろう。


  しかしまだ子供の隆之介が震えながらそんな事をしているので、男達には全く怖がっている素振りはない。

  そんな男達の反応を見た隆之介は、ビール瓶を投げ捨てると、倒れたままの璃子に覆い被さっていく。



  男達は口笛を吹きながら隆之介の行動をはやし立て、その中の一人が璃子に覆い被さった隆之介の脇腹を蹴りあげていく。




  「ぐふっ!!」


  脇腹を襲った痛みに思わずうめき声をあげる隆之介。

  それでも璃子から離れようとしない隆之介に、男達は次々に蹴りを入れていく。


  笑い声まであげながら隆之介を蹴り続ける男達を見て、カップルの二人が傷だらけの体をおして救出に向かおうとするが、周りの観客達に簡単に取り押さえられてしまう。


  さらにリング上には、隆之介を散々痛め付けたボビーが姿を現し、得意の革ベルト鞭が再び隆之介を襲う。



  ビシイイィィーーッ!!!


  すでに真っ赤に腫れ上がっている隆之介の背中に革ベルトが打ち付けられ、隆之介は苦痛に表情を歪めるものの、決して璃子から離れようとはしない。


  そんな勇気ある行動も、彼らには嘲笑の対象でしかなく、ボビーはさっきと同じように奇声をあげながら続け様に革ベルトを隆之介の背中に打ち付けていく。



  ビシイイィィーーッ!…ビシイイィィーーッ!…ビシイイィィーーッ!…



  ボビーが革ベルトを振るう度に、周りの男達も歓声をあげ、それに呼応するように観客達からも歓声があがっている。


  あまりに常軌を逸した雰囲気の中、隆之介は背中を襲う激痛と、無慈悲な歓声に心が折れそうになりながらも、必死に璃子の体にしがみついている。


  しかしボビーの革ベルト攻撃はおさまる気配がなく、璃子を守ろうと必死に頑張っていた隆之介も、次第に自分の意識が遠のいていくのを自覚していた。


  もはや璃子も隆之介も自分で動く事が出来ず、唯一の味方である若いカップルも助けに入れるような状態ではない。



  この悪魔達の宴はいつまで続くのか、と薄れ行く意識の中で隆之介が考えていた時、リング上に一人の男が現れた。





  リングに現れた男は、いきなり隆之介に革ベルトを振るっていたボビーの顔面に右ストレートを見舞い、190センチあるボビーを殴り倒してしまう。


  男は白髪混じりの日本人で、老人と言える外見だが、年齢の割にはしっかりした体躯をしていて、恐らく同年代の人間では大きい部類に入るだろう。


  とはいえ、ボビーに比べれば明らかに小柄で、そんな日本人の老人がボビーを殴り倒した事に、周りにいたアンソニーの仲間達も驚きを隠せなかった。


  それだけでなく、外国人の彼らにはその日本人が誰かは解らないが、男が一般人とは違うただならぬオーラを放っている事に気付き、応戦するどころか、その迫力に思わずその場から後ずさってしまう。


  そんなリング上の空気は会場内にも伝わり、先程まで大きな歓声を送っていた観客もあっと言う間に静まり返っていく。



  そしてリング上にいた進行役の男が、その老人の正体に気付き、愕然とする。





  『えっ!?こっ、この人って……』



  リングに現れたのは、大物俳優の尾形拳であった。

  尾形は隆之介や璃子と同様、この離島で撮影中の『煌めきの島スペシャル』に出演していた。

  璃子と隆之介の姿が見当たらない、という事で心配した出演者やスタッフが町中を探し回っていて、たまたま尾形がこのアジトにやって来たのだ。




  倒れたまま動かない璃子と隆之介の前に立った尾形は、鋭い眼光でリング上の男達を睨み付けている。

  尾形に気付いた進行役の男は勿論の事、尾形の事を知らないボビーやアンソニーの仲間達までもが、その迫力に圧倒されている。




  「これ以上この子達に手を出すな!もし何かあったら君達の身の保証はできないぞ!!」



  静まり返った会場内に尾形の声が響き渡り、会場内は更なる静寂に包まれる。


  このアジトに集まっている人間は、決してそんなありきたりな脅し文句が通用するような人種ではない。


  しかし日本映画界で数十年もの間トップの座に君臨してきた男の一喝は、この反社会的空間をあっという間に現実世界に引き戻してしまっていた。





  

  尾形の手によってアジトから救出された隆之介と璃子は、怪我の治療と静養の為、数日の間撮影を休む事になった。



  尾形は二人の事を気遣い、


  二人はタチの悪い連中に絡まれて怪我をした。

  自分が警察に被害届を出しておいた。


  とスタッフや他の共演者達に話し、アジトでの出来事には一切触れなかった。






  隆之介が撮影に復帰する前日、尾形は隆之介を“ある場所”に連れ出した。



  「あっ…」


  隆之介が連れてこられたのは例の公民館だった。

  しかしそこには周囲に鉄線が張られ、「立ち入り禁止」と書かれた看板まで置いてあった。



  尾形はあの後、何とアジトの人間に全て手配させ、隆之介と璃子、そしてあの若いカップルを病院に連れていったのだという。


  そして璃子に目潰しされたあのアンソニーという男も幸い「失明」という事態は免れたらしい。



  尾形はそんな話をした後、一枚の紙切れを隆之介に見せた。



  「誓約書」と書かれたその紙には、今後この公民館を使わないとか、隆之介と璃子がリングに上がった事を絶対に口外しないとか、様々な事が書き連ねてあり、最後に日本人と外国人の名前が数名、連名で書かれている。



  警察でさえなかなか手の出せない組織に、尾形はたった一人で話をつけてしまったのだが、当時まだ中学生の隆之介にはそんな裏事情が解るはずもなく、キョトンとした表情で尾形の出した紙切れを眺めている。



  「もう何も心配しなくていいんだからな!」


  尾形はそう言ってニッコリ笑うと、隆之介の髪をくしゃくしゃにして頭を撫でた。


  しかしこの時まだ、隆之介の心が晴れる事はなかった。






  怪我から回復した隆之介と璃子が撮影に復帰すると、現場は一段と明るい雰囲気に包まれた。


  まだ中学生とはいえ、二人ともプロの役者らしく出番の間は「あの出来事」をすっかり忘れて、演技に没頭していた。




  最初の出番を終えた隆之介は、スタッフや共演者と離れ、一人落ち込んだ様子で、砂浜で膝を抱え座っていた。


  自分の勝手な行動で周囲に迷惑をかけたのに、スタッフも共演者も隆之介の体の心配をするだけで、誰一人隆之介の事を責める者はいなかった。


  しかしそんな周囲の優しさがかえって、隆之介の罪悪感を倍増させていた。




  「隆く~ん!!」



  隆之介が座ったまま振り返ると、出番を終えた璃子が、隆之介の方に向かって走ってきた。


  隆之介の隣に座った璃子は、いつもと変わらない笑顔で隆之介の事を見つめてくる。



  『あっ!?』



  隆之介は璃子の笑顔を見てふと、自分達が戻った時にスタッフの一人が言った言葉を思い出した。



   “いやあ、ビックリしたよ~!「璃子ちゃんと隆之介君がいない!」ってみんな大騒ぎだったんだから~”



  スタッフ達は「璃子と隆之介」を探していたのだという。

  しかし隆之介は一人であの公民館に行ったわけで、璃子は後から現れたのである。


  という事は、璃子は他の共演者やスタッフの誰よりも早く隆之介の不在に気付き、たった一人で隆之介の事を探し回っていたのだ。


  もし璃子が探していなかったら、自分はあのリングでもっとひどい目にあってただろう。




  「璃子さん…」


  「ん?」


  「璃子さん…一人で僕の事、探してくれたの…?」


  「…うん…“あれっ!?隆君がいない!?”って思ってあわてちゃって…スタッフの人と一緒に探しにいけばよかったのにね…」


  そう言うと璃子は隆之介の方を見てニッコリと笑った。




  考えてみれば、一番の被害者は璃子なのではないか?


  そもそも、自分があの公民館にいかなければ、璃子もあんな目に遭わずに済んだのだ。


  自分を心配して、一人で探し回ってくれただけでなく、自分の身代わりになってリングに上がってくれた璃子。

  あんなクズのような連中に殴られ、唇を奪われ、服を脱がされ、胸まで触られて、それでも隆之介の代わりに最後まで戦っていた。


  それはまだ14歳の少女にとってあまりにも屈辱的な出来事だろう。


  尾形があの公民館に隆之介だけを連れていったのも、「女の子」である璃子の事を気遣ったに違いない。


  しかしそんな目に遭っていながらも、璃子は今も普段通りの笑顔で自分に接してくれている…



  隆之介はそんな璃子がいたたまれなくなり、璃子の視線から逃れるように顔を伏せると、思わず泣き出してしまう。




  「…隆君?」


  隆之介のすすり泣く声に驚き、璃子が心配そうに声をかけると、隆之介は顔を伏せたまま、声を詰まらせながら話始めた。



  「り、璃子さん…ご、ごめんなさい…」


  「えっ?」


  「僕のせいで…あんなひどい目に…ごめんなさい…ごめんなさい…」


  隆之介が涙声でそう言葉を続けると、璃子は首を左右に振り、顔を伏せたままの隆之介に声をかけた。



  「隆君は私の事守ってくれたじゃない…知ってるよ。私あの時ほとんど意識無かったけど、隆君の身体、とっても温かかった…


  “ああ、隆君が私の事、守ってくれてるんだ”って…だから…隆君、ありがとう…」



  璃子が感謝の言葉を告げると、隆之介の嗚咽の声は一段と大きくなり、全く泣き止む気配がなかった。


  璃子はそんな隆之介の姿を傍らで黙って見守っていた。




  散々泣いた隆之介は、ようやく落ち着きを取り戻し始めていた。


  それまでずっと顔を伏せていた隆之介がようやく顔をあげると、隣にいた璃子がそっと、隆之介の肩に手をかける。


  隆之介がこれに反応して璃子の方を向くと、璃子はすっと顔を近づけていった。



  「!!!」


  隆之介は驚いている暇もなかった。


  唇を重ねられた瞬間頭が真っ白になり、さっきまで泣いていた事さえ、忘れてしまっていた。



  一体どれ位時間がたったのだろう。


  気がつくと、隆之介の目の前には笑顔の璃子がいた。



  「…二人だけの“秘密”だよ。」


  璃子はそう言い残してその場から立ち去っていった。



  そして璃子と入れ替わるように、呆然としている隆之介のところに尾形がやって来た。



  「隆之介、ジュース飲むか~?」


  尾形は缶ジュースを片手に嬉しそうに隆之介に声をかけるが、隆之介の耳には全く入ってなかった。


  返事をしない隆之介を不思議に思った尾形が、隆之介の顔を覗きこむと、ようやく隆之介は尾形に気付く。



  「…隆之介、何か顔赤くないか?」


  「えっ?」


  「お前…熱があるんじゃないのか?」


  「あっ、いえ…」


  「ちょっと!誰か来てくれ~!」


  尾形が声をあげると、三人のスタッフがあわてて走ってきた。


  「尾形さん、どうしました?」


  「いや、隆之介が何か調子悪いみたいなんだよ!」


  「あっ、いや、僕は…」


  「えっ?上木君、大丈夫?」


  「無理しなくていいんだからね!」



  隆之介がまだ撮影に復帰したばかりなので、スタッフ達も相当ナーバスになっている。


  矢継ぎ早に声をかけられ、隆之介が困惑していると、他の共演者やスタッフ達も隆之介のところに集まってきた。


  「何かあったの?」


  「上木君どうかしたんですか?」


  「病院行った方がいいんじゃないですか?」



  近くでスタッフと話していた璃子もこの騒ぎに気付き、視線を向けるとそこには大人達に囲まれ、顔を真っ赤にして狼狽する隆之介の姿が。



  「本当に大丈夫ですってばあ!!」


  その姿があまりに微笑ましく、璃子は思わず吹き出してしまっていた。



  

  『煌めきの島スペシャル』クランクアップの日。


  璃子と隆之介の前には二人との別れを惜しむ尾形の姿があった。


   「また君達と共演出来る日が来るのを楽しみにしてるよ。」


  結局、その願いは叶わず、その言葉は、尾形が隆之介と璃子にかけた最後の言葉となった。









  久しぶりに逢った璃子の前で、隆之介は涙を止める事が出来なかった。



  尾形が亡くなった今、“あの出来事”を知っているのは隆之介と璃子だけである。


  あの場所にいて、あのリングに上がった者にしか分からない苦しみを共有する二人。


  「大人」になれば、「苦い思い出」にしてしまえるかもしれないが、高校生の隆之介と璃子にとっては、それはまだ「心の傷」でしかなかった。


  普段から会っていれば風化していたかもしれない、しかし会わなかったから思い出さずに済んだあの『悪夢』。


  久々の再会は「喜び」とともに「苦しみ」まで大きな物に変えていた。




  「…ごめんなさい、璃子さん…ごめんなさい…」


  涙を拭いながら途切れ途切れに話す隆之介を、璃子はじっと見つめている。


  隆之介が何を謝っているのか、璃子は十分理解していた。


  璃子は泣き続ける隆之介にそっと近づき、優しくその身体を抱き締めた。



  「泣いてちゃダメだよ…隆君…せっかくカッコよくなったのに…台無しになっちゃうよ…」



  璃子は隆之介にそう語りかけると、隆之介の背中にまわした手をすっと隆之介の頬に持っていく。


  そして俯き加減だった隆之介の顔を優しくあげると、そのまま唇を重ねていった。




  「……」



  あまりに唐突な璃子の行動に、隆之介はされるがままになっていた。


  さっきまで渦巻いていた「あの悪夢」はいつの間にか消え去り、頭の中が真っ白になっていた。



  そして気が付くと目の前には璃子の顔があった。




  「また新しい“秘密”ができたね。」


  
  璃子はそう言うとニッコリと笑った。




  「…あっ?」


  璃子は急に何かを思い出したかのように声をあげると、まだ「キスの余韻」から覚めない隆之介をそっちのけにして、側に置いていた自分のバッグを開け、何かを探し始める。



  「あ~っ!?メアド交換しようと思ったのに、携帯楽屋に置いてきちゃった~!隆君、ここで待ってて!!」


  璃子が捲し立てる勢いにつられて隆之介が頷くと、璃子は足早にその場を立ち去っていった。




  『そういえば…』


  隆之介は璃子の背中を眺めながら、当時のロケの事を思い出していた。



  あの時も璃子は、今と同じように、泣いている自分にキスをしてくれた。


  そして、今と同じように、頭の中に渦巻いていた『忌まわしい悪夢』が嘘のように、頭の中から消えてしまっていた。



  …二人だけの“秘密”だよ。

  また新しい“秘密”ができたね。



  璃子自身も、二人にしか分からないあの『忌まわしい悪夢』から解放されたかったのだろうか。


  その為に、二人が共有出来る新しい「秘密」を作りたかったのだろうか。




  隆之介がそんな事を考えていると、そこを通りがかったある人物が隆之介に気付き、背後から隆之介の肩を叩いた。



  「!!!」


  振り返った隆之介は、その人物を見て愕然とした。



  『お、尾形さん…』


  目の前にいたのは、亡くなったはずの尾形拳であった。



  『まさか…幽霊?』


  隆之介がそう思った瞬間、目の前の映像が瞬時に修正され、別の人物が隆之介の前に現れた。




  「久しぶりだね。上木君…」


  『あっ…』


  
  隆之介に声をかけたのは、俳優の尾形直人だった。


  隆之介が一瞬見間違えた、亡くなった尾形拳の息子である。


  役者としても隆之介の大先輩に当たる直人だが、尾形の告別式でまだ子供の自分にも深々と頭を下げていた姿が、隆之介にはとても印象的だった。


  久しぶりに璃子に逢えたと思ったら、今度は直人に逢うなんて。


  隆之介は何か因縁のようなものを感じていた。




  「…で、今日はどうしたの?こんな所で…」


  スタジオのロビーに呆然と立っている隆之介を見て、素朴に感じた疑問を直人が口にすると、隆之介はハッと我に帰った。



  『!!!』



  自分が今いるのはスタジオのロビーである。


  そこは当たり前のように、タレントや関係者が四六時中行き交う場所で、直人が来るまで誰も通らなかったのはほとんど奇跡と言ってもいい。


  そんな場所で、自分はさっき璃子と抱き合ってキスしていたのだ。




  「…上木君?…何か顔、赤いよ…」


  「えっ!?」


  「もしかして、具合悪いんじゃないの!?」


  「あっ、いや…」


  「あっ、ちょうどよかった!マネージャー!!」



  直人は通りがかった自分のマネージャーを呼び止めた。


  「はい!」


  「上木君が調子悪いみたいなんだよ!」


  「えっ?大丈夫ですか!?」


  「いや、僕は…」



  隆之介が口を開こうとするくと、さらに数人のタレントや関係者が通りがかる。


  「あれっ、直人さん?」


  「あっ、隆之介君!!」


  「何かあったんですか?」


  「上木君が調子悪いみたいで…」


  「えっ?大丈夫なの!?」


  「じゃあ、タクシー呼びましょうか!?」



  ここで、楽屋に携帯を取りに行った璃子が戻ってくるが、いつの間にかロビーには人だかりが出来ている。


  璃子が戸惑いながらその人だかりを覗いてみると、そこには大人達に囲まれている隆之介の姿が。



  「本当大丈夫です!僕、大丈夫ですから~!!」


  そこにはあの時と同じように顔を真っ赤にしてうろたえる隆之介の姿と、それを見てあの時と同じ様に笑う璃子の姿があった。

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