真緒が入院している病院を訪れた結衣は、中庭のベンチに座っている真緒の姿を発見する。
結衣は深呼吸した後、真緒が座るベンチに向かって歩いて行くが、途中で「ある事」に気づき、足を止めてしまう。
『そうだ・・・ワタシ、何を話せばいいんだろう・・・』
よくよく考えてみれば、真緒とは戦った経験はあるものの、それ以外で面識がある訳ではなかった。
しかも再戦となる今度のタイトルマッチにおいても、王者と挑戦者という敵対する立場の人間である。
それに裕子から受け取ったバンダナを渡すにしても、どう説明すればいいのか分からなかった。
そもそも結衣がそのバンダナを持っている事自体おかしな話だし、真緒に怪我を負わせたOTK38から今度対決する結衣を通して返すというのも、ありえない話である。
結衣がそんな事を考えながらその場に立ち尽くしていると、ベンチに座っていた真緒が結衣の姿に気づく。
『あっ・・・』
振り向いた真緒と視線が合い、心の準備が出来ていない結衣は思わずうろたえてしまう。
「こっ、こんにちは・・・」
結衣は戸惑いながらもとどもりがちに挨拶し、真緒にペコリと頭を下げる。
「何だ・・・誰かと思えば、“A−1王者”の荒垣結衣“さん”じゃないですか・・・・」
真緒が明らかに皮肉っぽい口調で結衣にそう声をかけると、結衣の顔から自分が座ってる隣の空いたスペースに視線を移した後、再び前を向いてしまう。
「立ってないで、座ったら。」とでも言っているかのような真緒の視線に促されるように、結衣は遠慮がちに真緒から少し離れたところに座った。
「・・・・・」
ベンチに並んで座った二人は無言のまま、そこに佇んでいた。
『真緒さん・・・』
間近で見る真緒の姿は、見るからに痛々しいものだった。
防衛戦は一ヵ月後だが、素人目に見てもそれまでに完治するとは思えなかった。
『防衛戦は延期かなあ・・・』
真緒の様子を見て結衣がそんな事を考えていると、真緒が突然口を開いた。
「お前の・・・・」
「えっ?」
突然話しかけられ、驚いた結衣が真緒の方を見ると、真緒は結衣の方を見ずに前を向いたまま、言葉を続けた。
「お前の・・・前の、チャンピオン・・・・」
「前のチャンピオンって・・・えりかさん?」
結衣の言うように、真緒が話しているのは結衣の前のA−1王者、佐和尻えりかの事だった。
真緒は結衣の問いかけには答えなかったが、肯定の意味でそのまま話を続けた。
「ワタシ・・・アイツみたいになろうって思ってた・・・誰にも媚売らないで、周りに敵作って・・・でも、試合に勝つから、誰も文句言うことが出来ない・・・認めざるを得ない・・・みんな歯軋りしながら、アイツの事、王者って呼ばなきゃいけなかった・・・でも、それって、すごく気分がいい事なんじゃないかって・・・」
「真緒さん・・・・」
「だけど、アイツはタイトルを返上した・・・だから、ワタシがその代わりになってやろうって・・・そう思った・・・」
真緒は自分自身の事を、結衣に向かって語っていた。
結衣はそんな真緒の行動を意外に感じながらも、真緒の話をちゃんと聞いておかなければ、と思った。
しかし結衣がそう思うや否や、真緒は急に打って変って、軽い口調で話を再開した。
「・・・ったく・・・考えてみたら、お前に負けたのがケチの付き始めだったんだよなあ・・・」
「えっ?!!」
「ワタシが負けたら、どいつもこいつもヘラヘラしながら、『A−1、残念だったね。』とか言いやがって・・・腹ん中じゃ『いい気味だ』って思ってるクセにさ・・・それでまた挑戦しようとしたら、今度はトーナメントで優勝しろって・・・トーナメントに出たらシンドイ試合ばっかだし・・・ふざけんな、って話だよ・・・全く・・・」
「ごっ、ごめんなさい・・・」
さりげない口調で散々悪態をつかれた結衣は、思わず小声で真緒に謝っていた。
それを聞いた真緒は結衣の方をチラッと見ると、「何謝ってんだよ」とでも言うかのように、呆れたような表情を見せていた。
それからしばらく二人の間に沈黙が流れた後、結衣は自分からも何か話をしなくてはと、思い切って言葉を切り出した。
「あの・・・怪我の方は・・・」
問いかけられた真緒は、さっきまでと同じように結衣の方を向かず、前を向いたまま、まるで独り言を言うように話を始めた。
「・・・ぬるいんだよ・・・アイツらは・・・」
「えっ?」
「まともに動けないワタシに、数人がかりで、凶器まで使って・・・何でこの程度で済んでんだよ・・・普通なら集中治療室行きだろ・・・」
真緒はまるで、結衣が怪我の原因を知っている事を分かっているかのように話していた。
しかし「この程度」と真緒は言うものの、決して軽傷ではない事は結衣の目にも明らかである。
「ホントに・・・大丈夫なんですか?・・・」
「大した事ねえよ・・・アイツらの攻撃なんて・・・それよりも、ピンピンしてたワタシが一発で動けなくなった“誰かさん”のヒザの方が、何十倍もきつかったよ・・・」
『・・・あっ!!』
結衣はその言葉を聞いて、かつて真緒と戦ったときの事を思い出した。
序盤、真緒のラフファイトで完全にペースを握られた結衣は一発のニーリフトで真緒を悶絶させ、それを足がかりにして勝利をモノにしていた。
「ごっ、ごめんなさい・・・・」
真緒が自分の事を言っているのに気付いた結衣は、思わずさっきと同じように真緒に謝っていた。
そんな結衣の言葉を聞いた真緒も、さっきと同じように呆れた表情を見せた後、思わず「フッ」と鼻で笑っていた。
そしてこの時結衣の頭の中に、昨日裕子が言っていた言葉が浮かんだ。
“きっと真緒さん、悔しかったんだと思います。自分が目指しているタイトルや・・・“ライバル”である結衣さんを馬鹿にされた事が・・・”
『真緒さんは、ワタシの事を“ライバル”と思ってくれてるんだ・・・』
そう思った結衣は、自分の正直な気持ちを真緒に伝えなければ、と思った。
「真緒さん・・・・」
真緒は結衣の呼びかけには反応せず、黙って前を向いたままである。
しかし真緒が話を聞こうとしている事は、何となく結衣にも伝わってきた。
「ワタシ、今までに色んな人と戦ったけど、一番の強敵は、やっぱり真緒さんでした。・・・・確かに前の試合では勝てたけど、だからって、次も勝てるなんて思ってません・・・・でも、このタイトルは、色んな人達の協力があって獲る事が出来た、ワタシにとっても大切なタイトルなんです。・・・だから・・・今度の試合も、真緒さんにタイトル渡すつもりはありません・・・」
普段大人しい結衣にしては珍しく、力強い口調でタイトルマッチへの決意を真緒に語っていた。
それは結衣の、真緒に対する「ライバルとしての」最大限の礼儀であった。
そして結衣の話を黙って聞いていた真緒は、結衣が話し終えてしばらくすると、おもむろに立てかけてあった松葉杖を手に取り、起用にベンチから立ち上がった。
「・・・じゃあな・・・」
真緒は結衣の方も見ずにそう一言だけ言い残し、松葉杖を付きながらその場を去っていく。
結衣はベンチに座ったまま、立ち去る真緒の後姿を見守っていた。
真緒が去った後も、結衣は一人ベンチに座ったまま考えていた。
『真緒さん・・・何か変だったなあ・・・・・』
元々ほとんど面識が無い上に、対戦相手という立場なので、決して友好的な態度では無いのは当然だが、あんな風に自分の事を語ってくれるとは思っても見なかった。
結衣も真緒の評判は色々と耳にしていたが、とてもそんな事を話してくれるキャラには思えなかった。
そして「タイトルを渡すつもりはない」という結衣の言葉に何も言い返さなかった事にも、違和感を感じずにいられなかった。
『でも・・・今日は真緒さんと話せて良かった・・・』
そろそろ帰ろうとベンチから腰を上げた結衣は、自分の方に向かって歩いてくる一人の美女の姿に気付く。
『えっ?!!』
その美女はスラリとした長身で、服を着ていても抜群のプロポーションが際立っていた。
しかし結衣が驚いたのはそういう理由ではなかった。
「荒垣結衣ちゃん、初めまして。」
結衣の前にやってきた美女がニッコリと笑ってそう挨拶すると、結衣はあわてて頭を深々と下げた。
確かに会うのは初めてであるが、結衣は当然、その美女の事は知っていた。
結衣が顔を上げると、自己紹介の必要も無いその美女は、きちんと自分の名前を名乗った。
「・・・・松島奈々子です。」
結衣は奈々子に誘われ、レストランで夕食を共にしていた。
今や日本を代表する女優となった松島奈々子だが、実は奈々子も若い頃に女優プロレスのリングに上がった経験があった。
当時朝ドラのヒロインに抜擢され人気上昇中だった奈々子は、172センチの恵まれた身体のおかげで関係者から熱烈なオファーを受けて女優プロレスに参戦を果たすと、いきなり現在結衣が保持しているA−1王座を獲得し、裏の世界でも一躍脚光を浴びることになる。
しかしA−1王座の防衛戦を2度行った後、本業である女優業への専念という理由で王座を返上し、惜しまれつつも女優プロレスの舞台を去った。
わずか3試合しか戦ってないにも関わらず、圧倒的な強さを誇った奈々子のファイトは関係者達の記憶に鮮烈に残り、数年前には女優プロレスの実行委員に選出されていた。
そして現在も多忙な中、委員会への参加だけでなく、スケジュールが合う時には試合会場にも足を運び、その活動を裏から支えている。
つまり結衣にとって同じA−1王者の大先輩に当たる奈々子だが、実は井上真緒の所属事務所の先輩でもあった。
この日奈々子は真緒の見舞いに訪れていて、その後真緒の主治医に真緒の怪我の状況を確認していたのだという。
そして帰り際に真緒と結衣が話しているのを見かけた奈々子は、結衣と話がしたいと思い、真緒と別れたのを見て結衣に声をかけたのだ。
結衣は女優としてだけでなく、A−1王者としても先輩にあたる奈々子を前に、緊張を隠せないでいた。
奈々子はそんな結衣の心中を察してか、積極的に結衣に話しかけていく。
「そういえば結衣ちゃんって、永沢まさみちゃんにコーチしてもらったって本当?」
「あっ、はい・・・」
「そっかぁ・・・・それじゃあ、真緒も勝てないはずよね。」
「えっ?・・・」
「ワタシはまさみちゃんの試合も見てるのよ。だから、まさみちゃんがどんなに凄いか知ってるわ。まあ、真緒のコーチとしては悔しかったけどね。」
「あっ?!!」
考えてみれば、奈々子と真緒は同じ事務所の先輩後輩なのだから、決して不思議な事ではなかった。
例えば今回のトーナメントで、真緒が璃依紗戦やメイサ戦で使ったバックハンドブローは奈々子直伝のものである。
奈々子がフィニッシング・ブローとして使っていた技だが、小柄で奈々子程のパワーの無い真緒はあくまでも相手の動きを止める技として効果的に使っていた。
「ただあのコ、ワタシと全然体格が違うでしょう。だから基本は教えられても、技はなかなか同じようにって訳にはいかなくて・・・だからあのコ、自分で研究して、ああいうラフファイトを覚えたのよ。」
確かにラフファイトのイメージが強い真緒だが、結衣は対戦した時に真緒が基本的な動きが良く出来てる事に驚いた。
奈々子に基本を叩きこまれ、さらに小柄な自分が活路を見出す為に、あのラフファイトを身に着けたのだろう。
「だから、結衣ちゃんとの試合も結構期待してたんだけど・・・でも、結衣ちゃんみたいな凄いコを、まさみちゃんがコーチしたんだから、強いはずよね・・・」
結衣にはその理由は分からなかったが、奈々子は「結衣のコーチがまさみだった」という事に、妙に納得している様子である。
「あっ、ゴメンナサイね、何か失礼な言い方しちゃって・・・結衣ちゃんは素晴らしいチャンピオンだと思うわ・・・でも、だからってA−1王座が簡単に獲れるものじゃないって事は、結衣ちゃんも分かってるよね?」
結衣は奈々子の言葉に深く頷いていた。
結衣自身、自分の力だけではなく、まさみを始め、周囲の人間の協力があったからこそ、タイトルを獲れたのだと思っている。
「今度のトーナメントもね、真緒凄く気合入ってたの。『これが最後のチャンスだから』って。」
「えっ?!!」
「事務所に言われたのよ。もしタイトルを獲ったらプロレス続けていいけど、獲れなかったら本業に専念しろって・・・・だからワタシも散々練習に付き合わされたわ・・・・」
奈々子は呆れたようにそう言いながらも、優しく微笑んでいた。
やはりA−1王座獲りに執念を燃やしている妹分の事が可愛くて仕方ないのだろう。
『最後のチャンス・・・』
結衣は、真緒がトーナメントの大本命のメイサに勝った事や、A−1王座をバカにしたOTK38相手にケンカを売るような真似をした事の理由が分かったような気がした。
真緒が今回のA−1王座挑戦に賭ける意気込みは生半可なモノではない。
以前対戦した時と同じ真緒だと思っていたら負けるかもしれない、と結衣は思った。
「あの・・・真緒さんの怪我は、どうなんですか。」
「先生の話だと、1ヶ月位で退院じゃないかって・・・ちょっと足にヒビ入ってるけど、折れてる訳じゃないし・・・まあ、あのコもあれで、頑丈だから。」
心配そうな表情の結衣を気遣ってか、奈々子はニッコリ微笑んで真緒の怪我が深刻なものではない事をアピールした。
1ヶ月後となると、ちょうどタイトルマッチが予定されている時期である。
退院直後にタイトルマッチに出てくるとは考えにくいが、真緒の並々ならぬ熱意を考えると、回復の程度によっては予定通りにリングに上がってくるかもしれない。
「真緒さん・・・タイトルマッチに間に合うんですか?」
「えっ?!」
「でも・・・怪我をしたっていっても真緒さんは強敵だと思います。・・・防衛戦が予定通りに行われても、延期になったとしても、きっと真緒さんは死に物狂いでタイトルを獲りに来る・・・・ワタシも、いつ試合があっても、真緒さんと戦えるようにしっかり準備しておきます。」
結衣は真緒に決意表明したように、奈々子にも自分の決意を伝えていた。
しかし奈々子は、そんな結衣に対してなぜか不思議そうな表情を見せている。
「結衣ちゃん・・・」
「・・・・はい・・・・」
「・・・・真緒から、何も聞いてないの?」
「聞いてないって・・・・」
結衣は奈々子の言葉の意味が全く分からなかった。
戸惑う結衣を見て、結衣が何も知らない事を理解した奈々子は、持っているバッグの中を探り始める。
結衣が不思議そうにその様子を眺めていると、奈々子は数枚の写真を取り出し、結衣に見せるようにテーブルに並べた。
『?!!』
写真に写っていたのは、リング下でうずくまっている真緒の姿だった。
「こっ、これって・・・・」
それはOTK38興行で真緒が乱入した時の写真だった。
他にも、真緒が高橋南に警棒で殴られている場面や、ストンピングの集中砲火を受けている場面、秋本才加と篠田真里子が真緒に3Dを決めている場面など、写真は全てOTK38のメンバーにボコボコにされている真緒の姿を写したものであった。
裕子から話は聞かされていたものの、実際その場面を見せられると、衝撃も新たであった。
「結衣ちゃん、今、あのアイドルのOTK38がプロレスやってる事は知ってる?」
「あっ、はい・・・」
「ちょっと前にね、事務所でお世話になってるスポンサーさんから、そのチケットを頂いたの。ワタシと真緒がA−1でお世話になってる事知ってるから、復活したa−1王座にも関心があるんじゃないかって・・・」
「・・・・」
「それで、ワタシと真緒が見に行く予定だったんだけど、ワタシがその日都合悪くて行けなくて・・・で、あのコもトーナメントで怪我してたから、てっきりあのコも行かないと思ってたんだけど、あのコ、一人で行った見たいで・・・・」
「えっ・・・でも、何で・・・そんな、怪我してるのに・・・」
「・・・マネージャーに聞いたらね、マネージャーも当然行かないと思ってたらしくて、でもその日、真緒に電話したら『試合見に行く』っていうから、『無理しないで休んだほうがいい』って言ったら、あのコ・・・・『誰も行かなかったら、チケットくれたスポンサーさんに悪いから』って・・・」
「・・・・」
なぜ真緒がその場所にいたのか、という疑問を、結衣はようやく理解できた。
「ワタシもその場にいた訳じゃないから、詳しくは分からないけど、試合終ってからOTKのコ達が何か言ってたらしくて、それで真緒が怒って乱入して・・・・」
奈々子はそう言いながら、テーブルに出した写真を手で指し示した。
「ワタシが一緒に行ってれば、そんな事させなかったんだけど・・・マネージャーも、真緒を一人で行かせた事を後悔してたわ・・・『一緒に行こうか』って言ったらしいんだけど、真緒が『試合見るだけだから大丈夫だ』って・・・あのコ、そういう風にしかいわないけど、多分マネージャーの休日を潰したら悪いって、思ったのよ。普段憎まれ口ばっかり聞いてるけどね・・・」
普段は傍若無人のような振る舞いを見せていながらも、スポンサーやマネージャーへの気遣いは忘れない。
真緒の意外な一面を知った結衣だが、皮肉にもその一面が今回のアクシデントを招いたのだ。
そして結衣はふと、ある疑問に気づく。
「・・・・でも、この写真って、いったいどこから・・・」
「“アーティスト・ワン”の関係者か、OTKの関係者だと思うんだけど、この写真・・・A−1の実行委員会に送られてきたモノなの。」
「えっ?!!」
「“アーティスト・ワン”の関係者が全部って訳じゃないけど、中には“アクトレス・ワン”に強い対抗意識を持ってる人達がいるのよ。」
「・・・・どういうことですか?」
「結衣ちゃんも想像付くんじゃない・・・この写真、ここにあるだけだと思う?」
「?!!!」
結衣はすぐに奈々子の言葉の意味を理解した。
「『A−1王座の次期挑戦者が“アーティスト・ワン”のリングで大失態』・・・・今ネット上でそんなニュースが話題になってるの。ここにある写真はもちろん、中には動画を公開しているところもあるって聞くわ・・・」
「そ、そんな・・・」
「“アーティスト・ワン”のファンだけじゃなく、“アクトレス・ワン”のファンの間にも、既にこのニュースは広まってるわ・・・これはA−1王座の威厳に関わる問題じゃないかって・・・・」
「でっ、でも・・・・」
「OTKのコ達がどんな手を使ったとか、大勢で真緒を痛めつけたとかって、そういう問題じゃないの。A−1の次期挑戦者である真緒が“アーティスト・ワン”のリングに乱入して、しかもこんな失態を演じた・・・真緒の行動はA−1の次期挑戦者としての自覚を欠くもので、これだけ無様な姿が多くの人達に晒されてしまった以上、権威あるA−1王座の挑戦者にはふさわしくない・・・昨日の実行委員会議で、そういう判断が下されたわ。」
「えっ?!・・・それじゃあ・・・」
奈々子はコクリと頷き、ゆっくりと口を開いた。
「・・・・A−1王座挑戦権剥奪。昨日正式に決定されたわ。・・・今日ワタシが病院に来たのは真緒のお見舞いともう一つ、実行委員として委員会の決定を彼女に伝えに来たの。」
結衣は奈々子の言葉に動揺を隠せなかった。
“・・・じゃあな・・・”
結衣の脳裏に、立ち去る真緒のどこか寂しげな後姿が浮かんでいた。
「結衣ちゃんも知ってるかも知れないけど、あのコ、朝ドラの主演が決まったの。事務所が本業に専念してほしい、っていうのはその為なの。ワタシも出てたから分かるけど、朝ドラって撮影期間も長いから、とてもリングになんか上がってられない・・・ワタシの場合、朝ドラが終ってからオファーが来たから良かったけど・・・」
「・・・・」
「でも、一つだけ方法があるの。朝ドラが始まってもリングに上がる方法が。」
結衣は奈々子の言葉の意味を理解していた。
「・・・・A−1王者に、なる事・・・」
結衣がそう言うと、奈々子はコクリと頷いた。
A−1王者になると「A−1特権」という女優としての様々な特権が約束されている。
出演料の増額、ドラマや映画の優先的オファーの他、防衛戦を行う為に撮影スケジュールを調整することも可能である。
極端な例では、A−1王者の都合で映画の公開日やドラマの放映時期が変わるというケースもあるのだ。
「もし、あのコが結衣ちゃんに勝ってA−1王者になったら、朝ドラの仕事とプロレスを両立することも可能だった・・・だけど、挑戦権がなくなった以上、あのコがA−1に挑戦するには、もう一回リングでそれだけの実績を積まなければいけない・・・しかも今回の件で真緒は完全に株を落としたから、それを取り返すのは並大抵の事じゃないわ・・・どうしてもある程度の時間が必要・・・でも、その前に朝ドラの仕事は始まってしまう・・・・」
「・・・じゃあ・・・真緒さんは・・・」
結衣の問いかけに、奈々子はゆっくりと首を左右に振った。
「・・・・もう、リングには上がれないわ・・・・この前のトーナメントが、あのコの最後の試合。」
奈々子の言葉を聞いた瞬間、結衣は頭が真っ白になった。
「それで、結衣ちゃんの防衛戦、真緒の代わりにって事で黒樹メイサさんに打診したの。でも断られたわ。『トーナメントで負けた以上、今回はその話を受けるわけにはいかない。改めて実績を積んでから挑戦したい』って・・・」
奈々子が話を続けているにも関わらず、結衣はどこか上の空であった。
「結衣ちゃんにも迷惑かけちゃったわね・・・そんなこんなで、タイトルマッチの事発表できなかったのよ・・・前に結衣ちゃんと真緒が王座決定戦やった時も、結衣ちゃんの相手、他にも候補がいて、その時強引に真緒を推薦したのがワタシだったの・・・だから今回も真緒の事、何とかしてあげたかったけど、その件もあったからワタシも強く言えなくて・・・」
「・・・・奈々子さん・・・」
「?」
「ワタシ、聞いたんです。OTK38のコから、その日の事・・・」
「えっ!?」
結衣は裕子から聞かされた事をそのまま奈々子に話した。
「ワタシがいけないんです。・・・・チャンピオンなのに、みっともないところ見せてしまったから・・・・自覚が足りないのは、真緒さんじゃなくて、ワタシの方なんです・・・・」
「結衣ちゃん・・・」
結衣はまるで昨日の裕子のように、話しながら目に涙を浮かべていた。
奈々子は困ったような表情を見せた後、涙目の結衣に向かって優しく微笑みかけた。
「・・・もう、なんで結衣ちゃんがそんな顔するのよ。いい?誰が何と言おうと、結衣ちゃんは立派なA−1王者だわ。アナタの試合を見た人はみんなそう思ってる。きっと真緒だってそう。確かに辛いかも知れないけど、真緒の事なら大丈夫。あのコはちゃんと、委員会の決定を受け入れてくれたわ・・・」
「・・・でも、真緒さんは、もうリングに・・・」
「どんな世界でもそうだけど、この世界でも、どんなに成功している人でも、思い通りにならない事っていっぱいあるわ・・・真緒はその事を理解している・・・多分それは、結衣ちゃんのおかげだと思うわ・・・」
「えっ?!」
「あのコ、子役の時から活躍してたから、まわりもみんなちやほやしちゃって、そのせいか周りの人を見下してるようなところがあった・・・スポンサーも、マネージャーも、スタッフも、自分が売れっ子だから彼らにも仕事があるんだって・・・そうねえ、あの“佐和尻えりか”ちゃんと、ちょっと似てるようなところがあったわ・・・」
「えりかさんと・・・・」
「だけど、結衣ちゃんに負けてから、あのコ変わったわ。周りの人の事、気遣うようになった。憎まれ口は変わらなかったけどね(笑)。自分が当然A−1王者になれると思ってたら、結衣ちゃんに負けてしまった・・・それで初めて、周りの協力があってチャンスがもらえたんだって事、せっかくもらったチャンスをフイにしてしまった事・・・色んな事に気付いたと思うの。」
「でも、それはワタシなんかのおかげじゃ・・・」
「ううん、結衣ちゃんのおかげよ。それに多分結衣ちゃんも、永沢まさみちゃんからその事を教わった・・・」
「まさみちゃんから・・・」
「チャンピオンの結衣ちゃんにこんなこというのも失礼だけど、まさみちゃんは、あなた達の世代の女優では一番強かったと思う。ワタシは試合を見てるし、結衣ちゃんもそう思ってるんじゃない?でも、そんなまさみちゃんでも、A−1のチャンピオンにはなってないのよ。不思議だと思わない?」
奈々子のこの問いかけに、結衣はコクリと頷いた。
「だから、まさみちゃんは「思い通りにならない事」があるって事、一番良く知ってる。言葉には出していなくても、きっとその事を結衣ちゃんに伝えてると思う。だから結衣ちゃんはチャンピオンになれた・・・違う?」
「・・・・・・」
結衣はかつてまさみとスパーリングをした時の事を思い出していた。
あの時まさみは、おそらくまさみ自身も使った事がないと思われる凶器攻撃の仕方まで教えてくれた。
正直結衣はそんな事覚える必要は無いと思っていたが、まさみのあまりの気迫に押されて逆らう事が出来なかった。
考えてみればまさみ自身も、「結衣に凶器が必要」だとは、本当は思ってなかったのかもしれない。
『まさみちゃん・・・』
「結衣ちゃん。あなたは今までどおり、リングに上がってA−1王者らしいファイトをすればいいの。それがみんなが望んでいることだし、真緒もきっと、それを望んでいるから・・・」
『A−1王者らしいファイト、か・・・・』
奈々子と別れて帰る途中、結衣は奈々子に言われた言葉を思い出していた。
“真緒の事なら大丈夫。あのコはちゃんと、委員会の決定を受け入れてくれたわ・・・”
『真緒さんは、ワタシよりもずっと大人なんだ・・・』
真緒との再戦が無くなった事を聞かされ、結衣は何ともやるせない気持ちになっていた。
しかし真緒はきちんと現実を受け入れ、結衣とは違う道を踏み出そうとしている。
『真緒さんと違って、ワタシはリングに上がれるんだ。王者として・・・・』
自分は真緒の分まで頑張らなければいけない。
それがA−1王者としての責任だと、結衣は自分に言い聞かせていた。
そしてこの時結衣は、突然ある事を思い出した。
『・・・・あっ!!!』
「これ、真緒さんに渡さなきゃ・・・・」
結衣は再び、真緒が入院する病院を訪れていた。
奈々子と別れて帰っている途中、裕子から預かったバンダナを渡し忘れた事を思い出し、わざわざ引き返したのである。
その為、もうすでに夜もおそく、普通に考えれば見舞いに訪れるような時間ではない。
裕子からバンダナを預かった事も、渡し忘れたといってこんな夜中にわざわざ引き返した事も、冷静に考えれば結衣がするべき事ではないはずである。
しかし何も疑うことなくそれらの行動をとった結衣は、まるで何かの運命に導かれているかのようであった。
『来ちゃったけど・・・こんな時間にいいのかなあ・・・』
わざわざ来たにもかかわらず、結衣は自分のとっている行動に不安を感じていた。
昼に訪れた時とは違い、病院内は暗くひっそりと静まり返っている。
『あれ・・・誰かいる・・・・』
何やら声が聞こえて来たので、待合スペースの方を覗いて見ると、長椅子に一人の女性が座っていた。
『?』
目を凝らして見ると、その女性は肩を震わせ、しゃくりあげる様に泣いていた。
『・・・・真緒・・・さん・・・』
椅子に座っていたのは真緒だった。
真緒は俯いたまま、結衣が見ているのも気付かずに泣き続けている。
その真緒の足元には、零れ落ちた涙の粒が光っていた。
“井上真緒、大本命の黒樹メイサを破りトーナメント制覇!”
“きっと真緒さん、悔しかったんだと思います。自分が目指しているタイトルや・・・“ライバル”である結衣さんを馬鹿にされた事が・・・”
“今度のトーナメントもね、真緒凄く気合入ってたの。『これが最後のチャンスだから』って。”
結衣は自分の考えの浅はかさに気付いた。
真緒がそこまでして望んでいた、タイトルマッチ、結衣との再戦を簡単に諦められるはずがない。
結衣と戦って負けたならまだしも、それさえもさせてもらえぬまま、大事なチャンスを奪われてしまったのだ。
『真緒さん・・・・』
結衣は泣き続ける真緒の姿を見つめながら、握り締めた自分の拳を震わせていた。
結衣は真緒に声をかけられずに病院を後にしていた。
『・・・・奈々子さん・・・・』
“どんなに成功している人でも、思い通りにならない事っていっぱいあるわ”
『・・・その事を、教えてあげなきゃいけない人達がいるんです・・・・』
OTK38興行2度目となるa−1王座のタイトルマッチは、前回のタイトルマッチを上回る盛り上がりを見せていた。
篠田真里子を破り、王者になったばかりの前田厚子と、人気投票でその厚子といつもトップ争いを繰り広げている挑戦者大島裕子。
メンバー内で人気1、2位を争う2人の対決とあって、会場のファンも「厚子派」「裕子派」の真っ二つに分かれ、熱狂的な応援合戦を繰り広げている。
そして試合内容も前回とは違い、ライバル意識の強い2人だけに、どちらに転んでもおかしくないスリリングな展開が繰り広げられている。
王者の貫禄を見せ付けるべく、小柄な裕子にも容赦の無い攻めを見せる厚子に対し、A−1王者結衣と会ったことを心の支えに驚異的な粘りを見せる裕子。
そして最後は裕子が一瞬の隙をついて厚子をラ・マヒストラルで丸め込み、電光石火のカウントスリーを奪った。
“ただいまの勝負・・・ラ・マヒストラルで挑戦者、大島裕子の勝利・・・・”
『えっ・・・ワタシ・・・勝ったの?』
アナウンスが告げられ、レフェリーに右手を上げられながらも、裕子は勝利をまだ実感出来ずに呆然としていた。
するとセコンドについていた秋本才加がリングに駆け上がり、その労をねぎらうかのように裕子に抱きついていく。
才加に抱き締められる裕子の姿に、会場から大裕子コールが沸き起こり、それで自分の勝利を実感した裕子は感極まって泣き出してしまう。
『結衣さん・・・やりました・・・タイトル獲りました・・・』
リング上、裕子達が歓喜に沸く傍らには、初防衛に失敗して泣き崩れる厚子の姿と、それを慰めるセコンドの篠田真里子の姿があった。
劇的な王者交代劇の余韻も覚めやらぬリング上では、OTK38興業恒例のメンバー挨拶が行われようとしていた。
今回裕子が新王者となったものの、その初防衛戦はまだ決まっていなかった。
というのも、OTK38のプロデューサー秋本靖が今回のタイトルマッチ以降の予定をまだ組んでいなかったのである。
a−1王座復活の立役者でもある秋本だが、業界の中心的存在として多忙な身でもあるだけに、前回も今回の興業も会場には姿を見せていなかった。
目を光らせる黒幕の不在と、まだ決まっていない防衛戦・・・そんな状況も手伝ってか、前回の興業と違い、リング上は新王者裕子を純粋に祝福するだけの、穏やかな空気に包まれていた。
「みなさん、今日また、歴史が動きました〜!!」
チームOのキャプテン、高橋南がそう言うと、会場が大きな歓声に包まれる。
「それでは紹介します!!新a−1チャンピオン、大島裕子!!!」
名前を紹介された裕子がリング中央に歩み出ると、再び場内から歓声が上がり、152センチの小柄な新王者を祝福していた。
メンバー達からも拍手が起こり、王座を奪われた厚子も渋い表情を見せながらも、他のメンバーと同様に手を叩いていた。
「みなさんの声援のおかげで、裕子はタイトルを獲る事が出来ました!みんな!!本当にありがとう!!!」
裕子が大声で感謝の気持ちを叫ぶと、会場の盛り上がりは最高潮に達していた。
あまりの声援の大きさに、裕子は声がやむのを待ってから話そうとするが、もはや興奮状態となったファン達の歓声はなかなか鳴り止む気配がなかった。
しばらくしてようやく歓声が収まり始め、裕子が再び話を始めようとした瞬間、突然前列の観客からざわめきが起こった。
『えっ・・・』
裕子がざわめく観客たちの方に目を向けると、一人の女性がリングに向かって歩いて来ている。
その女性はエプロンサイドに上がると、一斉に注がれるOTKのメンバー達の視線に臆することなく、静かにリングの中に入った。
『ゆっ、結衣さん・・・・』
裕子が女性の正体に気付くと同時に、会場に設置された大ビジョンに、リングに上がった荒垣結衣の姿が映し出される。
観客もそれが結衣だということに気付き、たちまち会場が大きな歓声とどよめきに包まれる。
『荒垣結衣・・・・』
突然リングに上がってきたA−1王者の姿に、OTK38のメンバーは驚きを隠すことが出来なかった。
前回の興業では散々結衣の事を罵倒していたにも関わらず、いざ本人を目の前にすると、その王者の持つオーラに完全に圧倒されてしまっていた。
「・・・・大島さん・・・・タイトル獲得、おめでとうございます・・・・」
結衣は裕子に祝福の言葉をかけたものの、その声色や視線には全く温かみが感じられなかった。
この時裕子は、目の前にいる結衣が、優しく自分の話を聞いてくれた結衣とは全くの別人のように思えた。
「単刀直入に言います・・・ワタシは・・・“アクトレス・ワン”の王者の力を、あなた達に見てもらう為にここに来ました。」
結衣がそう言った瞬間、OTK38のメンバー達の間に緊張が走り、会場が大きなどよめきに包まれる。
「・・・ただし、ワタシはチャンピオンです・・・だから、“チャンピオン”以外の人と、戦うつもりはありません・・・」
言葉を続ける結衣の視線が自然に裕子の方に向いてくる。
『えっ・・・・まさか・・・・』
結衣のそんな態度に裕子は激しく動揺するものの、結衣は構うことなくこう言った。
「・・・“アーティスト・ワン”新チャンピオンの大島裕子さん・・・ワタシはアナタと対戦がしたいです。」
結衣が言い終えた瞬間、観衆から再び大きな歓声が沸き起こり、OTKのメンバー達はその無責任な反応に困惑してしまう。
前回の興業の真緒の乱入とは違い、正真正銘のA−1王者からの堂々たる宣戦布告だけに、ここで結衣を真緒と同じように襲えばむしろ非難の目の方が大きくなる。
『結衣さんは怒ってるんだ・・・・ワタシもOTKのメンバーだから、結衣さんにとっては敵なんだ・・・』
結衣からの対戦要求に裕子は少なからずショックを受けていた。
自分の軽率な行動がこの事態を招いたのだと思うと、裕子は責任を感じずにはいられなかった。
しかし結衣も決して裕子の事を敵と思っている訳ではなかった。
単純に真緒を痛めつけたメンバーに制裁を加えるという仇討ちみたいな真似をしても、そこからは何も生まれないと結衣を思った。
奈々子が『結衣がすべき事』『真緒が望んでいる事』といった、A−1王者らしいファイト、そしてOTK38のメンバーに『思い通りにならない事がある』事を教える事。
それで出した結論が『a−1王者との対決』であり、裕子がa−1王者となった以上、結衣の対戦相手は裕子なのだ。
「荒垣さん・・・いくら貴方が『アクトレス・ワン』のチャンピオンでも、簡単にその話を受ける事はできません・・・当然、それくらいの事、分かってますよね。」
ここでチームOキャプテンの高橋南が、何とかこの場を収めようと、結衣に向かって話し掛ける。
それは観客に自分達が正当である事、結衣の行為が不当である事をアピールする為でもあった。
「もちろんわかってます・・・今日ワタシは、自分の希望を伝える為にここに来ました。・・・だから、返事は今じゃなくて構いません・・・いい返事が、頂ける事を願ってます。」
結衣がそう言うと、観客から大きな拍手と声援が沸き起こり、A−1王者の潔い態度を称えていた。
しかし、ようやくその場が収まるかと思った瞬間、結衣の口から予想外の言葉が飛び出した。
「・・・・でも・・・・もし、断られた時は・・・・今度はワタシ、このリングに乱入します・・・」
結衣がそう言った瞬間、会場を包んだ声援な拍手は大きなどよめきに変わっていく。
「覚えて置いて下さい・・・・ワタシだって、“凶器”の使い方ぐらい、知ってますから・・・・」
結衣が最後にそう言い終えると、会場のどよめきは一段と大きなものになっていた。
“対戦を拒否すれば実力行使も辞さない”
OTK38のメンバー達は、自分達が“ヘタレ王者”呼ばわりしていたA−1王者のこの発言に、恐怖を感じずにはいられなかった。
OTK38と、これだけ大勢の観客の前で宣言したからには、対戦を断ったら結衣は本気で凶器を持って乱入しかねない。
もし現A−1王者である実力者の結衣が凶器を持って乱入、なんて事態になったら、メンバー達が感じる恐怖は、前回の興業で真緒が乱入したときの比ではないだろう。
『結衣さん・・・・』
結衣から思わぬ“挑戦状”を叩きつけられた裕子は、以前会った時とは“全くの別人”のような結衣の言葉に、顔が青ざめていた。
そんな裕子の視線の先には、観客から声援や罵声を浴びながら花道を引き返す結衣の姿があった。