プロダクションバトル その1
ここは都内某所にある地下プロレス会場。客席には沢山のキャットファイトマニアが詰め掛けていた。そんなマニア達が見守る中、リング上ではTVや雑誌でおなじみのタレント達によるキャットファイトが繰り広げられていた。
「痛い痛い痛い、ギブギブギブ!」
リング上でボストンクラブにきめられ、悲鳴をあげているのはタレントの北河弘美であった。水着のキャンギャルを経験したこともある弘美の168センチの肢体は弓なりに反り返っていて、誰がどう見ても脱出不可能の状況である。
そしてその弘美に技を決めているのは、同じくタレントで名前が一字違いの北河友美であった。レフェリーは弘美のギブアップの声を聞いて友美に技を解くように指示しているのだが、友美はまだまだ物足りないとばかりに弘美の両足を絞り上げている。
「ギブっていってるでしょう!もう!」
弘美の声はもはや涙声になっていて、戦意のかけらさえも感じられない。その声がうるさいとばかりに、友美はつかんでいた弘美の両足
を振り払い、うつ伏せに倒れている弘美の腹部につま先で蹴りを入れる。
「ぐふっ!」
横腹を蹴られた弘美は変なうめき声をあげ、蹴られた脇腹を押さえている。
そんな弘美に対し、友美は蔑んだ視線を向けながら、弘美の頭をリングシューズで踏みつけていく。
「ったく・・・弱すぎるんだよテメェらは。なめてんのか、大須賀はよ!」
敗者に対するいたわりの気持ちなど全く感じられない捨て台詞を口にする友美。弘美は友美に頭を踏まれたまま、目に悔し涙を浮かべていた。
大須賀とは弘美が所属する大手芸能プロダクション、大須賀プロモーションのことである。米蔵涼子、菊河怜、上戸綾といった人気女優はいるものの、大須賀プロの社長には頭を悩ませることがあった。それはグラビア部門の不調である。
確かに女優の方は主演ドラマもいくつか有り、事務所としては順調そのものなのだが、グラビアに関していえば大須賀は他の事務所に比べて遅れをとっていた。そんな社長の思いを見透かしてか、同じ芸能プロダクション、ブルーキャブの乃田社長が大須賀プロにある話を持ちかけてきた。
それは現在ブルーキャブで手がけているグラビアの仕事の幾つかを条件付で大須賀に回してもいいという話である。そしてその条件というのが地下プロレスでの大須賀とブルーキャブの試合であった。
乃田社長は知る人ぞ知るキャットファイトマニアで、バラエティ番組のプロレス企画にも積極的に自分のタレントを出演させていた。
タレント達も乗り気で最初は楽しんでいたものの、そのうち番組でやっているような生ぬるい試合では飽き足らなくなり、もっともっと気に入らないタレントを痛めつけてやりたい、という欲求に駆られるようになった。
そんなタレント達の気持ちは乃田にも伝わり、テレビでは放映できないようなタレント同士のガチンコ勝負をさせてやろうと、地下プロレスを開催するようになったのだ。
乃田は弱小プロダクションに仕事を回すからと声をかけては、無名のグラビアアイドル達をリングに上げ、自分の事務所のタレント達のストレス解消をさせていた。実際ブルーキャブのタレント達はしっかりトレーニングをしていて、普通の女性タレントでは歯が立たない実力を持っていた。そしてそのタレント達がターゲットとして、大須賀プロの名を挙げるようになった。
知名度では自分達の方が上なのに、『国民の美少女』という恥ずかしいキャッチフレーズを売りに、グラビアやバラエティが中心の自分達を見下しているような大須賀のタレントが気に入らないというのがその理由であった。
無論、実際に大須賀のタレントがそういう態度を取っているわけではないのだが、水着のブルーキャブ、お嬢様タレントの大須賀、といったマスコミの扱い方が彼女達にそういう意識を持たせたのだろう。
そんなタレント達の気持ちを察した乃田は、大須賀がグラビア部門の伸び悩みを気にしているという話を聞き、ちょうどいいタイミングだとばかりに大須賀に所属タレントの地下プロ参戦を持ちかけたのだった。
「普通に試合をするだけじゃつまらないから、大須賀さんの女の子が勝ったら、ウチが今やっている仕事の中で欲しいものを提供しましょう。」
これが乃田が出した条件であった。ブルーキャブではTV局のビジュアルクイーンやプールのイメージガール、男性誌のグラビア年間契約等、グラビアタレント達が欲しがる仕事を幾つも抱えていた。乃田にしてみればそれが一つぐらい減ったところで痛くも無いし、それにプロレスで自分のタレントが同じタレントに負ける訳が無いと考えているので、自分のタレントが勝った時の条件は出さなかった。
実際これまで色々なタレントがリングにあがったものの、ブルーキャブのタレントが負けたことはなく、しかもそれでタレント達がストレスを発散しているので、乃田にとって不利益な事は全く無かったのだ。
こうしてブルーキャブと大須賀プロの地下プロレス対抗戦の幕があがったのだが、乃田社長の予想通り、大須賀プロから出場するタレントはことごとくブルーキャブのタレント達の餌食となっていった。
そして今回、大須賀からは北河弘美が出場し、同姓の北河友美と対戦したが、これまでに出た大須賀の他のタレントと同じように、試合開始から一方的にやられてしまい、なすすべなくギブアップさせられたのだ。
リング上、友美が弘美を踏みつけたままポージングをして観客にアピールしていると、リング内に二人の女性が入ってきた。ブルーキャブの人気タレント、大池栄子と佐藤江利子である。大池と佐藤は友美の下で泣き顔になっている弘美の顔を覗きこみながら口々に悪態をつき始めた。
「あーあ、全くアンタ何しにきたのよ!」
「ホント根性の無いコねえ!」
「ねえ友美、ちょっとは運動できたの?」
「だめだめ、余計にフラストレーションがたまっちゃったわ。いったい何なのよ大須賀って!ふざけんなよって感じ!」
ブルーキャブの三人に好きなようにいわれ、その悔しさのあまり目を潤ませながら歯を食いしばる弘美。そんな弘美に栄子が何かを思いついたかのように声をかける。
「そういえばさあ、アンタのところに局山っているでしょう?」
局山とは弘美と同じ大須賀プロの局山えりのことであった。弘美を含め大須賀から何人ものタレントがこの地下プロのリングに上がっていたが、えりはまだこのリングに上がっていなかった。
「ああ、あのキショい喋り方するコ?」
局山の名を聞いて嫌悪感を露わにする江利子。とはいうものの、江利子が言うほど局山の話し方に大きな特徴があるわけではない。ただ声を聞くと外見よりも幼い感じがするので、声の低い江利子にはえりの声は生理的に合わないようである。
「ねえ、何であのコはこのリングに来ないの?」
弘美にそう問い掛ける栄子の表情は、えりがこの地下プロレスマットにあがってない事が不満だと語っていた。そんな栄子の問いに対し、弘美が答える事無く黙っていると、江利子が弘美の背中に思いっきり蹴りをいれる。
「オイ、栄子ちゃんが質問してんだよ、何とか言えよ!」
弘美の態度に怒った江利子は弘美を踏みつけている友美を押しのけると、弘美の髪をつかんで顔を上げさせ、敵意に満ちた表情の弘美をじっと睨み付ける。
「負け犬のくせに何だよその顔は!」
そういいながら江利子に髪の毛をつかまれた弘美の顔を覗き込む友美。その横で栄子は腕組みをしながら弘美の答えを待っている。
怒り心頭の様子のブルーキャブの三人を前に、弘美は恐怖を覚えながらもゆっくりと口を開いた。
「えりちゃんは・・・優しい子だから・・・こんな野蛮なことさせられない・・・」
体に力が入らない弘美は、声を絞り出すようにしてしゃべり始める。
「何、聞こえないわよ!」
弘美の消え入りそうな声に、栄子がいらいらした様子で怒鳴り返すと、意を決した弘美は出来る限りの声を張り上げて栄子に言返す。
「えりちゃんはアンタ達みたいな下品な女じゃないっていってんのよ!!」
いきなり豹変した弘美の声を聞いてあっけに取られるブルーキャブの三人。しかしその後すぐに怒りの表情に変わり、倒れたままの弘美に一斉に襲い掛かった。
「調子に乗るんじゃないわよ!!」
「フザケてんのか、テメエ!!」
「オラァ、もう一回言ってみろよ!!」
ブルーキャブの三人はうつ伏せに倒れている弘美を取り囲み、抵抗することができない弘美の身体中を、容赦無く蹴り続ける。
「あうっ・・・ううっ・・・」
動く事の出来ない弘美の身体に、3人のリングシューズの雨が降り続けている。
さらにそれだけでは収まらず、友美が自力で起き上がることのできない弘美を引きずり起こして羽交い締めにすると、栄子がうつむいている弘美のあごに手をかけて、無理矢理顔を上げさせる。
「ねえ、私達が下品だって?どう?その下品な女にこんな風にされる気分は?」
そういいながら栄子は弘美の顔を平手で何度もはりつける。
「ほらあ、何とか言いなさいよ!」
栄子が仕上げとばかりに弘美のみぞおちあたりにボディブローを叩き込むと、弘美はうめき声をあげてがっくりとうなだれる。
ここで羽交い締めが解かれ、弘美がお腹を抱えて崩れ落ちるようにしてひざまづくと、江利子がそれを見計らって弘美の肩口あたりに豪快にかかと落としをきめる。
『うっ・・・』
ブルーキャブの三人がかりの攻撃を受けた弘美はマット上にうずくまったまま動く事ができない。それでも栄子、江利子、友美の三人はそんな弘美を囲んだまま、まだ何かをしようとしている。
「ねえアンタ、試合で何にもできなかったんだからさあ、少しはお客さんを楽しませていったら?」
栄子の言葉の意味が分からず、戸惑いの表情を見せる弘美に対し、ブルーキャブの三人は栄子の合図と同時に、弘美の着ている水着を脱がせ始めた。
「ちょっとやめてよ!いやああああっ!」
予期せぬ三人の行動に、思わず悲鳴をあげる弘美。しかし弘美が着ていた白いワンピースの水着はあっという間に剥ぎ取られてしまい、一糸まとわぬ姿になった弘美の両手両足を江利子と友美が押さえつける。
「ううっ・・・」
観衆の前で裸身をさらされた弘美は悔し涙を浮かべていた。しかしそんな弘美をあざ笑うかのように、栄子が弘美のバストに手を這わせる。
「へえ、さっすが大須賀、きれいな胸してんじゃん!」
そう言いながら栄子は弘美の乳房に手を這わせ、さらに乳首を二本の指でつまみあげる。
「いやあっ!やめて!お願い!」
屈辱的な姿にされ、たまらず栄子に許しを乞う弘美。すると栄子は弘美のバストから手を離し、立ち上がって弘美の顔を思いっきり踏みつける。
「やめてって何だよ!許して下さいだろっ!」
栄子はタバコの吸殻をもみ消すかのように、弘美の頬のあたりに自分の足をこすりつける。
「ほらあ、いってごらん。ユ、ル、シ、テ、ク、ダ、サ、イって!」
栄子はリズムに合わせて、弘美の顔を踏んでいる足を動かしながら、詫びの言葉を要求する。
「う・・う、ぐひへ、くああい・・・」
「はああ?!」
「うぐひへくあはい」
「何言ってるかわかんねえよ!!」
顔を踏まれているためにうまく返事の出来ない弘美に、栄子は意地悪く何度も問いかけている。そのうち弘美のその滑稽な姿をみて、江利子と友美はたまらず吹き出してしまう。
「う・・・うるひへ・・・くらはい・・・」
弘美が涙まじりに7回目の返事をした時、ようやく栄子の足が弘美の顔から離される。すると、それまでクスクスと笑っていた江利子と友美がそれを合図に声を張り上げて大笑いし始める。
「ひっく・・・うぐ・・・」
二人の笑い声を聞いて、屈辱のあまり嗚咽を漏らす弘美。栄子はそんな弘美の姿に冷ややかな視線を投げかけた後、相変わらず笑い続けている江利子と友美を置いてリングを後にする。
そして江利子と友美もさんざん弘美の事を笑った後、弘美の存在を忘れてしまったかのようにさっさとリングから降り、栄子の後を追うようにしてリングを離れていく。
リング上、ただ一人取り残された弘美は自分が全裸である事も忘れ、両手で顔を覆ったまま泣きじゃくり続けた。