−どうする?−




「おつかれさまでしたあ!」


舌足らずな女の子の声が会議室に響き渡り、集まっていた作業服姿の男達は一様に鼻の下を伸ばしながら、会議室を後にする。


ここはS市にある、ビール会社、スリーバードビール社のS工場。

この日、S工場では一般客を集めた「お客様感謝デー」のイベントが行なわれていた。

イベントは全国の各主要都市の工場で行なわれていて、この日のS工場のイベントが最後であった。


スリーバードビール社のイメージガール、安田美紗子はそのイベントの目玉企画であるイメージガールのトークショー&撮影会の為にS工場を訪れていた。
 イベント終了後、美紗子は「お客様感謝デー」の為に休日出勤している男性社員達を労おうと、会議室で即席のツーショット撮影会を行なっていたのだ。


「美紗ちゃんおつかれー!」

男性社員達がほとんどはけたところを見計らって、マネージャーの男が美紗子に声をかけてくる。
そしてマネージャーの男の後ろにはS工場の工場長と、スリーバードビール社の社長の姿があった。


工場長と社長に声をかけられた美紗子は、恐縮した様子で何度も頭を下げている。


「それじゃあ、今晩よろしく頼むよ。」


社長にそう声をかけられた美紗子とマネージャーは頭を深々と下げて会議室から出ていく社長と工場長を見送った。



この日の夜、S市内のとあるビルでは、スリーバードビール社主催のシークレットパーティーが行なわれていた。

そのパーティーは「お客様感謝デー」の全日程終了に伴う、いわゆる「打ち上げ」パーティーであり、スリーバードビール社の役員達をはじめ、全国各地の工場長、営業所長等の他に広告代理店や販売店といった社内外の関係者が訪れていた。

「接待係」としてこのパーティーに招かれていた美紗子は、用意されたコスチュームに着替え、お偉い様方のテーブルにお酌に回っていた。


『このカッコ、恥ずかしいわぁ。』

美紗子のコスチュームはセパレートのバニーガールスタイルで、トップのチューブブラとボトムのショーツをホワイトのファーであしらっている。

お尻の部分には丸いしっぽがついていて、それだけではなく、頭にはウサギの耳のカチューシャをつけているので、本物の「バニーガール」である。

マネージャーも「すごく可愛いよ」といってくれていて、これがグラビア撮影だったら美紗子も喜んで着ていたのだろうが、人前に出るとなるとやはり恥ずかしさを感じずにはいられなかった。


バニーガールスタイルの美紗子に、招かれていた客は皆目尻を下げ、なかには足とかお尻に触れてくる不届き者もいたのだが、その度に周りのスタッフが注意をしていたので、美紗子はどうにかコンパニオンの仕事を果たしていた。



パーティーが進むにつれ、ようやくコンパニオンの仕事に慣れてきた美紗子。しかし美紗子には会場入りした時から気になっている事があった。


 『何やろ、あれ・・・』

美紗子の視線の先にあるのは、よく家庭にあるような、子供が入るプールを巨大にしたモノだった。
中には透明な液体がはられているが、底面を覆う程度の量で、見た感じ水ではなさそうである。

美紗子がそれを不思議そうに眺めていると、いきなり会場中がざわめき始めたので、振り返って見るとブロンドの女性が二人、バスローブ姿で颯爽と通路を歩いてくる。
二人のブロンドは巨大プールの前に来ると、いきなりバスローブを脱ぎ始め、それを見ている招待客達は歓声や口笛で二人をはやしたてている。


『えっ、この人ら何すんの?』

バスローブを脱いだブロンド二人はいずれ劣らぬダイナマイトボディで、それぞれイエローとピンクのビキニに身を包んでいた。
二人ともビキニの面積が小さく、バストとヒップが半分くらいはみ出していて、招待客達は皆二人のダイナマイトボディに釘づけになっている。
二人のブロンドは、何時の間にかそこに来ていた縦縞のシャツを着た男に指示され、巨大プールの中に入るといきなり取っ組み合いを始める。


『えっ、何?プロレス?』

視線の先の異様な光景に戸惑う美紗子。
 ブロンド二人が行なっているのは、いわゆる「ローションプロレス」というヤツで、プールの中で絡み合う二人は、プロレスというよりもじゃれあっているようにしか見えない。しかし周りの招待客達はそれを見てやんややんやの声援を送っている。


『みんな嬉しそうやなあ。こんなん、何が楽しいんやろ?・・・』

美紗子にはローションプロレスを見て狂喜している男達の気持ちが分からなかった。

ブロンド達はエキサイトしてきたのか、プールから飛び出して床の上で取っ組み合いを続けている。
この場外乱闘で招待客はますますヒートアップし、歓声が一際大きくなっている。
ブロンド二人はその声でさらにテンションがあがったのか、掴み合っている内に段々プールから離れていき、美紗子のいるところに近づいてくる。


『うわっ、どうしよ!こっちにくる!』

驚いた美紗子はその場から離れようとするが、どっちに行こうか迷っている内に二人のブロンドがやってきて、美紗子を巻き込んで招待客達の中に傾れ込んでいく。


 「いった〜い・・・」

二人のブロンドに押しつぶされるようにして転んだ美紗子は腰に手をあてて表情を歪めている。
 傍にいた招待客達はいきなり美女三人が飛び込んできたハプニングを、奇声をあげて歓迎している。

倒された美紗子が顔をあげると、二人のブロンドが美紗子の事をじっと見つめている。


「オー、プリティバニー!!」

ブロンド達は目を大きく見開いてオーバーアクション気味に美紗子に声をかけてくる。

美紗子が戸惑いながらも、愛想笑いを浮かべてこれに答えると、ブロンド達はいきなり美紗子の腕をつかみ、巨大プールの方に引っ張っていく。


「ええーっ、ちょっとちょっと何なん!」

ブロンド達の突然の行動に驚く美紗子。ブロンド達のパワーはすさまじく、美紗子は抵抗する間もなくプールのところまで連れていかれ、そのままプールに放り込まれてしまう。

プールに投げ出された美紗子はまるで野球のヘッドスライディングのような体勢でローションの上を滑っていく。ブロンド達はそれを追い掛けるようにしてプールに入っていくと、起き上がろうとする美紗子を代わる代わる突き飛ばしてマットに転ばせる。


「や〜ん、ちょっと、あんっ、やめっ・・・」

美紗子は何とかプールから逃げ出そうとするものの、ローションで足が滑る上にブロンド達が手を出してくるので、ただその場で転げ回っているだけである。

柔らかいマットなので痛みのダメージは無いが、自分より一回り大きい外人二人に捕まっている事で美紗子は精神的な圧迫感を感じていた。


「さあここでいきなりリングに上げられたバニーちゃん、全く為す術がありません!ピンチだ美紗子バニー!」

何時の間にか場内に実況アナウンスが流れだし、それが招待客達の盛り上がりに拍車をかけている。
プールの中ではブロンド達がバニー姿の美紗子の耳型カチューシャをむしりとり、イエロービキニとピンクビキニが交互に美紗子をボディスラムで投げている。

美紗子は起き上がる度にボディスラムをきめられ、もはやヘトヘトの状態になっていた。
しかしそれでもブロンド達は笑顔と攻撃の手を絶やそうとする気配がない。


「さあ美紗子バニー、どうする?どうする?どうする?・・・おっとここで誰かやってきたぞ〜!これはもしかして・・・チワワマスクだ〜!!美紗子バニーを助けにきたのはやはりチワワだあ〜!!」


美紗子は実況とともにプールに向かってくる人影に気付き、その姿を見て絶句する。


『・・・ちょっと何なん、この人・・・』


プールのところにやってきたのは、上下ジャージ姿の男で、顔の上半分にはチワワの顔の形をしたマスクを被っている。

美紗子は他の会社のTVCMでチワワと共演しているので、そのCMをなぞらえて登場してきたのだろうが、チワワのマスクで覆われていない顔の下半分のタラコ唇と髭の剃り跡、ジャージを突き出しているビール腹は、チワワの愛らしいイメージとは程遠い、汚らしい中年親父のモノである。


その不気味なチワワ男はプールに入ってくると、ローションで足を滑らせながらも美紗子の方に近づいてくる。


「いやあっ、こっちこんといて!」

不気味なチワワ男を見て美紗子はその場から逃げ出そうとするが、例のブロンド達が美紗子を捕まえたまま離そうとしない。

チワワ男はローションに足をとられて何度も転びながらも美紗子に近づいていくと、最後は這うようにして美紗子の足を捕まえていく。


「イヤ〜ん!」


チワワ男に足を捕まれ悲鳴をあげる美紗子。ここでようやくブロンド達が美紗子から手を離すが、チワワ男が美紗子の足を引っ張った為、美紗子はその場に引きずり倒されてしまう。

 チワワ男は「く〜ん」と甘えたような声を出し、美紗子のふくらはぎ辺りに頬摺りしはじめる。


「お〜っと、チワワマスクが美紗子バニーになついている!やはりチワワマスクには戦う事は無理のようだ!!」

実況の声に招待客達もゲラゲラ笑いながら、チワワ男に捕まっている美紗子に冷やかしの声援を送っている。
プールの中では相変わらずチワワ男が「く〜ん」と不気味な声をあげながら、美紗子の太もも辺りに頬摺りしている。


「ちょっとええ加減にして!!」

チワワ男のあまりのおぞましさに、美紗子が声を荒げて抗議をすると、チワワ男は「く〜ん」と悲しそうな声を出して美紗子を押し倒し、まるで飼い犬がそうするように美紗子の顔をペロペロ舐めていく。


「イヤ〜ん、気持ち悪い!」

美紗子は必死になってチワワ男を押し退けようとするものの、おそらく100キロ近いと思われるチワワ男の巨体はビクともしない。
そばにいる二人のブロンドも、美紗子と戯れるチワワ男を指差しながら、大声で笑っている。

身動きできない美紗子に対し、調子にのったチワワ男はチューブブラに包まれた美紗子のバストを揉み始める。


「いやあ〜、触らんといて〜!!」

美紗子は大声で悲鳴をあげながらチワワ男から逃れようと、出来る限りの力で身を捩っていく。
するとローションのおかげでチワワ男の手が滑り、美紗子はそのスキにチワワ男から逃れて立ち上がろうとするが、チワワ男の手がバストを覆っているチューブブラにかかり、そのまま下にずりおろされてしまう。


「いやああっ!」

美紗子は露になった胸を手で覆いながらその場から離れようとするが、すぐ傍にいたイエロービキニに捕まえられてしまう。
チワワ男はチャンスとばかりに美紗子の方に向かって行こうとするが、その場で足を滑らせ、近くにいたピンクビキニの太もも辺りにしがみつくようにして倒れていく。

ここで調子にのったチワワ男は、標的をピンクビキニに変え、そのキュッと締まったヒップを鷲つかんでいく。
 すると最初は笑っていたピンクビキニも、チワワ男のいやらしい手つきに眉をひそめ、「ノオーッ!!」と大声で叫ぶと、下半身にしがみついているチワワ男を突き飛ばす。

さらにピンクビキニが仰向けに倒れたチワワ男の股間目がけてキックを浴びせると、イエロービキニが捕まえていた美紗子を抱え上げて、股間を押さえて悶絶しているチワワ男の上に落としていく。
この合体ボディプレスで美紗子がチワワ男をカバーしているような体勢になり、ピンクビキニがすかさずスリーカウントを数える。


「おーっとここで美紗子バニーがオイタしたチワワマスクからお仕置きのスリーカウント!!」

そんな実況の声に招待客達がやんやの歓声を送る中、プールの中ではブロンド二人が美紗子の勝利を讃え、嫌がる美紗子の両腕をつかんでバンザイのように高々と上げている。
そのおかげで美紗子が隠していた綺麗なバストが招待客達の目にさらされ、会場はさらに盛り上がりを見せている。


「ちょっといやや〜、離してー!」

美紗子は露になったバストを隠そうと、手をつかんでいるブロンド達に抗議するが当然通じるはずもない。
ブロンド達が笑顔で両腕を持ったまま、激しく美紗子の体を揺り動かした為、先程ずり下げられたチューブブラは美紗子のお腹の辺りまで下がっている。


「もう恥ずかしいからやめて〜!!」

ブロンド達に捕まったまま、今にも泣きだしそうな声で懇願する美紗子。
しかしこの後さらなる災難が美紗子に襲い掛かる。



『・・・えっ、何あれ・・・』

 美紗子が視線の先にとらえたのは、得体の知れない集団だった。

 十数名いるその集団は皆ジャージ姿で、全員先程乱入してきたチワワマスクと同じチワワの覆面を被っている。
 チワワ軍団はプールの中に入ってくるなり一斉に美紗子に襲い掛かっていった・・・




  美紗子がスリーバードビール社のキャンギャルに選ばれた時、その可愛らしさからたちまち社内に美紗子ファンが急増し、企業イベントがある度に全国の工場や営業所から美紗子の来訪を求める声が殺到した。

その美紗子人気は若い社員だけにとどまらず、所長や工場町といった管理職、役員クラスにまで広がり、そういった連中が権限にモノをいわせて自分達の欲求を満たす為に企画したのが、今回のシークレットパーティーであった。

プールに姿を現わしたチワワ軍団の正体は、美紗子と組んず解れつのローションファイトをしたいという「スケベ親父」達だったのだ。




「いやや〜、気持ち悪い〜!助けて〜!」

 プールの中では大勢のチワワ男に囲まれた美紗子が悲鳴を上げていた。
 チワワ男達は皆「く〜ん」と気持ち悪い声をだしながら、美紗子の体をいじり回している。
 太ももに頬摺りする者、ふくらはぎを舐めていく者、お尻を触る者、露になったバストを揉みしだく者、美紗子の顔を舐め回す者。
 そして美紗子の体に触れられない者は標的をブロンド達に変え、同じようにそのダイナマイトボディをいじり回している。


 「ここで美紗子バニーの勝利を祝おうとばかりにやってきたチワワ軍団が美紗子バニーに群がっている!美紗子バニー嬉しそうだ!!」

会場には完全に悪乗りしている実況とともに、美紗子の悲鳴が響き渡り、招待客達は時が経つのも忘れてその乱痴気パーティーを楽しんでいた・・・



このシークレットパーティーでの出来事は、一人の関係者がうっかり口を滑らせた事で、たちまち業界中に広まっていく。

スリーバードビール社は既に来年のキャンギャルの募集を始めていたのだが、噂が芸能プロダクションにも広まっていたので、「大事なタレントをキズモノにされては困る」と各事務所は有力タレントをオーディションに派遣しなかった。


その為、オーディションには素人まがいの三流モデルしか集まらず、その中から選考しても「企業イメージ」を損ないかねない、という結論になり、何人もの女優を輩出したスリーバードビールキャンギャルの歴史は、あっけない形でその幕を閉じた。


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