地下リング事務所の電話が鳴った。
地下リングには電話で特定の人物を名指し、地下リングでその人物をボロボロにすることでウサ晴らしをすることは少なくはなかった。
地下リングもボランティア活動ではないため、そのほとんどは受け付けることはなかった。
しかし、今回の依頼主は世界的に有名であるため地下リングも受け付けざるえなかった。
それから地下リングの黒服が対戦相手を見つけるため奔走した。

東京の某事務所、ピーチクパーチクと主要メンバー約20名、その他メンバーを含むと数えられないくらいのタレントがいる。
所属タレントのほとんどが10代で20代のタレントの方が少ないだけにその賑やかさは半端ではなかった。
「ゆーちゃん、でんわだよぉ〜」数少ない20代タレントで背が低くて金髪の女が声をあげる。
「あ、はーい。いま、いくぅ〜」電話を受け取ったのは唯一30代の女である。
「さんきぅ。・・・もしもし・・・」30代女が電話に出る。
「まりっぺぇ〜、誰からぁ〜?」
「もしかして、おとこぉ〜?」
「ゆーちゃん、ふけつぅ〜」
外野がうるさい。
30代女のこめかみがピクピクする。
「あんたら、うるさいゆーねんっ!」キレた。
その一言で静まる事務所。
30代女、元猛娘リーダーの中澤祐子である。現在もヘロプロのリーダー格であるためその迫力は群を抜く。
「もしもし、あ、すいません・・・。はい。・・・わかりました。」祐子は簡単に電話を済ませた。
「もしかして、コレ???」ニンマリして親指を立てるのは祐子に電話を繋いだ矢口真理である。
「ちゃうねん、仕事・・・。はぁ〜男かぁ・・・。ま、いまはそれどころやないけどね」ソロになってからマルチな活動で忙しい祐子であったが、それはそれで楽しいと思っていた。
「ゆ〜ちゃんの前に私が先に結婚するかもぉ♪」祐子のあとにソロとなった後藤真稀である。
「・・・」事務所の空気が氷つく。
「ごまきの場合、冗談になりきれないから怖い・・・」現猛娘リーダーの飯田佳織。
「ハハハ・・・」安部なつみが愛想笑いをする。

「世の中、お金よ。お金。わかる、お金でしか女は幸せになれないの!」ワイドショーで豪語する細身の女がいる。
「うのさんは自由になるお金と言っていましたが、いくらくらいなのでしょうか?」呆れ顔に愛想笑いを浮かべながらコメンテイターが尋ねる。
「いくらでもよ。当然でしょ」細身の女が言い切る。
ワイドショーは神口うのの破局について取り上げられていたのである。
約30分、うのは言いたい放題であった。
この特集のコメンテイターを努めたタレントも含め、その場にいた全員はうのの態度に煮え繰り返っていた。
『TVでなければ殺してやる・・・』うの以外が共通で思っていたことであった。
ワドショーの収録が終わるとうのは控え室に戻った。
「まったく・・・金持ちはいないのかしら・・・」ブツブツと言いながら控え室のドアを開けるうの。
「きゃっ!」控え室のドアの向こうには壁のような男が立っていた。
「な・・・なによ、あんたたち・・・」うのは自分の控え室だということを確かめると黒服の男に言いかかった。
「来てもらいます」黒服は一言だけ口にすると力ずくでうのを連れ去った。

「ちょっと!なにするのよ!放しなさいよ!」移動中の車の中から地下リングの控え室に連れてこられるまで騒ぎつづけていた。
「10分以内に着替えて下さい」力ずくでも言葉は丁寧な黒服はうのを控え室に放り込んだ。
しばらくダダをこねたうのであったが、用意してあった水着に着替えた。

うのの対戦相手の控え室で中澤祐子がビキニトップにショートパンツ姿で体をほぐしていた。
祐子は過去にうのと出演したTVドラマ「ビューティ七」の撮影のことを思い出していた。
祐子にとってはじめてのTVドラマ出演であったビューティ七、緊張するなか台本を食いつく様に読んでいるとうのの声が聞こえた。
「猛娘は知っているけど中澤祐子?知らないわ」
「猛娘のリーダー?そんな素人に務まるのかしら?」
「30ぅ〜?そんなおばさんにできるの?」
うのの陰口も我慢して、とにかくビューティ七をがんばっていると、超大物女優の桃丼かおりが「中澤祐子さんねぇ、ほら、最近がんばっているじゃないのぉ、そのうち、化けると思うわよぉ」。祐子のがんばりを称えてくれた。
桃丼かおりの発言以来、うのの祐子に対する態度がより悪くなった。
「こんなこともできないの!いいかげんにしてっ!」
「もう、あの人使えません。代えてください」
うののわがままぶりが発揮されていた。祐子はとにかく絶えていたのである。
『中澤、出番だ・・・』黒服が祐子を呼んだ。
「(いきまっしょい・・・)」祐子は自分に気合を入れてリングへ向かった。

『これより、特別試合を行います。赤コーナー、元猛娘リーダー、中澤〜祐子〜』祐子にスポットライトが浴びせられる。
慣れない水着姿で観客の前に立ち、緊張しながら深々頭を下げる祐子。
「ゆーちゃん!がんばれぇ〜!」
「ゆーちゃん!かわいいっ!」
観客から祐子に感性があがると、祐子は照れながらまた観客に頭を下げた。
『青コーナー、金の亡者、神口〜う〜の〜』うのにスポットライトが当てられると作った笑顔で観客に愛想を振り撒くうの。
「ざけんな〜!てめえなんか誰も応援しねえよっ!」
「てめえがタレントだってのが不思議なんだよー!」
「情けで告白されたことも気付かねえ、勘違い馬鹿女ぁ〜っ!」
観客から罵声が飛ぶ。
「な、なによっ!貧乏なくせにっ!」うのは顔を真っ赤にして観客に言い返した。
会場はうの対祐子ではなく、うの対観客になったいた。
うのへの罵声を山野幹男氏が笑って観ていた。うのを地下リングに上げたのは山野幹男氏であった。
カーン!観客の罵声が飛び交う中、試合開始のゴングが鳴った。
「さびしい人やね・・・」ボソっと祐子が口を開いた。
「はあ?なに言ってんの」視線を祐子に移すうの。
「あわれとしか言いようがあらへん」祐子は臆することなく続ける。
「はあ?なにかっこつけてんの」祐子の態度にムカついたうの。
「少しくらいおだてられたからっていい気になってんじゃないの」甲高い声で祐子に言い掛かるうの。
「いい気になんかなっておらへんよ。さっきからなにいきり立ってるん?」うのの言うことにまったく動じない祐子。
「もしかして、男とぜんぜん縁がないから妬いているんだ」うのが横目で祐子に言う。「・・・」なにも言い返さない祐子。
「まあ、あんたみたいなブスでおばさんと私じゃ月とスッポンね。ハハハ」調子に乗るうの。
「・・・」なにも言い返さない祐子はうのを哀れみの目で見る。
「な・・・なにか言ったらどうなのっ!」祐子の視線が気に入らないうの。
「なによ、猛娘だとか、ロリコン集団の元リーダーだからっていい気にならないで」強犬
に睨みつけられた子犬のように吼えるうの。
パチーーーンっ!うのの言葉に祐子の平手が飛んだ。
「私のこと言うのはいいけど、娘のこと悪く言うことは許さんよ」祐子の目の色が変わり始めていた。
「痛いわね!娘とか言ってるけど、ただのガキの集まりじゃない!」うの張られた頬を抑えている。
パッチーーーン!今度は逆の頬を張った祐子。
「ふざけんじゃないで!」両頬を張られたうのがお返しとばかり祐子に平手を飛ばす。
スカ・・・。軽く避ける祐子。うのは勢いあまってバランスを崩す。
「ハハハ・・・、情けねえ」観客は大笑いをした。
「避けるなんて卑怯じゃない!」わけのわからないことを言い出すうの。
「ほんまに勢いがあるのは口だけやねぇ」呆れる祐子。
「い、いまのはわざとよ!私があなたなんかに負けるわけないじゃないっ!」こどものころからバレエを習ってきたうのは運動で祐子に負けるとは思っていなかった。
「そこまで言えるのって、ある意味尊敬できることやね」違う意味でうのを認める祐子。
「たしかに、スタイルとか女としては娘たちより上かもしれへんね。でも、人間としてはサイテーやわ」観客も含め、誰もが思っていることを平然と告げる祐子。
「もう頭に来た!」こどもの喧嘩のように祐子目掛けて平手を飛ばしたうの。
パチン・・・!「・・・」うのの平手が祐子の頬を張った。張ったというより、触れた感じで張った。
「なんやそれ?」うのに聞く祐子。
「う・・・」うのは渾身の力で祐子を張っていたのである。
「ピーピー言うといて、情けない・・・」祐子はあまりのうのの弱さに戦意を失った。
「仕事の出番はワイドショーだけ。あとは美河さんのおかげで贅沢企画。ほんまに勘違いだけの女やね」祐子の言葉にスッキリしたのはTV関係者であった。
「あんたなんかになにがわかるのっ!」今度はグーで殴ったうの。
ベチ・・・。平手よりは祐子にダメージを与えたが、ほんの少し祐子の頬が赤くなった程度であった。
「なにをわかれって言うねん!タカビーでお金しか考えてない勘違いだけで生きてる女のことなんか誰もわからへんね」祐子のトドメの言葉がうのに刺さる。
芸能界ではうのの方が先輩ではあるが、猛娘デビュー時から様々な苦難を乗り越えたきた女・中澤祐子は人生の先輩としてうのの前に立ちはだかっていた。
「そうよ、愛よりお金!お金、お金がすべてなの!幼稚園のリーダーだったあなたにはわからないでしょう!この貧乏人!」形振り構わなくなったうの。
「娘の悪口は許さへんって言うたよねっ!」胸座を掴むようにうのの水着の片紐を掴む祐子。
バチィィィン!バチィィィン!バチィィィン!「きゃっ、ひっ、きゃん」祐子の往復ビンタがうのの顔を張った。
バチンッ!バチンッ!バチンッ!・・・会場にビンタの音がリズムよく響き渡る。
そのリズムに合わせて観客の歓声が次第に大きくなっていく。
「ひ・・・やめ・・うの・・・顔・・・ひえ・・・」ビンタに合わせてうのの悲鳴があがる。
細面だったうのの顔はすっかり腫れ上がり、丸くなりはじめていた。
「ほら、さっきまで威勢のよさはどうしたん?」両手で水着の肩紐を掴んで自分に引き寄せる祐子。
「ぼ・・・暴力なんて・・・サイテー・・・」顔を腫らしたうのが涙を流しながら強がる。
「とぼけんのもたいがいにせーよ。自分はどうなん?自分のしたことはどうなん?」うのの肩紐を強く引く祐子。うののビキニトップが持ちあがり、うのの乳房が露になる。
「あ・・・胸が・・・」祐子の言うことより、自分の胸が露になったことが気に掛かるうの。
「人の話、聞いてるん?」祐子はうのの乳房など関係なかった。
「やめなさいよ、私の胸がでちゃってるじゃない」自分の体裁しか考えていないうの。
「人を馬鹿にすんのもたいがいにせえ、言うたろ!」祐子はうのの体を引き寄せると、柔らかいうのの腹を膝で蹴り上げた。
ズボォ・・・「ぐえ・・・。うぐ・・・」一発で嘔吐感に見舞われるうの。
「わかってんのか聞いてるやろ!返事くらいしたらどうなん!」再び、うのの胃袋を蹴り上げる祐子。
ズボォ・・・「ぐぶ・・・うぐ・・・ゲェェェ〜〜〜」たった2発で耐え切れなくなったうのは胃袋のものをすべて口から出すと、その場にうずくまった。
「弱い犬ほどよく吼えるって言うけど、弱い犬にも満たらへんよ」うのの後頭部を踏み潰す祐子。
「ぶへっ!」自分の嘔吐物に顔を埋めるうの。
「ヘドのような奴にはお似合いやわ」祐子はうのの脇腹を蹴り込んだ。
バキィィィ!「うげぇっ!」うのは脇腹を抑えてリング上を転げまっていた。
「いいぞ〜!ゆーちゃん!」
「ゆーちゃん、サイコー!」
うのが一方的にやられると観客の誰もがスッキリした表情をしていた。
「抱かせて〜♪」
調子に乗った応援をする観客。
「これでも精一杯やねん・・・」
照れる祐子。
バキィィィ・・・「ヒィッ!?」観客に愛想を振り撒いている祐子の顔が一瞬にして青ざめた。
「油断するからよ。あまちゃんなんだから・・・」うのが祐子の股間に拳を打ちつけていた。
内股にして、ヨロヨロとコーナーへ歩く祐子。
「もしかして、ヴァージンだったかしら。あなたならその歳でヴァージンもありうるからね」うのは立ち上がりながらビキニを直した。
「あ、そんなことないか。その貧相な体で仕事とってたんでしょう?」形勢を逆転してまた調子に乗り始めるうの。
「なにをえらそうに・・・。さっきはよくも私の胸を・・・」股間を抑える祐子の背後からビキニに手を伸ばすうの。
「あんたの貧相な胸でも見せて喜ばしてあげないさいよ。それがあなたにはお似合いよ」うのの手が祐子の水着に掛かろうとした。
「あったまきたぁぁぁっ!」うのの手が水着に掛かる直前に祐子が振り向いた。
バキィィィ!「みゅぎゅ???」祐子は振り向くと動じにうのの鼻を潰した。一瞬、なにが起こったのか把握できないうの。そのまま後に尻餅をついた。
うのの鼻から滝の様に血が流れ出す。
「堪忍ならんね、覚悟しいな」祐子はヤンキー中澤となった。
祐子はうののビキニに手を伸ばし力ずくでビキニトップを剥ぎ取ると、うののビキニショーツも毟り取った。
「きゃああああっ!」一気に裸にされるて悲鳴をあげるうの。
「あんた、ヘンタイ?」胸と股間を隠すうの。
「ギャアギャア、騒ぐな言うてるやろ!」毟り取ったビキニショーツをうのの口の中にこじ入れる祐子。
「うぐうぅぅぅ〜っ!」ビキニショーツを口に含みながらも悲鳴をあげるうの。
祐子は右の拳にうののビキニトップを巻いた。
「自分のしたこと、後悔するんやね!」祐子は、うのの髪を掴んで無理矢理立ち上がらせるとうのの顔を拳で殴りはじめた。
グシャ・・・グシャ・・・グシャ・・・。躊躇なく祐子の拳がうのの顔面を潰していく。
グシャ・・・グシャ・・・グシャ・・・。うのの顔は祐子の拳を受ける度に形を変えていく。
グシャ・・・グシャ・・・グシャ・・・。既にもとの顔がわからなくなり、鼻からの血はうのの乳房から股間まで赤く染め、口に含んだビキニショーツから血飛沫が飛び始めていた。
「・・・」観客はいきなりの壮絶なリングの光景に言葉を失い、憎いはずのうののことが少しだけ心配になり哀れんでいた。
「んん〜〜〜・・・」うのは「もう、止めてください」と悲願しようとしたが口に含んだビキニショーツのせいで声が出せなかった。
グシャ・・・グシャ・・・グシャ・・・。うのの両腕が垂れ下がり、祐子に掴まれた髪で立っているだけのうのに祐子の拳が容赦なくうのの顔面を襲う。
グシャ・・・グシャ・・・グシャ・・・。殴られるたび、体をビクンとさせるだけのうの。
チョロ・・・チョロチョロ・・・シャーーーーー。赤く染まったうのの股間から黄色い液体が吹き出した。
「(あああ・・・。)」大衆の前で失禁してしまったうのは絶望に浸った。
グシャ・・・グシャ・・・グシャ・・・。しかし、祐子はうのの失禁も構わず拳の雨を降らせた。
「・・・やべ・・・やべえよ、絶対・・・」修羅と化した裕子に観客は恐怖し、うのの最悪の場合を誰もが想像した。
カンカンカンカン!試合終了のゴングが乱打される。同時に黒服がリングの上に走り込んだ。
『試合終了だ!止めろ、中ざ・・・わ』黒服が祐子を止めようとした瞬間、祐子はうのの髪を放した。
「もうちょっと早くゴング鳴らさへんと・・・」平然と黒服に話し掛ける祐子。
「それじゃあ、あとはよろしくお願いします」拳に巻いてある赤く染まったビキニを外した祐子はペコリと頭を下げた。
「あ、ああ・・・」面を食らった黒服はそれしか言えなかった。
祐子は深々と観客に頭を下げるとリングを降りて控え室に戻っていった。
リング上では顔が完全に潰れて見ただけでは判断できなくなったうのが医務室に運ばれていく準備がされていた。

「ふぅ・・・」控え室に戻った祐子は椅子に座ると一息ついた。
コンコン・・・祐子の控え室のドアが鳴った。
「はい?どうぞ・・・」祐子は誰が訪問者だろうか考えた。
「失礼します」入ってきたのは山野幹男氏である。
「あ・・・。ちょっと待ってください」慌てて近くにあったバスタオルを羽織る祐子。
「今日はどうもありがとうございました」山野幹男氏は祐子に礼を言った。
「はぁ・・・。え〜っとですね、別にあなたのために戦ったわけじゃないんですよ。自分と娘たちのためですから。それに・・・」祐子は体が少しでもバスタオルに隠せる様にしながら話した。
「それに・・・?」
「それに、山野さんのやり方もどうかと思うんですよ。あ、すみません、でしゃばりですね」祐子は頭を下げた。
「・・・いえ。その通りかもしれません」山野幹男氏は細く微笑みながら返すと、祐子に頭を下げて控え室を後にした。

医務室ではうのの緊急手術が行われていた。
「これは本当に人間の仕業か?まるでダンプに轢かれたようだ・・・」はじめにうのの顔を診た担当医の言葉である。

「すごかったな・・・」
「ああ・・・」
祐子とうのが去ったあとの会場に残された観客の会話である。
「でもよ、あれで少しはうのも改心されれば・・・」
「ムリムリ・・・うのだぜ」
「やっぱりな・・・。またそんときはゆーちゃんの出番か?ハハハ・・・」
観客はうのの悲惨さに哀れみを少しだけ思ったが、すぐになくなり、スッキリした気持ちになっていた。



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