「王様と奴隷」-1 参加選手たち

 

「アラ、まだ誰もいないのね。早過ぎたかな?」地下プロレスの控え室に一人の小柄な、

まだ幼いと言っていいような少女が入ってきた。

彼女の名前は藤原瞳。事実、まだ14才の中学生であり、背も153cmしかない。かつて

タッキーとの末長遥や市河由衣、更にはあの鈴本あみまで巻き込んでの抗争を展開していた

頃はリングへも良く参加していたが、その決着戦で盟友の由衣が金網の中タッキーに全裸で

完全KOされてからはそのショックも有り、あまりリングへ上がることは無かった。

しかしその分、表の世界でも伸び悩んでいる感が有り、今回は相手が絶対にアイドル同志で

あると聞かされ、久し振りに闘う決心をしたのであった。

「おはようございまーす。えーと、藤原瞳ちゃんだったよね。」

「あ、そうでーす。おはようございます。美奈子先輩。」

次いで入ってきたのは戸向美奈子であった。15歳の時に旗揚げ戦に参加して以来、数多くの

試合を重ね、その甲斐有って18歳の現在までトップグラビアアイドルとしては活躍して

きたが、バラエティでのトーク下手という欠点も有り、次のステップへはなかなか進め

ないでいた。またリングでもその156cmという身長はトップクラスと比較すると見劣りし、

また特筆すべきテクニックも無い為、キャリアの割には星を上げられないでおり、

「噛ませ犬」的な扱いを受ける事もしばしばであった。

「今日はアイドル同志と聞いて来たんですけど、美奈子先輩との試合ですかねー?」と瞳。

「いや、もしそうなら控え室は一緒にしないはずだよ。」と美奈子。

瞳「じゃあ、タッグを組むのかな?」

美奈子「その可能性の方が高いかな。」

「おはようございまーす。」二人が話しているところへ、ひときわ小柄な少女が入ってきた。

伊藤仁美であった。16歳で身長148cmのこの少女は過去参加した時に、よりにもよって

あの北王と身長差50cm以上、体重に至っては5倍以上とというあまりに非常識な試合を

組まれ、当然ながらボロボロにされていた。その後、78cmながらFカップという見事な

バストと相俟ってグラビアでは売れっ子になっているのが救いではあったが。ただ、体操で

鍛えたというその瞬発力と柔軟性はアスリートとしての資質を持っており、まともな試合を

やった場合には結構通用するのではないかという意見も有った。本人も今回話が有った時に

は即座にOKしたらしい。

瞳「藤原瞳でーす。」

仁美「あ、おんなじヒトミだね。」

瞳「字は違いますけどねー。」

同名ということもあるのかアッというまに打ち解け、隣同志に座って喋り始めた瞳と仁美に

喋り下手な美奈子が戸惑っている所へ、今度はスラッというよりヒョロッとした感じの

少女とこれまた小柄な少女が二人同時に入ってきた。

「おはようございまーす。」ヒョロッとしたほうは小倉夕子。現在19歳の彼女はこの所連続

して参戦しているというか、させられているが総て惨敗しており、先日などは同じアイドル

同志の横山加奈子にもほぼ一方的に敗れ、全裸処刑まで受けていた。162cmと決して小さく

はないが、細くパワーが無い上にテクニックも無く、闘争心も感じられないことも合わ

さって現役最弱ではないかとまで噂されている。しかし、そのあまりに悲惨な負けっぷりが

ロリータっぽい雰囲気と相俟ってかえって支持され、現在はグラビアでの大活躍からTV

バラエティへもその活躍の場を広げていた。今回も仕事の為とマネージャーに言われ、良く

分からないまま参加した様であった。

一方小柄な方は大盛玲子。かつて素行不良から所属する壕プロを首になりそうになった所を

地下リング参加を条件に救われたという経歴の持ち主であるが、夕子と同じ19歳にはとても

見えない152cmという小柄な身体が災いし勝利には恵まれていない。特にかつての黄色い

タクシーとの対抗戦では大池栄子や左藤江梨子にいいようにいたぶられ、最も悲惨な目に

合ったと言っていいのではないか。今回も壕プロから命令され、有無を言わせぬ参加で

あった。

続けて更に一人入って来た。「おはようございまーす。」

「おはようございます、玲さん。本読みましたよ。感動して泣いちゃいました。」と玲子。

吉井玲であった。一時は死亡説も囁かれたほどの大病から奇跡の復活を遂げ、先日は玲子も

読んだ手記本の出版と引替えに久々にリングにも上がったが、元々155cmと小柄である上に

体力も充分には戻っておらず、しかも相手が大池栄子では一方的惨敗もやむを得なかった。

以前の様にグラビアをやる訳にも行かず、21歳という年齢からも決して立場に余裕が無い

ことは彼女自身も分かっており、今回も殆ど自ら進んでの参戦であった。

「おはよーございまーす。」やや間延びした声で、7人目の少女というより女性が入ってきた。

山田もえ、25歳であった。かつて参加した際は口喧嘩のみと騙され、状況を把握する前に

深多恭子にあっさりとKOされていた。しかも、負け方が良くないとその後の活動に何の

プラスも無かったことも哀れであった。ただ、仁美と同様まともに試合をしたことが無い分、

実力は未知数であり、本当は強いのではないかという噂もあった。確かにこの中では160cm

と夕子に次ぐ長身であり、身体もなかなか筋肉質に見えてはいた。

「あっ、玲子ちゃんて恭子ちゃんと同じ事務所だったよね?今日、彼女は来ないよね?」

前回のKOが頭をよぎったか、もえが玲子に尋ねた。

「恭子ちゃんて、深多恭子ちゃん?確か別なスケジュールが入っていたとおもうけど。

でも、何で?」その事を知らなかった玲子が独特のアニメ声で逆に問い返す。

「だって、あの人強そうじゃない。」KOされたことは隠して、もえが答える。

「確かに強いわね。でも、他にも沢山強い人はいるよ。」と玲子。

玲が言葉を挟んだ。「これで7人。あと一人来て、トーナメントかな?」

「ウーン。さっき瞳ちゃんとも言ってたんだけど、それだったら全員一緒の控え室には

しないと思うんだ。」美奈子が異議を唱える。

「バトルロイヤルなら可能性有るよね。」と瞳。

「バトルロワイヤルって無人島に行って武器で殺し合う奴?そんなのやだよ!」あまり

格闘技には詳しくないのか、仁美が変な事を言い出したのに瞳が説明する。

「それは映画でしょ。プロレスだとバトルロイヤル!でも最後の一人になるまで闘うから

基本的には同じか。」以前のバトルロイヤル大会に参加した美奈子と夕子が頷く。尤も

二人ともその時はアッという間に退場させられたのだが。

「対抗戦の可能性も有るわね。もう一つの控え室にも何人かいてそれで闘うの。全員一緒

とか、一人づつとか、勝抜き戦とか形式は色々考えられるけど。」かつて、対抗戦の経験が

有る玲子が一つの可能性を言い出した。

「でも、それだったら絶対こちらの負けね。だって弱そうな人ばっかりだもの。」全員が

薄々感じていながら口にしなかったことをズバリ言ったのは、バラエティでも場を読まない

発言の多いもえであった。

何か嫌な空気が流れ出した所を、更に8人目が悪化させた。

「ほんと、弱そうな人ばっかりね。チビにトロいのにグラビアしか出来ないデブに。」

「紗香さんだって小さいじゃないですか!」チビという言葉に仁美が真先に反応し、言い

返した。

「あんたよりは大きいわよ!」8人目は芳野紗香であった。気の強さと毒舌には定評が有るが、

仁美より大きいとはいえ152cmの身長では、それは相手をむしろ相手を怒らせ、より狂暴,

残虐にさせる効果だけであった。特に因縁の相手、沖菜恵との決着戦では完敗しリング上

公開レイプという最悪の経験まであった。20歳となった今、再度表の世界で花咲かす為、

今日参戦してきたが、メンバーを見て思わず悪い癖が出てしまった。

「トロいのって、私のこと?それとも夕子ちゃんのこと?」間延びしてはいるが、怒りを

感じさせるもえの声であったが、この発言も酷いと言えば酷い。

「両方よ!」と紗香。こうなれば全員と言合うつもりであった。

「デブ。」と言われた美奈子も何か言い返そうとは思ったが、口で勝てる相手ではないと思い

直し、ただ恨みのこもった目で紗香を睨むだけだった。

「何か嫌な人ね。本当にバトルロワイヤルだったら、二人でやっつけましょう。」仁美が隣に

座っている瞳に囁いた。

「バトルロイヤルだってば!でもその意見には大賛成。」瞳も頷きながら返事する。

「よーし、全員揃ったようだな。」黒服が入ってきた。

「全員水着に着替え、身体検査を受けた後リングに上がるように。試合形式とルールは

そこで発表する。一つだけ教えといてやろう。今回の大会名は 王様と奴隷だ。」

奴隷という言葉に、大なり小なりこのリングには嫌な思い出を持つメンバー達の顔が

曇った。しかし、いづれにせよもう戻れないことは皆分かっていた。それぞれ思い思いの

水着に着替え、試合前の検査を受けた後、リングへの花道へと向かって行った。

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