「王様と奴隷」-2:試合形式及びルール等

 

リング入場時の観客達の異常なまでの熱気と興奮は普段のアイドルイベントとは全く異質な

物であり、過去数多くの試合に参加している美奈子ですら慣れることは無かった。その中を

水着姿の8人の選手達はリングへ上がっていった。リング上で瞳と仁美がピッタリ寄り添い、

手をつなぎ合っているのが観客の目からも印象的に映った。

「何、あの紙?」いつもとの違いに気付いたのは、やはり美奈子であった。

普段であれば録画や写真,録音等は勿論メモすら厳重に禁止されている為、観客は手ぶらに

ならざるを得ないのだが、今日は手に手に何か印刷物とペンを持っていた。

無論、美奈子の疑問に答えられる者がこの中にいる筈もなかった。

「皆様、御静粛にお願いします。」アナウンスにより、観客の興奮がやや収まった。

「それでは今回の大会 王様と奴隷につきまして、御案内致します。まずは選手の紹介

ですが、お手元に詳しい資料をお配りしてありますので、省略させて戴きます。お気付きの

様に今回の参加選手は過去余り良い戦績を上げてはいない選手たちですが、その頑張りに

より良い目に合うことも有る事を今日は実感していただくと共に、逆に一番弱いのは誰かと

いう皆様の興味にもお答えしたいと思っております。」

失礼なアナウンスとは思ったが、言い返せるだけの実績を持っている者が誰もいない事も

また事実であった。一方、美奈子が疑問に感じた観客の手元に有る紙は8人の名前、年齢、

身長、体重、3サイズ等そして過去の戦績を載せた資料、いわば競馬の出馬表のような物で

あることも分かった。

しかし、通常配られないこの様な資料が何故配られるかという疑問はまだ残った。

ちなみに、この3サイズ等は先程試合前の検査の際に正確に測られた物で、公称とは随分

異なっている部分も有り、選手たちにとっては嬉しい物では無かったが、観客にとっては

多いに興味の有る物で有った。

「夕子ちゃん、本当に細い!これじゃ弱い訳だ。」

「瞳ちゃんの3サイズは随分違うな。流石に成長しているんだ 。」

「玲ちゃん…こんなに細くなってたんだ ()。」

「ウワッ!美奈子ちゃんのウェストって、本当は…」等々

それはともかくとして、アナウンスは続いた。

「次ぎに試合形式の説明を行ないます。 まず、選手の皆さんは抽選により4つのタッグ

チームに分かれ、一回戦2試合を闘います。次ぎに第三試合として負けチーム同志が闘い

最下位チームを決定します。次いで勝ちチーム同志による決勝戦を行ない、勝ったチームが

王様となります。さて、第三試合で負けたチームは最後の試合でパートナー同志の試合を

行ない、負けた選手が 奴隷となります。つまり王様2名、奴隷1名という訳です。

それぞれの順位に応じてファイトマネーが支払われ、更に王様の選手達にはTVレギュラー,

CM出演,写真集,DVD,トレカ等の発行等今後の活動への大きな支援を約束致します。」

このアナウンスに選手たちの目が輝いた。

「さて一方 奴隷ですが、御注目下さい。」会場の照明が落とされ、リング上方にスポット

ライトが当てられた。そこに有った物はX字型のいわば磔台であった。

「奴隷の選手は水着を剥いだ上でそこへ磔となります。そして、奴隷の選手予想を正解した

お客様から抽選で選ばれた6名の方に、10分間ではありますが自由にして戴きます。但し、

ホンバンだけは御遠慮下さい。」

機械的であっさりしたアナウンスではあったが、直ぐにその意味を理解した選手たちには

先程の期待感に変わり動揺が走り、再び照明が点されたリング上では選手の様子が明らかに

変わっているのが観客にも見て取れた。

過去、紗香も経験した公開レイプ等様々な罰ゲームの有った地下リングではあるが、公の

観客参加は初めてであった。イベントでの一部素人の非常識さ,傍若無人さを知っている

彼女達は、AV男優等よりむしろ恐ろしいという認識を持った。いづれにせよ、想像が

出来ない分、奴隷の名にふさわしい罰ゲームと感じられた。

先程よりも更に寄添い、手を強く握り合っている仁美と瞳はまるで、お互いが倒れない様

支えあっている様に見えた。一方紗香や玲は覚悟が出来ているのか、頭上に有る磔台を睨み

つけていた。その中で夕子だけは今一つ理解出来ていないのか、落着かない目線で廻りを

キョロキョロと見ていた。

「何、それー!?」

「水着を剥いでX字磔!?」

6人の観客に10分間って!?」

「ホンバンは駄目って、それ以外は何でもOKってこと!?」

「何されるの?どうなっちゃうの?」

「絶対、そんな目に逢ってたまるか!」

「要は勝ちゃいいんだろ!」

選手達の様々な想いを他所に、アナウンスは更に続いた。

「続いて試合ルールの説明に入ります。基本ルールは通常のプロレスルールに準じての時間

無制限1本勝負、つまりタッグマッチでも1名が敗れた時点で試合が決着します。

勝負の決定は3カウントフォール,10カウントKO,ギブアップ,レフリーストップ及び

反則で場外リングアウトは有りません。反則については基本的には5カウントまで認められ

ますが、最終的にはレフリーの判断によります。また、例外として同時KO等の場合は

残った選手で試合が続けられます。」連戦を配慮してか、完全決着ルールではなかった。

「選手たちには今更言うべき内容でもありませんが、念の為。試合拒否,試合中の逃亡,

簡単なギブアップ,意識的な反則負け等無気力試合の場合、仕事剥奪,自宅謹慎から最大

芸能界追放までのペナルティーが有ります。」

過去何人ものアイドルが表向きの理由はともかく結果的に追放されたことは、彼女達も良く

知っていた。最近でも村山洋子,濱松咲希,照谷まみ,中川史奈,品川ゆい等多くの

アイドルが噂に上がっている。更に酷い場合、引退させられてもなおリングへ痛めつけられ

役として上げられる仲島礼香の様な例までもある。勿論、その一方で玲子の様にリング

参加を条件に救われる例もあり、最近では松木恵改め松木莉緒がそうではないかと噂されて

いる。逆に数多く参加し、悲惨な目に会い続けながら未だ正式に復活出来ない鈴本あみは、

よほど運が悪いとしか言い様が無いのではないか。

「更に今回の特別ルールを付け加えます。連戦中の不公平を排除する為、試合の残っている

選手に対する医療行為は一切行ないません。また、他の試合へ乱入した選手に対しては

別途ペナルティーが課せられます。」

観客も選手達さえも何気なく聞き流したこの特別ルールが後で大きな意味を持ってくる事は、

まだ誰にも知るよしはなかった。

「特に質問事項が無ければ、チームと試合順を決める抽選を行ないます。」

リング上にこの雰囲気にはそぐわないボールの入った箱が運び込まれてきた。

「それではアイウエオ順に抽選します。まずは伊藤選手」

誰とチームを組むかが、王様と奴隷のどちらに近付くかを大きく左右するだけに緊張が

走った。

最初に仁美が一個のボールを取り出し、黒服に見せた。

「伊藤選手、第二試合B。」

「組めるといいね。」

「そうだね。」手を握ったままの瞳が仁美に囁きかけ、仁美も答えた。

抽選が続いた。

「大盛選手、第二試合A。」

試合順として有利な第一試合になりたかった玲子であるが、相手の一人が自分よりも小さい

仁美と知って、ややホッとした様子であった。

「小倉選手、第一試合A。」

パートナーも相手も分からない状態の夕子は特に感情は見せなかったが、仁美と玲子は内心

組まなくて良かったと胸をなでおろしていた。

「戸向選手、第一試合B。」

パートナーは分からないが、有利な第一試合。しかも相手チームに夕子がいるということで、

奴隷からは遠ざかったと思う美奈子であった。

「藤原選手、第二試合B。」

「ヤッター!」声を出したのは引いた瞳ではなく、待っていた仁美の方であった。二人の

祈りが通じたのかチームを組む事が出来、抱き合って喜ぶ二人であったが、観客からは

小柄で幼い二人のチームは最下位候補としか見えていなかった。

「山田選手、第一試合B。」

美奈子とのチームとなった。握手をかわすキャリア豊富な美奈子と比較的大柄なもえの

チームはこのメンバーの中では強力で、王様候補と言って良かった。

「吉井選手、第二試合A。」

「よって芳野選手は第一試合Aとなります。」

この結果に喜んだのは玲子であった。紗香とではうまくやれる自信はないし、玲とは同じ

壕グループで以前からの面識もあった。逆に頭を抱えたのは紗香であった。ひ弱な上に何を

考えているか分からない夕子は戦力としての期待も薄く、更に苦手なタイプでもあったのだ。

第一試合:紗香、夕子vs. もえ、美奈子

第二試合:玲、玲子vs. 仁美,瞳

第三試合:第一試合,第二試合の負けチーム同志

第四試合:第一試合,第二試合の勝ちチーム同志→勝者は 王様

第五試合:第三試合負けチームのパートナー同志→敗者は 奴隷

「各チームはそれぞれの控え室へ戻って下さい。15分後に第一試合を開始致します。

お客様はその間に投票をお願いします。尚、投票用紙及びペンは確実に御返却願います。」

選手たちは今度はそれぞれ別の控え室に分かれて二人きりとなり、作戦会議や準備運動を

始めていた。尤も仁美チームは第二試合ということもあり、雑談に夢中のようだったが。

一方観客達はそれぞれに予想を始めていた。

「弱そうなのは夕子ちゃんか、玲子ちゃんだよな。」

「チームとしてはWヒトミが弱そうだけど、どっちがより弱いのかな?」

「美奈子ちゃんの巨乳に触りたいけど、このチームは強いよなー。」

「美奈子ちゃんの次に巨乳なのは実質的に仁美ちゃんだな。ヨシ、決めた。」

「ロリンコ姫夕子ちゃんに決まり。」

「ロリータ系なら瞳ちゃんだろ。」

「いや、玲子ちゃんのアニメ声も捨て難い。」

「紗香ちゃんてリング上でAV男優とプレイしたんだって。そんな奴はやだな。」

「え、プレイなの?レイプと聞いてたけど。どっちみち、あんな貧乳やだ。」

「俺、貧乳大好き。だから紗香ちゃん。」

「大人の魅力のもえちゃんだな。」

「玲ちゃんに生きている幸せを教えて上げよう。」

「絶対に幸せじゃないだろ。それは。」

きちんと予想する者、単に個人的趣味で選ぶ者と様々だが、待ち時間中に投票は完了した。

ちなみに一番人気は夕子、二番人気は仁美で、最も人気薄はもえであった。

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