「王様と奴隷」-6:第四試合,決勝戦=王様決定

 

前の試合の惨劇で観客が落着かない中を、決勝戦に勝ち進んだ4選手が入場してきた。

片方の花道から、もえと美奈子。もう一方からは玲と玲子である。前の試合でのダメージは

シャワーを浴び、水着も着替えたことも有って表面上はどの選手にも無いように見えた。

事実、もえと美奈子はほぼ無傷といって良かった。勝てば 王様として、今後の活動に

大きな支援が約束されているだけに、全員緊張した面持ちである。

その中、真っ先に会場の雰囲気が何かおかしい事に気が付いたのは、やはり美奈子であった。

どうも、この試合に集中していない様である。両チーム共、前の試合の間は控え室で休憩と

作戦会議に当てて試合は見ておらず、紗香組の反則負けという結果しか知らなかった。

玲と玲子も、観客の雰囲気から前の試合で何か異常な事が起こったらしいと気付いたが、

ここは目前の試合に集中すべき、と気持ちを切替えた。リング上ではどうももえだけが、

経験が浅いこともあって、その雰囲気に気付いていない様だった。

リング上に4選手が揃った所でアナウンスが流れた。

「これより 王様と奴隷決勝戦を開始致します。赤コーナー山田もえ,戸向美奈子、

青コーナー吉井玲,大盛玲子。勝チームが 王様となります。」

レフェリーの簡単な注意と確認の後、互いに握手を交し合う4選手。ゴングが鳴った。

カーン

美奈子と玲子の先発で試合が開始された。流石にこの時点では観客たちもこの試合に

集中していた。観客の予想は、体格的に勝る上に、前の試合で殆どダメージを受けておらず、

しかも休憩が一試合分多いもえ,美奈子チームが有利と見る者が圧倒的であった。

組合おうとする美奈子に対し体格的に劣る玲子はそれを避け、横へ回りながらローキックで

牽制していた。

今日こそは、あたしが頑張らなくちゃ。

表面上は平気そうに見せてはいたが、病上がりの玲に12試合はきつく、既に体力を

相当消耗していることは玲子には分かっていた。

美奈子の太腿にローキックを連続して叩き込みながら、チャンスをうかがう玲子。

負けてたまるか。これまでの相手に比べりゃ、こんな連中。

美奈子にも過去数多くの死闘を経験してきたプライドがあった。蹴られながらも前進し、

徐々にコーナーに玲子を追込んでいった。背中にコーナーを感じ焦る玲子。美奈子が肩から

飛込んでいったが、寸前玲子がかわす。

ドォーン

コーナーポストに美奈子の肩が激突した。後ろに回り込んだ玲子が逆さ押さえ込みを狙う。

「ワン、ツー」

美奈子が慌てて肩を上げる。地下プロレスには珍しくフォールの有るルールは、非力な

玲子にも返し技で充分チャンスが生まれる。

起き上がり正対しようとした美奈子に対し、玲子が足を取りにいった。反対の足も払い

ダウンさせるとトーホールドで締め上げる。

「イテテテテッ」

悲鳴を上げる美奈子のピンチにもえが飛出し、玲子にパンチを入れる。

「卑怯な真似しないでよ。トロいくせに。」

まるで紗香が乗移ったかのように、玲子がアニメ声でもえに毒づく。

その隙に倒れていた美奈子が玲子の足を払ってダウンさせ、更にもえにタッチした。

「誰がトロいって!」

怒ったもえがキックを玲子に浴びせ掛ける。とはいえ、確かにあまりスピードは無い。

隙を見て玲子はもえをタックルでダウンさせ、上に乗ると細かいパンチを側頭部へ連打した。

「イターーイ」

今度はもえが悲鳴を上げた。更に玲子は態勢を変えるともえの首に足を絡め、首四の字を

完成させた。この一連の動きにコーナーの玲が拍手を贈る。

玲子は闘っていて楽しかった。これまでは、体格的,実力的に到底かなわない相手との試合

ばかりで、いつも おもちゃ扱いされていて、またリングに上がる事自体も事務所から

許して貰う為の手段でしかなく、闘う楽しさなど感じた事もなかった。

しかし、今日自分と体格の変わらない、或いは更に小さいWヒトミがそのテクニックや

身軽さという特技を武器に、体格を感じさせないファイトをやり観客を沸かせていた

ことで、自分でもやれるという気持ちが芽生え始めていた。無論、その為には 何か

身に付けなくてはいけないのだが、そのヒントも今日掴んだ様な気がしていた。

玲子はもえに首四の字を掛けたまま、徐々に自コーナーへ近付き、玲にタッチした。

リングに入った玲はロープへ飛ぶと、無防備なもえのボディに膝を落とした。

「ウプッ」

苦しむもえに対し、首四の字を引継ぐ。玲は暫らく締め上げて、再度玲子にタッチした。

玲子は、コーナー最上段からもえのお腹の上に両足で飛降りた。先の試合でWヒトミに

散々食ったダブルフットスタンプである。

「グエッ」

胃液が逆流し、苦しむもえ。玲子はダウンしたままのもえの顔を上げると、その額へ連続で

小さなパンチを叩き込み、更に全身にトーキックを打ち込んだ。実はこのヤンキー殺法が

玲子の 何かであった。

タッチを受けた玲もコーナーポストから飛降り、こちらは片足でもえのお腹を踏み付けた。

「グァーー」

ついに逆流した胃液がもえの口から溢れ出た。

玲はもえの上半身を起こすと、後ろからチキンウィングフェースロックを狙った。

絶対勝ってやる!絶対あの子にまた追付いてやる!

玲には、心に決めたライバルがいた。それは優花であった。お互いのデビュー写真集では

一緒に撮影へ行き、相手の写真集にも一緒に写った写真を載せあっていた。そして撮影の

合間には、お互いに今後の活躍を誓い合っていたのだが、その後は地下リングでの

末広軍団としての大暴れのせいもあり、癒し系としてグラビアからバラエティ,CM

ドラマ,司会と仕事の幅を広げ、トップアイドルとなっていく優花に、玲はいつしか

大きく水を開けられていた。そして病気から復活した今、もはや二人の間には埋める事の

出来ぬ大きな差が付いていた。もう何処にも、玲を優花のライバルと見る者はいなかった!

そんな優花に一歩でも追付き、いつかまた肩を並べる為に、玲は今日はどうしても優勝して

王様になりたかった。

玲の両手が近付き技が完成する直前、美奈子が玲の背中を蹴りカットした。

先程の試合とは逆の展開となり、美奈子は少し焦り始めていた。

「もえちゃん。しっかり!」

声を掛けてコーナーへ戻る美奈子の後ろから玲子が殴りかかった。そのまま、場外へ

落とすと美奈子の額へも細かく、素早いパンチを落とした。

リング内では、玲がもえに今度はキャメルクラッチを決めた。グッと反り返るもえの上半身。

「さあ、ギブアップしなさい!」

叫ぶ玲に、首を横に振るもえ。

玲組の狙いは短期決戦,更にもえ狙いであった。スタミナ勝負での不利は明らかであるし、

キャリアの浅いもえの方が狙い易い事もまた明らかであった。

粘るもえに、玲が攻め疲れた。玲は技を解くと、場外にいた玲子を呼び込んだ。

玲子をコーナー最上段に立たせると、もえをパイルドライバーの形に持上げた。

場所を玲子の手が届く場所まで移動すると、玲子がその足に手を乗せ二人掛かりの

デッドリーパイルドライバーを狙った。このまま玲子がジャンプして、パイルドライバーを

完成させれば勝負はほぼ決まったところだったが、ここまで少々時間が掛かり過ぎ、

場外から復帰した美奈子が邪魔をした。

玲子が乗っているロープを揺らし、更にバランスを失った玲子を外へ突き落とす。

「アーーーー!」

ドーン、バァーン

エプロンから場外へと転落し、うまく受身が取れず場外で動けなくなる玲子。

更に美奈子はリング内へ入ると、持上げられているもえの背中に体当たりした。その結果、

もえの身体が玲に圧し掛かる形で二人が倒れた。

「もえちゃん。大丈夫?」

グロッギー状態のもえを自コーナーまで引っ張り、一旦コーナーへ出てタッチする美奈子。

一方玲は攻め疲れに加え、もえの下敷きになったダメージが大きくダウンしたままであった。

美奈子は玲を引きずり起こすと、コーナーへ叩きつけた。更に両腕をトップロープの上に

固定して、助走を取るとニーアタックを玲に叩き込んだ。腕が引っ掛かっていてダウン

出来ない玲に、今度は串刺しラリアットを決める。更に膝蹴りをボディに連発する。

「グッ」

崩れ落ちたくても、ロープに引っ掛けられた腕が邪魔になる玲。

次いで美奈子は玲の後ろのコーナーポストへ登ると、玲の髪の毛を掴みその後頭部に自らの

膝を押し当てた。そのまま前に倒れこむと、玲の前額部が美奈子の体重共々マットに叩き

つけられた。カーフブランディング、仔牛の焼き印押しという荒技である。

ダウンした玲を仰向けにして、美奈子がフォールの態勢に入った。

「ワン、ツー、ス」

スリー直前に玲がかろうじて肩を上げた。悔しがる美奈子。一方の玲は命拾いしたものの

ダメージの大きさは観客からも見てとれた。控えの二人がまだ立てない状態であるのを見た

美奈子は勝ちに入った。玲の首を取ると低空のブレーンバスターで投げ、大の字になった

玲の首筋にギロチンドロップを落とした。もう一度フォールに行く。

「ワン、ツー、」

今度はツーで玲が返す。

粘るな。やっぱり固め技かな?

そう思った美奈子は玲の足を取り、サソリ固めに入ろうとする。その瞬間、玲が美奈子の

髪の毛を掴んで引き倒し、スモールパッケージ気味に固めた。

「ワン、ツー、ス」

意表をつかれた美奈子だったが、なんとかスリー直前に返す。まだ勝ちに入るのは早いと

感じた美奈子は方針を変え、玲のスタミナを更に奪う作戦に出た。後ろに廻ると、

スリーパーで締め上げる。攻撃しながら自分のスタミナは回復させる目論見である。

この頃、ダウンしていた二人もようやく復活してきた。場外で腰を強く打った玲子で

あったが、リング上の状況を見て慌てて飛び出し、ロープの反動を使った蹴りを美奈子の

側頭部へ入れた。このケンカキックに不意を付かれた美奈子はダウンし、ようやく玲は

スリーパーから逃れられた。

「玲さん、交代!」

フラフラしながら玲子の待つコーナーへ歩を進める玲であったが、後ろからこちらも

復活したもえが襲い掛かった。

「どいつもこいつも人をトロい、トロいと!」

おっとりした性格のもえも、ここまでの展開に流石に頭に血が上って来ていた。玲の肩と

腕を後ろから掴み、振り向かせると顔面にパンチを一発、更に膝蹴りをボディに連発で

叩き込み、そのままニュートラルコーナーへ投げ捨てた。ダウンする玲の口からも胃液が

溢れ出していた。更に、飛び出し突っ込んできた玲子に対しても前蹴りを入れて動きを

止め、抱え上げてシュミット流バックブリーカーを食らわす。更に、苦しむ玲子を再度

横抱きに持ち上げると、玲がうずくまるコーナーへ放り投げた。重ね餅となる二人。

更に襲い掛かろうとするもえをレフェリーが制止し、コーナーへ戻す。

もえも、コーナーでダウンする二人を見て、自身の強さに驚いている様子であった。

リング上では、美奈子が頭を振りながら立ちあがってきた。

今度こそ、決めてやる!絶対勝つぞ!

勝ちたい気持ちは、美奈子もまた同じであった。キャリアだけは積みながらも やられ役

噛ませ犬の評価が定着しつつあることは自覚していた。紗香から言われた グラビアしか

出来ないデブという嫌味も、認めたくはないがその様な評価が有る事もまた知っていた。

事務所からは 乳首の写ったトレカをそのまま販売する。といった事もやられた。

しかも最近になり、一部から『顔が崩れてきた。』『体型が崩れてきた。』などといった、

グラビアアイドルとしては致命的な評価さえ上がってきていた。 そう、あの脅威的な

治療能力を持つ地下プロレス医療チームを持ってしても、長年激しく痛められ続けてきた

美奈子を完全に元へ戻す事が、難しくなってきていたのである。まだ18才とはいえ、

もう美奈子にも余裕は無かった。

美奈子は興奮状態のもえにはあえて交代せず、二人が折重なりダウンしているコーナーへ

向かった。レフェリーに試合権利が玲にあることを確認すると、まず上になっていた玲子を

場外へ落とした。次に玲を引きずり起こそうとしたが、その時衝撃が股間に走った。

玲が美奈子の股間にパンチを打込んだのであった。玲も自分の状態を考えると、反則などと

なりふりをかまっている場合では無かった。ダメージの大きい玲であったが、パートナーの

玲子が場外でダウンしているのを見ては、ここは自分で攻撃を続けるしかなかった。

とはいえ、大技を仕掛ける体力は勿論残っていない。まずは美奈子の後ろへ廻りこむと

首筋から後頭部へエルボーを連発して叩き込んだ。そして、再度首四の字を極め自らの

体力回復も狙うこととした。

しかし、もえがそれを許さなかった。飛び出してくると玲のお腹を踏付け、コーナーへ

戻っていった。

「玲さん!」

「美奈子ちゃん!」

しばらくダウンしたままの二人であったが、コーナーからの声に励まされて立ち上がり、

美奈子がもえに、玲が玲子にそれぞれほぼ同時に交代した。

まだ、興奮の残るもえが殴りかかっていったが、玲子が素早く身をかわす。

後ろへ廻りこみ、横入り式逆さ押え込みを狙う玲子。もえもカウント2で返す。

素早く立上がったもえの回し蹴りが玲子のボディに決まる。身体を折って苦しむ玲子に

もう一発と狙ったが、玲子が蹴り足をうまく掴んだ。掴んだ玲子も一瞬どうしようか

悩んだが、そのまま自らの身体を倒しながら反転させ、ドラゴンスクリューを決めた。

膝を捻られ、痛みに苦しむもえ。

チャンス!

体力的に限界が近付いている玲と玲子は勝負に出た。タッチを受けた玲がコーナー最上段

から膝をもえのお腹に落とした。今度はお腹を押さえるもえ。

もえを起こした二人は、そのまま二人でブレーンバスターを決めた。

試合の権利を持つ玲を残し、今度は玲子がコーナー最上段へと登った。トップロープへ足を

掛け何か飛び技を狙ったが、反対コーナーの美奈子が激しくロープを揺すった為、

バランスを崩し足を滑らせてしまった。

「アッ、アッ、ワーーー、ギャッ!」

ドン、バーン

足を滑らせた玲子は、トップロープに股間を打付け、更にそのまま場外へ転落してしまった。

「玲子ちゃん!」

思わず、玲子に駆け寄ろうとする玲。先程に続いて、またも場外へ変な形で受身も取れずに

転落した玲子のダメージは大きく、起上がれそうにもない。

その間にもえから交代した美奈子が、玲に近付いてきていた。気配を感じ振返る玲の胸元に、

美奈子のキックが炸裂した。更にコーナーへ押込むと、得意の串差しラリアットを首筋に

叩き込んだ。崩れ落ちる玲を引きずり起こすと、ダブルアームスープレックスの要領で腕を

固め、その頭を両膝で挟み込んだ。そして、ジャンプして玲の顔面をマットに叩きつける。

このペディグリー=フェイスクラッシャーにより、玲の鼻血がまた溢れ出した。赤く染まる

玲の顔面。そして、フォールを狙う美奈子。

「ワン、ツー、スリ…」

まさに間一髪、玲の肩がわずかに上がった。体力的には限界に来ている筈の玲の粘りに、

驚くよりむしろあきれる美奈子。

美奈子はもえにタッチし玲をもえに羽交い締めさせると、自らはコーナー最上段へと登った。

「決めるぞー!」

観客にアピールする美奈子。

これで勝ちだ! 王様だ!

もう、噛ませ犬とはおさらばだ!

勝利への願いを込め、フライングニーアタックで玲の顔面を狙った。

しかし、勝利への執念は玲も同じ、或いは美奈子以上だった。

激突寸前、玲がもえの羽交い締めから逃げ、身を伏せた。

その結果、美奈子の膝は無常にももえを直撃した。

ガアーーーーン!

…………

声も無く倒れるもえ。

しまった!!”

着地後四つん這い状態で、一瞬呆然となる美奈子。

チャンス!ここだ!

玲は美奈子をスライディングキックで場外へ落とし、もえの背中に乗った。そして、まさに

最後の力を振り絞り、もえの首筋に回した手に力を込める。チョークスリーパーである。

もがき、暴れるもえ。優花の事も忘れ、闘争本能だけで締め上げる玲。

まずいっ!

場外へ落とされた美奈子が、急いで救出に戻ろうとする。

「エッ?」

右足が何か重りが付いた様に上がらない。見ると、立ち上がることも出来ない状態の玲子が

その足首にしがみ付いていた。

「放せーー!」

左足で蹴りつける美奈子。

絶対放すか!王様になるんだ。玲さんを 王様にするんだ!

必死に美奈子の足にしがみ付く玲子。

リング上は必死に締上げる玲と、もがくもえ。

そして、ついにもえの動きが止まった。レフェリーが確認した後、

カーン

ゴングがなった。死闘の決着は着いた。

失神状態の敗者、もえ。

勝者の玲も力尽きたか、もえの背中の上で動けない。

もう一人の勝者,玲子は美奈子の足を放し、場外で再びうずくまり動かない。

もう一人の敗者,美奈子も玲子を振り払ったが、そこから動けない。リングに両腕を付き

うなだれている美奈子の目に悔し涙が浮かび、こぼれ落ちた。

負けた…………、王様になれなかった………

次いで、アナウンスが流れた。

「只今の試合は山口選手レフェリーストップにより吉井,大盛組の勝ちと決定致しました。これにより吉井,大盛組が優勝、王様の権利を手にしました。山口,戸向組は二位と

なります。尚、第五試合終了後に 王様の表彰を行ないます。」

観客から大きな拍手と歓声が起こった。

が、それでも動かぬ4人。まず動いたのは美奈子だった。足元でうずくまる玲子に、

「玲子ちゃん、あなた達が勝ったのよ。リングに上って、勝名乗りを受けなきゃ。」

その言葉に勝利を実感した玲子がリング上によじ登り、四つんばいのまま玲に近寄る。

その玲もようやく意識を取戻した。ゆっくりと近寄ってくる玲子の歓喜の表情に、こちらも

勝利を実感した。自らの血で赤く染まった顔がほころぶ。

「玲さん。」

「玲子ちゃん。」

ひざまづいたまま、がっちりと抱き合う二人。レフェリーが二人の手を上げた。

もえもリング上に上がったドクターから検査と応急処置を受け、ようやく意識を取り戻した。

「もえちゃん、大丈夫?」

玲子の問い掛けに

「大丈夫じゃない。」

と、もえ。一瞬、心配そうな表情に変わる玲と玲子。だが、

「嘘だよ。大丈夫、そんなに心配しないで。」

のもえの声に、思わず笑顔がこぼれる。

「玲ちゃん、玲子ちゃん。おめでとう。これからも頑張ってね。」

涙を拭った美奈子もリングに上がり、潔く二人を祝福する。

こうして決勝戦は終わった。

王様の座には勝利への執念で、二試合連続の大逆転勝ちを収めた玲と玲子がついた。

そして、後は 奴隷決定戦を残すのみとなった。

 

リング上でお互いの健闘を称えあう4人は、前の試合で何が起こったのか,そして今、

控え室で何が起こっているのか、まだ知らなかった。

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