「リベンジ-2

 

「ア、美奈子ちゃん、久し振りー。」控え室に幾分間延びした声が響いた。

「おはようございます。もえちゃん。お久し振りです。」

王様と奴隷大会が終わって、1ヶ月余り。奴隷決定戦であまりに非道な芳野 紗香から

小倉 夕子を救う為、リングへ乱入してしまった6人に対し、ファイトマネー没収,そして

それを賭けた賞金マッチ実施というペナルティが命じられた。そしてその試合として、

まずは山田 もえと戸向 美奈子が今日地下リングへ呼出されたのであった。

ペナルティマッチという性格上、試合相手,ルール等は二人には一切知らされておらず、

唯一知らされていたのは、今日の勝利チームに前回二人が没収された大会準優勝の賞金が

全額、今日の本来のファイトマネーに加えて渡されるという事だけであった。

「相手もルールも分からないなんて、怖いよ。よく、美奈子ちゃんは平気でいられるね。」

と言うもえに対し、美奈子は

「私だって不安ですよ。でも、ここまで来たら開き直るしかないし。もえちゃんが実力を

ちゃんと出してくれれば、大丈夫ですよ。」
と、流石に多くの修羅場をくぐり抜けてきただけのことは有った。

ただ、あまりに落着かないもえの様子に、美奈子はむしろ不安を抱き始めていた。

もえを落着かせ、その不安を解消させたい美奈子であったが、元来の喋り下手が災いして

もえにうまく話しをする事が出来ず、控え室の雰囲気は沈んだままであった。

 

もう一つの控え室には大きな影と、小さな影が映っていた。

「本当に、お金は全部貰えるんだろうな?」

「大丈夫だって。アタシを信用して。ただその代わり、今日はアタシの言う事を確実に

聞いて下さいよ。」

OK, OK、何でもやるよ。どうせ女の子二人だろ。21でも何の問題もないから。

叩きのめせばいいんだろ?」

「叩きのめすだけじゃダメなのよ。だから、言う事を聞いてって言ってるの。こんな風に

作戦を考えているの。ホント、もしうまく行かなかったら全額は渡さないからね!」

「それは困るよ。じゃあ、作戦を聞かせて貰おうか。」

「まず…、次に…、最後に…」

「分かった。でも酷い事、考えるなー。ホント、女性って怖い。」

「そう、これはアタシの リベンジなんだから。怖くて当然。」

 

毎度の熱狂の中、花道からそれぞれ白のワンピース水着に身を包んだスリムなもえと、

グラマラスな美奈子が入場してきた。

大歓声の中、二人が見た物は金網に囲まれたリングであった。

「ヤッパリ…」

小さく呟く美奈子。ペナルティマッチという試合の性格上、普通の試合では無いと思っては

いたが、金網デスマッチとは。過去に幾度と無く味わった痛みと屈辱の記憶が全身に

甦ってきた。

一方のもえは、勿論金網に囲まれたリングを見るのは初めてであり、自分がその中で

闘うことなど想像も出来なかった。

「ねえ、美奈子ちゃん。あの中に入って闘うんだよね?」

明らかに既に怯えている口調のもえに対し

「そう。一度入ったら、勝負がつくまで出られないのよ。」と美奈子。

「ヤダー、そんなの。ねー、何とかならないの?」

「なる訳無いでしょ!勝って出ればいいのよ。勝って。」

意識して、強がって見せる美奈子だが、怯えてしまっているもえが戦力になるか、ますます

不安が増してきた。そして、勿論口にはしなかったが、自分で言った『勝って出る』

可能性が殆ど無い事も感じていた。恐らく、対戦相手も簡単な相手で有る筈が無い。

所詮、この試合は自分達への ペナルティマッチなのである。

「もえちゃん、行くわよ。もう、覚悟を決めて!」

自らをも鼓舞する為、強気で叫びながら金網に包まれたリングへ上がる美奈子。

もえも勇気を振り絞り後へ続く。二人ともここで逃げ出して芸能界追放等更なる

ペナルティを受ける訳にはいかなかった。

だが、もえの心の中に自分の不安感を分かってくれない美奈子への不満が湧上がっている

ことには、二人とも気付いてはいなかった。

 

反対側の花道から対戦相手の二人が入場してきた。その二人が誰であるかを認めた時、

美奈子は悪い予感が当たってしまったことに気付いた。

小さい影は芳野 紗香,大きな影は現役プロレスラー保田 忠夫であった。

王様と奴隷大会の因縁から紗香が自分達を狙う可能性が有るとは思っていたが、ここで

それがあるとは。しかもそのパートナーがあまりに強力である。

紗香は、先日小倉 夕子のリベンジを企んだ加東 美佳と櫻木 睦子を返り討ちにした際の

パートナー,ダンプ 松元から『お金の為なら、何でもする人』ということで保田の紹介を

受けていた。

保田は大相撲引退後ギャンブルによる多額の借金を重ねていて、現在はその返済の為、

上がれるリングは何処でも上がっており、別名を『闘う借金王』と呼ばれていた。

電話した時ダンプは知らなかったが、地下リングへもやはり金のため既に過去数回上がって、

アイドルを血祭りに上げては大金を稼いでおり、北王に続く『処刑人』の座を固めつつ

あった。つい最近もサラ金のCMでブレイクした大野 真弓を 借金の恨みとばかりに、

完全KOしていた。

ここに三人の希望が一致して、保田が紗香のパートナーになることが決定したのだった。

観客達は、容易に想像されるこれからの展開に大きな黒い声援を送っていた。特に美奈子は

その豊かなバストのせいも有り、ヤラレ役としては大人気なのであった。

 

紗香と保田がリングに上がった。次いでレフェリーもリングインし、金網の只一箇所の

出入口が閉じられた。美奈子が言った通り勝負が付くまで、もう出る事は出来ない。

恨みに燃える紗香の表情と保田の巨体,そして残酷な目を美奈子は気丈に真正面から

見返したが、もえは殆どパニック状態となっていた。

「何で、紗香ちゃんがいるの?何で、あんな大男なの?何で、金網なの?

 私達、殺されちゃうの?」

答える相手もいないのに、一人で問い掛け続けるもえ。ミックストマッチも初めてである。

一方の美奈子はそれでも勤めて冷静になり、僅かな勝利への可能性を見つけようと必死に

作戦を考えていた。

 

リング上に四人が揃い、観客の声援が一段落付いたところへアナウンスが流れた。

「手錠張付け限定金網タッグマッチを行ないます。赤コーナー,山田 もえ,戸向 美奈子、

青コーナー,芳野 紗香,保田 忠夫。尚、本日の試合の決着は、相手チームの二人共を

手錠にて両手を金網に固定した場合のみです。」

『ペナルティマッチ』に相応しい過酷なルールであった。ギブアップもKOさえも無い。

既に金網にぶら下げられている手錠に相手を固定するまで、つまり痛めつける事に相手が

満足するまで、試合が継続されるのである。

ますますパニック状態が酷くなるもえの横で、美奈子は作戦を考えた。

そしてその結論は 二人掛かりで保田を奇襲することであった。相手は明らかに二人とも

余裕を持ち、油断している。そこを衝くしか無いと思った。

しかし、それを伝えるにはパートナーのもえが冷静さを失っていた。

「もえちゃん。落着いて!私の作戦を聞いて!」

叫ぶ美奈子だが、残念ながら作戦を伝えることが出来ない内にゴングが鳴ってしまった。

 

カーン

ゴングと共に保田が美奈子を襲った。まずは経験豊富なチームリーダー,美奈子を潰す様、

紗香が指示していたのである。

慌てて構える美奈子だが、遅かった。走り込んできた保田のキックが美奈子の胸元に

命中した。コーナーまで吹っ飛ぶ美奈子。コーナーを背負ってダウンした美奈子の胸元を

保田が踏みつける。

「もえちゃーん!」

苦しい息の下、パートナーの名を叫ぶ美奈子だが、もえはまだパニック状態に陥っている。

保田は美奈子を引きずり起こすと軽々と持上げ、リング中央に落とす。更にお腹から落ちた

美奈子の背中を踏付け、全体重を掛ける。

「グエッ」

図らずも変な声が出てしまう美奈子。

再び、美奈子を立たせた保田はフロントネックに捉え、締め上げる。

身長差が有るだけに、保田の太い腕が首に食込み、美奈子の息が出来なくなる。

失神寸前に腕を放した保田は、今度は美奈子のボディに膝蹴りを連発する。ボディに激しく

食込む膝に、美奈子の胃液が逆流するがなんとか堪える。

次に保田は美奈子の髪を掴み、正面から頭突きを入れる。

ガーン

「グッ」

頭が割れそうな痛みに思わず、ひざまづく美奈子。更に保田は膝を付いた美奈子の頭に

その髪の毛を掴んだまま、上から体重を乗せた頭突きを連発する。

ガーン

ガーン

ガーン

崩れ落ちそうになる美奈子だが、保田が髪の毛を掴んで、それを許さない。

今度は髪を持ったまま美奈子を立たせると、横へ振り回した。

ドーン

保田の手に、叩きつけられた美奈子の髪の毛が残る。

頭突きによる割れそうな頭の痛みと眩暈で、頭を押さえる美奈子。

近づいていった保田は、美奈子を立たせるとベアハッグに捕えた。

今度は背骨の折れそうな痛みに息も出来ぬ美奈子。このまま失神かとも思われたその時、

「アイタッ」

声を出したのは保田だった。

ようやくパニック状態から脱したもえが、攻められている美奈子の救出の為、保田の

腿へのキックを敢行したのであった。

全く油断していた保田は、美奈子を放すともえに向き合った。

その残忍な目に直視され、もえは再度パニックに陥ってしまった。

「キャーーー」

奇声を上げると保田に背を向け金網の出入口へ向かった。必死にドアを開けようとする

もえだが、当然カギが掛かっておりビクともしない。

暫らくあきれた目で見ていた保田だが、ゆっくりともえに近寄って行くとその右手でもえの

頭部を握り、力を込めた。

「ギャーー、イターーーイーーー」

叫ぶもえ。

保田は暫らく締め上げた後、リング中央にもえを投げつけた。

更に今度は、恐怖で腰が抜けた様になり動けないもえの額を正面から掴み、締め付けた。

「アーーーーーー」

頭が割れる様な痛さにうめくもえ。振り回す腕も届かない。両手で保田の手を掴み離そうと

するが、これも無駄である。しかし、再びそこで、

「ウッ」

小さく叫んだ保田の力が抜けた。股間を押さえ、その場にダウンする。

ホッとしてその場へ崩れ込むもえ。

何とか復活した美奈子が、油断していた保田の股間の急所を蹴り上げたのであった。

「もえちゃん!」

美奈子が声を掛けるが、もえに反応は無い。恐怖と痛さから解放され、呆けてしまっている。

ならばと美奈子はこちらも恨みのこもった目を、コーナーでじっとしている紗香に向けた。

「紗香!あなたは道連れよ!」

自分達が保田に勝てる筈が無いと見込んだ美奈子は、この間に何とか紗香だけでも

痛めつけようと、考えを変えたのだった。

握り拳を作り、ゆっくりと紗香に近付く美奈子。

それを認めた紗香はなんとそこで土下座を始めた。

戸惑いながらも紗香に近付く美奈子。そして叫んだ。

「顔を上げろ、この野郎!」

紗香が顔を上げた。そして次の瞬間、美奈子の目の前が緑色に変わり、何も見えなくなった。

「ギャーーーー!」美奈子が眼を押さえ、叫ぶ。

紗香が念の為にと口に含んでいた緑の毒霧を、美奈子の顔面に吹付けたのだった。

実は以前の美佳,睦子組との試合でも準備していたのだが、その試合ではダンプが完璧な

試合運びで自分には全くピンチが無く、使う機会が無かったのであった。

「何、これ?!卑怯者!」

叫びながら、紗香のいた場所にパンチ,キックを狙う美奈子だったが、にわか盲の攻撃が

当たる筈も無い。何とか、眼をこすり視界を確保しようとする。

その隙に紗香はダウンした保田に近寄っていき、背中にキックを入れ叫んだ。

「何をしてるのよ!これじゃ、本当にお金は渡さないからね!」

『お金』と聞いて、飛び起きる保田。

「ゴメン。分かった、今からしっかりやるから、お金は約束通り頼むよ。お願い。」

土下座せんばかりである。

急所の痛みをこらえ起き上がった保田は、まずリング中央でまだ呆然としているもえを

捕らえるとコーナーに両足を掛け、逆さ吊りにした。

そうしてもえの動きを止めると、まだ視界が充分では無い美奈子に向かった。あくまで

美奈子から潰す作戦の様である。

保田は低い態勢になると、そのまま相撲のぶちかましの要領で美奈子に体当たりした。

コーナーまで吹っ飛び、崩れ落ちた美奈子の首筋に全体重を掛け踏み付ける。

殆ど息の出来ない美奈子の ゼーゼーという音だけが聞こえる。

美奈子を引き起こした保田は、コーナーに美奈子を固定すると膝蹴りでボディを狙った。

ついに耐えきれず、美奈子の口から胃液が溢れ出す。

膝をついた美奈子の脳天に保田は再度ヘッドバットを打ち込んだ。殆ど真上から体重を

掛けてのヘッドバットだけに威力は倍増である。

ガツーン

ガツーン

打ち込まれる度、美奈子は意識が飛びそうになる。

更に保田は美奈子の両足を持ち、リング中央に移動した。そのまま自らが軸となって回転し、

ジャイアントスイングを敢行する。

20回転した後、美奈子を放り出す。自らも目が廻った様だが、勿論美奈子のダメージの

方が大きい。美奈子に近付いた保田は軽くジャンプして、そのお腹を両足で踏みつけた。

「グェーーー、ウプッ…」

更に口から胃液が溢れ出し、美奈子の動きが止まった。

チラッと紗香を見た保田だったが、紗香の もっとやれという目線に応じた。

無抵抗の美奈子を強引に引っ張り上げて、パワーボムの態勢を取る。

叩きつける時に自らもジャンプし、二人分の体重を美奈子の後頭部へ集中させた。

十八番のライガーボムであった。

ドスーン

大きくリングが振動した。叩きつけられた美奈子は完全に意識を失っていたが、この試合の

ルールにはKOは無い。

この時、拍手を送っているのは紗香だけだった。

観客達はあまりのことに息を飲み、むしろ静まってしまっていたのだ。

紗香は保田を呼ぶと、コーナーで逆さ吊りにされていたもえの足を外させた。

リングに落とされ、何とか逃げようとするもえだったが、保田に捕まえられてしまった。

そこへ紗香が声を掛ける。

「ねえ、もえちゃん。美奈子ちゃんみたいになりたい?それともなりたくない?」

見やった先には、美奈子が大の字で意識を失っていた。

「なりたくない!」

当然ながら叫ぶもえ。

「じゃあ、これで美奈子ちゃんにとどめをさして。そしたら、もえちゃんは許して上げる。」

何か言おうとした保田を制した紗香がもえに手渡したものは、メリケンサックと呼ばれる

金属製の指に嵌める凶器であった。

「分かった。」

受取ったもえに躊躇いは無かった。パートナーとは言っても元々抽選で決められた物で

あるし、試合前の自分の不安を分かってくれなかった美奈子に対する不満も有った。

そして何よりも、自分が助かる為なら藁にもすがりたかった。

メリケンサックを右手に嵌め、失神状態の美奈子に近付いて行く。その前に保田が美奈子の

頬を軽く叩き、意識を戻させる。

意識を戻した美奈子の視界はまだ不充分であったが、目の前にいるのがもえで有る事は

分かった。

「エッ?も、え、ちゃ、ん?」

「美奈子ちゃん、ゴメン。」

一言呟いたもえは、凶器を嵌めた右手で美奈子の額を殴りつけた。一発で美奈子の額が切れ、

真っ赤な鮮血が流れ落ちる。

「もえちゃん!何で?」

その疑問を黙らせようとばかりに、凶器パンチを降らせるもえ。美奈子の流血が激しくなり、

その愛くるしい顔面を,白い水着を,そしてマットを赤く染める。段々殴られても動きが

無くなってきた。凄惨なシーンは見慣れているはずの観客からも、不安の声が上がり始めた。

『ヤバいよ、あれ。』

『このままじゃ美奈子ちゃん、死んじゃうぞ。』

観客の声がブーイングと『ヤメロ』に変わった頃、ゴングが鳴らされた。

カーン

レフェリーがもえを制止する。

ルール上、試合終了では有得ないのだが、あまりに美奈子が危険な状態と見られた為、

ドクターが確認の為、サスペンドをかけたのだった。金網のドアからドクターが入り、

美奈子の状態を確認する。

その結果、応急の止血処置が行なわれ、そして美奈子にこれ以上の出血が有った場合は

ドクターストップを掛ける旨を伝えて、ドクターが金網から出ていった。

再び閉じられる金網の唯一の出入口。

紗香は前の試合で櫻木 睦子がドクターストップとなり、その結果晒し者にする事が

出来なかった事を思い出した。そこで、美奈子をこれ以上攻撃することは諦めた。

興奮状態のもえを呼び寄せた紗香は

「もえちゃん、ご苦労さん。じゃあ、仕上げに彼女の水着を脱がせて、手錠で固定して。

 それと、邪魔だろうからそれは返してね。」

素直にメリケンサックを紗香に返すもえ。この瞬間、もえは反撃のチャンスを失ったのだが、

それに気付くのはまだ暫らく後の事であった。

もえは、出血は止まったものの顔面を真っ赤に染め失神している美奈子に近付くと、その

赤く染まった水着を脱がせ始めた。

完全に意識を失っている美奈子は何の抵抗も無いまま、全裸とされてしまった。

更にもえは保田と協力して、全裸の美奈子を金網にぶら下がっている手錠に固定する。

最初はリング内を向いた格好で固定しようとしたが、紗香に言われ外側を向いた状態、

つまり豊かなバストやヘアが観客によく見える状態で美奈子は固定された。

 

美奈子を手錠に固定し終わったもえは、紗香に近づいていった。

「ねえ、紗香ちゃん。これで、いいんでしょ。早く、外へ出ましょうよ。」

そう訴えるもえに、紗香は冷たく言い放つ。

「アンタってトロいとは思っていたけど、まさかここまでとはね。試合ルールを聞いて

 なかったの?二人共を手錠で固定しないと、試合は終わらないのよ。」

もえは、まだ紗香の意味する所が理解出来ない様だった。

「だったら、そこの手錠に私を留めて。それで試合は終わりでしょ。」

それに対し、呆れた表情の紗香が

「そりゃ、固定するよ。そうしなきゃ試合が終わらないんだから。」
流石に嫌な雰囲気を感じるもえ。その前で、紗香が続ける。

「アタシはねー、友達だとか何とか言う奴も嫌いだけど、アンタみたいにパートナーを

 簡単に裏切る奴も大嫌いなんだよ!保田さん、やっちゃって!」

ゆっくりともえの方向へ歩を進める保田の巨体。もえが逃げようとする。さっきドアを

開けようとして駄目だったせいか、今度は金網をよじ登ろうとする。

追おうとする保田を紗香が制止する。追って来ないのを不思議に思いながらも、もえは

金網を半分位登った。その時、

バーーン

ドーン

文字通り弾かれた様にもえが金網から転落した。エスケープマッチではない通常の

金網マッチの場合、逃亡を防ぐ為金網に電流が流れる仕組みになっているのであり、それを

知っていた紗香はわざと追わなかったのであった。

リングに叩きつけられたもえに、もう逃げる場所は無かった。

腰を押さえるもえに近づいた保田は、まずその細いボディにキックを打ち込んだ。

ドスッ,ドスッ

「グエッ」

お腹を押さえるもえ。保田はもえを起こすとベアハッグに捕らえた。

何とか保田の頭を叩き抵抗するもえだが、効果が有るとは思えなかった。

保田はベアハッグの態勢のままもえを持ち上げると、その尾骨を自分の腿に叩きつけた。

マンハッタンドロップという技である。股間を押さえのたうつもえ。

もえの髪の毛を引っ張り立たせた安田は、そのまま金網まで移動しもえの顔面を金網に

叩きつける。

ガシャーン

「イターイ」

ガシャーン

「ヤメテーー」

ガシャーン

「アアアーー」

何度も叩きつけられたもえの額が切れ、真っ赤な鮮血が顔面を染める。

その血は保田を興奮させていった。叩きつける手に更に力が入る。

ガシャーン

「アッ」

ガシャーン

「…」

ガシャーン

やられているもえは悲鳴も出なくなり、身体から力がどんどん抜けていった。

保田の目は女性を痛めつける快感に明らかに酔っていた。

「保田さん、保田さん!」
もえの状態にドクターストップを恐れた紗香が、ついに保田を制止した。

保田はその場に力無く崩れ落ちたもえの水着に手を掛けた。

紗香の同意を得る前に、力任せにもえの水着を引きちぎる。興奮しているだけに物凄い

パワーである。もえの全身,小振りのバストや多めのヘアが露わになるが、隠す余裕は

勿論無い。

もえの水着を剥取り終わっても尚も興奮状態の保田はもえの首に手を掛け、そのまま

ネックハンギングで吊り上げる。

抵抗することが出来ず、まるで人形の様にぶら下がった状態のもえ。

興奮した保田の股間が勃起しているのが、観客からもはっきり見て取れた。

そして、もえはリングに叩きつけられた。完全に意識を失っている様子であった。

更にもえの首を締めようとする保田であったが、ドクターストップを恐れる紗香がそれを

制止する。

紗香は保田にもえを後ろから開脚状態で抱え上げさせた。前の試合の加東 美佳と同じ、

幼児にオシッコをさせるポーズである。そのまま観客に秘部が見える様一周する。

違ったのはその後、保田がアトミックドロップの様にもえの尾骨を叩きつけた所であった。

そして、完全に失神したもえを保田は金網からぶら下っている別の手錠に、美奈子と同じ

外向きに固定した。

カーン

その瞬間、ゴングに続いてアナウンスが入った。

「只今の試合は戸向,山田両選手が共に手錠で固定されましたので芳野,保田組の勝ちと

決定致しました。」

興奮の収まらぬ保田は今度は美奈子に近付き、その豊満なバストに触ろうとしたが、金網を

開け入ってきた黒服に制止された。

欲求不満状態で花道を下がっていく保田。紗香はわざと離れて控え室へ戻っていった。

リング内では手錠から外されたもえと美奈子が、ドクターの応急処置を受けた後、黒服に

担架に乗せられ、医務室へ直行した。

そして、掃除されたリングでは次の試合が始まろうとしていた。

 

「保田さん、有難うございました。」

シャワーを浴び、私服に着替えた紗香が、こちらも着替え終わり興奮も冷めた保田に礼を

言った。

「礼はいいから、お金、お金。」

手を出す保田に半ば呆れながらも、今日のファイトマネーと、懸賞金となっていた本来は

美奈子達が貰えた筈のお金を総て渡す紗香。

保田の切る手刀は流石に堂にいっていた。

「ところで、保田さん。もう一試合お願いできる。それも直ぐなんだけど。」

「今日と同じ感じなら、明日でも大丈夫。何の問題も無いよ。」

「じゃあ、明後日もう一回お願い。試合形式は違うけど、相手は同じ様な物だから。」

「明後日!?OK, OK。ノープロブレム。」

「作戦は当日また話すけど、言う通りにやってくれればお金はちゃんと上げるからね。」

「了解。で、一つお願いが有るんだけど。」

「何ですか?」

「今日、折角裸の女の子を目の前にしたのに何も出来なくて、欲求不満が残ったんだ。

 その点も次の試合では配慮してくれないかな?」

この要求には流石に眉をひそめる紗香。しかし、この強力なパートナーを失いたくなかった。

「分かりました。じゃあ、作戦考えときますから。」

「相手は可愛いの?今日みたいな巨乳の子はいるの?何処までやっていいの?」

眼を輝かせた保田の矢継ぎ早の質問に、紗香も少々嫌になってきた。

「とにかく、当日話するから、落着いてよ保田さん。」

「じゃあ、また連絡頂戴ね。バイバーイ。」

札束を手にした保田は、ウキウキした調子で控え室から出ていった。

紗香は携帯を手に取ると、明後日の試合の打合わせをまた別の人物と始めた。

紗香のリベンジは順調に進んでいる様に見え、乗り移った悪魔は笑い声を上げていた。

 

一方もえと美奈子が意識を取り戻したのは、丸一日以上経ってからであった。特に美奈子は

出血が多かった為、更に一日絶対安静が命ぜられた。意識を戻した美奈子は直ぐに看護士に

電話を要求したが、安静ということで認められなかった。電話したい相手は吉井 玲他の

面々であった。紗香の次のターゲットが彼女達になる事は明らかであり、何らかの注意を

呼びかけておきたかったのだ。

しかし、遅かった。

ようやく、美奈子の携帯が手元に戻った時、彼女達は既に地下リングにやって来ていたのだ。

 

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