「リベンジ-3

 

悪魔にその心を乗っ取られた芳野 紗香が強力なパートナー保田 忠夫の力を借り、山田 もえと

戸向 美奈子をまさに血の海へ沈めて最初のリベンジを果たした二日後、地下リングの控え室に

再開を喜ぶ二人の少女の声が響いていた。

 

「瞳ちゃーん!久し振りー!」

「仁美ちゃーん!会いたかったー!」

抱き合って再開を喜んでいるのは、王様と奴隷大会でパートナーとなって以来、すっかり

仲良くなったWヒトミこと伊藤 仁美と藤原 瞳であった。

大会以降、メールでは毎日の様にやりとりしていたが、グラビア仕事が忙しい仁美と、現在は

学業優先の瞳ではなかなか会う事が出来ず、大会以来の再開であった。

もえ達同様、乱入のペナルティマッチとして今日の試合が命ぜられ呼出されたのであるが、

試合に対する不安より再開の喜びが勝っている様であり、彼女達に悲壮感は感じられなかった。

二人の頭には今日もいい所を見せ、今後本格的にタッグチームとして売り出して行くことしか

無い様である。しかし、この健気で,あどけない二人にも悪魔は容赦しなかった。

 

別な控え室にも二人のアイドルが、こちらは不安そうな表情で座っていた。

一人が不安を誤魔化そうというのか、もう一人に話し掛けた。

「玲さん、写真集とDVDが出るんですね。おめでとうございます。私も何か嬉しいです。」

「有難う。玲子ちゃん。でも今の私で売れるのかな?すごく心配。」

「大丈夫ですよ、玲さんなら。綺麗なんですから。」

「有難う。本当にそうならいいんだけどね。」

彼女達は大病による死の淵から奇跡的に甦った吉井 玲と、その闘病手記を読んで以降、玲を

尊敬して止まなくなった大盛 玲子であった。

それ故、玲子は何度玲から言われても、玲さん さん付けすることをやめなかった。

この二人は本来は 王様と奴隷大会で優勝し、王様として仕事への大幅なバックアップが

有る筈だったのだが、他の選手同様試合への乱入、しかも最初に乱入したということで、王様

権利も優勝賞金も剥奪されていたのだった。

しかし、試合での二人,特に病上がりで身体も別人の様に細くなり、体力も充分には戻っていない

玲の勝利への執念は見ている者の心を打ち、その結果本人も半ば諦めていた写真集とDVD

発売されることになったのである。

とはいえ、勿論ペナルティが消えた訳ではなく、その試合の為今日呼出されたのである。

嫌な予感が有るとはいえ、リング上に悪魔が待っている事は、この二人も勿論知らなかった。

 

両チーム共、一昨日のもえ,美奈子同様ルール,対戦相手は知らされていなかった。その為、

別な控え室にお互いがいることも、当然知らなかった。

 

そしてまた別な控え室には四人の男女が集まっていた。小柄な女性が一人,大柄な女性が二人,

そして巨大と言っていい男性が一人である。

小柄な女性がリーダーの様であった。その女性の言う事を頷きながら聞く三人。

彼等には明らかに余裕が有った。

 

観客の歓声の中、まずリングに上がったのはWヒトミであった。例によって手をつなぎ、仲良く

入場した二人はお揃いのピンクのワンピース水着であったが、体型は対照的でスリムでまだ

中性っぽい瞳に対し、Fカップとも言われるバストを持つ仁美は小柄ながらも充分に女性的で

あった。水着がお揃いなだけにかえって体型の違いが強調されることとなっているのだが、

まだ幼い二人はそれには気付いていない様子だった。

次に玲と玲子がこちらもお揃いの白のワンピース水着で入場してきた。

「エッ!ヒトミちゃん達?」

「アレッ!玲ちゃんと玲子ちゃん?」

相手を認め、首を捻る四人。これでは玲達が逆転勝ちした大会一回戦の再現である。

意外な再開を無邪気に喜ぶWヒトミに対し、玲はこんな筈は無いとむしろ不安が一層沸き起こった。

 

四人がリングに揃った所で、アナウンスが流れた。

4ウェイタッグマッチ,賞金争奪60分サバイバル勝負を行ないます。第一チーム,伊藤 仁美,

 藤原 瞳、第二チーム,吉井 玲,大盛 玲子。この試合は60分終了時、戦闘可能な選手が一人でも

 残っているチームが勝ち残りとなり、賞金をその勝ち残りチームで等分致します。従いまして、

 基本的には試合途中の退場は有りませんが、ドクターがストップを掛けた場合のみ例外と致します。

 尚、3チーム目は5分経過時,4チーム目は10分経過時に試合に参加致します。」

何とも変則的な試合形式で有るが、見方を変えれば試合時間内痛めつけ放題とも言える。

このルールが後の2チーム次第では恐ろしいことになると玲は直ぐに気付いたが、後の三人は

どうもピンと来ていない様子であった。

Wヒトミは後の2チームの中にもえと美奈子がいると思っている様子だが、玲はそうではなく

どちらも恐ろしい相手が出てくると思っていた。

無論、玲が正しい。今日の試合は彼女達へのペナルティマッチなのである。

 

カーン

戸惑いを隠せぬ四選手に対しゴングが鳴った。ともあれ、最初の五分間は両チームの闘いである。

四人がお互いに握手を交し合った後、奇しくも前回同様、玲子と仁美が先発した。

「玲子センパイ。今日もよろしくお願いします。」

これも前回同様深々と頭を下げる仁美。その時はこれで最後までペースを崩された玲子はそれを嫌い、

頭を下げた仁美の背中にパンチを叩き込んだ。

「イタッ!」

思わず膝を着く仁美。距離を取ったら飛び道具が来る事を経験している玲子は仁美をヘッドロックに取り、得意の細かいパンチを打ち込む。更にダウンした仁美の上に乗ると、腕を極めに掛かる。

距離を取りたい仁美であるが、玲子の接近戦にペースが掴めない。グラウンドの練習はあまり

しておらず、苦手なのである。

仁美の苦戦に瞳が飛び出した。玲子の背中にキックを入れる。二人の体が離れた。ポーンと

立ち上がった仁美は、態勢を整える前の玲子に得意のドロップキックを入れた。

バランスを崩し、場外へ落ちる玲子。更に仁美はコーナーの玲にもドロップキックを入れた。

今後の展開を考えていた玲は不意を付かれ、こちらも場外へ転落した。リング内に残った仁美は

Y字バランス,そしてお得意のビールマンスピンのポーズを決め、観客にアピールする。

ただ、そのポーズを花道の奥で苦々しい思いで見ている目には気が付かなかった。

アピールを終えた仁美は瞳に交代し、玲子も玲に交代した。

お互いのテクニックを見せ合い、クリーンなファイトを展開する四人。

久し振りのリングに爽やかな汗が飛び散る。そして5分が経過した。

 

カーン

ゴングと共に次の二人が花道から入場してきた。

リング上の瞳と玲子。コーナーの仁美と玲が花道を注目する。

黒のスポーツビキニに身を包んだ大柄な女性二人であった。

「大池と左藤!」

その正体に最初に気が付いたのは、過去この二人に散々な目に会わされた玲子であった。

「大池 栄子さんと左藤 江梨子さんだ。大きい!」

Wヒトミも二人に気付いたが、栄子達の強さ,恐ろしさを知らないだけに呑気な事を言っている。

玲は嫌な予感的中に背筋が寒くなる。カムバック初戦で栄子にあっさり完全KOされた記憶が甦る。

「ヒトミちゃん達、こっちへ来て。私達同志で闘っている場合じゃないわよ。」

玲が掛ける声に戸惑うWヒトミ。

「あの人達、無茶苦茶に強いの。一緒に闘わないと駄目。」

玲子も声を掛ける。まだ、状況を充分把握出来ていない様子のWヒトミであるが、指示に従い

玲のいるコーナーに向かう。

アナウンスが入った。

「第三チーム,大池 栄子,左藤 江梨子」

大池 栄子は現在22才。166cmの長身に91-59-87という立派な体躯の持ち主で、パワー,スピード,

テクニック,スタミナ,クレバーな頭脳、更には残虐性と格闘技に必要な要素を総て高次元で

兼ね備えており、現役最強の一人に数えられている。

更に最近では、恋人と噂されるプロレスラー阪田 亘とのトレーニングも行なっており、一段と

その実力をアップさせていた。先日の試合で病上がりの玲が一方的にKOされたのも当然であった。

一方の左藤 江梨子は一つ年下の21才。栄子をも大きく上回る173cmの長身に88-58-88という

日本人離れした体躯の持ち主であり、パワー,柔軟性といった面では栄子をも上回っている。

性格面からか詰めが甘く、攻込みながらのポカ負けが多いという欠点は有るが、潜在能力では

No. 1とも噂されている。

かつては共に「黄色いタクシー」に所属していたが、最近栄子は系列の事務所に移籍した。

とは言え、お互い気心も知れており、最強タッグチームとも言えた。

二人は今回いいアルバイトということで誘われ、この試合に参加したのであった。

全賞金の14ずつと言われており、これは彼女達にとって大いに魅力的であった。

リング上からリーダー格の玲が声を掛ける。

「何で、アンタ達が出てくるのよ?」

「ある人に頼まれたの。あなた達を痛めつければお金くれるってね。」と江梨子。栄子も

「アンタ達には恨みが無い、といったらウソか。でもね、今回は恨みよりはオ・カ・ネ。

 アンタ達じゃ弱すぎてトレーニングにもならないしね。」

「何をー。じゃあリングに上がってよ。私が相手よ。」と仁美。

「威勢のいいおチビちゃんね。そりゃ上がるよ、その為に来たんだから。でも、もう少し待って。

 次のチームが来てからね。」と江梨子。

それを聞いた玲が、他の三人に切羽詰まった声で告げた。



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