『「タプレンジャー」登場−1』

「やっぱり、この子がいいんじゃない。」
「そうね、決まりね。声、掛けてみるわ。」
三人のアイドルタレントがコンピュータ画面を見ながら、話し合っていた。
そして、その間も三人とも飲み食いする手は止まっていなかった。
その三人とは
山元 早織:18歳 165cm B98-W60-H86
塁家 明日香:19歳 165cm B97-W62-H89
芳川 綾乃:17歳 162cm B93-W58-H87
である。(無論、この公称サイズを信じている者はいないが)
彼女達は先日地下プロの試合で乱入し、かつての「史上最強の暴君」輪田 アキ子をKOし、「肉体こそ真の凶器」を
モットーに軍団結成を表明した。
そして現在は正式デビューを目指し、仕事の合間を見てはそれぞれにトレーニングを行なっているのであった。
そして今日は三人のオフ日が一致した為、集まってトレーニングした後、今後の軍団運営について話し合っていた。
まず出た結論は、軍団員を増やして最低5人とすること。それに軍団名を決める事であった。
ネットの所謂「画像掲示板」を見ながら、メンバー候補を選ぶ三人の目にまず一人のアイドルが止まった。
多喜沢 乃南であった。
乃南は18歳で公称サイズは155cm B95-W59-H83。デビュー当時からフックラした印象であったが、最近急激に体型を
変化させており、その結果従来のファンの何割かは去ったものの、それ以上の新たなファンが生まれていた。
しかし早織達同様、ファン達の中にも公称サイズをそのまま信じている者は誰もいない。
明日香「あと、一人は入れたいわね。」
早織「でも、誰でもいいって訳じゃないからね。さっきも言ったけど、私達みたいにフレッシュで可愛いことが
   絶対条件よ。」
綾乃「その点でも乃南ちゃんなら合格ね。」
明日香「そうそう、本当はこれに三津屋でも入れば完成だったんだけどね。」
早織「三津屋はダメ。あんなショッパイ試合してる様じゃね。いつか、潰してやるから。」
明日香「この子は、どうなの?夏芽 理緒。胸は凄いよね。」
早織「ウーン、でもキャラが少し違うのよね。それにちょっと顔がね。」
綾乃「私達みたいに可愛くないのよね。と言うか、ブ○。」
早織「はっきり、言わないの。ともかく候補にしてもいいけど、ちょっとね。」
明日香「大佐和 舞子ちゃんは?」
早織「もう、フレッシュって年じゃないんじゃない。」
綾乃「この子はどう。石河 エリ。」
早織「いい体型してたけど、今休業中らしいよ。ダイエットさせられてるって噂だし。」
明日香「ダイエットか。嫌な言葉だよね。痩せて人気が上がるとも限らないのにね。」
綾乃「そうそう、吉田 里美や井上 春美なんて、ダイエットして人気落ちたじゃない。
   何で、私等にもダイエットさせようとするんだろね。」
明日香「ホント、バカよね。この体型だから人気も有るし、リングでも活躍できるのにね。」
早織,綾乃「ねぇ〜」
明日香「それはともかく、じゃあこの子はどうかな。内多 さやか。」
早織「事務所とトラブル起こして、やめさせられたみたいよ。そういう子を入れるのは、ちょっと危険ね。」
明日香「なかなかいないものね。古向 美奈子なんかは?」
早織「もう落ち目よね。フレッシュさが無いよ。」
綾乃「朝娘。止めた、籠ちゃんは。」
早織「コンビで一人だけともいかないし、大体キャラが違い過ぎ。メンバーの芳沢 ひとみや緒川 麻琴もダメよ。」
明日香「華井 美里は?」
早織「150cmも無いんじゃ、小さすぎるよ。もう少し大きければ良かったんだけどね。」
明日香「この霧村 萌絵ってのは。」
早織「いいけど、流石に中学生じゃねぇ。スタイルだけ見てたら、とても見えないけどね。」
綾乃「じゃあ、この子。」
早織「えっ、これは良いんじゃない。プロフィール分かる?」
目に止まったのは原多 桜怜であった。
彼女は18歳で、サイズは158cm B97-W60-H88。今年の雑誌ミスコンでグランプリこそ逃したものの、その巨乳で
一部からはグランプリ受賞者を上回る評価を得ていた。
早織「よし、この子を当たってみようか。じゃあ、次は軍団名を決めよう。」
明日香「やっぱり、何とかレンジャーてのが格好いいよね。」
綾乃「そうね、ちゃんとした名前決めないと『デブレンジャー』とか言われそうだし。」
早織「自分で言わないの。」
明日香「肉体とパワーが売りだから『ボディレンジャー』とか『パワーレンジャー』かな?」
綾乃「私は『ビューティレンジャー』がいいな。」
明日香「そんなキャラじゃないでしょ。」
早織「その辺だとありふれてる気がするな。こちらも新鮮味が無いとね。」
綾乃「さっき見てたら、『クビレンジャー』てのが有ったから、それに対抗して「クビレナインジャー」とか?」
早織,明日香「………」
綾乃「そんな、睨まないでよ。じゃあ、『チチレンジャー』や『ハラレンジャー』は?
   あっ、『タルレンジャー』てのも良くない?」
明日香「………、あんた、本当にそれでいいの?」
綾乃「嫌かな、やっぱり。」
明日香「掲示板見てるとさ、私達の事を『たぷ』とか『てぷ』って表現している所が有るね。」
綾乃「『てぷ』よりは『たぷ』の方がいいな。何か可愛いし。」
早織「じゃあ、『タプレンジャー』にする?」
明日香「一応、仮決めという事で。」
綾乃「じゃあ、私もそれで了解。」
明日香「あと、大事な事なんだけど、最初の試合の相手は? いきなり、モリとやるの? それとも他の事務所?
    ホワイトキャブ?オスカル?それともスフィンクス?アーバンギャルでもいいよね。」
早織「それは地下プロに任せとけばいいんじゃないの?こちらは誰が相手でも叩き潰すだけよ。
   さあ、トレーニング再開しようか?」
綾乃「そうね、もう食べる物も無くなっちゃたしね。」
明日香「トレーニングでお腹空かせたら、焼肉でも食べに行こうね。」
綾乃「美味しい食べ放題の店なら知ってるよ。そこ、行こうよ。」
早織「はいはい、まずはトレーニングしてからよ。」
明日香,綾乃「はーい!」

さて、その新メンバーであるが、乃南は早織達が拍子抜けする程あっさりとOKした。
どうやら先日の噂を聞いて、乃南自身も軍団入りを希望していたらしい。
一方の桜怜はまだデビューして日が浅く、地下プロについても良く分かっていないことも有り、仮メンバーと
いう形で一応一緒のトレーニングは行なうが、正式の返事は後日に保留とした。
自分が他のメンバーのキャラと同一化される事への不安も有るらしい。

ともあれ五人が軍団としてのデビューを目指している所へ、対戦相手が向こうから飛び込んできた。

「あなたが、山元 早織さん?」
「そうだけど、あなたは?」
早織がトレーニングしているジムに一人の女性が訪ねてきた。
「私は久慈 麻理奈。以前モリ・エージェンシーにいた人間よ。」
麻理奈は現在21歳。現役時代のサイズは162cm B84-W58-H89であった。
かつて、チェッカー娘なるグループの一員として人気を得た事も有ったが、グループ解散後は今一つで、
話題作りの為プロレスのリングに上がったりもしたが、結局志し半ばでの引退を余儀なくされていた。
ともあれ、それを聞いて早織が怪訝そうな顔となる。
早織「元ホリの人が何の用が有るの?麻理奈さんって、確かプロレスのリングにも上がった人よね?」
麻理奈「そうよ、その通り。あなた達が輪田さんを襲ったと聞いて、許せなくなったの。モリの人間はみんな
    輪田さんには恩義が有るの。辞めた人間だって同じ。だから、仇を取らせて貰おうと思ってね。
    何なら、今ここで勝負しましょうか!」
早織「勝負なら望むところよ。でも、それならこんな所じゃなく、地下プロでやりましょうよ。
   私達は軍団だから、対抗戦にしましょう。あなたも後何人か連れてきてよ。私達のデビュー戦の
   相手にして上げるわ。」
麻理奈「輪田さんを襲ったのは3人だったわね。いいわ、後二人準備するから3対3にしましょう。」
早織「試合形式は、どうしようかね。バトルロイヤルや六人タッグじゃ、パッとしないしね。勝ち抜きだと、
   こちらが全員出れない可能性も有るしね。」
麻理奈「何ですって!どういうこと!?」
早織「一人で、勝負付けちゃうって事よ。シングル三試合が良いんだろね。」
麻理奈「でもそれじゃ完全決着にならないかもね。どう、それで勝った者同志が更に闘うってのは?」
早織「アタシ達が全勝するから、その部分は必要無いと思うけどね。いいわよ、そうしましょう。」
麻理奈「口だけは達者みたいね。勝負はリングの上よ。」
早織「当然!」
激しく睨み合った後、その場は引き下がって行く麻理奈であった。

早織はその話を早速明日香と綾乃に伝えた。
「私達と闘おうなんてとんでもない奴等ね。輪田さんの仇とか言ってたけど、地下プロでいい所を見せて、自分が
 カムバックしたいのが本当の狙いなんじゃないのかな。まあ、どっちでもいいわ。とにかく腕試しに叩き潰して
 完全に引退させて上げましょ。」
更にトレーニングに力を入れる三人であった。

一方の麻理奈は、まず良川 茉絵に連絡を取り了解を得た。
茉絵は現在23歳。現役時代のサイズは157cm B80-W58-H80であった。
彼女も元モリ・エのタレントであり、麻理奈とは「くじよし」なるユニット名で一緒に活動していた事もある。
ロリータっぽい雰囲気で一部からは人気を得ていたが、結局は麻理奈とほぼ同時期に引退に追込まれていたのであった。
もう一人として麻理奈は、かつて一緒にプロレスのリングに上がった仁志田 夏も考えていたのだが、現在結婚して
子供が生まれたばかりの彼女ではファイトは不可能であった。
そこで夏からの推薦も有り、目を付けたのがモリ・プロの現役タレントである藤元 綾であった。
綾は現在21歳。サイズは161cm B87-W60-H88。
かつてのスカウトツアー優勝者であり、エキゾチックな顔立ちとダイナミックボディで順風満帆のタレント生活を
送っていたが、デビュー前の彼氏とのスクープ写真が写真雑誌に掲載されてしまい、何とか引退は免れたものの
所謂ホサれた状態が続いていた。
特に最近、同時デビューの彩瀬 はるかがドラマの主演に抜擢され好評であったことには大いに焦りを感じており、
麻理奈の誘いに飛付いた形となった。
そして三人もまたトレーニングを開始した。

「タプレンジャー」こと早織達のトレーニングは、レスリングというよりは体力作りとウェイトトレーニングが
中心であった。
更なるパワーアップをして体力で圧倒しようという作戦であり、モットーの「肉体こそ真の凶器」を地下プロ
関係者に見せ付けるつもりであった。
それでも受身だけは練習しており、後はプロレス試合のビデオを見て技の研究をしていたが、これが役に立つか
どうかは疑問であった。
更に彼女達はサブキャッチフレーズも言うべき物も考えた。
それは
「タプレンジャーは逃げない」
「タプレンジャーは諦めない」
「タプレンジャーは負けない」
と、いう物であった。

一方モリ側はプロレス経験者である麻理奈をコーチとしてトレーニングを積んでいたが、経験の殆ど無い二人の
成長は芳しくなく、麻理奈は焦りを感じ始めていた。
"このままじゃ勝つのは無理だわ… 何かいい手を考えないと…?
「肉体こそ真の凶器」か。あいつ等、上手い事言うわね… エッ、凶器………!"
魔の誘いが麻理奈に訪れた。
「茉絵ちゃん,綾ちゃん、ちょっと来て。話が有る。」
トレーニングを休止して寄って来た二人に、思い付いたアイデアを話す麻理奈。
茉絵と綾はその話を聞いて戸惑った。
が、彼女達に取ってもこの試合はまさに背水の陣であり、結局はそのアイデアを採用することとなった。

それぞれの思いが交錯し、そして激突する試合当日を迎えた。

「タプレンジャー」の控え室では、彼女達が水着の色で騒いでいた。
早織「さあ、準備したわよ、ユニフォーム。赤,青,黄,緑にピンクのスポーツビキニとガウンよ。
   なかなか可愛いでしょ。で、どの色が着たい?」
明日香「赤はリーダーの色よね。だったら、やっぱり早織ちゃんが赤でいいんじゃない。」
乃南「異議無し。綾乃ちゃんは?」
綾乃「私も異議は無いわ。で、私は可愛いからピンクがいいな。」
明日香,乃南「何、それ!」
早織「ピンクは、名前から言っても桜怜ちゃんがいいんじゃない。綾乃ちゃんは他の色にしなよ。」
綾乃「エーーー! 私、ピンクじゃないなら何でもいいよ。」
明日香「そう、じゃあ私は黄色にしようかな。」
乃南「じゃあ、私は青にしようっと。そうすると、綾乃ちゃんは緑ね。」
綾乃「でも、緑も可愛いよね。OK、それでいいや。」
早織「よし、決まった。じゃあ、着替えようか。乃南ちゃんと桜怜ちゃんも着替えてセコンドに付いてね。」
乃南「OK」
しかし、ここまで黙っていた桜怜は返事もせず、水着も手に取ろうとしなかった。
明日香「どうしたの、桜怜ちゃん?」
桜怜「私、まだ決心がついてないの。今日の試合は観客として見させて。それで入るかどうか決める。」
早織「いいよ、それで。でも、試合は最後までしっかり見てね。」
桜怜「分かった。」
明るい笑顔と共に着替えるメンバーからは、今日の試合に対する不安は一欠けらも覗えなかった。

一方の控え室の三人は、重い表情で最後の話し合いを行なっていた。
その表情にはアイドルらしい華やかさは全く無かった。
そして、最後に麻理奈が二人に言った。
「あいつ等は輪田さんや私達を踏み台にするつもりかもしれないけど、そうは行かないからね。
 私達こそがあいつ等を踏み台にしてやる。そして、またスポットライトを浴びるのよ!」
厳しい顔で頷く、茉絵と綾であった。

まずリングに水着と同じ色のガウンを羽織った早織,明日香,綾乃に乃南を加えた四人が上がり、途中まで
着いて来た桜怜は観客席の最前列に座った。
赤いガウンの早織がマイクを取る。
早織「我々はここに『タプレンジャー』を結成しました。皆さん、宜しくお願いします。」
観客からは声援よりも、その名前に対する笑い声が起こった。
早織「タプレンジャーは」
三人「逃げない!」
早織「タプレンジャーは」
三人「諦めない!」
早織「タプレンジャーは」
三人「負けない!」
早織「肉体こそは」
三人「真の凶器!」
セリフに合わせて四人がガウンを脱ぎ去り、ポーズを決めた。
ここでも観客からは、声援よりもそのポーズと更にはスポーツビキニの間から覗くお腹に対する失笑と、先日の
乱入に対するブーイングが起こっていた。
それを聞いて、メンバー入りに疑問と不安を持つ桜怜。
一方早織は、この笑いとブーイングは予想していた。
"笑いたければ笑うがいい、ブーイングしたければするがいい。試合後はそれを総て歓声に変えてやる!"
乃南がリング下へ去り、試合に出場する三人がリング上に残った。

一方の花道からはモリ側の三人が登場し、リング上に上がる。
三人はお揃いの黒のワンピース水着であった。
観客から判官贔屓とも思える歓声が上がった。

リングに上がった麻理奈がマイクを取った。
「あんた達、『タプレンジャー』って言うの?ふざけた名前ね。素直に『デブレンジャー』にすれば
 良かったんじゃんないの?」
観客から笑い声と拍手が起きる。
麻理奈は更に続けた。
「『肉体こそは真の凶器』とか言ってわね?じゃあ、アタシ達が本物の凶器を使う事を当然認めるわよね?
 それで五分よね。どう、これで?」
麻理奈が思い付いたアイデアはこれであった。
観客からもどよめきが上がる。
「さあ、どうなの!早く、返事しなさいよ!」
叫ぶ麻理奈に、早織が答えた。
「勿論、OKよ。何でも使えばいいわ。でも、『タプレンジャー』は負けない。叩き潰してやる!
 『肉体こそ、真の凶器』を証明して上げる!」

これにより、凶器OKのデスマッチがスタートする事となった。
明日香と綾乃の顔からも流石に余裕は消えた。

アナウンスが流れた。
「3対3、変則勝抜き戦を行ないます。シングル3試合を闘った後、勝ち残った選手同志が戦い、全員が
 失格したチームの負けとなります。先程の提案により凶器使用は自由ですが、選手以外の乱入は反則と
 なります。勝負の決着は通常のプロレスルールに準じますが、場外カウントアウトは有りません。
 第一試合、芳川 綾乃対久慈 麻理奈。」

"カーン"
二人がリング上に残り、試合開始のゴングが鳴った。
モリ側は未経験の二人に試合を見せる為に、敢えてエースである麻理奈が先発したのであった。
また、自分が勝ち残った際の連戦を避ける狙いでもあった。
まずはリング中央でガッチリ組合う二人。
"つっ、強い! こいつ、本物のレスラーよりパワーが有る。"
肌を触れ合って、実感した綾乃のパワーに驚く麻理奈。
一方の綾乃は余裕を持ってコーナーへ麻理奈を押込む。
"ドーーーン!"
コーナーへ叩き付けられた麻理奈に綾乃がキックを浴びせ掛け、更に首筋を踏み付けて体重を掛ける。
ロープブレイクで分かれた二人であるが、麻理奈の首筋にははっきりと足跡が付いていた。
「流石にデブだけ有って、効くわね!」
「デブって言うなー!」
叫ぶ麻理奈に、怒った綾乃が突っ込む。
綾乃の突進を上手く交した麻理奈がバックを取り、腕を極めながらテークダウンし、そのまま腕を取ると、
左腕をキーロックに極める。
足の力で綾乃の腕を絞り上げる麻理奈であったが、綾乃は自らの両腕をフックすると腕を極められたまま
立ち上がった。
勿論、左腕には麻理奈が乗ったままである。
その恐るべきパワーに麻理奈は驚き、観客からは拍手が起こる。
綾乃はそのままコーナーまで移動すると、コーナーポストの上に麻理奈を座らせた。
そして左腕を抜くと、ボディへパンチへ叩き込む。
麻理奈は場外へ転落しない様、身体を支えるのが精一杯である。
ロープブレイクで綾乃が離れ、何とかポストから降りた麻理奈は場外へエスケープした。
場外で一回大きく深呼吸をした麻理奈がリング内に戻る。
再び正対する二人。
組み合おうとした綾乃であったが、一歩踏込んだ麻理奈がその胸元にドロップキックを叩き込んだ。
が、足を踏ん張った綾乃は倒れない。
素早く立ち上がった麻理奈は自らロープへ飛ぶと、右腕でラリアットを綾乃の首筋へ打込む。
しかし、これでも綾乃は倒れない。
再度ロープへ飛び、もう一発ラリアットを狙った麻理奈に綾乃のカウンターキックが炸裂した。
ダウンした麻理奈に飛び掛ろうとする綾乃。
麻理奈はリング上を必死に転がり、再度場外へエスケープする。
今度は場外まで追った綾乃であったが、麻理奈が入れ替わる様に素早くリング内へ戻る。
「デブはやっぱりのろいわね。」
口で挑発する麻理奈に対し、怒りを顕わにした綾乃がリングへ戻る。
このチャンスを待っていた麻理奈はキックを綾乃に浴びせ、更に腕を取るとコーナーへ振ろうとする。
しかし、綾乃が上手く体を入替え、麻理奈の方が逆にコーナーへ叩き付けられた。
"ドーーン!"
そして、麻理奈が態勢を整える前に綾乃の大きなヒップが飛んできた。
"ドーーーーーン!"
リングが揺れ、ヒッププッシュを食った麻理奈の息が止まる。
コーナーの麻理奈に対し、更に綾乃がヒッププッシュを連発する。
ロープブレイクで何とか攻撃から逃げる事が出来た麻理奈は、またも場外へエスケープする。
リング内の綾乃は今度は追わずに、リング中央で四方の観客に対し、手を上げてアピールする。
とは言え、まだ歓声よりはブーイングが多いのではあったが。
その間に麻理奈は自コーナーへ戻ると、リング下から何かを取出した。
リングに戻った麻理奈の手に握られていた物はヌンチャクであった。
試合開始直後に控え室へ戻った綾が持って来ていた物であった。
ヌンチャクの片側を持ち、振回しながら麻理奈が叫ぶ。
「さあ、掛かってらっしゃい。本当の凶器と勝負しましょうよ。肉体凶器さんとやら。」
振回されるヌンチャクの樫の棒に流石の綾乃も飛込むことが出来ず、今度は逆にどんどんコーナーに
追い詰められていた。
「くそーーー!」
覚悟を決めた綾乃が両腕で頭をカバーして、麻理奈へ突っ込んで行った。
それを横へのステップで交した麻理奈は、ヌンチャクの一撃を綾乃の太ももへ後ろから叩き込んだ。
"バシーーーーン!"
大きな音と共に綾乃がダウンする。
ダウンした綾乃に対し、麻理奈のヌンチャクがうなりを上げ背中から腰,更に両太ももとまさに滅多打ちにする。
声にならぬ悲鳴を上げる綾乃の動きが徐々に鈍くなった。
一旦コーナーへ戻る麻理奈。
「ワン、ツー、スリー…」
レフリーのKOカウントが開始される。
10カウント直前に必死の形相で綾乃が立ち上がった。
「そのまま寝てればいいのに、何で立ちあがるの?もっと痛い目に合うだけよ。」
今度は余裕の表情でヌンチャクを振り回しながら近付いた麻理奈は綾乃との距離を測ると、再度太ももの裏側へ
ヌンチャクを叩きつけた。
「アウッ!」
それでも前進しようとする綾乃の、今度は自慢のバストへ一撃を入れる。
「グッ!」
女の急所に強烈な衝撃を浴び、表情を歪める綾乃だが前進は止めなかった。何とか麻理奈との距離を縮め、
その身体を捕らえようとする。
しかし、それは麻理奈が許さなかった。
更にボディに一撃を入れると、思わず前屈みになる綾乃の脳天にトドメとばかりの一撃を叩き込む。
"ガツーーーーン!"
激しい打撃音が会場に響き、綾乃が前のめりにダウンした。
「ワン、ツー、スリー…」
再び、レフリーのKOカウントが開始された。
ニュートラルコーナーで観客に手を振り、余裕の表情を見せる麻理奈。
しかし、その表情が凍り付いた。
何と、10カウント寸前に綾乃がまたしても立ち上がって来た。
足元がふら付き、目線も定まらぬ綾乃であったが、麻理奈の姿を認めるとそちらへゆっくりと近付いてきた。
「ゾンビか、こいつは。」つぶやく、麻理奈。
"タプレンジャーは、逃げない"
"タプレンジャーは、あ・き・ら・め・な・い…"
しかし、一二歩進んだ所で綾乃は再び転がる様にうつぶせに倒れこんだ。
"タプレンジャーは、ま… け…"
それでも顔を上げ、麻理奈のいる方向へ手を伸ばそうとする綾乃。
「よーし、それならとことんやってやる。死ねー!」
麻理奈はうつぶせになった綾乃の背中に乗ると、ヌンチャクの鎖部分を綾乃の首に掛けて両端の棒を両手で
引っ張り上げ、綾乃を首吊り状態にした。
まさに死へのキャメルクラッチである。
暫らくはもがいていた綾乃であったが、その動きが止まった。
"カーン"
これ以上は危険と見たレフリーがゴングを要請した。
レフリーの制止を無視して尚も締め上げる麻理奈に、次の試合に登場する明日香が襲い掛かろうとした。
「あんたの相手は私よ!」
しかし、それを横から正規の試合相手である綾が邪魔する。
アナウンスが入った。
「第一試合はレフリーストップにより久慈 麻理奈選手の勝利となりました。
 引続き第二試合、塁家 明日香対藤元 綾を行ないます。」
麻理奈はレフリーや黒服により綾乃から引き離され、リング下へ降りていた。
一方、完全に失神状態となっていた綾乃は、そのまま担架で医務室へ運ばれていった。

リング上では、明日香の側面から襲い掛かった綾が、明日香のボディにキックを連発する。
しかし、明日香もパンチを綾の顔面に入れ態勢を立て直すと、身体を浴びせる様にしてコーナーへ押し込む。
"ドーーーン!"
コーナーで明日香を上にして重ね餅状態となる二人。
上になった明日香は、必死にガードする綾の顔面からボディにパンチを叩き込む。
綾乃がやられたのを見た明日香は異常な興奮状態となっており、明らかに目がイッてしまっていた。
ロープブレイクという事で止めに入るレフリーも無視して攻撃を続ける明日香に、早織が不安となった。
「明日香ちゃん、落着いて! 反則負けになるよ!」
近くまで来て叫ぶ早織の声に、ようやく我に返る明日香。
明日香は綾を立たせるとボディにパンチを入れ、その身体を重量挙げの様に高々と持ち上げた。
そして、観客にそのパワーをアピールしてからリング中央に叩き付ける。
更に明日香はロープへ飛ぶと、全体重を掛けたヒップドロップを狙った。
"ドスーーーーン!"
激しい音と共にリングが揺れたが、そこに綾はいなかった。
これを食ったら終わりと、何とか転がって逃げたのであった。
「クソー、このデブ!」
自爆でお尻を押さえる明日香に襲い掛かる綾。
ケンカキックで明日香をダウンさせると上に乗り、さっきのお返しとばかりにパンチを打ち込む。
しかし、明日香がその手を取ると、上手く体を入れ替えた。
逆に上になった明日香は右手で綾の頭を鷲掴みにした。
更に左手も添える。アイアンクローである。
「綾乃ちゃんのカタキーーー!」
叫びながら、手に力を込める明日香。
下になり、頭痛を堪えながら必死にもがく綾は奇想天外な反撃に出た。
明日香のバストを鷲掴みにするバストクローであった。
その痛みに一瞬力が緩む明日香。
更に綾は明日香の股間を膝で蹴り上げた。
「グウッ!」
この一撃で流石に明日香もたまらず股間を押さえ、態勢が崩れる。
その隙に、綾は転がる様に場外にエスケープする。
場外で呼吸を整える綾に麻理奈が近付き、何かを手渡した。
綾はそれをリングシューズに隠し持つと、頭を押さえながらリング上に戻る。
リング上でダメージから回復して待ち構える明日香は、その存在に気付いていなかった。
ゆっくりと近付いた明日香が組み合おうとした時、綾がシューズからその何かを取出し、ボディを一撃した。
「グゥッ!」
予期せぬ強烈な一撃に明日香の身体が折れる。
お腹を押さえる明日香の喉元に綾の次の一撃が炸裂した。
この一撃でダウンする明日香。
綾の手元にある物はフォークであった。
その柄の部分で明日香の額をメッタ打ちした綾は、フォークをシューズにしまうとギロチンチョークを狙った。
腕を明日香の首筋に差込むと体重を掛ける。
しかし明日香はその腕を取り、下から押し返す。
力比べとなったが、ここは明日香に分が有った。
力づくで身体を入れ返ると、再びアイアンクローを狙う。
頭蓋骨を再度鷲掴みにされた綾であったが、何とかシューズからフォークを取出すと明日香の胸元を一撃した。
しかも、それは尖った方での一撃で有った!
「ギャーーーーー!」
大声で悲鳴を上げた明日香が飛びのいた。
傷口を押さえた右手が、そして黄色い水着の左胸の部分が赤く染まっていた。
自らの血を見た明日香の目は怒りに燃えていた。
傷口を押さえる事も無く、鬼の形相で綾に襲い掛かろうとする明日香。
その明日香の形相を見た綾はパニック状態となった。
「キャーーーー!」
叫びながら、明日香のボディにタックルする綾。
この突発的な攻撃に不意を突かれた明日香がダウンした。
上になった綾は明日香の額をフォークの今度は尖った方で突き刺した。
「アーーー」
明日香の悲鳴が会場に響き渡る。
"ガツン!ガツン!"
自らの恐怖心を振り払う為かの様に、何度もその額にフォークを突き刺す綾。
その度に明日香の額から鮮血が流れ落ちる。そして、明日香の動きが徐々に鈍くなってきた。
何かに取り付かれた様にフォークを振り下ろす綾の眼もまた常軌を逸していた。
「綾ちゃん!落着いて!綾ちゃん!」
叫んだのは麻理奈であった。
流石の麻理奈もまさか、ここまでの流血は予想していなかった模様である。
そして、その声に我に返った綾が見た物は顔面を大量の血で染め、全く動かない明日香の姿であった。
"ど、どうすれば、いいの? とにかくフォールしなきゃ"
明日香に覆い被さる綾。
レフリーのカウントが入る。
「ワン、ツー、スリ…」
何とスリー寸前、意識が有るかも分からぬ明日香が肩をわずかに上げた。
"決めなきゃ"
立上がった綾はロープへ飛び、ボディプレスを狙った。
ジャンプして、明日香に覆い被さろうとする綾。しかし、寸前明日香が膝を立てた。
「グッ…」
綾のボディに食込む明日香の膝。
お腹を押さえる綾の傍らで明日香がゆっくりと身体を起こした。
額から流れ出る血がその黄色かった水着を赤く染めて行く。
その姿を見た観客は息を飲み、静まり返った。
"タプレンジャーは、負けない…"
血が入って見難い目を辛うじて見開いた明日香は、お腹を押さえる綾の上にヒップを落とした。
"ドーーーン!"
今回は命中した。リングが揺れ、綾の動きが止まる。
"タプレンジャーは、ア・キ・ラ…"
とどめの攻撃を加えるべく再度立上がろうとした明日香であったが、大量の出血による貧血でふらつき、崩れ落ちた。
だが、その倒れた明日香の膝がちょうど綾の顔面を直撃した。
"ガツーーン!  ドーン!"
更に偶然、ちょうどフォールする形で明日香が綾の上に乗った。
レフリーのカウントが入る。
「ワン、ツー、スリー!」

"カーン"
ゴングが打ち鳴らされ、アナウンスが入る。
「第二試合はフォールにより塁家 明日香選手の勝利となりました。
 引続き第三試合、山元 早織対良川 茉絵を行ないます。」

フォール勝ちした明日香であったが、出血多量で意識を失っており、リング上での応急処置の後、こちらも
失神状態の綾と共に担架で医務室へ運ばれて行った。
心配した乃南も医務室へ付き添う。

そしてリング上には早織と茉絵が上がった。

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