『タプレンジャーvs.朝娘。−6』

ここでついに、残り人数でタプレンジャー側が3対2と初めてリードした。
しかし、タプレンジャーも早織,桜怜が共に流血して大きなダメージを受けており、余裕は全く無かった。
勝利の為には、ここで綾乃が勝つ事が重要となってくる。
しかし余裕の無さは、朝娘。側の方がより深刻であった。
もしここでひとみが負ければ、残りはあさ美一人である。
いかに前の試合で意外な実力を見せ付けたあさ美とは言え、流石にタプレンジャー3人が相手では厳し過ぎる。
ここでのひとみの敗戦は、殆どチームの敗戦を意味するのである。
共にこの試合が持つ意味を分かっているだけに、凄まじい気合いをぶつけ合っていた。
無論前の試合で、綾乃が麻琴をまるで遊び半分の様に痛めつけた事に対するひとみの怒りもあった。
レフリーによる注意の間も、両者の睨み合いはずっと続いていた。

「第十一試合、芳川 綾乃対芳澤 ひとみを行ないます。」
"カーン"
ゴングを待ち切れない、とばかりにリング中央でガッチリと組合う二人。
162cmの綾乃に対して、163cmのひとみと身長はほぼ同じ。
横幅では綾乃が上回っていたが、体格的は殆ど互角と思えた。
が、パワーでは流石に綾乃が上回る。
グイグイとコーナーへ押し込むと、コーナーに叩き付けたひとみの顔面に張り手を入れる。
"パシーン!"
が、ひとみも目線を逸らさない。
もう一発張り手を狙った綾乃の手をガードすると、逆に張り返す。
"パシーン!"
綾乃も一歩も引かず張り手を返す。
"パシーン!"
"パシーン!"
"パシーン!"
両者がまさに意地の張り合いとばかりに、ノーガードで相手の顔面を張り合う。
観客のボルテージが上がる中、ひとみのキックが綾乃のボディを捕える。
「グウッ!」
一歩後退する綾乃に、もう一発キックが決まる。
"バシッ!"
リングのほぼ中央まで戻され片膝を付いた綾乃に、今度は助走を付けたひとみのケンカキックが炸裂した。
"ガツーーン!"
ダウンした綾乃にひとみが襲い掛かる。
しかし、綾乃も下から手を伸ばすと、ひとみの顔面を掻きむしる。
「キャーー!」
これには悲鳴を上げて逃げるひとみ。
素早く立ち上がった綾乃が、今度はひとみの背中からキックを浴びせ掛ける。
うつ伏せにダウンしたひとみの背中に飛び乗った綾乃がスリーパーを狙うが、ひとみも暴れ回ってそれを許さない。
ならばと立ち上がった綾乃が、ひとみの背中に再度キックを連発する。
転がる様にリング下へエスケープするひとみ。
リング下まで追おうとした綾乃であったが、素早く立ち上がったひとみの視線が自分を鋭く捕えているのを見て、
ここは自重した。
ゆっくりとリングに上がったひとみに綾乃が襲い掛かったが、ひとみが低い姿勢からのパンチを綾乃のボディに
叩き込み、思わず前のめりになる綾乃の首を捕らえると、ネックブリーカードロップで綾乃をリングに叩き付ける。
綾乃の上に乗ったひとみは顔面パンチを狙うが、綾乃もこれは上手くガードする。
パンチを諦めたひとみは腕を綾乃の顔面に押し付け、体重を掛ける。
しかしここで綾乃が上手くブリッジの態勢を取り、ひとみを身体の上から跳ね除ける。
顔面を押さえながら立ち上がった綾乃にひとみが襲い掛かり、腕を取るとコーナーへ叩き付けようとしたが、綾乃が
体を入れ替え、逆にひとみがコーナーに叩き付けられた。
"ドスーン!"
コーナーに寄り掛かる形になったひとみに綾乃のヒップが飛んできた。
"ドォーーン!"
このヒップアタックでダウンしたひとみの上に、更に綾乃のヒップが落とされた。
「グエッ!」
自分の体重が充分に武器になる事を理解している綾乃の攻撃にダメージを受けるひとみ。
レフリーのロープ・ブレイクで一旦離れた綾乃が、今度はひとみの顔面を踏み付ける。
再度ロープ・ブレイクとなったが、この攻撃に先ほどの麻琴の試合を思い出したひとみの怒りが爆発した。
すばやく立ち上がって綾乃のボディにタックルを決めてダウンさせると、再度顔面パンチを狙う。
ついにガードをかいくぐって、綾乃の顔面にひとみのパンチが決まった。
"ガツーン!"
"ガツーン!"
「ウワーーー!」
大声で気合いを入れた綾乃は、力ずくでひとみを払い落とすと立ち上がり自らもひとみの顔面にパンチを狙った。
ひとみも同時にパンチを返す。
"ガツーン!"
お互いのパンチが顔面に入り両者がダウンするが、レフリーのカウントもそこそこに二人とも立ち上がる。
綾乃がひとみにヘッドバットを叩き込んだ。
"ゴツーン!"
今度はお返しとばかりに、ひとみが綾乃にヘッドバットを叩き込む。
"ゴツーン!"
両者共ふらつきながらも、ダウンはしない。
試合前には、綾乃は乃南から、ひとみは真里からと、それぞれ闘った者からのアドバイスを聞いていたのだが、
それは二人の頭からはすっかり消え、ほとんど闘争本能だけによるケンカに近い闘いとなってきていた。
暫く睨み合った二人はお互いが勢いを付けて、三発目のヘッドバットをぶつけ合った。
二人の意地と額が激突した。
"ゴツーン!"
更に大きな鈍い音がして、両者がその場に崩れ落ちた。
レフリーのKOカウントが始まったが、観客とセコンド達の応援の中、ナインまでに二人とも立上がった。
しかし、この頃には二人ともに肉体的ダメージに加え、疲労の色が明らかになってきていた。
綾乃は真里,麻琴に続く三試合目。ひとみも乃南との死闘に続く試合である。
気力と闘志でカバーしてきたとはいえ、徐々に身体が言う事を聞かなくなってきていた。
お互いにフラツキながらパンチを打ち合うが、力が入りきらず決定打とはならない。
「クソー!」
綾乃が態勢を低くして、ひとみのボディにタックルを入れ倒そうとする。
ここは何とか堪えたひとみが、綾乃のボディに膝を叩き込む。
"ドスッ!"
"ドスッ!"
しかし、綾乃もダウンせずひとみを押し込みコーナーへ叩き付ける。
"ドーン!"
そして、今度は綾乃の膝がひとみのボディに打ち込まれる。
"ドスッ!"
"ドスッ!"
更に水平チョップがひとみの喉元へ叩き込まれる。
"ピシーン!"
たまらずダウンするひとみ。
綾乃がその大きなヒップを、またしてもひとみのボディに落とした。
「グエッ!」
苦しそうにえづくひとみ。
そのままフォールを狙う綾乃であったが、ロープが近くブレイクとなる。
「クソッ!」
ひとみの髪の毛を掴んでひきずり起こした綾乃は前方から首を極めると、DDTでひとみを叩きつけた。
リング中央で大の字となるひとみ。
「ヨーシ!決めてやる!」
荒い息をしながらも立上がった綾乃は自らロープへ飛ぶと、その勢いを付けてフライング・ボディ・プレスを
狙った。
「よっすぃ〜!」
朝娘。からの悲鳴が上がる中、ひとみに覆い被さった綾乃であったが、そこにはひとみが立てた膝が待っていた。
「グプッ!」
お腹を押さえてダウンする綾乃。
ひとみも力を振り絞って立上がると、綾乃を引き起こし必殺STYの態勢に入る。
左腕で綾乃の右腕を抱え込むと、ラリアットと大外刈りを狙う。
「あっちん!それ食っちゃダメーー!」
今度はタプレンジャー、乃南の悲鳴が上がる。
それに気付いた綾乃が、一瞬早く左のエルボーをひとみのボディに入れる。
それによりSTYの態勢が崩れた。
しかし、ここが勝負所と見たひとみは再度STYを狙う。
同じ様にひとみのボディにエルボーを入れて逃げる綾乃。
ひとみは今度は逆方向から技を狙った。
綾乃の左腕を右腕で抱え込むと、左でラリアットを打ちながら大外刈りに入る。
意表を付かれた綾乃はこれを食ってしまった。
"バシーン!"
不慣れな逆方向で、技は不完全ながらもマットに叩き付けられる綾乃。
「ハァ、ハァ…」
一旦呼吸を整えたひとみは綾乃を引き起こすと、今度は本来の方向からのSTYを決めた。
"ドカーーン!"
殆ど受身の取れない状態でマットに叩き付けられた綾乃に、ひとみが覆い被さる。
「よっすぃ〜!」
「あっちーん!」
両陣営からの悲鳴の様な声が掛かる中、レフリーがカウントする。
「ワン、ツー、スリー」

"カーン"
「只今の試合は、フォールで芳澤 ひとみ選手が勝ちました。続いての選手、リングに上がって下さい。」

ゴングと共に、控え選手やセコンドがリング内に飛込む。
完全に失神した綾乃は、そのまま担架に乗せられて医務室へ連れて行かれた。
それを乃南や、額に包帯を巻いて戻って来た桜怜が厳しい表情で見送る。
一方のひとみも力を使い果たしたか、自力ではリングを降りる事が出来ず、圭織,梨華の肩を借りて降りて行った。
リング下で横になったひとみに、真里やさゆみ、更には戻ってきたばかりの絵里も加わり次の試合に備えて何とか
回復させようと、汗を拭いたりマッサージを行なったりする。

そしてリング上には早織とあさ美が上がった。

またまた2対2と同人数となり、ここで負けた方が王手を掛けられる事となる。
ひとみの状況からすれば、ここで早織が勝てばタプレンジャー側が非常に有利になるのは確実であったが、肝心の
早織が過去二試合での予想以上の苦戦で大きなダメージを既に背負っていた。
一方のあさ美は、明日香戦での攻め疲れこそあれ殆どダメージを受けておらず、状況的には圧倒的に有利と思えた。
しかしながら、あさ美には若干の不安が有った。
前の試合で明日香を蹴りまくった両足、特にとどめを刺した右足の甲に若干の痛みを感じていたのであった。
"大丈夫ならいいんだけど… ちゃんと蹴らないと勝てないだろうしな…"

「第十二試合、山元 早織対紺埜 あさ美を行ないます。」
"カーン"

「キェーーーーー!」
前の試合と同様、気合いを入れ構えを取るあさ美。
一方の早織も、がっちりガードを固めると間合いを詰め、そのまま手を出さずに睨み合う。
一向に手を出してこない早織に戸惑いを見せるあさ美。
早織は先の明日香の試合を見て、作戦を考えていた。
その試合では明日香が先に手を出しても交わされ、或いはガードされてダメージを与える事が出来ず、逆にその隙を
突かれ打撃を受けていた。
あさ美のスタイルを基本的にカウンターファイトと見て取った早織は、先に手を出す愚を避けたのであった。
一方のあさ美もこうなると動けない。
前のれいな,愛との試合で彼女達に一方的に攻め込まれながら、たった一発のキック,掌底で逆転した早織の姿は
目に焼き付いている。
いかに肉を切っても、その代償に骨を断たれる訳には行かなかった。
ジリジリとした緊張感に溢れる睨み合いが続いた。
最初は静かに見守っていた観客達であったが、動きの無さに徐々に苛立ちブーイングを送り始めた。
しかし、状況に変化は無い。
更にブーイングが激しくなり、レフリーもファイトを命じた。
「ファイト!」
それが切っ掛けの様に、まずあさ美が先に動いた。
上半身のガードを固める早織に対して、左右のローキックを打ち込む。
"ピシッ!"
"ピシッ!"
小気味の良い音が会場に響くが、早織もそれを合図の様に前進しあさ美に圧力を掛ける。
観客達のブーイングが声援に変わったが、あさ美への声援が圧倒していた。
前進しながら左右の掌底をジャブの様に突き出す早織。
あさ美はそれを上半身の動きで交わしながら、コーナーへ追い込まれないよう横へ回り込む。
追い込もうとする早織に対し、回り込みながらのあさ美のローキックが的確にヒットする。
あさ美の右足もどうやら大丈夫な様であり、快調にキックを打ち込んでいた。
その状態が続いている内に、徐々に早織の動きが悪くなってきた。
前二戦で蓄積されていたダメージにあさ美のローキックが加わり、両足が悲鳴を上げ始めていたのだ。
動き回るあさ美を全く捕らえる事が出来ず、一方的にキックを貰う様になってきた。
"このままじゃ、ダメだ…"
この状況をまずいと感じた早織は最後の手段を取った。
自らリング上に仰向けに寝ると、足をあさ美の方向に向けた。
ちょうどアントニオ・猪木がモハメド・アリと闘った時に取った戦法と同じであるが、狙いは違っていた。
とにかくグラウンドへ引き摺り込み、体力で圧倒したかったのである。
ここまでは優位に試合を進めていたあさ美であったが、こうなっては迂闊に飛び込めない。
再び、睨み合いの状況となってしまった。
「レフリー、それはダウンじゃないのか!」
圭織がリング下から叫ぶが、早織がファイトの姿勢を見せている為、ダウン扱いとはならなかった。
レフリーのファイトの声に、今回もあさ美が先に動いた。
素早く横方向へ回り込むと、ボディから太ももへ掛けてキックを叩き込む。
早織は下からキックを狙いながら、何とかあさ美の蹴り足を捕まえようとする。
その時、異変が起こった。
「アッ、ツッ!」
あさ美の右足のキックがちょうど早織の腰骨を蹴った瞬間、あさ美の表情が苦痛に歪み、動きが止まった。
早織はその瞬間を逃がさず、立上がるとあさ美に襲い掛かる。
右左とパンチを振るうが、ここはあさ美も必死に避けると転がる様に場外へエスケープする。
追いたい早織であったが、両足のダメージが大きく追うことは出来なかった。
リング内で赤く変色した両太ももをさすり、少しでもダメージを回復させようとする早織。
リング下のあさ美も暫く右足甲を押さえていたが、痛みは徐々に引いているようだった。
"大丈夫、これなら行ける"
自分でそう信じ込ませたあさ美がゆっくりとリングに戻ろうとしたが、エプロンに上がった所へ早織が
襲い掛かった。
突っ込んでくる早織に対してあさ美は反転して背を向ける。
そして、その回転する勢いで裏拳を早織の顔面に叩き付けた。
"バッキーン!"
この予想外の攻撃をカウンターで、しかもノーガードで顔面に食ってしまった早織はリング中央で大の字と
なってしまった。
しかし、あさ美もその反動で場外へ叩き落され、その拍子に後頭部をリング下の床に叩き付けてしまった。
リングの内外で共にダウン状態の早織とあさ美。
しかし、レフリーのカウントはルール上早織に対してのみ始まった。
「ワン、ツー、スリー…」
「サオー!起きてー!」
コーナーから叫ぶ乃南と桜怜に励まされるように、テンカウントぎりぎりで早織が立上がる。
一方のあさ美は場外でまだ立上がれずにいたが、それを見ても早織は追う事が出来ない。
再びその場に腰を下ろすと、脚をさすりながら呼吸を整える。
その早織の大きなダメージを感じさせる姿に不安を隠しきれない乃南と桜怜。
ようやく場外であさ美が頭を振りながら立上がった。
「こんこん、焦るなー!」
「あさ美ちゃん、少し休んでー!」
裕子や圭織の声に、リングインを慌てず場外を暫く歩いて呼吸を整えるあさ美であったが、その視線はずっと早織を
捕え続けていた。
あさ美がリングインした。
それを見た早織は、再びリング上に仰向けとなった。
素早い動きで早織の周囲を回りながらキックを浴びせるあさ美、下からのキックを狙う早織と、先程と同様の状況と
なった。
このままではラチが明かないと感じたあさ美が勝負に出た。
右足で軽くキックした直後に足が痛むフリをして、早織に誘いを掛けたのだった。
一瞬動きが止まったあさ美に対して、早織が立上がると襲い掛かる。
右,左とパンチを振るうが、それを余裕を持って交わしたあさ美は早織のボディ,更に胸元へとパンチを入れる。
"ドスーン!"
またしてもダウンする早織。
カウントエイトで立上がった早織に今度はあさ美が襲い掛かり、右左と今度はローキックを浴びせる。
しかし、ここであさ美にも油断が出来たか、早織の前蹴りが始めてあさ美に命中した。
"ドーン!"
これで尻餅をついたあさ美に、早織がゆっくりと近付く。
早織が捕まえようと右手を伸ばすが、その手を払ったあさ美がその状態のままパンチを早織の鼻先に入れた。
「ツッ!」
強いパンチでは無かったが、これにより止まっていた早織の鼻血がまた流れ落ちる。
これで早織の動きが止まったスキにあさ美が立上がった。
焦りからか、試合当初の先に手を出さない作戦を忘れた早織は、前蹴りで襲い掛かる。
が、これはあさ美のペースであった。
蹴りを見切ったあさ美は、早織の軸足にキックを入れると、バランスを崩した早織の鼻先に今度は完璧な
ストレートパンチを叩き込んだ。
"ガスーン!"
「ヨシッ!」
その手応えに勝利を確信し、その場で型を決めるあさ美。
観客から大きな歓声と拍手が起き、そしてその足元には早織が横たわっていた。
「ワン、ツー、スリー…」
レフリーのカウントが進む。
「サオー! サオー!」
乃南と桜怜の泣き叫ぶ様な声に、カウントテンぎりぎりで早織が立上がったが、その足元はふらつき、顔面は
再び激しく噴出した鼻血で赤く染まっていた。
しかし、唯一目だけはその鋭さを失っていなかった。
"何で、立ってくるの?"
明日香戦同様、その気迫に恐怖心を感じ押されそうになったあさ美であったが、リング上では非情に徹する覚悟は
決めていた。
"この人は愛ちゃんを酷い目に合わせたのよ。それを忘れちゃダメ!"
素早く飛び込むと、ローを一発入れ再度顔面に止めのストレートを狙う。
早織はこの一瞬を待っていた。
左掌でそれを受けると、必殺の右掌底であさ美のアゴを狙った。
が、あさ美もこの早織渾身の一撃を寸前交わした。
そして左ローを早織の太ももへ叩き込む。
これでバランスを崩して倒れそうになる早織の側頭部に、あさ美の右ハイキックが炸裂した。
"ピッシーーン!"
「ギャーーーーーーー!」
"ドッスーン!"
大きな悲鳴を上げたのは蹴られた早織ではなく、蹴ったあさ美であった。
「痛い!痛い!」
蹴った右足の甲を押さえ、泣き叫びながらリング上を転がりまわるあさ美。
一方の早織は悲鳴を上げることも無く、リング上に横たわっていた。
両者に対するKOカウントが始まった。
「ワン、ツー、スリー…」
「サオー!立ってー!」
「コンコン、とにかく立つんだー!」
コーナーから、そして観客から両者への声援が送られる。
痛みを堪え、大きな目から涙を流しながらあさ美がロープを掴んで立上がった。
一方の早織は目を閉じたまま、ピクリとも動かない。
「ナイン、テン!」

"カーン"
「只今の試合は、KOで紺埜 あさ美選手が勝ちました。続いての選手、リングに上がって下さい。」

両軍の控え選手,セコンド陣がリングに飛び込んできた。
「裕ちゃん!痛い!」
涙を流しながら、再び座り込んだあさ美のリングシューズが裕子たちによって脱がされたが、あさ美はその間も
痛さを堪える事が出来ない。
もうやく剥き出しになったあさ美の右足甲は変色し、大きく腫上がっていた。
どうやら、亀裂骨折していると思われた。
担架に腰掛けた状態で圭織と梨華に付き添われ、泣きながら医務室へ運び込まれるあさ美。
タプレンジャー二人を倒した代償はあまりにも大きかった。
それを見送るメンバー達の目にも涙が浮かんでいた。

一方の早織は乃南達の呼掛けにも全く意識を取り戻す事無く、黒服に担架に乗せられて運ばれて行った。
先日のモリ軍団との闘い,そして今日とどんなに攻められ、痛めつけられても最後は勝利を収めてきたリーダーの
無残な姿に、桜怜も乃南も言葉を失い、ただ呆然と去って行く担架を見送るしかなかった。
そんな中、再度選手の登場を促すアナウンスが流れ、それに応じて桜怜がリングに向かったが、その顔色は
真っ青であった。

inserted by FC2 system