『モニプロの逆襲−1』

タプレンジャーが朝娘。10人を相手に大死闘の末、勝利を勝ち取ってから2ヶ月余り、タプレンジャー達が
地下リングに戻って来ていた。
しかしその相手は、その時仲澤 裕子と約束した朝娘。卒業生最強メンバーでは無かった。

大会終了直後、その際に受けた傷を癒すべくトレーニングも休んでいたタプレッドこと山元 早織の元に一通の
手紙が届いた。
それは挑戦状と言って良い内容で有り、その日約束されたメンバーと闘う前に自分が集めたメンバーと闘え、
と言う物であった。
そして、その差出人の名前は「石河 梨華」であった。

それを見た早織は驚くと共に若干の拍子抜けは有ったが、ともあれメンバーの「タプイエロー」塁家 明日香,
「タプグリーン」芳川 綾乃,「タプブルー」多喜沢 乃南,「タプピンク」原多 桜怜の元へ連絡を入れた。
彼女達も若干の拍子抜けは有ったものの、それぞれに体調を整えると共に、トレーニングも徐々に再開した。

暫くして全員のスケジュールが合い、久々の合同トレーニングを行なったタプレンジャーであったが、以前の
合同トレーニングで見られた無駄口や陽気な雰囲気は陰を潜めていた。
それぞれが黙々とトレーニングを行ない、休憩時間に話す内容もファイトに関する物が大半であった。
その最大の理由は前回の闘いで、不甲斐ない所を見せてしまった(と、本人達が思い込んでいる)早織と乃南の
鬼気迫ると言って良いトレーニングにあった。
本来は陽気な綾乃や明日香も、その様子を見てはとても無駄口を叩ける雰囲気にはならなかったのである。
トレーニング後にはミーティングも行なわれ、前回の反省点も明らかになってきた。
パワーと共にスタミナを身に付ける事、冷静さを失なわない事、そしてひとみのSTY,あさ美のハイキックの
様な必殺技を身に付ける事が必要と言う事で、意見がまとまった。
そしてその後の食事もいつもの「焼き肉食べ放題」ではあったが、これまでは殆ど肉とデザートだけを食べていた
5人がちゃんとバランスを考え、魚介類や野菜もしっかり食べる様に心掛けていた。
彼女達に、食事もトレーニングの一環であるという意識が芽生えたのであった。
梨華達との試合は、最強軍団と闘う前の大事なトライアルと位置付けられる事となった。
タプレンジャーは明らかに大幅にパワーアップしていた。

一方の梨華はメンバー集めに掛かったが、裕子やつんたに黙って組んだ試合だけに声を掛けられる相手も限られて
おり、まず半ば強引に承諾させたのは、彼女が朝娘。卒業後「美雄伝」なるユニットを組み、活動を始めていた
三吉 絵梨香,丘田 唯の二人であった。
絵梨香は梨華と同じ現在二十歳で、モニプロ自体には暫く前から入っていたが、本格デビューはこれが初めてで
あった。一方の唯は現在十七歳、つい最近になってオーディションでモニプロ入りを果たしたのであった。
共に160cm前後の身長と小柄なメンバーの多いモニプロの中では比較的長身の方で、体格には恵まれていた。
とは言え、デビュー直後の二人にとって地下リングは全く未知の世界で有り、梨華からの話を聞いても未だ
半信半疑の状態であった。
また、この状況では前回の朝娘。と違って他メンバーをコーチに呼ぶ訳にも行かず、トレーニング自体も決して
充分と呼べる物ではなかった。
更に梨華はメンバー集めの為、彼女に縁の有るユニットに声を掛けた。
彼女達は当日まで合流する事は難しいとのことであったが、試合への参加とそれまでのトレーニングは確約した。
梨華自身も「美雄伝」の二人より、彼女達に大きな期待を抱いていたのだった。

それぞれがそれぞれの思いを抱いて試合に備えトレーニングに励んでいる頃、朝娘。に、或いはモニプロに、
更には芸能界全体に大きな衝撃が走った。
飯多 圭織卒業後グループのリーダーを任されていた弥口 真里が突然朝娘。を卒業、いや明らかに解雇されたので
あった。
表向きの理由は、デート現場をスクープされた真里が朝娘。より彼氏を取った、という事とされていたが、
その裏には先日の試合で最後の瞬間、真里が敗戦を意味するタオルを裕子から奪って投入したことも影響していた。
その行動がつんたには許せない物だったのである。
そして朝娘。の新リーダーには梨華と同期であり、その試合で大健闘を見せた芳澤 ひとみが選ばれた。
梨華にとっては、これも大きな刺激となっていたのであった。

そして、試合当日を迎えた。

タプレンジャーサイドは今回も試合順で揉めていた。
皆が出来るだけ早く試合に登場したいという気合いの現われであったが、結局早織の大将は変わらず、前回五勝と
最も頑張った桜怜が今回は副将となり、後はジャンケンの結果、先鋒綾乃,次鋒明日香,中堅乃南の順で試合する
事となった。
試合順が決まった後も、無駄口一つ叩かずに黙々とウォーミングアップに励むタプレンジャーの姿からは、この
試合に対する並々ならぬ意気込みが感じられた。

その頃梨華サイドは美雄伝の三人は既に集まり着替えも終わっていたものの、他メンバーの到着遅れに苛立ちを
隠せなかった。
梨華「何やってんだろ? あの子達。もし開始に間に合わなかったら、あなた達二人がまず試合をしてね。私は
   彼女達の到着を待つから。」
絵梨香,唯「ハイッ!」
梨華「いくら遠いったって、飛行機が遅れない限りとっくに着いてなきゃいけないんだけどな…」
三人の緊張感と苛立ちが徐々に高まる中、控え室のドアが開き、三人の女性が息を切らせながら飛び込んできた。
梨華「待ってたわよ! 何してたの? 直ぐに着替えてね。」
「ごめんなさい! 飛行機は予定通り着いたんだけど、このチビリーダーが乗る電車を間違えて、変な所まで
 行っちゃったの。」
「『何度も来てるから、東京は大丈夫』とか言うから任せたのが大失敗だったわ。」
「ゴメン、ゴメン、悪かった。でも、チビは余計よ!」
現われた三人は田舎娘。達であった。
普段は北海道の農場で働きながら、仕事の時は上京するという二重生活を続けているグループで、メンバーは
リーダーのあさこ,郷田 まい,みなの三人で、普段農作業をやっている事もあって三人とも体力と運動神経には
自信を持っており、モニプロの運動会やフットサルでは常に大活躍であった。
梨華とは彼女が朝娘。内で頭角を表わしてきた頃に、当時のメンバーであったりんこ,あさこと共に「田舎娘。に
石皮 梨華(朝娘。)」なるユニットでデビューしたという仲であり、それと同時に地下リングでも6人タッグでの
デビューも果たしていた。
リングではこのトリオで数戦闘った結果、あさこは小柄ながら気合いとパワーに溢れたファイトで高い評価を
得ていた。その後、まいが参加した後もリング参戦を続けていたが、当時のリーダーであったりんこは性格的に
大人しくファイトに消極的であったことが災いして、グループを解雇されることとなってしまった。
その後、りんこと入れ替わりにみなが加入して現在の三人となり、ユニットも梨華に代わって富士本 美貴,
紺埜 あさ美を加えての活動となって、地下リングからも御無沙汰していたが、かつて一緒に闘ったという絆は
強く、今回の梨華の申し出を快諾したのであった。
無論、彼女達自身にもここでいい所を見せて、活動の幅を広げたいという思惑も強く有ったのだが。

あさこ「すぐに着替えてくるから、待っててね。」
梨華「うん、分かった。今日はあなた達には期待してるからね。」
まい「こちらもそのつもりでタンマリとトレーニングしてきたからね。伊達に農作業やってるんじゃないのよ。」
みな「そうそう、普段から牛や馬と付き合ってるんだから、あんなおデブちゃん達には負けないわよ。」
あさこ「運動会やフットサル要員だけじゃないとこ、見せなくちゃね。」
そう言いながら、準備に掛かる田舎娘。達の引き締まった逞しい身体に梨華は大きな期待を抱いた。

着替え終わって出てきた三人に梨華が話しかけた。
梨華「試合順だけど、唯と絵梨香からでいいかな?」
あさこ「いや、最初にアタシが行くよ。団体戦は最初が肝心。あいつらに一泡吹かせてやるよ」
まい「そうそう、この子はチビだけどパワーは有るからね。梨華ちゃんも良く知ってるでしょ。」
あさこ「チビは余計だって、言ってるでしょ!」
みな「二人はデビュー戦でしょ。私もあさこの試合を見てからの方がいいと思うな。」
梨華「そうするかな。二人ともそれでいい?」
絵梨香「いいわよね。唯ちゃん。」
唯「はいっ!」
あさこ「返事だけはいいわね。」
全員「(笑)」
梨香「じゃあ、いつものやつ行くけど、私がやっていい?」
あさこ「当然!今日のリーダーにお任せするわよ。」
梨香「じゃあ、みんな輪になって」
六人全員が輪を作り、手を重ね合う。
梨華「頑張って行きまっ」
全員「しょい!」
いつもの儀式で気合いが高まる6人であった。

リングにはタプレンジャーが先に上がっていた。
例によって喚声とブーイングが相半ばして彼女達を迎える中、早織がマイクを取った。
「今日、我々タプレンジャーは石皮 梨華さんからの挑戦状でリングに上がりました。モニプロ最強軍団との
 試合の前に絶対に負ける訳にはいきません。」
タプレンジャーの相手については知らされていなかった観客達が、梨華の名前を聞いて大きくどよめいた。
「今日の目標は当然全勝です。私達の強さを見せ付け、彼女に挑戦状を出した事を後悔させます。」
これには観客から、大きなブーイングが起こった。
それには関わらず、早織は決めにかかる。
早織「タプレンジャーは」
四人「逃げない!」
早織「タプレンジャーは」
四人「諦めない!」
早織「タプレンジャーは」
四人「負けない!」
早織「肉体こそ」
四人「真の凶器!」
セリフに合わせて五人がガウンを脱ぎ去り、五色のスポーツビキニ姿でポーズを決めた。
その姿に再び大きな喚声とブーイングが起こる。

タプレンジャーがリング下に降りると同時に会場が暗転した。
そして、反対側の花道にスポットライトが当たる。
そこにはピンクのスポーツビキニを着た梨華が、白のワンピース水着を着た美雄伝の二人とブルーの競泳用水着を
着た田舎娘。三人を従えて立っていた。
大喚声と手拍子の中、ライトを浴び、観客達に手を振りながらリングへと進む六人。
その中でも梨華の姿は、明らかに眩しいまでのスターのオーラを放っていた。
六人がリングに上がり、スポットライトの中、マイクを取る梨華。
「観客の皆さん、チャーミー軍団のショータイムへようこそ。」
その声に一段と大きな喚声と拍手が起こる。
「タプレンジャーの皆さん、ワタシの招待状を受けてくれて有難う。裕ちゃん達が出るまでもないわ。あなた達は
 今日で解散よ。」
再び起こる大喚声。
朝娘。に入った当初は、引っ込み思案で前に出る事が苦手であった梨華であったが、今ではモニプロ内でも
自己アピールが得意な方になっていた。
それにはここ地下リングで闘った事も大きな力になった事は明らかであった。
梨華が一通りのアピールを終えると、会場が明るくなった。

そして、リング下には気合いの入った視線を梨華達に浴びせ掛けるタプレンジャーがいた。
その視線に一瞬身体を竦ませた梨華であったが、直ぐに気持ちを取り直した。
"何を恐れているの、梨華? 自信を持つのよ! あなたは昔のあなたとは違うの!"

梨華達がリング下に下りた所で会場にアナウンスが流れた。
「5対6、変則勝抜き戦を行ないます。勝ち残った選手の試合への登場順は自由で、全員が失格したチームの
 負けとなります。勝負の決着は通常のプロレスルールに準じ、フォール,ギブアップ,KO,レフリーストップ,
 ドクターストップ,反則等ですが、場外カウントアウトは有りません。
 では、第一試合に出場の選手はリングに上がって下さい」
前回同様の、完全決着ルールであった。

リングには綾乃とあさこが上がった。
あさこは現在20歳。オリジナルメンバー三人中、一人が交通事故死,一人が前歴詐称で脱退と、りんこ一人に
なっていた田舎娘。に最初に追加されたメンバーであった。
二人で農場で働きながらその後ローカルデビューはしていたが、全国的に名が売れたのは梨華とのユニットで
メジャーデビューを果たしてからであった。それだけに梨華に対する感謝の気持ちは強かった。

グリーンの水着の綾乃が162cm有るのに対して、あさこの身長は148cmと大きな違いが観客席からもはっきりと
見て取れた。
しかし、あさこの二の腕や太ももの逞しさは決して綾乃にも劣ってはいなかった。

「第一試合、芳川 綾乃対あさこを行ないます。」
"カーン"
ゴングが鳴った。
「トアーーー!」
一声気合いを入れたあさこが綾乃のコーナーまで突っ込んで行き、迎え撃つ格好となった綾乃と組合う。
"ウンッ!?"
予想以上のあさこのパワーに戸惑った綾乃であったが、身長差を活かし上から体重を掛け、押し込む。
「クソッ!」
あさこの方も、これまでは例え身長差が有ってもパワーで押される事は無かっただけにこの状況に焦りを隠せない。
パワーで勝った綾乃があさこを彼女のコーナーまで押し込んだ。
"ドォーーーン!"
あさこの小柄な身体が、コーナーポストと綾乃にサンドイッチにされる。
綾乃があさこの胸元を狙って水平チョップを叩き込もうとするが、あさこも身を屈めてそれを避ける。
"バシーン!"
チョップをポストに誤爆して痛がる綾乃のボディにあさこのパンチがヒットする。
更にあさこの水平チョップが綾乃の喉元に炸裂する。
"ピッシーン!"
綾乃の腕を取ったあさこが反対コーナーに綾乃を叩き付けると、リングが大揺れに揺れる。
"ドオーーーーーン!"
観客の拍手と歓声の中、走り込んだあさこがコーナーを背にした綾乃の胸板にドロップキックを叩き込む。
素早く立上がったあさこは綾乃をヘッドロックに取ると、額にパンチを叩き込む。
しかし綾乃もパンチを受けながらも、あさこをロープに振る。
ロープから返ったあさこと、リング中央で待ち構える綾乃が激突した。
"バシーーン!"
激しい激突音がしたが、お互い踏ん張りダウンはしない。
今度はあさこが自らロープへ飛んだ。
勢いを付けて飛び込んでくるあさこに対して、綾乃がラリアットを狙う。
しかし、それを首をすくめて避けたあさこが反対側のロープへ飛び、その勢いでフライング・ラリアットを
振り返った綾乃の胸元に叩き込む。
"ドッカーーン!"
この一撃には流石の綾乃もダウンした。
観客と梨華達の拍手と声援の中、あさこは首四の字で綾乃の首を締め上げる。
下になった綾乃であったが、両手であさこの足を捕えるとそのパワーで首に絡んだ足を外しに掛かる。
技を解かれそうになったあさこは、綾乃の手を払うと自ら立上がりロープへ飛んだ。
そして、勢いをつけるとエルボーをダウンしたままの綾乃の胸板へ落とす。
「ウッ!」
思わず声を出す綾乃に対し、あさこはその場でジャンプすると今度は膝をボディに落とした。
「グッ!」
ボディを押さえて苦しがる綾乃に対してあさこは右手を上げて観客にアピールすると、ストンピングを連発する。
綾乃を引き起こしたあさこはそのボディに膝蹴りを叩き込み、更に前のめりになった綾乃の首を捕えるとDDTで
リングに叩き付けた。
そのままフォールを狙うあさこであったが、ここは綾乃に余裕を持ってカウントツーで返される。
ならばと、あさこは再び綾乃を立たせるとコーナーへ叩き付け、更に自らも走り込むとフェースクラッシャーで
綾乃の顔面をリングに叩き付ける。
そしてあさこは三度綾乃を立たせると、何とボディスラムで綾乃の大きな身体を叩き付けた。
"ドスーーン!"
リングが揺れ、これには観客からの大きな拍手が湧く。
そしてあさこは一旦観客にアピールしてから、コーナーの最上段まで登った。
そして、綾乃との距離を測るとジャンプして、背中から綾乃の胸元へ落下した。
"ドスン!"
セントーンが鈍い重い音を立てて命中した。
そのままフォールを狙うあさこであったが、これも綾乃はカウントスリー前に簡単に返す。
「惜しい!」
「行けるよ、あさこちゃん!勝てる!勝てる!」
一方的に攻めまくるあさこに、リング下のモニプロメンバーは大はしゃぎであったが、前の朝娘。との試合を
見ている梨華だけが、徐々に不安を覚えてきていた。
"彼女、この前の試合と全然違う。調子が悪いの? それとも、あさこに攻めさせているだけ?"
そしてふと見たタプレンジャーコーナーでは、誰一人焦りの表情は浮かべていなかった。
それが一層梨華の不安を大きい物とした。
そして、その不安は的中した。
綾乃を立たせたあさこが綾乃をコーナーに振ろうとしたが、身体を入替えられ逆にコーナーに叩き付けられた。
そして、綾乃がその身体に似合わぬスピードでボディアタックを決めた。
"ドカーーーン!"
リングが揺れ、あさこの小さな身体は綾乃とコーナーポストにサンドイッチにされ、見えなくなってしまった。
そのまま綾乃はあさこを踏み付けると、ロープも利用して全体重を掛ける。
レフリーのロープブレイクで一旦離れた綾乃であったが、ダウンしたままのあさこを立たせると、そのボディに
膝蹴りを連発で叩き込む。
"ボスッ!ボスッ!…"
鈍い音と共に膝が叩き込まれる度に、あさこの表情が苦痛に歪む。
更に綾乃はあさこにコーナーポストを背負わせると、両腕をロープに掛け固定した。
そして、ガラ開きとなったボディにミドルキックを連発で叩き込む。
"ドスッ!ドスッ!"
これはロープを使った攻撃ということでレフリーがブレイクし、あさこの両手をロープから外したが、あさこは
立つ事が出来ずそのままお腹を押さえてうずくまるしかなかった。
「あさこちゃーん!」
「リーダー!頑張ってー!」
先ほどのはしゃぎ振りから一転して、心配そうに声援を送るしか無いモニプロ勢。
しかし、あさこはその声にも身体を起こす事は出来ない。
綾乃はゆっくり近付くとあさこを引き摺り起こし、その小柄な身体をまるで重量挙げの様に頭上高く差し上げると
お腹が下のまま投げ落とす。
そして、2m近い高さから落とされたあさこのお腹を待っていたのは、綾乃の膝であった。
"ボスッ!"
「グェーーーー!」
トレーニングで鍛えていたあさこではあったが、集中攻撃を受けたお腹の辛さに遂に口から反吐を吐き出した。
意識は持っているあさこは何とか立ち上がろうとするが、身体に力が入らずもがくしかなかった。
観客からも「あさこ」コールと綾乃へのブーイングが起こる中、レフリーがあさこの様子を見ようとしたが、
逸早く近寄った綾乃はあさこを頭の上に持ち上げると、その身体をしっかりと固定した。
そして一呼吸置くとジャンプしながら側方に倒れ込み、あさこの脳天をマットに叩き付けた。
元全女の長身レスラー三田 英津子が発案し、男子プロの間でも使われたデスバレー・ボムである。
綾乃はこれを必殺技として会得していたのであった。
"ドカーン!"
脳天から叩き付けられたあさこは白目を向き、全く動く事が出来ない。
完全に勝負は決したかに見えたが、更に綾乃はコーナーポストを登り始める。
激しいブーイングの中、ポスト最上段に登った綾乃は全く動けぬあさことの距離を測る。
「やめてーー! もう勝負はついてるでしょ!」
叫んだのは、梨華であった。
しかし、綾乃はその梨華に一瞬鋭い視線を向けると、次の瞬間ポストからジャンプし背中からあさこの身体の上に
落ちた。
"ドオーーーーン!!!"
先程のセントーンのお返しであったが、体重差がそのまま破壊力の差となった。
「ワン、ツー、スリー」
"カーン"
「只今の試合は、フォールで芳川 綾乃選手が勝ちました。続いての選手、リングに上がって下さい。」

観客からの激しいブーイングの中、余裕を持って勝ち名乗りを受ける綾乃の足元には、完全に意識を失って
ピクリとも動かないあさこが横たわっていた。
不規則な呼吸に合わせてかすかに胸元だけが動いていた。
「あさこー!」
「リーダーー!」
慌ててリング内に飛び込んだ田舎娘。のまいとみなの呼掛けにも、あさこは全く反応せず、そのまま担架に
乗せられて、医務室へと連れられていった。
そしてリング下では、次の試合に出る予定の唯が目の当たりにした地下リングの恐怖に全身を震わせており、
それを梨華と絵梨香が何とか落着かせようとしていた。

一方のタプレンジャーサイドでは、黄色いスポーツビキニの明日香が既に臨戦態勢に入っていた。

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