『モニプロの逆襲−2』

「タプグリーン」こと綾乃の圧勝で終えた第一試合に続き、リング上では第二試合が開始されようとしていた。
タプレン側は、既に「タプイエロー」明日香がコーナーで軽く身体を動かして臨戦態勢に入っていたが、
モニプロ側は対戦予定の唯が前の試合を見てからリング下でパニック状態を起こしたままとなっており、とても
リングに上がれる状態とは見えなかった。
梨華「唯ちゃん、あなたもプロでしょ! リングに上がりなさい!」
しかし唯は、梨華の叱咤も聞こえているのか、相変わらず頭を抱えてガタガタと震えるだけだった。
絵梨香「梨華ちゃん、この子は今は無理よ。私が先に試合するから、その間に何とか落着かせて上げて。」
まい「私も、その方がいいと思う。このままリングに上げたら、勝負以前に大怪我しちゃうかもしれないし。」
梨華「分かったわ… 絵梨香ちゃん、お願いするわ。頑張ってね。」
絵梨香「どれだけやれるか分からないけど、とにかく頑張ってみるわね。」

唯に代わって、ゆっくりとリングに上がる絵梨香。
妹分の唯を勇気付ける為にも気丈に対戦を買って出たものの、彼女自身もこれがデビュー戦であり、無論その心の
中はここから逃げだしたい位の不安と恐怖で一杯であった。
リングに上がり明日香と向き合った絵梨香であったが、その表情は蒼褪め、強張っていた。
しかし、梨華達にそれに気付く余裕は無かった。

「第二試合、塁家 明日香対三吉 絵梨香を行ないます。」
"カーン"
ゴングが鳴った。
タプレンジャーの中でも体格No.1で最近は自ら「樽ドル」と名乗る明日香に対し、絵梨香も身長ではそう劣って
いる訳では無かったが、やはり身体の厚みには大きな差が有った。
正面から立ち向かっては勝ち目が無い事は理解していた筈の絵梨香であったが、緊張感からか吸い込まれるように
まともに組合ってしまった。
グッと明日香が力を込め体重を掛けると、腰砕けの様に絵梨香が崩れ落ちた。
明日香はそのまま絵梨香の上に馬乗りになり、腕を極めにいく。
何とか暴れてそれを防ぐ絵梨香であったが、馬乗りになった明日香の体重を受けているだけでも大きなダメージを
受けていた。
腕を極めることを諦めた明日香は、一旦腰を浮かすとヒップドロップを絵梨香のボディに無雑作に落とした。
"ドスン!"
「グプッ!」
落差はそう大きくなかったが、まともにお腹の上に大きなお尻を落とされた絵梨香がその圧力に苦しむ。
更にもう一発。先程より落差の有るヒップドロップが落とされた。
"ドスン!"
「グッ… ウプッ!」
堪えきれず、絵梨香の胃液が逆流するが、絵梨香はそれを必死に飲み込む。
泣きそうな表情で咳込む絵梨香の額を明日香は右手で鷲掴みにすると、左手も添えて力を込める。
お得意のアイアンクローである。
「ギ、ヤーーーー!」
脳天を締め付けられる痛さ,苦しさに絵梨香の大きな悲鳴が上がる。
まい「絵理香ちゃん、右へ回って!」
みな「ロープに足を伸ばして!」
何とか聞こえた田舎娘。二人のアドバイスでようやく絵梨香の足がロープに届き、レフリーのブレイクが掛かる。
まい「場外へ逃げて!」
再度のアドバイスにより場外へ逃げた絵梨香に対し、明日香は深追いせずリング内で右手を上げて観客に
アピールするが、帰ってきたのは大きなブーイングであった。
その観客からの対応に怒って見せる明日香であったが、その表情には余裕が有り、先日の絵里との試合で見られた
苛立ちが無い事は明らかであった。
観客からは明日香に対するブーイングに代わり、場外でうずくまる絵理香に対し「絵梨香」コールが始まった。
そのコールに励まされるようにゆっくりと絵梨香が立ち上がった。
しかし頭を締め付けられた気持ち悪さに、その前にボディを攻められていたダメージが加わり、立った瞬間に
吐き気が襲ってきた。
遂に堪えきれず、リング下で戻してしまう絵梨香。
その胃液の辛さに、人前で戻してしまったという精神的ショックが加わり、更には明日香とのあまりの実力差に
情けなさを感じた絵梨香の目に涙が浮かんだ。
それでもここで試合を投げ出す訳にはいかない。
絵梨香は重い足取りでリングに戻って行く。
その絵梨香に対し、田舎娘。達はそれでもアドバイスと応援を送り続ける。
みな「絵梨香ちゃん、落着いて、ちゃんと相手を見て!」
まい「正面から行っちゃダメ! 横から攻めるのよ!」
梨華はようやくパニック状態が収まった唯と力無くリングに向かう絵梨香を目にして、彼女達二人を闘いに
引込んだ事を後悔し始めていた。
そして、自身にリーダーとしての資格が有るのか疑問を持ち始めていた。
"私が勝手な事をやったばっかりに彼女達をこんな目に…"
リングに上がった絵梨香に対し、明日香が両手を上げて迫って行く。
まい達のアドバイス通り、絵梨香は横へ横へと動き、明日香との正対を避ける。
しかし、明日香も焦る事無くゆっくりと絵梨香をコーナーに追い詰めようとする。
明日香もまた、この試合には期する物があった。
前の朝娘。との試合では絵里の挑発に乗り冷静さを失って無意味にスタミナをロスし、更にはあさ美には
ダメージ一つ与える事も出来ず一方的に敗れた事が自軍が苦戦した原因であると自覚していた。
それだけに、ここでは必要以上とも思えるほどに慎重に試合を進めるつもりであった。
焦る事無く迫ってくる明日香に徐々にコーナーに追い詰められた絵梨香は攻撃に転じた。
バックステップを踏んで、ロープを反動を利用すると明日香にエルボーを叩き込んだのである。
"バシーン!"
倒れない明日香に対して、絵梨香は再度ロープへ飛ぶとエルボーを狙った。
が、そこに明日香の前蹴りが待っていた。
"バァーン!"
カウンターの蹴りを受けてダウンした絵梨香を引き摺り起こした明日香は、絵梨香をロープに振りラリアットを
狙う。
しかし絵梨香も、寸前そのラリアットを身体を低くして避けるとそのままロープへ飛び、振り向いた明日香に
対し、ジャンプ一番ショルダー・タックルを叩き込んだ。
"バッシーーン!"
流石の明日香もこの捨て身の技にはダウンした。
いち早く起き上がった絵梨香は、ダウンしたままの明日香にストンピングの雨を降らせる。
この絵梨香の初めての攻勢に観客から喚声と拍手が起きる。
そのままフォールを狙う絵梨香であったが、明日香はカウント1で簡単に撥ね退ける。
ならばと、絵梨香は明日香を起こすとロープへ飛ばしショルダースルーを狙う。
しかし、明日香はそれを許さなかった。
ロープを掴んで勢いを殺すと、下を向いている絵梨香の首を捕えDDTで叩き付ける。
"ドスン!"
鈍い音と共に、絵梨香の脳天がリングにめり込む。
更にうつ伏せとなった絵梨香の首筋に明日香のギロチンドロップが叩き付けられた。
"ドカーン!"
明日香は絵梨香を強引に立たせるとロープへ飛ばし、力無く帰ってくる絵梨香を受止めると、パワースラムで
リングに叩き付けた。
"ドォーーーン!"
立上がった明日香は動けない絵梨香を確認すると、親指で首を掻き切るポーズを見せ観客にアピールするが、
それに対する返答は凄まじいまでのブーイングであった。
そのブーイングを確認した明日香は絵梨香に対しパワーボムの態勢を狙う。
力無くもがくしかない絵梨香の身体が明日香に捕えられ、逆さ釣りの状態からリングに叩き付けられた。
"ドッカーーン!"
後頭部から落とされた絵梨香の身体が、グッと力を入れた明日香によって再度持ち上げられた。
そして、再びリングへ叩き落される。
"ドッカーーン!"
この連発式パワーボムを必殺技とするべく、明日香は腕と腰をトレーニングで鍛えていたのであった。
更に三発目のパワーボムが炸裂した。
"ドッカーーン!"
絵梨香は既に完全に意識を失っている様であったが、明日香はまたしても絵梨香の身体を持ち上げた。
「止めてーーーー!」
観客からのブーイングが更に大きくなり、梨華からも悲鳴が上がる中、明日香はこれまで以上に高々と絵梨香を
持ち上げると、今度は腕を放して後頭部からまさに投げ捨てた。
"ドォーーーーーーン"
受身も取れずに叩き付けられた絵梨香は、ピクリとも動けなかった。
レフリーが確認に向かうより早く絵梨香に近寄った明日香は、上四方固めの様に押さえ込んだ。
ちょうど明日香のお腹が絵梨香の顔面に乗る為、窒息責めともなる態勢である。
「ワン、ツー、スリー」
"カーン"
「只今の試合は、フォールで塁家 明日香選手が勝ちました。続いての選手、リングに上がって下さい。」

ゴングが鳴っても暫くその態勢を続ける明日香をレフリーと黒服が立上がらせたが、その下敷きとなっていた
絵梨香は呼吸も怪しい状態となっており、担架の上でドクターによる酸素吸入を受けながら、医務室へと
運ばれて行った。

激しいブーイングの中、観客を睨み付けながらリングを降りる明日香に代わり、タプレンジャー側はブルーの
水着を着た乃南が上がったが、その乃南に対してもブーイングが起こっていた。

対するモニプロ側はようやくパニック状態が収まった唯に対し、梨華がリングに上がる様命じていた。
梨華「唯ちゃん、あなたの出番よ。覚悟を決めて頂戴! もし逃げたら、あなた、この世界にもいられなく
   なってしまうのよ!」
この脅しとも取れる叱咤にようやくリングに向かった唯であったが、下を向いたままでその足取りは重かった。
みな「唯ちゃん、頑張ってね!」
まい「唯ちゃん、落着いて。自信を持って闘うのよ!」
二人の激励も耳に届いているのか、リングに上がった唯はうつろな目で血や反吐のシミで汚れたリングを
見詰めるだけであった。

「第三試合、多喜沢 乃南対丘田 唯を行ないます。」
"カーン"
ゴングの音が、唯を現実の世界に引き戻した。
そしてようやく顔を上げた唯の目の前に、闘志を全身にみなぎらせた乃南が迫ってきていた。
横幅は有るとはいえ、155cmと自分より一回り小柄な筈の乃南の姿が唯にはとてつもなく巨大に見えた。
「キャーーーーーーーーーー!」
唯は大きな悲鳴を上げ、コーナーに頭を抱えてうずくまった。
これには乃南も拍子抜けしてしまい、レフリーの方を見る。
「丘田!ファイト!」
レフリーの声にも関わらず、コーナーで小さくなって震えている唯に対し、乃南はその手を掴みリング中央へ
引っ張り出そうとしたが、唯は乃南の手を振り払うと尚もその態勢を続けた。
乃南はその唯に対し、キックを打ち込み更にエルボーを落とすが、唯はその状態を崩さずレフリーからは
ロープブレイクの声が掛かる。
「丘田!ファイト!」
再度レフリーから声が掛かるが、唯はその態勢を崩さない。
まい「唯ちゃん、しっかりして!」
みな「唯ちゃん、ファイトよ!」
梨華「唯ちゃん、闘って! このままじゃ、本当にマズイよっ!」
三人からの悲鳴に近い声に漸く立上がろうとする唯であったが、その動きは緩慢で闘争心は全く感じられなかった。
立上がるのも待てないとばかりに乃南が再び唯に襲い掛かった。
ボディにキックを一発入れコーナーに追い詰めると、棒立ちになった唯の胸元に水平チョップを叩き込む。
"パッシーーン!"
尚も攻め込もうとする乃南であったが、ここもレフリーからのブレイクが掛かる。
その指示に怒りを見せる乃南であったが、レフリーの判定は絶対である。一旦、リング中央まで戻る。
「丘田!ファイト!」
三度レフリーからの指示が飛ぶが、唯の状況は変わらなかった。いや、更に悪くなっていた。
これまでの恐怖心に加え、技を受けた痛みですっかり闘志が萎えてしまっていたのであった。
確かにトレーニングを積んできてはいたが、試合で本気の相手から殴られ、蹴られる痛さはトレーニングでの
それとは全く違っていたのである。
コーナーでガタガタ震えるだけの唯の手を乃南が掴み、リング中央へ運ぼうとする。
「イヤー!ヤメテーー!」
泣き叫び、動こうとしない唯に対し、リング下からの指示を受けたレフリーがもう片手を掴み、リング中央へと
運んだ。
「イヤダーーー! 誰か、タスケテーーー!」
泣き叫びながら、乃南とレフリーにリング中央へ引き摺られる唯に、まいとみなも呆れた表情を送るだけとなり、
梨華も何も言えなかった。そして観客からは、笑い声と共にブーイングが起こり始めていた。
「ゴメンナサイ!許して下さい!もう、ギブアップします。だから、助けて下さい!」
いくら「ギブアップ」の言葉が出ても、この状態ではレフリーも認める訳にはいかない。
なかば錯乱状態で叫び続ける唯に対し、当初は戸惑っていた乃南であったが、徐々に怒りが込上げてきた。
"こんな人と試合をする為に、私は苦しいトレーニングをしてきたの?!"
乃南もまた、今日に賭ける思いは強かった。
デビュー戦となった先日の試合では、内容は良かったとは言えひとみのSTYの前に苦杯を舐めさせられ、
タプレンジャーの中では唯一一勝も上げる事が出来なかった。
その屈辱感と、それ以上に他メンバーに申し訳無いという気持ちは大きく、だからこそ自身の治療もそこそこに
ドクターの制止を振り切って応援に駆けつけたのであった。
そして、同じデビュー戦だった桜怜の活躍振りを見て、その思いは更に強くなっていた。
もし今回恥ずかしい試合をしたら、タプレンジャーから抜ける覚悟で今日に臨んでいたのであった。
その思いをぶつける相手として、唯の姿はあまりに情けなかった。
乃南はリング上で、もはや土下座に近い状態で頭を下げている唯に近寄って行った。
そして、叫んだ。
「立てー! この野郎!」
普段は大人しい乃南の大声に、早織達も驚き、お互いに顔を見合わせる。
乃南は唯の両肩を掴んで強引に立たせると、その頬に平手打ちを食わせた。
"パッシーーーン!"
そして、唯のワンピース水着の両肩紐に手を掛けると、そのまま腰の辺りまで一気に引き下ろした。
当然の事ながら、モニプロ一とも噂される唯の巨乳が観客にあからさまとなった。
「ウォーーー!」
観客からの大きな喚声と拍手が起こる。
「キャーーーーーーーーーー!」
一瞬、何が起こったか分からなかった唯であったが、自分のバストが剥き出しにされているのに気付くと大きな
悲鳴を上げ、裸の胸を両手で押さえながらその場にしゃがみこんだ。
そして大慌てで水着を元へ戻す。
「何て事するのよ!」
リング下から非難を浴びせる梨華達を睨み付けた乃南は、バストを観客にさらしたショックから立ち直れない唯に
対して再度叫んだ。
「掛かって来い、この野郎! 今度は全部脱がして、観客の中に放り込むぞ!」
一部の観客からは黒い期待を込めた歓声が上がったが、それを聞いた唯の心で何かが切れた。
「ギョアーーーーーーー!」
言葉にならない声を上げた唯は、突然立上がると乃南に襲い掛かった。
両手の握り拳を無茶苦茶に振り回して、乃南に殴り掛かる。
この突然の攻撃は乃南も避ける事が出来ず、顔面に数発食らってしまった。
「ギェーーーーーー!」
更に叫びながら、唯は何と乃南の頬に爪を立てた。乃南の頬が裂け、血が流れ落ちる。
唯はその血を見て興奮したのか、意外な攻撃の連続に戸惑う乃南をタックルでダウンさせると、その額に噛付いた。
トレーニングで練習した技でも何でもない、まさに闘争本能だけでの攻撃であった。
これは反則という事でレフリーがブレイクを命じるが、唯は止めようとしない。
ようやく引き離された時には乃南の額は噛み破られ、鮮血が流れ落ちていた。
今度は乃南の首に両手を掛け締め上げる唯。
ここもレフリーのブレイクを無視して、攻撃を続ける。
その形相はまさに野獣であった。
「グガォーーーーー!」
尚も叫びながら襲い掛かる唯であったが、額と頬から流血しながらも乃南は冷静であった。
大振りのパンチを交わすと、唯のボディにミドルキックを入れ、前のめりになった胸元にニーリフトを叩き込む。
ダウンした唯の後方へ回り込んだ乃南はスリーパーを狙うが、唯もその腕に噛み付いて何とか逃れる。
右手にクッキリと付いた歯型を見た乃南は、心の中で苦笑いしながらも試合らしくなった事にホッともしていた。
唯も暴れてかえって落ち付いたのか、徐々に平常心を取り戻してきていた。恐怖心もパニックも収まりつつあり、
きちんと試合をやろうとする思いが起こっていた。
しかし、それは両者の実力差がそのまま現われる結果となった。
ローキックを狙おうとする唯に、飛び込んだ乃南のタックルが決まった。
ダウンした唯のボディに膝を一発落とした乃南は、ボディからバストに掛けてを蹴りまくる。
乃南は唯を引き摺り起こすとその首を掴み、ネックブリーカードロップでリングに叩き付けた。
そして、膝を今度は首筋に落とす。
「グウッ!」
後ろに回り込んだ乃南は噛まれない様に気を付けながら、今度は唯のアゴと頭を押さえチンロックで締め上げる。
暫く締め上げて唯のスタミナを奪った乃南は今度こそスリーパーに移行し、更にボディシザースとの複合技で更に
唯のスタミナを奪う。
KO寸前まで胴締めスリーパーで唯を締め上げた乃南は、技を外すと立上がりロープへ飛んだ。
そしてジャンプ一番、唯のボディへ両足で着地した。
「グエッ!」
このダブルフットスタンプで唯の胃液が口から溢れ出し、マットのシミを更に増やす事となった。
乃南は唯の身体を肩の上に担ぎ上げ、カナディアンバックブリーカーの態勢を取った。
唯の自らの体重が総て背骨に掛かる。
更に上下に揺さぶりを掛ける乃南。
「アッ!アッ!」
乃南の肩の上で悲鳴を上げる唯だが、レフリーの『ギブアップ?』には首を横に振る。
試合当初の闘志の無さとは大きな変化であった。
観客からも先程のブーイングから一転、「唯」コールが湧き上がる。
唯の頑張りを認めた乃南であったが、ここはとどめに掛かった。
唯を担いだままコーナー近くへ移動すると、対角コーナー目掛けて走り出した。
「ファイアーーーー!」
そして、叫びながら自らが前に倒れる様にして唯の脳天をリングに叩き付けた。
"ドカーーーン!"
乃南が身に付けた必殺技、サンダー・ファイアー・ボムである。
そして乃南はゆっくりとコーナーポストへ登った。
梨華の方をチラっと見たが、彼女は下を向き頭を抱えていた。
乃南はリング上で大の字になった唯との距離を測ると、その首筋にニー・ドロップを落とした。
"ドォーーーーーーーン!"
そのままレフリーのフォールカウントが入る。
「ワン、ツー、スリー」
"カーン"
「只今の試合は、フォールで多喜沢 乃南選手が勝ちました。続いての選手、リングに上がって下さい。」

意識を失った唯は、薄く白目を剥き、半開きとなった口から血混じりのヨダレを流した状態で担架に乗せられて
運ばれていったが、梨華はそれを正視する事が出来なかった。
その心の中は、後悔の念で一杯になっていた。

タプレンジャー側は大きなブーイングの中リングを降りた乃南に代わって、ピンクの水着に身を包んだ桜怜が
上がってきていた。

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