『モニプロの逆襲−3』

「まいちゃん、みなちゃん、私のわがままでこんな試合に巻き込んじゃってゴメンナサイ…」
リング下で呟くように謝る梨華であったが、二人の思いは違っていた。
まい「梨華ちゃん、何言ってるの! 試合はまだ終わってないのよ!」
みな「そう、私達は自分が闘いたいからリングに上がるの! あなたに頼まれたからじゃないし、朝娘。の
   リベンジでもない! 自分の為に、絶対に勝ってやる!」
冷たいとも思える言葉を吐いてリングに上がるみなの表情は、闘志と気合いに溢れていた。
戸惑う表情の梨華に、まいが語りかける。
まい「私達は今日の為に一生懸命トレーニングを積んできたの。梨華ちゃんだってそうなんでしょ。だったら、
   最後まで諦めないで!もし梨華ちゃんが諦めたのなら、私達二人だけでも闘うわよ!」
その言葉を聞いて、梨華は気持ちを奮い立たせた。
そして、真っ直ぐリング上を睨む。
梨華「そうね、まだ終わった訳じゃ無い。みなちゃん、頑張って!絶対、勝って!」

その梨華の声を聞いて、更に闘志を沸き立たせるみなは現在18歳。
田舎娘。へは、解雇された前リーダーりんこと入れ替わる形で加入した最も新しいメンバーである。
過去のメンバーが総て北海道出身であったのに対し、彼女だけは温暖な静岡出身という事で厳しい気候と生活には
苦労したが、持ち前の根性と明るさで農作業にも慣れ、他メンバーとも直ぐに打ち解けていった。
またサッカー所出身で幼い頃からやっていた事もあって、フットサル要員としても貴重な戦力となっていた。
ただ、本人はその体力,運動神経を運動会やフットサルだけでなく、あさこやまいから聞いていた地下リングでも
発揮したいとずっと思っていた。
それだけに今日に賭ける思いは強かった。
厳しい表情で反対コーナーの桜怜を睨み付ける。

対する「タプピンク」桜怜も、表情に気合いを滲ませていた。
前の試合では実に5人を倒すというMVPと言って良い活躍であったが、本人はそれでも決して満足していなかった。
さゆみ戦は奇襲が成功しただけだったし、里沙戦は相手が最初から玉砕狙い。
ひとみ戦とあさ美戦はいずれも相手が3試合目で疲労や怪我を押しての闘いで、唯一相手がベストコンディション
だった美貴戦では、流血の大苦戦だったのである。
今日は観客に対し、本当に自分の強さを見せ付ける試合をしようと狙っていた。

「第四試合、原多 桜怜対みなを行ないます。」
"カーン"
ゴングと共にリング中央へ真っ直ぐ進む桜怜に対し、みなは横へ回り込む様に動いた。
身長は殆ど同じであるが、体型は筋肉質とポッチャリで対照的であった。
みなもパワーには自信を持っていたが、第一試合であさこが綾乃にパワーで圧倒されたのを見て、正面から行くより
スピードを活かす作戦に出ることとした。
左右或いは前後にステップを踏みながら、サッカー仕込みのローキック,ミドルキックを狙う。
対する桜怜もそのキックをしっかりガードしながら、みなをコーナーへ追い込もうとする。
コーナーへ追い込まれそうになったみなは一旦場外へエスケープすると、リング外を走って半周し反対コーナーから
リング内へ転がり込む。
桜怜が突っ込んでくるのを見たみなは、ロープをくぐりエプロンへエスケープする。
レフリーが桜怜をリング中央に戻そうとするが、それに抗議する桜怜。
そのスキを、みなは逃がさなかった。
トップロープに手を掛けてジャンプしてロープの上に飛び乗ると、その反動を利用してのミサイル・キックを桜怜の
胸元に叩き込んだ。
"パッシーン!"
流石の桜怜もこれには吹っ飛ぶ。
みなの素晴らしい運動神経とバランス感覚に、観客から賞賛の声が上がる。
ダウンした桜怜に対し、素早く飛び込んだみなは高々とジャンプすると、エルボーを胸板,タプレンでもNo.1の
巨乳の上に突き刺す。
「痛っ!」
女性の急所にエルボーを落とされ、痛がる桜怜。
"凄い弾力…"
桜怜のバストに驚くと同時に羨ましさを覚えたみなであったが、桜怜の左足を捕らえると太ももにキックを連発し、
更にエルボーを落とすと素早くレッグ・ブリーカーの態勢に取った。
ここまでの一連の動きはとてもデビュー戦とは思えず、彼女のアスリートとしての資質の高さと共に、この試合に
備え厳しいトレーニングを積んできた事を感じさせた。
みなは桜怜の左足に自らの右足を差込み、テコの応用で絞り上げる。
桜怜は何とか身体をひねってロープへ逃れようとするが、みなも相当なパワーの持ち主らしく、それを許さない。
暫くその状態が続いたが、徐々に態勢が崩れ桜怜の自由な右足がみなの胸板を蹴り上げた。
たまらず桜怜の左足を外してしまうみなであったが、桜怜が立ち上がる前に再度左足を取ると、キックを連発する。
右足のキックを狙う桜怜であったが、みなはそれを上手く交わすと桜怜の身体を反転させ逆片エビ固めを狙う。
桜怜も身体を更に反転させ、技から逃れる。
その勢いでみなもダウンするが、いち早く立上がると今度は桜怜のボディに得意のサッカーキックを叩き込む。
"ボスッ! ボスッ!"
この攻勢に、観客から大きな喚声が湧き上がる。
そしてみなは再度左足を取ると、今度は足四の字固めを狙う。
しかし、技を掛ける際に一瞬桜怜に後ろを向けてしまった。
その一瞬を桜怜は見逃さなかった。
右足でみなのお尻をタイミング良くキックすると、みなの身体が浮き上がりそして前方に叩き付けられた。
軽く左足を引き摺りながら桜怜が立上がった。
そしてみなが立上がって振り向いた瞬間、桜怜十八番のラリアットがみなの首筋に炸裂した。
"バシーン!   ドォーーーン!"
みなは吹っ飛び、リングに叩き付けられた。
「みなちゃーん!」
リング下から、梨華とまいの悲鳴が上がる。
ダウンしたみなにゆっくりと近付いた桜怜はみなを立たせると、コーナーポストの方向へ叩き付けようとする。
しかし、コーナーへ振られたみなはその勢いを利用してコーナーポストを蹴ると、身体を反転させてボディアタックを
桜怜に仕掛けた。
みなの全体重を浴びせられ、ダウンする桜怜。
この華麗な動きに観客から大きな拍手が起こる。
立ち上がったみなはロープへ飛ぶと、再度桜怜の胸元へエルボー・ドロップを狙うが、これは桜怜が素早く交わす。
肘を押さえるみなに対し、先に立ち上がった桜怜がその髪の毛を持って立たせようとする。
しかし、みなも立たされながらパンチを桜怜のボディに叩き込んだ。
「グウッ!」
更にみなは髪の毛を掴んでいた桜怜の手を振り払うと、その顔面に平手打ちを入れた。
"パシーーン!"
そして、その至近距離でドロップキックを桜怜の胸元に打ち込む。
ダウンした桜怜に馬乗りになったみなは、上からチョップで桜怜の顔面を狙う。
しかし、桜怜もそれをしっかりガードして、身体を上手く使って体を入替えようとすると、みなの身体が浮き横へ
放り出された。
そこへ襲い掛かろうとする桜怜であったが、みなも素早く場外へエスケープする。
"彼女、結構強い…"
桜怜は、みなの予想以上の実力にリング内で大きく深呼吸して、自らの頬を張り気合いを入れ直す。
こちらはリング外で気合いを入れたみなは、リングに上がると態勢を低くして桜怜にタックルを仕掛けた。
しかし、腰を落とした桜怜はそれをガッチリと受止めると上から肩口にエルボーを落とし、そのまま立たせると腰に
乗せて強引に投げ飛ばした。
みなが慌てて立上がる所に、桜怜のショルダー・タックルが炸裂した。
それをまともに食らい、みなはコーナーまで飛ばされ、ポストに背中をぶつけた。
コーナーにもたれる形になったみなに対し、飛び込んだ桜怜はストンピングを一発入れると、そのまま首筋を
踏み付け続ける。
レフリーのブレイクで一旦足を下ろした桜怜であったが、今度はみなの顔面を踏み付ける。
再びレフリーのブレイクが掛かったが、これには観客からも大きなブーイングが上がる。
顔を振りながらゆっくりと立上がったみなのボディに、桜怜の膝が炸裂した。
「グフッ!」
苦しむみなの身体を軽々と担ぎ上げた桜怜は、ボディスラムでリング中央へ叩き付ける。
"ドッスーン!"
そして先ほどのお返しとばかりに、みなのバストにエルボーを落とす。
「痛っ!」
バストを押さえて痛がるみなを引き起こした桜怜は、その腰に手を回しベアハッグの態勢を取る。
「ア、アーー…」
悲痛な声を上げながら何とか暴れ回って逃れようとするみなであったが、桜怜の態勢は崩れず、腰にダメージを
蓄積させていくだけであった。
桜怜はベアハッグの態勢のままみなの身体を引き上げると、リングに背中から叩き付けた。
腰を押さえるみなの身体を桜怜は仰向けに担ぎ上げると、今度はカナディアン・バックブリーカーの態勢を取る。
そのまま揺さぶりを掛けてギブアップを狙う桜怜。
しかし、みなが担がれながらも暴れ回ると桜怜がふら付き、みなの足がコーナーポストを捕えた。
みなはポストをキックして着地すると、そしてその勢いで桜怜を後方に投げ飛ばした。
かつて猪木がアンドレ・ザ・ジャイアントを投げ飛ばしたのと同じ、リバース・スープレックスである。
"ドッスーーン!"
後方に投げられた桜怜は体重が有る分ダメージも大きいのか、なかなか立上がれなかった。
しかしみなもまた、投げ飛ばした腰の負担にそれまでのダメージが加わり、腰を押さえたまま立てなかった。
"勝ってやる! 絶対に、勝ってやる!"
観客から「みな」コールが起こる中、必死に気力を振り絞ったみなが立ち上がった。
そして、コーナーポストを登り始める。
しかしポスト最上段に達した時には桜怜も立ち上がっていた。
素早くポストの下まで進んだ桜怜は、みなのボディにパンチを一発入れると、その身体を重量上げのバーベルの
様に持ち上げ、リングの対角へデッドリー・ドライブで叩き付けた。
"バァーーーン!"
2m近い高さから叩き落されたみなは、再び腰を押さえてうめくしか無かった。
そこへ飛び込んだ桜怜が、みなのボディにヒップドロップを落とした。
"ドォーーン!"
「グエッ!」
この一発でみなの動きが止まった。
桜怜は動けないみなを強引に立たせるとフロントネックの態勢から、その身体をほぼ垂直になるまで持ち上げた。
そのまま後方へブレーンバスターで落とすかと思われたが、次の瞬間みなの身体はそのまま真逆さまに脳天から
リングへと叩き付けられた。
あの故・橋本真也が十八番としていた垂直落下式DDTを、桜怜は必殺技として会得していたのだった。
"ズン!"
鈍い音と共に叩き付けられたみなは完全に意識を失い、動けなかった。
そのままフォールすれば終わりと思われたが、桜怜はみなの両足を取ると逆エビ固めの態勢となった。
「ギャーーー!」
身体が不自然に曲げられる痛さに、みなの意識が戻った。
しかし、それはみなに腰から背骨の激しい痛みを感じさせ、そして敗北を感じさせるだけであった。
"勝ってやる… 絶対に…"
それでも必死に目の前のロープに手をのばそうとするみな。
しかし、身体のダメージはあまりにも大きく、そして圧し掛かった桜怜の身体はあまりにも大きく、重かった。
いかに手を伸ばしても、その身体は1cmも前に進む事は無かった。
"負けたくない… 負けるのはイヤ…"
気持ちは有っても、身体は正直であった。伸ばす手の力も抜けてきていた。
レフリーがみなの状態を確認しようとした時、白いタオルがリングに投げ込まれた。
"カーン"
レフリーがストップを掛ける前に梨華が投げ込んだのであった。
「只今の試合は、TKOで原多 桜怜選手が勝ちました。続いての選手、リングに上がって下さい。」

梨華がリングに上がり、桜怜の逆エビ地獄からようやく解放されたみなに近寄る。
「梨華ちゃん… わたし… ギブアップ… してない…   わたし… まだ… 闘えた…」
動けない身体で涙ながらに梨華に語り続けるみなであったが、彼女のこれ以上の闘いが無理であった事は誰もが
分かっていた。
「梨華ちゃん… ゴメン…」
その一言に、梨華は黒服に担架に乗せられるみなの手をそっと握った。
それだけで、お互いの気持ちは通じた。
"みなちゃんまで…"
医務室へ運ばれるみなを唇を噛みながら見送る梨華の肩が叩かれた。
次の試合に登場するまいであった。
まい「梨華ちゃん、私は最後まで諦めないからね。」
梨華「私だって、諦めないわよ。頑張ってね。」
そう言ってリング下へ降りようとする梨華に、まいが更に話しかけた。
まい「でも私が負けたら、梨華ちゃん、無理しないでね。あんた、弱いんだから。」
梨華「何言ってんの。私だって強いのよ。あんな人達、みんなやっつけてやる!」
その強がりを聞いて一瞬微笑んだまいであったが、気合いを入れ直し相手コーナーを見る。
そこにはタプレンジャーのリーダー早織が、真っ赤な水着で臨戦態勢に入っていた。

まいは現在21歳。年齢的には、リーダーのあさこや梨華よりも一つ年上となる。
彼女は田舎娘。が梨華と共にメジャーデビューした直後に、グループの更なるパワーアップを目指して加入させた
メンバーであった。
北海道出身らしい大らかでサッパリとした性格は時には「オッサン」臭いとも言われたが、皆から直ぐに好かれ
モニプロの中でも人気者となっていた。
一方160cmの身長と持ち前のパワー、そして運動神経は地下リングでも充分に発揮されており、その活躍振りが
認められて田舎娘。では唯一ソロ写真集の発売という実績も有った。
今日は久し振りのリングに大いに張り切っており、チームの惨敗続きにもその気持ちは折れていなかった。

一方の「タプレッド」早織もまた、この試合には賭ける物があった。
前の朝娘。との試合では、れいな,愛という小柄な二人に大苦戦させられ辛うじて倒したものの、あさ美には
完敗と言って良い敗戦を喫していた。
ノルマである二人は倒したとは言え、その結果はリーダーであり、エースとも言われる早織にとってはとても
満足出来るものでは無かった。
トレーニングの成果をぶつけ、そして自らの強さを再度確認したい思って今日に臨んでいたのであった。

「第五試合、山元 早織対郷田 まいを行ないます。」
"カーン"
「トリャーーー!」
ゴングも待てないとばかりに、まいが早織のコーナーまで突っ込みドロップキックを命中させた。
この奇襲にダウンした早織に対し、まいがストンピングの雨を降らせる。
更に早織を引き起こしたまいは、胸元に水平,袈裟切りとチョップを連発し、早織をコーナーへ追い込む。
コーナーに詰めた早織のボディに対して、まいは膝蹴りを連発するとヘッドロックに取った。
そして、そのまま対角線上にブルドッキング・ヘッドロックを決める。
"ドスーン!"
素早く起上がったまいは、うつ伏せの早織の首筋にギロチンドロップを落とすと引き摺り起こし、再びチョップの
連打でコーナーへ追い込む。
まいは早織をコーナーに固定すると、一旦エプロンへ出て外側からコーナーポストへ登る。
そして、固定した早織の後頭部に膝を当てると、そのまま前に倒れ込んだ。
このカーフ・ブランディングで、早織の顔面がリングに叩き付けられた。
まいの農場生活を印象付ける様な大技攻勢に、観客から大きな喚声が起こる。
ここまでの展開で観客は判官贔屓もあって、ほぼ100%がモニプロ側の応援に回っていた。
まいは、早織のこれまでの試合内容を聞き、彼女がスロースターターで有ると感じていた。
早織のエンジンが掛かる前に、少しでもダメージを与えておきたかったのである。
ダウンした早織に対し、まいは腕ひしぎ逆十字を狙い左腕を捕った。
しかし、ここは早織も右手でしっかりグリップして技を極めさせない。
力比べの状態が続いたが、ここはまいが技を諦め、早織の左腕を放すと素早くロープへ飛びスライディングキックを
横になったままの早織のボディに叩き込んだ。
その勢いで、早織が場外へ落ちた。
場外で立上がった早織に対し、まいがロープの間を通り頭から突っ込んでいった。
この捨て身のトペ・スィサイダで早織は観客席近くまで吹っ飛んだが、まい自身もまたそのダメージでなかなか
起上がれなかった。
先に起上がったまいが、大きな喚声と共にリング内に先に戻り、次いで早織が大きなブーイングと共にリング内に
戻り、対峙した。
「いけるよ!まいちゃん!もう一息!」
梨華からの大きな声援が掛かる。
しかし、観客は攻められていた筈の早織にダメージがあまり感じられず、むしろまいの方に攻め疲れの疲労が
有るのを感じていた。
それでも積極的に攻める事で活路を見出したいまいが先に動き、横へ回りながら、ローからミドルキックを狙う。
早織はそれをガードしながら、こちらもキックを出して行く。
いかにも重そうな早織のキックがまいを防戦一方に追込み、まいのキックが徐々に出なくなってきた。
そして、まいが徐々にコーナーに押し込まれる。
「くそー!」
まいは思い切って正面から飛込んだ。
首相撲の態勢で一瞬押し込むと、上から早織の首筋にエルボーを叩き込む。
早織がその攻撃で膝を着いた。
が、次の瞬間、まいの身体が浮き上がり、後方へ飛ばされた。
さおりが立上がると同時に、十八番の掌底をアッパーカットの要領でまいのアゴに叩き付けたのだった。
ゆっくりとダウンしたまいの方へと進む早織。
しかし、まいも寝転んだまま早織の足を狙ってキックを出す。
「ウォー!」
一声上げた早織はジャンプするとまいの胸板に、ヴァンバレイ・シウバ張りの踏み付けを狙う。
これは寸前交わされたが、早織はまいの腰の辺りにキックを叩き込む。
「グフッ!」
その威力にまいの口から思わず声が出る。
まいは何とかロープまで転がる様に逃げ、レフリーのブレイクを待つ。
ブレイクで立上がったまいに対して、早織は今度は格闘技スタイルのポーズを取った。
そして、掌底とキックのコンビネーションでまいを追い込んで行く。
特にそのキックはガードの上からでも、まいのダメージを蓄積させていた。
徐々にガードも甘くなりだし、早織のローキックがまいの太ももに当たり始めた。
"ビシッ ビシッ"
一発当たる度にまいのバランスが崩れ、太ももの色が変色していく。
前の試合であさ美のキックに苦戦した早織は、このキックを集中的に磨いていたのであった。
"バシン!"
強烈なローキックが完璧にまいの太ももを捕え、遂にまいがダウンした。
しかし早織はダウンしたまいを手招きし、立たせようとする。
それに応じて何とか立ち上がったまいであったが、技を出す事が出来ずただ棒立ちで早織の重いキックを受け続ける。
"バン!"
再びローが命中し、まいがダウンする。
起上がろうとするまいであるが、脚の大きなダメージによりなかなか立ち上がれない。
それを見下ろしながら、手招きする早織。
"クソー"
必死に立ち上がったまいに早織のローが入り、膝をつく。
そして、その胸元にミドルキックが炸裂した。
後方へ吹っ飛ぶまい。
「まいちゃーーーん!」
またしても、梨華の悲鳴が上がる。
早織はまいを立たせると両肩を掴み、ボディに膝を叩き込んだ。
「グアッ!」
またしてもリングに崩れ落ちるまいに、レフリーのカウントが入る。
「まいちゃーーん」
観客の「まい」コールと梨華の声援に支えられ何とか立ち上がったまいであったが、身体に力が入っていないのは
誰の眼からも明らかであった。
そこへ助走を取った早織が、何とドロップキックを叩き込んだ。
観客からも驚きの声が上がったが、バスケットボールで鍛えた早織の運動能力の高さを示した一発であった。
これにより、コーナーまで飛ばされたまいに対し、素早く起上がった早織はヒップドロップを落とす。
「グエッ!」
悲鳴を上げてのたうつまいに対し、早織はリング中央に戻ると、またも "立て" とばかりに手招きする。
その態度に観客からブーイングが起こる中、まいはロープを掴み必死に立ち上がる。
ゆっくりと近付いていった早織に対し、まいは最後の力を振り絞ってパンチを狙うが、その力無いパンチは余裕を
持って交わされ、そして早織の狙いすました掌底が、まいの顔面にカウンターで叩き込まれた。
"バッシーーーン!"
再びコーナーまで吹き飛ばされるまい。
まいを引き起こした早織はボディスラムの様な態勢を取ったが、首は下向きにしっかりと固定されていた。
早織の必殺技、ノーザンライトボムの構えである。
早織はそのままの態勢で暫く観客や梨華にアピールした後、脳天からまいをマットに叩き付けた。
そして立ったままでまいの胸を踏み付け、激しいブーイングの中フォールの態勢を取る。
「ワン、ツー、スリー」
"カーン"
「只今の試合は、フォールで山元 早織選手が勝ちました。続いての選手、リングに上がって下さい。」

"とうとう、まいちゃんも…"
またまた担架で運ばれて行く仲間の姿を見詰めるしかない梨華。

たった一人でタプレンジャーに立ち向かうしかなくなった梨華の前に、反対コーナーでは綾乃がリングインしていた。

inserted by FC2 system