『ミス漫画人-4』
リングには岩浅 真悠子と背戸 早妃が上がっていた。 

一回戦で康田 美沙子相手にまさに圧勝した早妃はその時と同じブルーのスポーツビキニを身に付け、相変わらずの
クールな表情でウォーミングアップを行なっていた。

対戦相手となる真悠子は早妃より一つ年下の現在19歳で、ミス漫画人では早妃と同期のグランプリ受賞者であり、
155cmと小柄ではあるが、83-58-86とバランスの取れたスタイルとエキゾチックで完成度の高いルックスの持ち主である。
グランプリ受賞後は数多くのグラビアを飾り、更にバラエティでは辛口トークが冴え、また女優としても活躍の場を
広げつつあった。
そのあまりに完成されたルックスから年齢詐称疑惑もささやかれたが、その誤解は解けたようであった。
一方ヤンキー疑惑については本人も完全には否定しておらず、その面でも今回の闘いっ振りは大いに注目されていた。

レフリーの注意の為、一旦リング中央に呼ばれる両者。
白のビキニを見に付けた真悠子が鋭い視線で挑発するが、早妃は変わらずクールな表情を保っていた。
観客からは、先程のあまりの早妃の強さも有って、真悠子への声援が多く送られていた。

「第五試合、岩浅 真悠子 対 背戸 早妃を行ないます。」
"カーン"

ゴングと共にリング中央へ進む二人。
組み合うかと思われた瞬間、真悠子の口から水が噴き出され、それが早妃の目を直撃した。
「キャーー!」
真悠子は一旦コーナーに戻った際に、うがい用の水を口に含んでいたのであった。
前の試合では全く無かった悲鳴と動揺を見せる早妃が、真悠子に背中を向ける。
そして、そこを攻め込む真悠子。
両手を合わせると、パンチを早妃の背中に叩き込む。
更に真悠子は、その一撃でダウンした早妃の背中にキックを浴びせかける。
"ガスッ,ガスッ,ガスッ!"
そして、真悠子は早妃を場外に蹴り落とす。
自らも場外へ降りた真悠子は観客から椅子を奪うと、それで早妃をメッタ打ちにする。
"バスン,バスン,バスン!"
早妃の髪の毛を掴み引き摺り起こした真悠子は、髪を掴んだまま早妃の額を鉄柱に叩きつける。
"ゴォーーン!"
鈍い音が会場に響き、早妃がその場に崩れ落ちる。
一旦早妃から離れた真悠子はエプロンに乗るとジャンプ一番、ニードロップを早妃の首筋に叩き込む。
"バシン!"
ダウンしたままの早妃に対し、真悠子は再度椅子を手に取ると大きく振りかぶって早妃の腰に叩き付ける。
"バシーーーン!"
またしても、会場に大きな音が響き渡る。
攻撃の手を休めない真悠子は、再び早妃の髪の毛を掴んで立たせる。
立たされた早妃の額が血で赤く染まり始めているのが、観客からも見て取れる。
そして真悠子は再び早妃の髪の毛を掴むと、額を鉄柱にぶつけようとする。
しかし激突寸前、早妃は両手を出しガードする。
その態勢で止まった両者であったが、次の瞬間早妃の足が動き、後方にいる真悠子の足をすくった。
「アッ!」
"ドスン!"
タイミング良く軸足をすくわれた真悠子が、その場で尻餅をつく。
慌てて立ち上がった真悠子に、態勢を立て直した早妃のローキックが炸裂する。
"バッシーーン!"
「アーーッ!」
その衝撃にたまらずダウンする真悠子。
早妃がそこへ襲い掛かろうとするが、真悠子は何とエプロンをくぐるとリングの真下へ逃げ込む。
早妃は深追いを嫌い、リングに上がると深呼吸をして呼吸を整えると共に、気持ちを落ち着ける。
"落ち着かなくっちゃ、彼女のペースに巻き込まれちゃダメ!"
暫く経って真悠子もリングに上がってきたが、エプロンからは上がろうとしない。
レフリーと共に早妃が真悠子に近付く。
またも真悠子の口から水が噴き出されるが、早妃もこれは避ける。
しかし、これはおとりであった。
避けた早妃の顔面に、真悠子は何か粉状の物を叩き付ける。
どうやらリング下で集めたゴミの様であったが、それに怯んだ早妃のボディにキックを連発する真悠子。
リング内に入った真悠子は、早妃の額に噛み付き攻撃を仕掛ける。
"ギャーー!"
叫ぶ早妃であったが、これは反則でありレフリーがブレイクする。
しかしこれにより、早妃の額からの出血が激しくなった。
真悠子は早妃の額にキックを連発して、その出血を更に激しくする。
このラフファイトに観客からも徐々に早妃への声援が大きくなる。
その中で、フォールの態勢に入る真悠子。
「ワン、ツー…」
ここはカウントツーで早妃が返す。
ならばと、更に額へのキック攻撃を続ける真悠子。
"ガツン!ガツン!ガツン!"
このキック攻撃で早妃の額からの出血が激しくなり、早妃の顔面を赤く染めていく。
"ガツン!ガツン!ガツン!…"
尚も真悠子の容赦無いキック攻撃が続くと、真悠子のリングシューズやマットも赤く染まり出していき、そして早妃の
反応が徐々に鈍くなっていく。
"ヨシッ!"
早妃の反応に勝利を確信した真悠子はそのまま覆いかぶさると、フォールの体勢に入る。
「ワン、ツー、ス…」
しかし、早妃はそれを撥ね返す。
ならばと真悠子は早妃の髪の毛を掴んで引き摺り起こす。
立たされた早妃は顔面から上半身を赤く染めていたが、その目は死んでいなかった。
立ち上がった次の瞬間、早妃は真悠子のボディに両手を回すとバックドロップで叩き付けた。
"ドカーーン!"
油断しており、受身を取る事が出来なかった真悠子はリングに後頭部をまともに叩き付けられ、脳震盪状態となる。
目に血が入り良く見えない状態の早妃ではあったが、手探りで真悠子の右足を取るとアンクルホールドを極める。
"エッ!?"
足首が極められる痛みに真悠子の意識が戻った。
そして、襲ってくる痛みに大きな悲鳴を上げる。
「ギャーーーー! イタイッ!」
何とか技を解こうと暴れる真悠子であったが、完璧に極まった状態では逃げ出すことは不可能であった。
ここが勝負と見た早妃は、一段と力を込める。
「ギャッ!  ギブアップーーー! 助けてーーー…」
その痛さに思わず「ギブアップ」を口にする真悠子。

"カーン"
「只今の試合は、ギブアップで背戸 早妃選手が勝ちました。続いての選手、リングに上がって下さい。」

ゴングと共に早妃の手から力が抜け、その場へ崩れ落ちる。
大量の出血による貧血を起こしたらしい。
慌ててリングドクターが上がると早妃に応急処置を施し、そのまま早妃は担架で医務室へ運ばれていった。
一方敗れた真悠子も技が解けた後も右足首を押さえ、立つ事が出来ない。
遅れて担架に乗せられると、そのまま医務室へ運ばれていく。
ラフファイトで早妃を追い詰めた真悠子と、一瞬のスキを突いて逆転勝ちした早妃の双方に大きな拍手が送られる。

その中、リングには一回戦でこちらも中河 翔子に圧勝した山咲 真実と、対戦相手となる小坂 由佳が上がっていた。
前の試合同様ミス漫画人同期対戦となったが、169cm 84-59-87の真実に対し、由佳も168cm 88-58-84と共に長身で
似た体型をしており、同い年で最後までグランプリを争い、またその後のCM共演も有ってお互いにライバル意識を
持っていた。
特にグランプリを由佳に奪われ、その後の仕事でも事務所の力も有ってちょっと差を付けられている真実に取って
その意識は大きく、大会が決まった当初から由佳との試合を熱望していた。
前の試合同様の超ビキニでのウォーミングアップにも力が入る。
一方の由佳は真実の予想を上回る強さに、リング上でも動揺を隠せないでいた。
判官贔屓も有って浴びせ掛けられる大きな喚声に応えることも出来ず、イエローの大人しめのビキニ姿でコーナーに
立ちすくんで、真実のウォーミングアップを見ているだけだった。
「山咲、小坂」
レフリーの呼び掛けで我に返った感じの由佳であったが、まだリングの上にいるという現実感が無い様にも見えた。
元々おっとりとした格闘技向きとは思えぬ性格も有って、観客の目にも試合前から勝負は見えている様だった。

「第六試合、小坂 由佳 対 山咲 真実を行ないます。」
"カーン"

ゴングの音で由佳は一気に開き直った。
"行けーー!"
がむしゃらに突っ込んでいく由佳。
しかし次の瞬間、由佳はまるで交通事故にでもあったかの様な衝撃を受けた。
"バッシーーーン!"
由佳の突進に一瞬戸惑った真実であったが、次の瞬間一歩踏み込むと無防備に突っ込んできた由佳に対し、見事な
ローリング・ソバットをカウンターで炸裂させたのであった。
由佳はその衝撃に吹っ飛び、仰向けにダウンする。
何が起こったか把握出来ない状態の由佳がフラっと立ち上がる。
その側頭部へ、余裕を持った真実の狙い澄ましたハイキックがクリーンヒットする。
"パシーーン!"
そのまま、前のめりに崩れ落ちる由佳。
レフリーはピクリとも動かぬ由佳の様子を確認すると、カウント無しでゴングを要請した。

"カーン"
「只今の試合は、KOで 山咲 真実選手が勝ちました。続いての選手、リングに上がって下さい。」

二試合続きで圧勝した真実は、四方の観客に手を振り、更に前の試合同様カカト落としを見せアピールする。
その後真実は、完全KO状態で担架に乗せられ医務室へ運ばれて行く由佳に付き添って花道を帰って行く。
由佳が眠るベッドの傍に付き添った真実は、ずっと次に対戦する早妃の底知れぬ実力を思い出していた。
『早妃ちゃんは強い… どうやったら、勝てるのかな? 
 捕まったら、ダメかも…
 でも、ショコタンや由佳ちゃんの為にも優勝しなくっちゃ。』
そのまま由佳が目覚めるまで作戦とイメージトレーニングを続ける真実の表情は、徐々にアイドルらしい物に
戻っていった。

inserted by FC2 system