『ミス漫画人-6』

「ミス漫画人トーナメント」の初日が終了しベスト4が出揃った数週間後、都内某所のトレーニングジムに
連日現れては黙々とサンドバッグでキックの練習をする山咲 真実の姿があった。
一、二回戦の翔子,由佳との試合こそ共に大楽勝であったが、準決勝の相手となる早妃の底知れぬ実力には
恐れを感じており、それを吹き払う為にもトレーニングに打ち込んでいるのであった。
インストラクションを読みながら、また時にはジムのインストラクターのコーチを受けながら、得意のキックに
磨きを掛ける事に専念する真実は、そのキックに早妃を倒す突破口を見出す作戦であった。
そして、そのキックはインストラクターが驚くほどの成長を遂げていた。

また同じジムには、こちらもベスト4へ勝ち残った夏芽 理緒が姿を見せていた。
彼女も一、二回戦のぁみ,きいとの試合は、相手が小柄ということも有って順当勝ちであったが、次の桜怜には
体格ではむしろ劣っており、実績も自分が下である。
しかし、大会前から最も闘いたい相手に桜怜を挙げていた理緒だけに、意地でも負ける訳にはいかなかった。
桜怜対策にパワーアップの為の筋トレと、パンチ力強化を目指しトレーニングを積んでいた。
そして、観客から受けた「ブ○」コールを見返し、これからの仕事の為にも何をやってでも優勝したかった。
相手を動揺させ勝つ為なら、これからも水着剥ぎもやる覚悟であった。

同じジムという事で、時にはお互いを認める事も有った真美と理緒であったが、鋭い視線を交し合うだけで
挨拶は無かった。
そして、他の入場者達に取っても、二人にはとても声を掛けられる雰囲気では無かった。

一方、こちらは某プロレスジム。
やはりベスト4に勝ち残った背戸 早妃がトレーニングをさせて欲しいと頭を下げている相手は、レスラーの
阪田 亘であった。
かつて古池 栄子,渡辺 麻由と共に巨漢レスラー嵐死へのリベンジの為、栄子の彼氏と言われる阪田の下で
トレーニングを積んだことが、ベスト4へ勝ち残った原動力となっていた。
しかし、真悠子戦の苦戦が彼女に再度のトレーニングを決断させた。
とは言え、前回口利きしてくれた栄子とは現在は袂を分かっており、阪田も当初は返事を渋った。
しかし、早妃の真剣さが前回のリベンジ時とも変わらぬ事を確認した阪田は最終的には快諾し、早妃の阪田の
下でのトレーニングがスタートした。
アイドルの表情を捨て、鬼気迫る雰囲気で傷だらけになりながらトレーニングを行なう早妃の姿に阪田は栄子の
若い頃を思い出し、今回の優勝を確信していた。

さてベスト4残りの一人原多 桜怜であるが、怪我で休養中の明日香を除くタプレンジャーのメンバーとの合同
トレーニングに励んでいた。
スパーリングが一段落付き、休憩時間となり話し始める4人。
早織「やっぱり、明日香がいないとちょっと寂しいわね。今でも一番のタプだし。」
綾乃「それが腰に負担掛けちゃったのかな? でも、のなみんもまたタプってきたし、最近強いよね。
   何か有ったの?」
乃南「えへへへへ… それはヒ・ミ・ツ…」
籠 亜依とのお仕置きマッチは黒服から固く口止めされており、タプレンジャーにも話せぬ乃南であった。
早織「オーレはミス・漫画人トーナメントでベスト4まで行ったらしいね。当然、優勝よね。」
桜怜「でも、流石に勝ち残った人達は強いわよ。早妃ちゃんは本格的に鍛えられているし、真実ちゃんは物凄い
   運動能力だし、理緒ちゃんなんて平気で相手の水着脱がせるし。」
その言葉に一瞬乃南の顔色が変わったのには、他メンバーは気付かなかった。
桜怜「あ、そう言えば、沙也ちゃんとの試合の後輪田さんが『早織ちゃん達に宜しく』って言ってたけど、
   何か有ったの?」
早織「輪田さんが、そんな事を…」
驚いた早織であったが、明日香,綾乃と共に輪田を襲った件を、知らなかった桜怜と乃南に話す。
桜怜「そんな事が…」
綾乃「でも、流石に大物ね。そんな事を言ってくれるなんて。」
早織「色々な因縁が有る物ね。そうそう、因縁と言えばもしかしたらタプレンジャーの5人目はオーレじゃ
   なくって、今度闘う理緒ちゃんだったかもしれなかったのよ。」
桜怜「そうなの?」
再び、早織と綾乃がメンバー選びの時の話をする。
そして理緒がメンバーに選ばれなかった理由に頷く二人。
特に桜怜は先日の『ブ○コール』」を思い出していた。
綾乃「でも、彼女も結構パワーが有るし精神面でもオーレは負けちゃいけないよ!」
乃南「あっちんの方が何かお姉さんみたいね。」
綾乃「フットサル(ミニサッカー)チームでは一番若いのに『おかん』って言われてるからね。今年から
   キャプテンにもなったのよ。」
早織「私も理緒もフットサルやってるけど、確かに彼女はパワーも根性も有るわね。
   油断しちゃダメよ、オーレ。」
桜怜「勿論よ。私には優勝しなくてはいけない理由も有るしね。」
メンバーには言ってなかったが、桜怜は事務所からの契約打切りを伝えられており、大好きな仕事を続ける
為にも絶対優勝する必要が有った。

それぞれの思いがぶつかり合う二日目当日がやって来た。

まずリングに上がったのは、黒のスポーツビキニを着た早妃であった。
リング上でウォーミングアップをする早妃は相変わらずのクールな表情ではあったが、一段と引き締まった
身体には少なからぬ傷が付いており、今回に賭ける熱い思いが観客にも伝わってきていた。

一方の花道からリングに上がった真実がガウンを脱ぎ捨てた瞬間、観客からは驚きと共に落胆の声が上がった。
そのコスチュームは観客が期待していた超ビキニでは無く、単なるセパレーツでしかも下半身は膝近くまで
覆い隠したスパッツ姿であった。
強敵早妃の打倒にそのキックに総てを賭ける決意をした真実は、余計な心配を除く為このコスチュームを
選んだのであった。
リング上でいつものウォーミングアップを行なう真実もまた、観客へのサービスよりも勝負に賭けていた。

「準決勝第一試合、背戸 早妃 対 山咲 真実を行ないます。」
"カーン"
リング中央に進み組合おうとする早妃に対し、『組んでは勝ち目は無い』と考える真実は前蹴りで牽制すると、
ハイキックで早妃の側頭部を狙う。
これはしっかりとガードした早妃であったが、約10cmの身長差もあり、なかなか飛び込めない。
長くそして高く上がる脚を利して前蹴りで早妃を飛び込ませず、折を見てハイ,ミドルを狙う真実の
ファイティングスタイルは早妃に取っても予想外且つ初めて接する物であり、対応に戸惑っていた。
真実は早妃を徐々にコーナーに追い詰めると、カカト落としを狙う。
"ドォーーン"
それをギリギリ交わした早妃が距離を詰めようとするが、真実は素早くバックステップを踏むと更にバック転で
再び距離を取り、またも前蹴りで距離を保つ。
距離を詰める事を諦めた早妃は今度は前蹴りに来る足をキャッチしようとするが、真実もそれは許さない。
膠着状態にじれた早妃は、真美が前蹴りに出た瞬間にその足元へ自らの足からスライディングを狙う。
しかしこれは真実が交わし、ダウン状態になった早妃に対し上からのストンピングを狙う。
早妃はこれを転がって避けると、そのまま場外までエスケープする。
「フーー…」
大きく深呼吸をしてリングに上がった早妃は真実に正対せず、周囲を回りながらのローキックを狙うが真実も
前蹴りで距離を保ちそれを許さない。
そして真実は大きく踏み込むと、後ろ回し蹴りを狙う。
"ビューーン!"
早妃はそれを交わすとタックルを決めそのままダウンさせるが、真実は綺麗なブリッジで一回り小柄な早妃を
身体の上から払い除ける。
そして長い脚を早妃のボディに絡めると、ボディ・シザースで締め上げる。
「ギブアップ?」
レフリーの問い掛けに首を横に振る早妃は、ボディを締められながらもこちらも綺麗なブリッジで体勢を
変えると、真実の足首を取りにいく。
力比べが続いたが、足首を取られそうになった真実がここは嫌った。
体勢を崩すと、早妃の背中を蹴って再度距離を取る。
距離を詰める早妃に対して前蹴りを狙う真実であったが、足が充分に上がらず早妃のキックが前足に炸裂する。
"ピシッ!"
更にバランスを崩した真実の軸足に、早妃の強烈なローが炸裂する。
"ピシッ!"
この一撃で真実がその場へ崩れ落ちる。
その足を取った早妃はアキレス腱固めに極める。
この一連のスピーディーな動きに観客から拍手が起きる。
逆に真実は初めて食う関節技の痛みに頭を抱え、そして何とか逃げるべく両腕の力でロープへ近寄る。
「ブレイク!」
レフリーの声に一旦離れた早妃であったが、真実の脚にストンピングを連発すると今度はレッグ・ロックで
真実の脚を殺しに掛かる。
しかし、これは真実の身体がロープに近くブレイクとなる。
「ブレイク!」
真実の両足を取った早妃は真美の身体をリング中央に戻すと逆エビを狙うが、パワーで上回る真実はこれを
許さない。
ならばと早妃は再び真実の片足を取り、アキレス腱固めを極める。
今度は身体を転がしてロープへ逃げる真実。
「ブレイク!」
早妃は今度は真実が起き上がるまで待つと、狙い済ましたローキックを真実の太ももに叩き込む。
"ビッシーーーン!"
その一撃で真実は、再びその場に崩れ落ちる。
ロープを掴んで何とか立ち上がった真実であったが、その太ももには赤いミミズ腫れが残っていた。
早妃は、更にもう一発同じ場所へローキックを叩き込む。
"ビッシーーーン!"
「アーーーー!」
またしても、真実は激痛に悲鳴を上げながらその場へ崩れ落ちる。
再びロープを掴んで立ち上がる真実であったが、そのダメージの大きさは観客からも明らかであった。
早妃はその真実にゆっくりと近付き、止めの一発を狙う。
"ボスッ!"
しかし、次の瞬間リングに崩れ落ちていたのは早妃であった。
ロープの反動を使った真実の起死回生の後ろ回し蹴りが、早妃のボディに命中したのであった。
ここがチャンスと見た真実は痛めた足をケンケン状態のまま、ボディを押さえる早妃に近付くとキック攻撃を
仕掛けるが、痛む足ではキックの威力が不充分である事を感じ、早妃の後方へ回り込むとスリーパーを狙う。
力任せにギブアップを狙う真実であったが、関節技のトレーニングの差がここで出た。
真実のスリーパーを上手く外した早妃は、逆に真実の後方へ簡単に回り込むとお返しのスリーパーを狙う。
更に暴れる真実の片腕を取ると、今度は後方からの三角締めへ移行する。
ガッチリと極まった三角締めに、暫らくもがいていた真実の動きが止まる。
それを確認したレフリーがゴングを要請した。

"カーン"
「只今の試合は、TKOで背戸 早妃選手が勝ちました。続いての選手、リングに上がって下さい。」

決勝進出を決めた早妃は一瞬喜びにアイドルらしい表情を見せるが、次の瞬間にはまたクールな表情に戻り
リング上で失神状態となっている真実を気遣う。
そして真実が意識を取り戻したのを確認すると一旦控え室へ戻り、決勝戦の準備を整える。

そしてリングには、第二試合の二人が向かおうとしていた。

inserted by FC2 system