第九試合
いよいよ決勝戦となった。対戦カードは瀧沢沙織×藤原紀華となった。長身を生かす沙織に、打撃の紀華の攻防に期待が集まる。身長も沙織が174cmに対して紀華が172cmと互角だ。しかし、沙織は比較的ダメージが少ないのに対して、紀華は米蔵涼子、香理奈の2戦とも大きくダメージを負ってしまっている。ここは意地と気持ちで勝って勝利を収めているものの、紀華にとっては不安材料だ。沙織が紺色のビキニで先に現れた。スタミナに余裕があるのか、盛んにシャドーボクシングをしながら、身体を動かしている。紀華の登場が少し遅れているが、やはりダメージの蓄積が大きいのか?観客は紀華が出てこない事に少し苛立ってるようだが、沙織がリングを盛んに動き回ってアピールするので、上手く場が収まっている。そして、今ようやく紀華が現れた。紀華は黒のビキニを身に纏っている。「やっと来たわね、ビビッてるのかしら」沙織が煽っていくが、紀華は沈黙を貫いている。紀華は試合で見せてやると言わんばかりの目つきで睨みつけている。『カーン』今、決勝のゴングが鳴った。ゴングが鳴ると同時に沙織が飛び膝蹴りを打っていった。紀華はこれは読んでいたのかかわしてタックルで潰しにかかる。沙織も踏ん張ると、逆にヘッドロックで締め上げていく。紀華は外そうとするが、沙織は腰を落として締め上げる。紀華は厳しくなるが、それでも耐えてなんとか外した。開始早々だがこれまでのダメージが溜まってるのかうつ伏せになる紀華。沙織は容赦なく倒れてる紀華の頭にサッカーボールキックを入れる。バキッ、「うぅ、ヒドイ」紀華は頭を抱えて思わず弱音を吐く。沙織の強烈なキックに観客もどよめく。沙織はリフトアップするとそのまま叩きつけてフォールに入った。『ワン、ツー、スリ』ぎりぎりだが、それでも意地で返した紀華。ペースは完全に沙織が握っている。沙織は紀華の髪の毛を掴んで起こすと、コーナーに振っていった。沙織は走っていくと右足を高く上げて紀華の顔面にヒットさせた。沙織は紀華をコーナーに座らせると自分も登ろうとするが、紀華が突き落とすと、仰向けに倒れてる沙織に素早くフットスタンプを打っていった。「ぐぇぇぇ」嗚咽を漏らして苦しむ沙織。ここで流れを断ち切る紀華は流石と言う所か。しかし、紀華も疲労が溜まってるのかすぐには動けない。その間に沙織が回復して起き上がった。お互いに様子を見合うが、沙織は自らの身体をロープに振るとラリアットを打っていった。紀華は冷静にかわすと、バックをとってバックドロップを放った。沙織の身体を宙に弧を描くと綺麗に決まった。バターン、堪らず沙織は場外に転げ落ちるようにしてエスケープした。紀華は場外に追いかけると、沙織の額を鉄柱にぶつけていった。沙織は目を閉じて倒れこむ。紀華は沙織をリングに戻すと、DDTを打っていった。紀華はフォールに入った。『ワン、ツー、』カウント2で返す沙織。両者体勢を立て直して睨み合う。沙織は一気に距離を詰めると長い脚を生かしてミドルキックを打っていった。紀華はガードできずにまともに喰らうが、怯まずに前に出てミドルキックを打ち返した。ここはかわす沙織だが、紀華の闘争心に驚いたのかここは前蹴りで距離を取ろうとする。紀華は沙織が消極的になっているのを見抜いたのか強引に距離を詰めるとタックルで倒していった。紀華は沙織の胸を鷲づかみにすると、体重をかけていく。沙織は一瞬苦しそうな表情を浮かべるが、すぐさま近くのロープを掴んでブレイクした。紀華は先に起きると、助走をつけて沙織の顔面に膝蹴りを浴びせた。バキ、「うぎゃあぁぁ」ノーガードで顔面を攻撃されてのた打ち回る沙織。紀華はチャンスとばかりにコーナーによじ登ると、膝を沙織の後頭部に落とした。ドン、痛がる沙織を仰向けにして、フォールに入る。『ワン、ツー、スリ』沙織はギリギリの所で返すが、開始当初の躍動感は消え去った。紀華はドンドン攻めたいところだが、返されてしまって攻め手を失っているようだ。紀華は気持ちを持ち直すと、パワーボムの体勢に入るが、強引すぎたのか沙織に返されて投げられてしまった。沙織は仰向けに倒れている紀華の首にギロチン式で脚を落とした。鋭い攻撃に一撃で動きを止められる紀華。沙織は紀華にスリーパーをかけた。沙織は自分の体力を回復させて落ち着かせると伴に、紀華に確実にダメージを与える作戦だ。紀華は目を虚ろにさせながらロープを目指すが、ロープは遠い。沙織は長い両脚で懸命に踏ん張るが、紀華もじわりじわりと身体を前進させる。喘ぎながらも紀華は沙織の横腹に肘うちを入れるなどして体勢を崩そうとする。沙織は紀華の反撃にスリーパーを解くも、紀華の両肩に手を乗せると背中に強烈な膝蹴りを叩き込んだ。ドス、「あぅぅぅ」紀華は呻き声を上げながら苦悶の表情を浮かべて倒れこむ。レフリーは紀華の様子を見て一度試合をストップさせた。沙織は判定には不満顔だが、強烈な一撃を決めて満足そうだ。「ひっ、ひっ、うぅぅぅ」紀華にしては珍しく泣きそうな表情になりながら苦しんでいる。紀華がロープを掴んで起き上がろうとすると、沙織が再び強烈な膝蹴りを紀華の背中に見舞った。「あうぅぅぅ」紀華は堪らず場外へエスケープすると、沙織は追いかけて紀華を捕まえた。沙織は紀華をリフトアップするが、紀華は抵抗できない。沙織はそのまま紀華を背中から叩きつけた。紀華は一瞬呼吸が止まってパニックになり、苦しんでいる。沙織はそんな紀華を尻目にリングに戻ってきた。場外カウントが進む。10まで進んだが、紀華はまだ起き上がらない。15を数えたあたりでようやく起き上がりかけて、エプロンサイドに腕をかけたが、もはや力は残ってないのかなかなかリングに上がる事ができない。リングアウト負けかと思われたが、沙織が強引にリングに引き上げた。紀華は不審な目つきで沙織を見ると、沙織はニヤッとして勝負を決めにかかった。沙織は紀華にエビ固めをかけていく。紀華は痛めつけられていた背中を曲げられて悶絶している。沙織は容赦無く体重を落としていくと紀華は動きが止まってしまった。ロープに必死に手を伸ばす紀華だが、かなり険しい表情をしている。劣勢にも勝負をあきらめない紀華の姿勢に観客は紀華コールを送る。紀華は依然ロープが遠い、苦痛の表情を浮かべる『カーンカーンカーン』ここでレフリーがゴングを要請した。『レフリーストップで瀧沢沙織の勝利とします』場内アナウンスが流れるともう少し見たかったというブーイングが少し聞こえたが、すぐに両者の健闘を讃える拍手に変わった。沙織は倒れている紀華に握手を求めると、紀華は背中を押さえながらも応える。聞き取れないが何やら言葉を掛け合っている。試合後の興奮が落ち着くと、表彰式が行われた。『優勝:瀧沢沙織』沙織は名前が呼ばれると笑顔で手を振りながらトロフィーを受け取った。栄えある第一回大会を制した沙織はこれをきっかけに更なる飛躍ができるか楽しみだ。『準優勝:藤原紀華』紀華は優勝を目指していただけに喜べない準優勝になってしまったが、それでも紀華程のビックネームが決勝まで残ったおかげで大会が大いに盛り上がった。いずれにしても慢心創痍の中で身体を張って優勝を目指し続けたファイトは観客の心を掴んだのか、沙織よりも紀華への歓声の方が多く聞こえる。
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