3日目
昨日快勝し、余裕の発言までした香理奈は試合前のアップにも気合が入る。バシィ、バシィ、最後に軽快にサンドバッグを2,3発蹴り飛ばすと、青色のスポーツビキニに着替えてリングに姿を現した。続いて反対側のコーナーから注目の対戦相手が登場してきた。なんと出てきたのは米蔵涼子だ。互いにコーナーポストからリング中央まで出てきた。「昨日は消化不良だったけど、今日の相手なら大丈夫そうね。楽しみだわ」香理奈が声をかけると「あら、光栄ね。確かにあなたとならいい試合が出来そうだわ。私も楽しみよ」余裕で返す涼子。ゴングが鳴る前から緊張感あるやり取りに会場も緊張感が増していく。「カーン」今、まちわびたゴングが鳴った。会場は緊張感から解き放たれ、興奮と期待が入り混じった雰囲気になってきた。香理奈は得意の打撃で仕掛けていく。涼子もそれに乗り打撃戦になった。香理奈はミドルキックをいれながら右ストレート中心で涼子の顔面を狙っていく。一方の涼子はローキックで香理奈の下半身に的を絞り、香理奈の右ストレートをガードしながらカウンターを狙っている。リング中央での打撃戦から徐々にパワーで勝る香理奈が涼子をコーナーポストに追い詰めていく。予想以上の香理奈の猛攻に焦りの表情を浮かべる涼子「はっ、はっ、はっ、なんて重たい打撃なの」香理奈はミドルキックを打つのを止め、右ストレート一本で涼子の顔を殴りつけていく。懸命にガードする涼子だが、ガードの上からでも効いてるのは明らかで、香理奈がパンチを打つ度に大きく上体が揺れている。相当苦しそうだが、それでも耐える涼子に香理奈は必殺のハイキックを放った。バシィ、ガードしきれず、涼子は目は虚ろになり、左の頬骨の上の辺りから流血してきた。昨日のまさみの再現かと思われたが、流石、涼子ふらついているものの踏ん張っている。尚も香理奈は涼子の顔面を狙うが一気に勝負を決めにかかっているのか、大振りになって捉えきれない。涼子はガードしながら体勢を立て直すと、ラグビー選手のような見事なタックルで香理奈を倒した。瞬く間に形成逆転し、涼子がマウントポジションを奪うが、香理奈は涼子の両手をがっちり掴んでいるので、涼子は殴りつけれない。仕方なくヒップを落としてボディーを狙うが、あまり効いてるとは言い難い。次第に、二人とも動きが止まり、膠着状態になったので、レフリーがスタンディングに切り替えるように指示をだした。香理奈は上手くピンチを抜け出し、涼子としても攻める機会は失ったが、休むことができ、両者とも納得の指示であった。再びリング中央からの開始となった。「あなたの得意な打撃でいきましょう」涼子がそう言うと、香理奈は遠慮無くミドルキックとパンチを打っていった。涼子もローキックを打ちながらもパンチで応戦していく。今度は香理奈のパンチは涼子に読まれているのかあまり当たらなくなっていった。涼子は香理奈程の威力は無いが、的確に香理奈の顔にパンチを当てていく。苛立つ香理奈だが、すぐにパンチ主体からミドルキック主体に切り替えた。涼子のバンチが香理奈の顔面をまともに捉え始め、何度も苦しい表情を浮かべる香理奈「うぐぅ」しかし、香理奈のミドルキックも決まり始める。涼子もパンチが香理奈の顔を捉えるものの、なかなか決定打を打てずに、次第に攻め手を失っていく。涼子が停滞している間に香理奈が勢いづいてきた。ミドルキックを中心に右ストレート、ハイキックが涼子の流血部分を捉え始める。涼子はまたしてもガードを固める展開になるが、コーナーポストがない分、蹴り倒されるように倒れてしまった。マウントポジションは取られまいと抵抗する涼子だが、流血からか一瞬の判断が鈍ったのか簡単にマウントポジションを奪われてしまった。香理奈は上から涼子の流血部にパンチを打っていく。強烈なパンチが涼子の流血部分にヒットさせていく。涼子もガードするが、香理奈は冷静にパンチを打っている。「きゃあ〜、痛い」珍しく弱音を吐く涼子。「いつもは強がってるけど、実は弱い所を有るんだね」香理奈がそう言うと、涼子は香理奈の右腕を素早く取り、腕ひしぎの体勢に入った。両手を繋いで何とか腕が伸びるのを防ぐ香理奈だが、涼子は容赦無く香理奈の右腕を引っ張る。「この腕が伸びちゃうとどうなるかなぁ?」涼子がそういうや否や、香理奈の右腕は伸びきった。「痛い、痛い、あうぅ」「誰に弱い所があるんだって?」涼子はさらに強く腕を引っ張った。「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁ、いたい、やめてー」涼子の悲鳴とは比較にならない程大声で叫ぶ香理奈。攻める涼子も序盤に大ダメージを負ってるので、ここで流れを引き寄せようという必死さが伝わってくる。一方の香理奈は抜け出そうともがくが、固くロックされていて一向に抜け出せる気配がなく絶望感に浸っているような表情をしている。地味ながら、美女同士の必死のファイトが会場を熱気で包む。香理奈の必死の揺さぶりに涼子の両足が解けた。やっと、抜け出した香理奈だが、右腕は相当痛そうだ。スタンディングで向き合う両者。涼子は香理奈の右腕に狙いを絞ってキックとパンチを打ち分ける。香理奈は腕ひしぎで右腕に大きなダメージを負った上に、序盤に食らい続けたローキックがここにきて効いてきて、上手くフットワークが取れずに防戦一方になっていく。涼子は香理奈をコーナーポストに追い詰めると、香理奈の右腕に強烈なキックを放った。バシィ、「痛い、痛い、いたぁい」まともに入ってしまい、泣きながら右腕を押さえてかがみこんでしまう。これでは涼子に弱点を知らせてしまったようなもので、涼子は情容赦無く香理奈の右腕を蹴り込んでいく。「はう、ああぁ、いたい」香理奈はサンドバッグ状態になって蹴られ続けている。すると涼子は蹴るのを止め、香理奈の額に頭突きを打った。香理奈も怒って頭突きで返す。あろう事か美女同士が女優にとって命よりも大切な顔を使って相手の顔を破壊しにかかるという凄まじい事態になった。互いに相手の頭を両手で抱えて額に頭突きを打っていく。ガツン、ガツン、鈍い音が響くが、明らかに涼子の方が石頭のようだ。額がパックリ割れて流血し、苦しそうな表情になっている香理奈に対して、涼子の額はなんともないどころか、涼しい表情をしている。「あうぅ、あうぅ、絶対に負けないわよ」香理奈は意地になって頭突きを打つが、むしろ頭突きを受けた涼子よりも、頭突きを打った香理奈の方が痛そうだ。「意地を張るのもいいかげんにしたらどうかしら」涼子が頭突きを打つと、香理奈はコーナーポストにもたれかかる様に倒れてしまった。目が虚ろになり、だらしなくコーナーポストにもたれかかっている。「まだまだこんなもんじゃないでしょ、さあ、起きなさい」涼子は香理奈を無理矢理起こすと、流血している香理奈の顔面を殴りつけていく。打撃戦となり目が覚めたのか、香理奈も殴り返していく。ベテランの涼子が的確にパンチを顔面に打つのに対して、香理奈はハイキックを使うなど大振りになっている。当然、香理奈の攻撃は当たらず、涼子の狙いを定めたパンチが捉えていく。またしても劣勢になる香理奈だが、出会い頭にミドルキックが涼子の内臓を抉るかのように決まった。ボシュッ、「うっ」涼子が脇腹を抑えながらひるんでる隙に、香理奈は涼子の流血部にフック気味にパンチを打った。血飛沫が飛び、前のめりに倒れこむ涼子の上に覆いかぶさるように香理奈が乗りかかった。香理奈は太ももで涼子の頭をロックし、腹部にパンチをいれていく。香理奈が一発パンチを打つ度に涼子の身体が小刻みに震える。ちょうど腹筋が無い部分なので、有効な攻撃だが、頭から下は全くロックしてないので、涼子が暴れると簡単に崩れてしまった。両者起き上がると香理奈が涼子を抱え込んで膝蹴りで腹部を攻めていくが、疲れてきたのか威力があまり無いように見える。涼子は香理奈の両脇を抱えると簡単に押し倒してしまった。「はあはあはあはあ」息が上がって苦しそうな香理奈。一方、涼子は汗が吹き出し流血もしているが、スタミナはまだ残ってそうだ。「もう終わりかしらね」涼子がそう言うと「まだまだよ」香理奈が下から、涼子の流血部の側頭部を殴った。それでも余裕の涼子は香理奈の流血部の額を殴りつけた。大きく首を振り痛がる香理奈にもう一発涼子が額にパンチを打つと、香理奈は思わず顔を背けてしまった。「どうかしら私のパンチは。気に入ってもらえたかな」恐怖を感じたのか必死に顔をガードする香理奈だが、涼子はガードの上から強烈な一撃を打った。マウスピースが飛びぐったりする香理奈。完全に戦意喪失状態の香理奈に、今度はチョークスリーパーは極めていく涼子。無抵抗の香理奈の首に涼子の腕ががっちり極まっている。香理奈はおそらく無意識だろうが、両手が何かを探すかのようにぶらりと出している。涼子が更にきつく締め上げると、今度は涼子の腕を解こうとするが、力が入らずに、締め上げられている。香理奈の意識が完全に飛んで、白目を剥いた所でレフリーがゴングを要請した。「カーンカーンカーン」ゴングが鳴ると涼子は安心した表情を浮かべて立ち上がり手を上げて観客の声援に応えた。「勝者:米蔵涼子」一段落すると、涼子は失神している香理奈に駆け寄り、額の部分の血を丁寧に拭き取っていると、香理奈の意識が戻った。「得意の打撃戦だったのに完敗でした」力なく香理奈が言うと、「打撃は相当効いたわね。これからももっと強くなれるように頑張りなさいよ」涼子に褒められると少し元気な声で返事した。「はい、頑張ります」香理奈はこの試合で確実にレベルアップしていると思うが、香理奈の言葉通り、涼子が打撃戦に付き合ってくれたのにも関わらず負けたということはまだまだ力の差は大きいのだろう。接戦に見えたが、涼子の懐の深さを示した試合となった。何はともかく激闘の後、健闘を称え合う2人に観客から盛大な拍手が送られた。「本当にレベルが低い試合ね。私がボコボコにした香理奈に辛勝なんて涼子も落ちたもんよね」そういってリングに上がってきたのは第一試合で香理奈に勝利し、今度ベルトをかけて涼子と戦う予定の天海祐季だ。「香理奈に勝てたのは武器のおかげでしょ、鉄パイプが無かったらどうなってたかしら」「まあなんでもいいわ。今日はあんたがどんなものか見に来ただけだから帰るわ」祐季はマイクパフォーマンスだけで帰っていった。涼子は香理奈を抱えたまま、帰っていく祐季を睨みつけると「明日からの2戦は何があるかわからないから、私がセコンドに入るわね」涼子は何かを感じ取ったのか次戦から香理奈のセコンドを願い出た。
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