入栄紗綾はリングに立っていた。今日も地下プロレスで、誰かと戦う為に。今、彼女の目の前には歌姫として有名な倉本麻衣が立っていた。倉本はトップシンガーで、以前歌田ヒカルと地下プロレスのリングで揉めたことがある。紗綾は言った。「今日は倉本さん。初めまして。今日は宜しくお願いします」すると倉本は「宜しく。だけどあんまり無茶しちゃだめよ?まだ子供なんだからね」倉本は気遣ってくれたが、ここは地下プロレスのリング。誰も気遣う必要など無い。寧ろ紗綾は、倉本を叩きのめす事だけを考えていたのである。
カァァーン!
ゴングが鳴った。紗綾が先手を取った。紗綾は、相手が子供だからと言って身構えもしない倉本に、ドロップキックを打ち込んだ。倉本は、そのキックの重さに内心驚いた。(な、何なのこの子?まるでプロの技だわ。)倉本が驚いていると、今度はローブローを打ち込まれた。「ふぎぃ・・・」突然の急所攻撃に崩れ去る倉本。その倉本をみて、紗綾は言った。「あのね倉本さん。地下プロレスではいつも真剣勝負なの。子供だからとかそんなことは一切関係ないのよ。分かる?」そういうことだったのか。倉本は理解した。彼女もまた、地下プロレスにいる1人なのだ、と。そして倉本は、行動を起こした。立ち上がると、紗綾にブレーンバスターを叩きこんだ。「ぐはっ・・・!」苦しむ紗綾。続いて倉本は、V字固めを極めた。「うっ!くっ・・・」上に乗っている倉本の体重と、V字の痛みが紗綾の小さな体を同時に襲った。何とかエスケープした紗綾は、お返しとばかりに、倉本にハイキックを見舞った。紗綾の爪先が倉本の内股に食い込んでいく。徹底した足攻め。遂に倉本は倒れこんでしまった。そこを待っていたように紗綾は一気に4の字固めで攻め込んだ。「うぎゃぁぁー!!」「ギブアップ?」「ノー!」倉本は思った。こんな小娘にまけるのか。こんな小娘に・・・。彼女はロープを上手く掴んでエスケープすると、四つ這いの姿勢から背後の紗綾の膝を蹴った。「ひゃあ!」悲鳴を上げて倒れる紗綾。倉本は後ろに回ると、紗綾の両足を踏んづけて、両腕を取り、そのまま寝そべった。ロメロスペシャルだ。「ギブ?」「ノー!」何度聞いても答えは同じだった。倉本は紗綾を開放すると、首をとってキャメルクラッチを極めた。紗綾は何とかエスケープするも、グロッキー寸前だった。「あららぁ。可哀想に。直に楽にしてあげるからねぇ」紗綾は、近づいてくる倉本に対し、前蹴りで対抗。偶然にもその前蹴りが倉本の股間にヒットした。「いぎっ」倉本が股間を押さえてる隙に、紗綾はエルボーを打ち込んだ。徹底したエルボーラッシュ。遂にダウンした倉本に対して、最後は体固めでカウント3。紗綾は、まだ満足せず、次の対戦相手を要求した。しかし、この次の対戦相手こそが、紗綾に恐怖と絶望を味あわせることになるのだった。

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