「女子高生レスラー・美奈子」第4話 「真菜、死のリングへ・・・」

 

6の依子との試合以来、典子は小学生の部の目玉となっていた。もちろんヤラレ専門である。最年少である典子が年上で体も大きく、しかもストレスの溜まったデブ少女達に勝てるわけも無く、いたぶられては水着を剥れる毎日。

そして美奈子もまた、レフェリー不在・ルール無し・ギブアップ不可のデスマッチを強いられ、連戦連敗だった。しかし、元・女子高生レスリングの猛者で、

ルックスでもそこそこ人気のあった美奈子がL.D.Fでデスマッチのリングにあげられているという噂は闇のルートを通じて、女の残酷プロレスを求める観客の動員数を上げていった。また、先日の堀内真理との壮絶なデスマッチは評判を呼び、そしてそんな客達は小2の典子の試合にも熱狂し、美奈子と典子の小林姉妹の試合はL.D.Fの大きな呼び物になったのである。

しかし、同じ刺激が続けばいつしか飽きるのも人の性。

抜け目ない女プロモーターはその先を考えていた。

「そろそろ、アレをやろうかしら、ウフフ」

 

トレーニングの時間、美奈子は自分の練習をする傍ら、典子をスパーリングで鍛えていた。

「典子!思いっきりやっていいのよ!パンチしても、キックしても、噛み付いても、引っ掻いても・・・思いっきりやるのよ!」

「う・・・うん、いくよ!お姉ちゃん!」

そんな姉妹を気にしながら、真菜は道場の中をウロウロしていた。そして何かを思いついたように道場の隅にある洗面台に駆け寄り、蛇口の取っ手を外して水着の中へしまい込んだ。

それを見た美奈子は思わずリングを降り、真菜に駆け寄る。

「真菜!・・・今、水着の中に隠したのは何?・・・まさか凶器?」

「・・・だって!仕方ないじゃないですか!・・・美奈子先輩、このままここのリングで闘ってたらいつか!・・・私、何人も見たんです。リング上で殺された人達・・・」

「・・・え!?」

しばしの沈黙が続く。美奈子も典子も、周りで練習していた女達も息を呑んだ。

その中で真菜が静かに口を開いた。

「金網デスマッチやチェーンデスマッチどころじゃない!ロープの代わりに有刺鉄線を張ったリングやマットの代わりにおろし金を敷いたリング、時には高い所に設置されたロープの無いリング・・・どれも生死を賭ける試合でした。」

「でも・・・人が死んだら死体の処理があるでしょ?いくらなんでもそんなに・・・。」

「死体はバラバラにして、違法な猛獣愛好家に高値で売ってるんです!」

誰もが固唾を飲んで聞き入っていた中、美奈子がこの前の続きを真菜に問いかけた。

「・・・ねえ、真菜。あんたどうしてこんな所に来たの?何があったの?」

「・・・先輩・・・御両親を亡くして苦労してたでしょ?」

「え?・・・ええ。」

「学校を中退した後、お金にも相当困ってるって聞いて、先輩の為に力になれないかなって考えたとき、ここの噂を聞いたんです。私も最初はLadisDoFightだって・・・。たとえ1試合分でも稼げれば先輩の助けになれるかなって。」

「ま・・・真菜・・・。」

美奈子はその話に涙した。そして典子もまた涙する。

「まな姉ちゃん!」

その時、黒服の男達を従えて女プロモーターが入ってきた。

「明日のメインのカードを決めたわ!」

そう言い放つと、女プロモーターは美奈子をじっと見つめた。その視線の冷たさに思わず竦む美奈子だったが・・・。

「明日のメインのリングに上がるのは、真菜!貴女よ!」

「・・・!?え?わ・・・私!?」

「そうよ、さっきの感動エピソード聞かせてもらったわ〜。思わす涙が出そうになったわよ。だから、明日のメインの試合に勝てれば貴女と、そこの姉妹も帰してあげるわ。それとこれまでのファイトマネーもプレゼントするわよ。」

「本当ですか!?」

「真菜!罠よ!!」

「フフ、美しい師弟愛ね。で〜試合形式なんだけど。」

「何でも来いよ!金網?チェーン?それとも有刺鉄線?何だって受けるわよ!」

「ウフフ、いい覚悟ね。でもそんな生優しいものじゃないわよ。貴女に用意したのは『鋼鉄リングデスマッチ』よ!」

誰もが初めて聞く言葉だった。

「・・・どんな試合なの?」

戸惑いを隠しつつ、真菜が尋ねる。

「それは明日のお・た・の・し・み。頑張って練習するのよ。好い試合を期待してるわ。」

プロモーターが立ち去ろうとした時、美奈子が尋ねた。

「待って!あ・・・相手は?」

プロモーターは横顔に笑みを浮かべて答えた。

「真菜は知ってるわよね。微笑の女王よ。」

それだけを言い残し去っていくプロモーター。

「ええ!?あ・・・あの人・・・?」

「真菜!知ってるの!?誰!?」

真菜は暫くの沈黙の後、ゆっくり語りだした。

「私を・・・このL.D.Fにスカウトした人です・・・。」

「真菜・・・」

「まな姉ちゃん!」

「大丈夫!」

真菜は笑顔で振り返った。。

「だってあの人とならちゃんと技と技の試合ができます!それに今じゃ40歳前後の人なんですよ!スタミナやスピードは私の方が断然上でしょ!」

「真菜!」

「私、スパーリングじゃ何回か先輩に勝ってるんですよ?憶えてません?大丈夫ですって!・・・さ、練習 練習!」

サンドバッグに向かう真菜の背中は小刻みに震えていた。

 

翌日、L.D.Fの闇の興行が始まった。

 

美奈子達の牢獄のような部屋のモニターに光景が映される。

真菜は通路で緊張のあまり震えが止まらず、すでに全身汗まみれだった。

「怖い・・・でも、今日勝てば・・・ここから出られる・・・!美奈子先輩も助けられる!」」

そんな真菜の後からプロモーターが声をかける。

「頑張ってね、ま・な。応援してるわよ。ウフ。」

「(あんたの応援なんか!)」

その言葉を飲み込んでリングに向かう真菜。だがすぐ近くまで歩みを進めて初めて「鋼鉄リングデスマッチ」の意味を知った!

リングを囲むのはロープではなく鉄製の棒!しかもその表面は目の粗いヤスリ状だった。それを支える為コーナーポストも鉄柱になっている。リング下にも鉄板が敷き詰められ、そしてリングの床もマットではなく鉄板が敷かれていたのだ。

驚きを隠せない真菜。プロモーターがまた背後から囁いた。

「頑張ってね、ま・な。ベストバウトを期待してるわ。」

その時、真菜の視線に対戦相手の姿が飛び込んできた!

「や・・・やっぱり!!あの人だわ!!」

黒の競泳水着に身を包んだ、微笑を浮かべた色気漂う熟女。

『微笑の女王』こと椎名エミだ。

覚悟を決めた真菜もリングに上がる。

「お待たせしました〜!本日のメインイベント!赤コーナー、当L.D.Fには久々の登場です、ご存知『微笑の女王』椎名エミ〜!!!」

「おお!椎名エミだ!!」

「いつも通り色っぽいぜ~!!」

一気に観客が沸きあがる。

「続きまして〜青コーナー 西井真菜〜!」

真菜は赤と白のラインが入ったブルーの競泳水着を着ている。それは美奈子と真菜の通う高校の指定の水着である。

美奈子は何か、真菜の只ならぬ決意を感じた。

レフェリーらしき女性がまず真菜をボディチェックする。少し緊張した様子の真菜。女は微かに笑みを浮かべた。

「真菜・・・もしかしてあの時の水道の金具を隠してるの?」

続いて椎名エミのボディチェックが済んだ。

「ここで初となる本日の試合についてご説明いたします!リングの床、及び場外には鋼鉄製の鉄板を敷き詰め、4角のコーナーには鉄柱を設置してあります。そしてリング四方を囲むのはロープの代わりにヤスリ状の鋼鉄の棒であります!試合は時間無制限、ギブアップもフォールも無視、完全決着ルールで行います!」

そしてゴングが鳴った!

緊張と不安を振り払うように果敢に突進する真菜!そのタックルをボディで受けるエミ。真菜はそのまま勢いにまかせてエミをコーナーに押し込んだ!

コーナーマットが無く、コーナーの鉄柱に叩きつけられ苦悶の表情を浮かべる椎名エミ。

ここぞとばかりにタックルを連発する真菜。苦しみ悶えるエミ。だが美奈子や椎名エミを知っている客達もわかっていた。

「いいぞ〜!まな姉ちゃん!」

無邪気に応援する典子の傍らで美奈子が呟いた。

「微笑の女王?だったら、これが、彼女のヤラレの美学・・・。彼女が微笑んだ時が・・・。」

その言葉通り、椎名エミは微笑を浮かべて立ち上がった。

「お嬢さん、それで終わり?」

「!?何よ!強がり!?」

再びタックルを仕掛けた真菜の身をひらりとかわし、エミがヘッドロックに捕らえた。力の限り締め上げるエミ。みるみるうちに真菜の顔面が紅潮していく!そして微笑を浮かべたまま、何の躊躇いもなくエミは真菜の頭部を鉄柱に何度も叩きつけた。真菜の額から鮮血が激しく流れ出す。

「まな姉ちゃん!頑張れ~!!」

典子も必死に応援する。

「こんなの・・・もう・・・慣れたわよ!」

夥しい血を流しながらも真菜は言い放つ。それを聞いたエミは更に微笑む。

「ウフ、嬉しいわ。貴女みたいな娘、大好きよ。スカウトした甲斐があったわ!」

そう言うと今度は真菜の傷ついた額をヤスリ状の鉄棒に、まるで木材を削るようにこすりつける。

真菜の額からより一層鮮血が飛び散る!

「うあああああああ!!!」

その激痛に真菜がたまらず悲鳴をあげる!そんな真菜を抱きかかえ、エミはボディスラムで鉄の床に叩き付けた!

「くはっ!!・・・あぁ・・・はぁはぁ・・・」

エミはダメージの余り息ができない真菜の髪を掴んで引きずり起し、再びボディスラムで叩き付ける!

「あれじゃ、真菜の背骨がもたない!」

美奈子の頭に不安がよぎる。しかし、どうすることも出来ない。

「・・ウ、ウウ・・・」

「あら?さっきの勢いはどうしたの?」

苦しむ真菜を見下ろすエミ。

「立てないの?でも、まだ終わりにはしないわよ!」

微笑を浮かべながら、エミは真菜の髪と水着の肩紐をつかんで引きずり立たせる。そして、リングを囲む鋼鉄の棒に向かって投げつけた!

「きゃーーーーーーー!!!!!!」

ヤスリ状の、鋼鉄の棒に叩きつけられ、たまらず真菜が悲鳴をあげる!だが、真菜が崩れ落ちるより早くエミのドロップキックが真菜のボディを突き刺した。

腹を抱えてうずくまる真菜の前髪を掴み、引きずり起こすエミ。そして、真菜の水着の胸元に手を突っ込んだ。

「貴女、凶器もってるでしょ?」

それは、真菜がトレーニングルームの洗面台から外して隠し持っていた水道の取っ手だった。

「真菜・・・やっぱり・・・。」

美奈子が呟く。

微笑を浮かべながらエミが言った。

「凶器なんてね、使いこなせなきゃ自分を痛めつけるだけなのよ。」

そういうと、奪った凶器で真菜の額を殴りつけた!

「ああーーーーーーーーー!!!!!!!」

額を押さえ、たまらずリング下に逃れる真菜!しかし、そこもリングの上と同じ鉄板の床だった。かわす間も無くエミのヒップドロップが真菜の背中を押し潰す!

「んっ・・・ぐはっ!」

真菜の口から嘔吐物が飛び散る!

「バカね、こんな所に逃げるから。」

エミはそういうと真菜を引きずり起し、鉄柱に叩き付けた!何度も何度も・・・。

額から流れ出た真菜の血は、もはや太ももの辺りまで流れている。

真菜はもはや満身創痍だ。このまま試合など続けられる状態ではない。だが・・

「・・・ま・・・負け・・ない・・私は・・・勝つ・・・大・・好きな・・・

美奈子・・・先・・輩・・と・・・」

消え入りそうな声で真菜が言い放つ。

「美奈子って娘ね?私も彼女と戦いたいって言ったんだけど、その前に貴女と戦えって言われたのよ。」

そう言うと、エミは真菜の顔面を嘔吐物の上に叩きつけ、こすり付ける。

「う・・・くはぁぁぁぁぁぁ!」

自ら吐き出した物の異臭に苦しむ真菜!

エミはそんな真菜を抱え上げ、リングの角に股間を叩き付けた!

「うああああああああああああ!!!!!!!!!!」

「貴女を倒せば、あの美奈子って娘と戦えるわ。」

涙を流し絶叫する真菜!それを楽しむかのように微笑ながら、繰り返し真菜の股間を叩きつけるエミ。

これが『微笑の女王』の本性なのだと美奈子は悟った。

「さあ、終わりにしてあげるね。」

そう言うと真菜をリングに押し上げるエミ。

そしてパワーボムの体勢で真菜を抱え上げ

「バイバイ」

エミは真菜の体をリングの鉄板に叩き付けた!!

グキィィィィィ!!!!!

何とも言えない音がリング上に響いた。

それでもエミに掴みかかろうと手を伸ばす真菜。

「・・・ま・・・ま、け、な・・・い。・・・み、な、こ、せ、ん、ぱ、い・・・

の・・・た・・め・・・。」

「・・・そう・・・?美奈子ってそんな素敵な娘なのね。」

やがて力尽き、真菜の手が地に落ちる。

暫しの間沈黙が続き、エミが勝利を確信して微笑んだ時、プロモーターが試合終了を告げた。

カンカンカン!!

エミが敗者・真菜を見下ろす・・・。すると真菜を担ぎ控え室に消えていった。

 

「真菜を・・・真菜をどうするの!?」」

どうやら真菜は息があるらしい、しかしエミは真菜を連れて行ってどうしようというのか?美奈子の胸に何ともいえない不安がよぎる。

 

黒服の側近がプロモーターに尋ねる。

「よいのですか?真菜はこの試合で殺す予定では・・・。」

「フフ、いいのよ。エミは何か思いついたみたいだから。後で私の部屋に来るよう言っておいて。」

「はい」

 

モニター越しとはいえ試合を直視出来なかった典子に美奈子が声をかける。

「典子・・・。もう終わったよ。」

「お姉ちゃん・・・まな姉ちゃんは?」

「ん・・・負けちゃった・・・けど大丈夫。生きてるよ。さあ、もう今日は寝よ。」

その夜、美奈子はなかなか眠れなかった。真菜は今頃何をされてるんだろう?どうすれば、ここの凶悪なレスラーに勝てるのだろう。そう考えながら、いつの間にか典子に気付かれないよう声を殺して泣いていた。

 

「女子高生レスラー・美奈子」第4話 「鋼鉄のリングの死闘(真菜編)」完

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